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日本民藝館平成十四年改修工事について
 
山下 和正
一 はじめに
 今回の改修工事に当たって調査と設計監理を担当した立場から、その概要を報告したい。
 従来、館の建物の改善策については種々の要望があり、その都度設計案を作成して見積を取ったりしていたが、いずれも財源不足で実施は、立ち消えとなっていた。しかし今度は日本財団の補助金がいただけるかもしれないということで、急遽建物全体を調査し、修理・改善にどの程度の費用がかかるかを見積ってみることになった。二〇〇〇年九月二七日から十月十三日の間建物を調査し、十月末には報告書にまとめた。
 建物の調査といっても、見えないところを解体するわけにはいかないので、床下や天井裏など人の入れるところから観察できる範囲での調査であった。また従来安全とされていたが、地震・台風に対しての耐力の検討を行った結果、耐力不足が判明した。
 ただ、改修工事を完璧に行うことは、予算の点で難しいと判断されたので、絶対必要な改修(A)、できれば行いたい改修(B)、必ずしも今すぐ行わなくてもよい改修(C)の三段階に分類して、内部で検討を進めた。日本財団の補助や財界からの寄付金の概要が決まってから関係者の討議を経てとりあえずの改修内容と予算を決めた。入札を経て工事の契約を行ったが、着工後に新たに発見された躯体の傷みなどの修復工事や、予定には含まれなかった分の追加工事などが生じ、内容的には当初の案より一割ほど工事費が増えることとなった。工事金額については末尾の工事費概要を参照していただきたい。
 なお契約工期は、二〇〇一年五月二九日(現場着工は西館十月一五日、本館十二月十日)から二〇〇二年三月一五日まで、施工は鹿島建設(元請)・佐藤秀工務店(下請)であった。
二 本館・保管庫の改修
a 本館は調査の結果、耐震性能が不足していることが判明したので、構造用合板で壁を補強した。また仕上のクロスが経年変化したり漏水のためシミがついていたりしたので竣工当時のように伝統的手織の国産葛布を貼り直した。
b 本館の二階床がよく鳴るので、根太を追加補強し、床板も一部張り替えの上再塗装した。
c 本館の漏水を防ぎ、耐震性能向上のため屋根の全面的な改修を行った。屋根瓦をいったんはずし、その下の野地板を構造用合板に置き換え、防水シートを入れて瓦を葺き直した。また垂木・母屋・軒先・小屋組などを一部入れ換えたり金物をあてたりして補強した。また北側の千鳥破風の破風板が腐っていることが後から判ったので、まゆがき部分を新しいものと取り替えた。
d 本館の樋(タテ・ヨコ共)が傷んでいたので銅版で作りかえた。
e 保管庫の一階に可動式のスチール製収納棚を新設した。これにより収蔵品の保管スペース不足が大幅に改善された。保管物の耐震対策(落下防止)として収納棚の棚板にコルク板を貼ったり木枠を取り付ける工事を民藝館の職員が行った。
f そのほか、玄関ホールの壁・天井の塗装・展示室の天井のひび割れの補修・門扉の補修・作業室の内装改善などこまごまとした追加工事を多数行った。
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三 西館の改修
a 大谷石製の石瓦の風化が進み、表面に浮いた石の破片が軒先から落ちてきたり、屋根裏に漏水が発生したり、また入口上の軒先が大きく下がってきたので、この際ほぼ全面的に葺き替えた。屋根裏には、十年ほど前にプラスチックの波板による漏水受けの内部屋根を取り付けていたが、漏れた水が木部などを傷めることは防げないので、本格的な復旧工事に踏みきったわけである。
 屋根瓦をはずしてみて驚いたのは母屋ばかりでなく、太い丸太の梁が漏水のため三本も腐っていて、入口上の軒先が大きく下がっていた原因が判明した。石瓦の製作と取付工事は字都宮市大谷町の高橋佐知商店が行ったが、今ではこのような改修工事も少なくなっている由、次の改修時にははたしてその技術は継承されているだろうかと考えさせられた。防水シートの敷き込み・ずれ止めダボ設置・多孔質石材用保護剤の塗布なども行い防水には万全を期した。
b 漆喰塀が傷んで見苦しくなっていたので改修した。ただ建物本体の壁は漆喰であったが傷みは少なく、すでに塗装が施されていたので、今回も塗装にとどめた。
c 本館と同様の壁の耐震補強と内壁の新京壁塗を行った。
d 追加工事として、天井・内部柱・床などのクリーニング・玄関壁塗装・ガラス入替・大量の外部のゴミ処理などを行った。
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四 新館の改修
a 築後二〇年になり、屋上の陸屋根部分のアスファルト防水層が劣化してきたので、やりかえの防水工事を行った。またスカイライト部分の金属屋根も修復を行った。
b 二階展示室の空調機の寿命がきていたので、屋外機・屋内機とも交換した。
c トイレの和式便器(二個)を洋式便器に取り替えた。身障者用トイレヘの改修は見送られた。
d 防火扉一枚が完全には閉じなくなったので、オートヒンヂを交換した。
e 身障者用エレベーターの設置は今回は費用の点で見送られた。
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五 旧管理人住居・旧柳邸
a 現在物置となっている旧管理人住居の南側の瓦屋根が傷んでいたので補修した。
b 旧柳邸は住居として使われなくなってから四十年経ち、現在物置として使われている。屋根の西側をはじめ三ヶ所から、また一部の窓からも漏水がみられ、このまま放置すれば建物の傷みは加速度的に早まると考えられる。現在この建物を取り壊すか保存するか自体も決定されていないが、もし修復保存するのであれば、それに備えてできるだけ現状維持をはかることが必要である。いかにしてローコストで仮設的現状保存ができるかをさまざまに検討した結果、屋根部分に換気穴付のテントをすっぽりとかぶせ、ワイヤーで固定しておくのがベストであるという結論となった。これは当初の予定にはなかったもので、実施の決定が遅れたので四月末から工事を行う予定である。

