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第23回作曲賞選考経過と選評
 −入選決定に至るまで−
 海老澤 敏
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 いつも<現代日本のオーケストラ音楽>のコンサート、すなわち、同時に<作曲賞入選作品と招待作品の演奏>と謳われているこの演奏会が近づくと、後者の選考委員会の司会進行役を仰せつかっている筆者は、入選作の選考過程や選評についての報告レポートを始めるに当って、まず、日本のオーケストラ曲創作活動が直面しているきわめて厳しい現実面の諸問題や、この<作曲賞>の応募してこられる、作曲家をもって自任しておられる(そしてそれは正当な自己評価ないし確認だと、門外漢の私は信じているのだが)挑戦者の皆様がそれぞれ抱えておられる悩みや努力などについて、長広舌(短広舌)を振るうのが慣例となっている。
 今回はそれを抜きにしよう。思い出してみると、私のその長広舌は、いくつかの主題を伴って、まるで、いつ終わるとも知れぬロンドを奏でていることに気がついたからである。でも、事情は変らない。作曲家、とりわけ新進の作曲家の生活ばかりか、その他の事情は、それどころかますます厳しさを増していくばかり。そんな中で、この<作曲賞>、<日本財団賞>、<日本財団特別奨励賞>、そして<日本交響楽振興財団奨励賞>の貴重度は増していくばかりなのだ。
 しかし、他方で、<作曲賞>がなかなか与えられないという現実もある。作曲者諸氏の努力がどのようにして、質を維持し、なお高めつつ、聴き手である選考委員のメンバーばかりか、ご来場のすべての皆様の期待や要望に応えうるものか。コンサートへの関心は、私のごとき、いわばアウトサイダーにはつよくなる一方である。
 第23回作曲賞第1次選考委員会は、昨平成12年11月27日(月)午後におこなわれた。この委員会は11名構成であるが、今回は出席は武田明倫、中村洪介、野田暉行、廣瀬量平、別宮貞雄、間宮芳生に海老澤 敏の7名。これに三善晃が書面参加、欠席は一柳 慧、岩淵龍太郎、松村禎三の3名であった。慣例にしたがって、指揮の小松一彦氏が演奏家の立場から譜面のチェック(演奏可能か否か、演奏の難易度等)をされ、書面で提出いただいた。
 
 今回の応募者は合計21名で、前回より2名増であった。第21回の28名は別として、最近は20名前後の応募者数が定着した感じである。このうち、再応募が8名となっている。
 学歴については、一番多いのが音楽大学、芸術大学大学院修了で7名、音楽関係大学学部卒業が5名ですでに大半を占めている。音大在学中の者2名のほかは一般高校2名、一般大学3名、それに一般大学大学院が2名という卒業歴である。
 年齢の分布は22歳から62歳までで平均年齢は36歳、20歳台が7名、30歳台が8名で、以上で3分の2程、以下、40歳台2名、50歳台3名、60歳台1名である。作曲家の場合、30歳台が一番多いという事実は、数年来顕著となっているが、それだけ活動の場が制限されているのかも知れない。
 曲種については交響曲(シンフォニー)が3曲、協奏曲(コンチェルト)か4曲、その他のオーケストラ曲(交響詩、序曲を含む)が14曲と一応分類できるが、その境界はけっして裁然としたものではない。
 そして演奏時間については、7分から23分におよび、10分から20分の間のものが15曲と圧倒的に多い。
 
 さて、この選考委員会に先立って11月20日(月)から24日(金)まで、それに選考当日の27日(月)に内覧がおこなわれている。
 第1次選考会は、従来とさほど変りなく、出席委員から曲数に関係なく、選考対象となりうると考える作品を曲数を制限せずに挙手で出してもらう形で始められた。この第1回の選抜では、はやくも16曲が対象外とされるにいたった。例年以上に0票の作品が多く、合計10作にのぼったが、さらに2票の3曲、3票の2曲については、それぞれ個別的に論議の対象にした上で、これも非対象作品とした。もう一つ4票をとった作品があったが、これに対しても意見の交換をおこない、結果として対象外とした。
 はやくも<財団奨励賞>の対象となりうる5点に的がしぼられる結果となったため、次の段階(いわば<セカンド・ラウンド>、2次の選考は、そういった観点からの選考となった。残された6点のうち、5票を獲得し、1次の選抜の時には合の判断をしたものの、5人の選考委員がすべて消極的な判断を下していることが発言されたため、早々に対象外とされた1作があり、その他6票を与えられた4作については、ほとんど異論なく、ここで<日本交響楽振興財団奨励賞>の授与が決定された。以下の4名の作曲家の作品である。
 
<日本交響楽振興財団奨励賞>
 
 岡島 礼:Prelude for Orchestra
 清水昭夫:不死鳥の舞〜5弦コントラバスとオーケストラのための〜
 鈴木尚味:かげろひ〜管弦楽のための〜
 山内雅弘:チェロ協奏曲
 最後に、この4曲のうち、<現代日本のオーケストラ音楽>第25回演奏会で<作曲賞>入選作品として実際に演奏される3曲の選定がおこなわれた。その結果、以下の投票数で3曲が決定された。
 
 岡島 礼氏の《Prelude for Orchestra》6票、山内雅弘氏の《チェロ協奏曲》6票、清水昭夫氏の《不死鳥の舞〜5弦コントラバスとオーケストラのための〜》5票、
 鈴木尚味氏の《かげろひ〜管弦楽のための〜》2票。
 
