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7. 真の脅威から米国・同盟国を守るために
●ポール・ウルフォウィッツ
 
 レビン委員長、ウォーナー議員、そして当委員会のメンバーの皆さん、弾道ミサィル防衛に関するブッシュ政権の二〇〇二年度予算案について証言する機会を与えてくださって、ありがとうございます。
 差し支えなければ、次のシナリオを頭に描いてください。ある「ならず者国家」が、軍事力は大きく劣るものの弾道ミサイルと大量破壊兵器を保有し、隣国に対し侵略行為に出る。ブッシュ大統領はこの地域に米軍を派遣して対抗するが、大量殺りくを図るこの国の独裁者は、米国の同盟国と米軍派遣部隊に弾道ミサイル攻撃の脅しをかける。
 突然、事前の予告もほとんどなしに、ミサイルが米軍部隊に降り注ぎ、人口が密集する同盟国の首都の住宅地にさく裂する。パニックが起こる。サイレンが鳴り響き、防護服に身を包む救援隊が現場に急ぎ、がれきの中で遺体を捜索し、負傷者を病院に運ぶ。取材記者はガスマスク越しに聞き取りにくい声で話し、殺りくの映像が直ちに世界中で放映される。
 委員長。今お話しした光景は、SFの物語ではありません。また、独創力豊かなペンタゴンの計画立案者が想像する将来の紛争シナリオでもありません。一〇年前の湾岸戦争で実際に起きた出来事をお話ししたのです。
 あの出来事は、今でもわたしの目に焼き付いています。サダム・フセインがイスラエルにスカッド・ミサイルを撃ち込もうとしていたとき、私はローレンス・イーグルバーガー国務副長官と一緒に現地に派遣され、イスラエルを戦争にもっと引き込もうとするサダム・フセインの狙いに乗らないようイスラエルを説得する手伝いをしました。そこで目にしたのは、子供たちが、きれいに装飾した箱にガスマスクを入れて、歩いて登校する姿でした。大量破壊に直面する可能性から気を紛らわせようとしているのは、疑いないところでした。いたいけな子供たちが、考えられないことを考えないといけなかった。そうしたミサイルを使って、サダム・フセインはイスラエルの子供たちを威嚇し、湾岸戦争の重要な全体の流れをあと一歩で変えるところまでいったのです。
 今年は、弾道ミサイル攻撃で米軍戦闘員に死傷者が初めて出てから一〇周年に当たります。「砂漠の嵐」作戦の終わり近くに、ダーラン(サウジアラビア)の米軍兵舎にスカッド・ミサイル一発が命中し、米兵二八人が死亡、九九人が負傷したのです。死者のうち一三人は、ペンシルベニア州のグリーンズバーグという小さな町の出身でした。米軍にとっては、湾岸戦争で最悪の交戦でした。グリーンズバーグの遺族にとっては、人生で最悪の日でした。
 一〇年後の今日、われわれが弾道ミサイルの脅威にどれだけよく対処できるようになったかと尋ねるのは、もっともな質問です。この脅威は、一〇年前に既に本物かつ深刻であり、今日ではますますそうなってきたのですから。その答えは悲しいことに、対処能力はほとんど向上していないということです。この悲劇的経験にもかかわらず、弾道ミサイル攻撃は、それが比較的素朴なスカッド・ミサイルからのものであっても、防衛はまだ事実上不可能というのが一〇年後の現状です。
 今日、われわれのスカッド・ミサイル撃墜能力は、一九九一年に比べてそれほど進歩していません。スカッドに対するわれわれの回答、それも効果的な回答であるPAC3(第三世代のパトリオット・ミサイル)の配備開始はまだ一、二年先で、全面的配備となると、何年もかかります。現在ペルシャ湾岸および韓国に駐留する米軍と、米軍に守られている一般市民は、化学弾頭や通常弾頭を付けた北朝鮮の弾道ミサイルに対して防御手段をほとんど持たないのです。ミサイル防衛システムがなければ、北朝鮮による攻撃で、数万人から数十万人の死傷者が出るかもしれません。
 米国に敵対的な政権の多くは絶望的な貧困にあえぎながら、弾道ミサイルの入手になぜこれほど巨額の金を注ぎ込んでいるのか、と不思議に思う人がいるなら、考えられる答えをお示ししましょう。彼らは、われわれに防衛システムがないことを知っているのです。
 湾岸戦争で、サダム・フセインが実際に米軍に血を流させた唯一の兵器、イラクの敵対国の領土に戦火を広げて罪のない婦女子を殺害した唯一の兵器は弾道ミサイルだった事実に、彼らが注目しなかったことはあり得ないのです。
 われわれは一〇年前、弾道ミサイルの脅威を過小評価していました。十年後の今日、われわれはまだ過小評価しているのです。