日本民藝館改修工事・工事費概要
1.工事契約金額 99,855,000円
 内訳(万円以下四捨五入)
イ.総合仮設費 334万円
ロ.直接工事費
 内訳 ・直接仮設費 336万円
     ・本館・保管庫分 3,777万円
     ・西館分 3,080万円
     ・新館分 882万円
8,075万円
 ハ.現場経費 480万円
 ニ.諸経費 340万円
 ホ.出精値引き −529万円
 へ.調査報告書作成費 200万円
 ト.設計監理費 610万円
(上記小計9,510万円)
 チ.消費税 475万円
2.追加工事費(一部未定分は含まず) 10,519,000円
 内訳(万円以下四捨五入、経費・税等を含む)
 イ.本館・保管庫分 337万円
 ロ.西館分 370万円
 ハ.新館分(一部未定) 73万円
 ニ.旧管理人住居分 43万円
 ホ.旧柳邸屋根(テント仮設防水工事) 229万円

六 まとめ
 多くの未解決の問題を残しながらスタートした改修工事であったが、予想を超えた寄付金の応募状況に支えられ、幸いにもかなりの追加工事を行うことができた。建物を次の世代に渡す最低の準備はできたといえよう。特に手をつけることが不可能と思われていた旧柳邸は、とりあえず仮設的な防水措置を行うことができたので、今から今後の建物利用の方針が議論されることを期待したい。
 建物の耐震性能が飛躍的に高くなったので、今後は本格的に収蔵品・展示品の地震対策を実行に移していってほしい。展示ケースの耐震対策として学芸員より転倒防止の簡便なワンダーゲルマットの提案があり、手のかかる建築工事を行わなくて済ますことができた。次はケース内の展示物の固定方法の工夫が課題であろう。
 この改修工事は一見目新しい変化がなく、どの部分を改修したかが見えにくいので、オープニングレセプションの際には一体何が新しくなったのだろうという質問が出たほどであった。変化が無いように見せるのが今回の改修の要締であった。
(やました・かずまさ 建築家、日本民藝館評議員・運営委員)
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