 今夕、<作曲賞>審査の対象となる3曲の作曲者について、そして本プログラムにはさらに詳細な作曲者の自ら執筆したコメントが掲載されるのを承知の上で、作品提出時に各氏が書いたショート・コメントについて以下に紹介しておきたいが、それに先立って、惜しくも実際の音として聴くことができないが、しかし<財団奨励賞>を得た鈴木尚味氏については、ここで紹介を試みさせて頂きたい。
 鈴木尚味氏は、昭和50年(1975年)6月生まれの26歳。相愛大学音楽学部大学院音楽専攻科作曲専攻を修了。ポーランドのワルシャワにあるショパン音楽院でも学んでいる。1999年には<吹田音楽コンクール>の作曲部門で入選を果している。
 提出作品《かげろひ〜管弦楽のための〜》の作曲意図を氏はこう述べている。
 「光への憧れと暗黒への恐怖−」
 私は、この作品を作るとき、この2つの気持ち<カオス>の中にいた。未来を求め希望にみちあふれている自分と、現在の状況にいらだつことしか出来ない自分。私は、暗闇の中、ひたすら光を求め、歩きつづけた。
 「かげろひ」とは、漆黒の闇夜を突如、一条の朝日が切り裂くその瞬間を表す言葉である。
 この作品は、私自身の「かげろひ」を探す物語りであり、そして、その「かげろひ」が私の中の<カオス>を<コスモス>へと導き、昇華させるのである。
 
 3曲の入選作については、2曲のコンチェルトの演奏という点での論議もおこなわれたのを附記しておこう。
 岡島 礼氏は昭和53年(1978年)4月生まれの23歳。東京芸術大学音楽学部附属高校をへて大学作曲科を卒業、現在は同大学院に在学中。学内では長谷川賞受賞。野田暉行、川井学、尾高惇忠の各氏に師事。
 氏は作曲意図をこう述べている。
 「この曲に特別な標題的要素はない。音響的な興味よりも、単一の主題の発展が曲全体を構成し、それをオーケストラとしてどのように表現できるのかを考えた。
 曲はテンポが緩やかで抒情的な部分、そこから動き始める中間部、そして再現、という形式でできている。再現部では冒頭部分の主題の中心音となっていた。「A」に対して、常に「D」が持続される。」
 
 清水昭夫氏は、昭和48年(1973年)5月生まれの28歳。東京芸術大学を卒業し、大学院に進み、同音楽研究科作曲専攻を修了。学内で「ヴァイオリン協奏曲」が演奏される。長谷川賞受賞。1997年の本財団作曲賞入選の経験がある。「フルート協奏曲」が演奏された。
 作曲意図以下のとおり。
 「コントラバスとオーケストラの作品は、歴史上数少ない、それは、他の弦楽器と比べ、敏捷性の面で劣っていることや、楽器固有の音域のためソロ楽器として扱いにくいためである。しかし近年コントラバス奏者の技術は大きく向上し、数多くの可能性を見出すことが可能となった。
 それで私はコントラバス協奏曲の分野での先人であるディッタースドルフやクーセビツキー等の上に、現代の新たな可能性を示すことができるのではないかと考えた。」
 選考委員会の最後の段階でも、このコントラバス独奏のコンチェルトという、かなり珍しいジャンルの演奏形態、演奏効果が山内氏の《チェロ協奏曲》との組み合せなどがかなりの話題を提供したものであった。コンサートの響きに不安と期待とが入り混じる。
 
 山内雅弘氏は、昭和35年(1960年)11月生まれの40歳。東京芸術大学大学院音楽研究科作曲専攻を修了。本間雅夫、北村 昭、八村義夫、南 弘明、松村禎三、黛 敏郎の各氏に師事。入賞、入選歴は以下のとおり。第1回日仏現代音楽作曲コンクール入選、クルーズ国際ピアノ会議作曲コンクール第1位、シルクロード管弦楽作曲コンクール入賞、日本交響楽振興財団第17回作曲賞入選。第11回朝日作曲賞(合唱組曲公募)佳作入選。
 作品について作曲者はこう語っている。
 「チェロとオーケストラが、曲の前半はいろいろな形で対話、協調していきますが、後半、オーケストラが次第に抗し難い力でチェロをおさえクライマックスを形成、終結に向かって両者は再び融和して行きます。以上のような構図の背景には、かなり明確なストーリー的なイメージがありましたが、逆説的に文学的な曲名にせず、「チェロ協奏曲」とすることにしました。」
 第1次選考を通じて、もっとも評価が高かったのが山内氏の《チェロ協奏曲》であった。これは演奏にもっともふさわしいものとの判断が選考委員諸氏のあいだにひろくあったためであろう。いずれにしても、コンサートでの実際の響きに大いに期待したいものである。
 
 最後になったが、ここ一年で、私たち選考委員は、昨年には高田三郎氏、本年に入ってからは中村洪介氏のお二人の委員を相ついで失った。高田三郎氏については、まこと長年に亘る新進作曲家たちの才能の発見についての暖かいご配慮、そして中村洪介氏については、第1次選考会の録音でのお元気な声をまのあたりにお聴きしての感慨を思いつつ、あとに遺されたすべての委員の皆様とともに、心からご冥福をお祈り申し上げる。








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