 委員長。今こそ危険を直視し、不愉快だが紛れもない事実に立ち向かうべきです。われわれの友好・同盟諸国や派遣部隊に対する短距離ミサイルの脅威は、一〇年前に存在していました。中距離ミサイルの脅威は今、存在します。そして、米国の都市に対する長距離ミサイルの脅威は、すぐそこにまできています。何十年も後の話ではなく、数年後の話なのです。そして、米国の国民も国土も、防御手段を持たないのです。
 
 過去一〇年間、米政府はミサイル防衛開発の課題を深刻にとらえてきませんでした。十分な資金を手当てしなかったし、ミサイル防衛が可能とも考えませんでした。そして、ミサイル防衛より弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を優先してきました。それは、米国がある問題について真剣になる時の行動様式ではありません。一〇年で月に人間を送り込んだときのやり方は、こうではありませんでした。一〇年もかけずにポラリス・ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発したときのやり方も、こうではありませんでした。
 真剣になるべき時期は、とうに過ぎています。今日では、核兵器、化学兵器、生物兵器を持とうとする国家の数は増えるばかりです。最新鋭の通常兵器を持とうとする国も増えています。弾道ミサイル技術を持とうとする国も増えています。地上にあるミサイルの数も増えています。
 次の事実を考えてください。
▼一九七二年にABM条約が調印された時、生物兵器を持とうとする国の数は不明でした。今日では、少なくとも一三ヵ国あります。
▼一九七二年に、化学兵器計画を公然と持つ国は一〇ヵ国でした。今日では一六ヵ国です(四ヵ国が開発を取りやめたものの、代わって一〇ヵ国が開発に参入しました)。
▼一九七二年に、核兵器計画を持っていることが分かっていたのは、わずか五ヵ国でした。今日分かっているのは一二ヵ国です。
▼一九七二年に、弾道ミサイルを持っていることが分かっていたのは、全部で九ヵ国でした。今日分かっているのは二八ヵ国で、しかも、過去五年間だけであらゆる射程のミサイルが一〇〇〇基以上も生産されました。
▼以上は、われわれが知っている事例だけです。まさにこの時点で、われわれの知らない危険な能力の開発が進んでいます。その開発は何年も知られないかもしれません。実際に配備されてからようやく分かる場合もあるでしょう。
 例えば、一九九八年に北朝鮮は、テポドン1号ミサイルを日本の頭越しに発射して世界を驚かせましたが、三段式のミサイルを持っていることはそれまで知られていませんでした。
 これ以外にも、イラン、シリア、リビアといった非友好国が、より射程の長い高性能なミサイルを開発中です。これらの国のうち幾つかは、五年以内にそうしたミサイルを配備できるようになるでしょう。そして、こうした国々は互いに協力し、技術やノウハウを共有しているのです。
 これらの国がそうした能力を持とうとするのは、その能力が国家の力と影響力を高めると考えているからです。つまり、米国民を危険にさらせば、米国が侵略行為を止めようとして軍隊を投入することを妨害できるし、世界各地での米国の利益を守ろうとするのを抑止できると考えているからです。
 もし、われわれがこうした兵器に対する防衛システムをいま築かないなら、敵対国は米国と同盟国の都市を核・化学・生物兵器で攻撃する能力を間もなく持つだろうし、そうした能力を既に持っている可能性もあります。敵対国はわれわれの国民を威嚇し、恐怖に陥れる力を持つでしょう。敵対国は、その侵略行動に対抗してわれわれが国際的な連合を組むことをさせず、孤立主義の立場を取ることを余儀なくさせる能力を確保したと思い込むかもしれません。さらに、敵対国は、われわれの行動に影響を与え、自分たちの目的を達成するため、保有する兵器を使う必要すらないでしょう。
 しかし、危機の際に彼らがそうした兵器を使わないと確信することはできません。もしサダム・フセインが西側の首都を核攻撃できる能力を持っていたなら、米国の(報復)核攻撃で何百万人ものイラク国民が死ぬことが予想されるからといって、本当に思いとどまったでしょうか。彼は国民のことをそれほど気にかけているでしょうか。そして、そうした危機の際に、われわれは、バグダッドとその市民を全滅させることが唯一の選択肢であるという事態を本当に望んでいるでしょうか。(核攻撃への)脆弱性を意図的に保つ政策は、この新世紀の危険に戦略的に取り組もうとするものではありません。
 われわれが脅威の存在を一〇年近く議論している間に、他の国はミサイル技術の入手、開発、拡散に余念がありませんでした。われわれには、脅威を議論する余裕はもうありません。時間は限られています。しかも、われわれは出遅れているのです。時代遅れになったABM条約の制約のせいも少なからずあって、われわれは一〇年の大半を無駄にしてきました。もう一〇年を無駄にする余裕はありません。
 
 ブッシュ大統領は、米国民と友好・同盟諸国、世界各地の軍隊を限定的な弾道ミサイル攻撃から守る能力を持つ防衛システムを開発し、配備するつもりだと宣言しています。二〇〇二年度の補正予算案では、ミサイル防衛に八三億ドルの計上を求めています。
 われわれは、無頼国家による限定的ミサイル攻撃や、事故または当局の許可を得ないで発射されたミサイルから身を守ることのできる防衛システムを開発するつもりです。どんな射程のミサイルでも、そして飛行の三つの段階、つまり「ブースト(推進)」「ミッドコース(飛行途中)」「ターミナル(最終)」のどの段階にあるミサイルでも、迎撃できる多層的防衛システムを開発するつもりです。
 われわれが立てた計画は、適切なものができ次第、開発し配備するというものです。望ましい多層的防衛システムの開発には時間がかかります。カギとなる技術をもっと徹底的に研究する必要があります。特に、ABM条約で規制されてきた技術についてはそうです。そこで、われわれは段階的なシステム構築を計画しました。技術が利用可能と分かったらそれを使う防衛兵器を配備し、新しい防衛兵器の完成に応じて、それを順次加えていくというものです。
 このような計画を立てたのは、急速に生まれつつある脅威からわれわれを守る手段として、緊急時には試作段階の兵器を、それがふさわしければ配備できるようにするためです。そういうことは、以前にも別の兵器で何度かありました。湾岸戦争でも、コソボでも、です。しかし、そうした緊急時を除いて、試作品の実戦配備を考えることは、非常に慎重であるべきです。そういう配備は混乱を招きかねず、通常の開発計画を頓挫させる可能性があるからです。
 しかしながら、われわれは、配備する防衛システムの構成をまだ決めていません。前途有望な非常に多くの技術が過去に研究されなかったので、決める段階にないのです。われわれが(前政権から)引き継いだ計画は、最大限の有効性を目指すのではなく、ABM条約の制約の枠内にとどまることを目的とするものでした。その結果、長距離ミサイルの脅威に対する防衛システムの開発・実験計画は、地上配備の兵器に限られ、非常に大きな潜在能力を持つ空中配備、海上配備、宇宙配備の兵器は無視されてきました。
 計画を加速するには、配備に向けて前進ができるようになる前に、有効な技術の研究をまず拡大しなければなりません。棚上げされた技術のほこりを払い、新たな技術を検討し、そうした技術をすべて集約して開発・実験段階に移行しなければなりません。
 そのため、われわれは柔軟かつ強化された研究・開発・実験・評価計画を立て、数多くの有望な技術をできるだけ幅広く検討することにしました。計画を拡大し、さまざまな技術や配備方式の実験を追加します。ここには、これまで無視されたか、研究が不十分だった地上配備、空中配備、海上配備、そして宇宙配備のシステムも含めます。
 過去一〇年間の遅れはあっても、米国を守る能力はわれわれの手の届く所にあります。二〇〇一年の技術は一九八一年の技術ではありません。もっと言うなら、九一年の技術でもありません。九一年は、ならず者国家の弾道ミサイル攻撃で、われわれが初めて損害を受けた年です。
 今日、弾道ミサイル防衛は、もはや絵空事ではありません。どうやって技術力を駆使するかが課題です。これこそわれわれが直面する課題なのです。
 
 われわれの計画は、わが国と同盟諸国、そして海外に展開する米軍のため、可能な限り最も高性能な防衛システムをできるだけ早い時期に開発することを目指しています。それは、この計画がある時点でABM条約の制限にぶつかること、そして時がたつにつれてぶつかる回数が増えることを意味します。われわれは条約の制限を超える目的のためだけに実験を行うことはありませんが、制限を超えないように計画づくりをすることもありません。
 しかしながら、現政権はABM条約に違反しようとしているのではありません。この条約を超越しようとしているのです。われわれは、二つの並行したルートでこれを実現するよう努めています。第一に、私がお話しした、加速された研究・開発・実験計画を進めます。そして第二に、新しい安全保障の枠組みに関して、ロシアと協議を行います。その枠組みは、冷戦が終わり、米ロは敵でないという現実を反映したものになります。この二つのルートは同時に前進しており、両方とも成功する見込みは高いと感じています。
 われわれは新しい安全保障関係をどう築くかについて、ロシアとの対話を開始しました。新しい米ロ関係は、かつての関係と違って、それぞれの国民を互いに全滅させる見通しを基盤にしていません。それは、二一世紀の米ロ関係の健全な基盤ではありません。
 ブッシュ大統領は最近の欧州訪問で(ロシアの)プーチン大統領と良い話し合いをしたし、ラムズフェルド(国防)長官は先月のNATO会議でロシアのセルゲイ・イワノフ国防相と実りある対話をしました。現に、会談後にイワノフ国防相は、「二一世紀の今日、われわれが直面する脅威は以前より増えているだけでなく、ずっと多岐にわたる」という点で、ラムズフェルド長官と意見が一致したと語っています。
 ロシアとの協議は続いており、失敗すると信ずる理由はありません。われわれが二〇〇二年にABM条約に違反するかどうかという問題は、協議の失敗を想定しています。しかし、失敗すると推定する理由はないのです。もし成功すれば、ABM条約は、米国民や同盟国、そして海外展開部隊を弾道ミサイル攻撃から守る障害に、もはやならないのです。
 われわれの開発計画がABM条約の制限にぶつかるときまでに、ロシアと了解に達していることを望むし、そうなることを予想しています。しかし、ブッシュ大統領は同時に、冷戦時代の三〇年前に恐怖の核均衡を保つことを目的につくられた条約のせいで、米国民や米軍や同盟国を守る措置を取れないということがあってはならないと明確に言っています。われわれは協調的な結末が好ましいと思うし、そういう結末は可能だと楽観しています。しかし、ABM条約の制限からは解放されなければならないのです。
 協調的な結末が好ましいという点でわれわれ皆の意見が一致するなら、議会は大統領と同じ決意をもって、米国民や友好・同盟国や全世界の米軍を守る防衛システムの開発を進めることが大切です。どんなに想像力を巡らせても、この防衛システムがロシアとその安全を脅かすことは考えられないのです。
 もし逆に、われわれがロシアに間違った印象を与え、ABM条約への固執を主張することでわれわれのミサイル防衛システム開発に拒否権を行使できると思わせるなら、協調的解決は不可能となり、大統領としてはこの条約から一方的に離脱する以外の選択肢はなくなるという、意図しない結果になりかねません。
 先ほどお話ししたように、現在の実験計画は、ABM条約の制限を念頭に置いてつくったのではないし、その制限を超えることを目指してつくったのでもありません。しかし、計画が進み、いろいろな実験が佳境に入るにつれて、ある局面で条約の制約や制限とぶつかることは避けられないでしょう。そうした事態は、何年か先と言うより、何ヵ月か先に起きる可能性が大きいのです。二〇〇二年に起きるかどうかを、確信を持って言うことはできません。はっきりしない理由の一つは、あらゆる研究開発計画には不確実性が避けられないからです。初期の問題の多くは法的に複雑なものが絡んでおり、条約順守検討グループを通じて完全解決することにしています。
 例えば、二〇〇二年四月の建設開始を今のところ予定している実験基地は、現実的な実戦条件の下で、地上配備のミッドコース迎撃能力の実験が可能になるように設計されています。イージス艦利用のミッドコース迎撃システムの実験を進める間に、イージス艦配備レーダーの長距離ミサイル追跡能力を試す機会もあるでしょう。また、ミッドコースの実験に使われたレーダーと、短距離ミサイル追跡に使われたレーダーの両方から得られるデータを統合する機会もあるでしょう。こうした実験はABM条約の制限を超えるのでしょうか。それぞれのケースについて、コインの三面を論ずる人たちが出てくるでしょう。こうした難しい問題を解決するシステムを、われわれはつくったのです。
 皆さんに言えるのは、次のことです。計画している開発活動がABM条約の制約にぶつかるときまでに、ロシアとの了解に達していることを心から望むし、達しているようにするつもりです。そうした問題点は六カ月前に特定されるでしょう。ロシアとの了解に達していれば、問題は意味を失います。了解に達していなければ、それほど好ましくない二つの選択肢が残ります。時代遅れの条約が米国防衛を妨害することを許すか、さもなければ、条約から一方的に離脱するか、です。離脱する完全な法的権利はわれわれにあります。
 しかし、後者の状況であっても、ロシアと了解に達する努力を続けるべきです。ただ、われわれの目標は、そのずっと前にロシアと了解に達することです。そうした了解は、両国の利益になります。冷戦の終結は、両国関係を根本的に変えました。協調的解決へ向けて引き続き努力するに当たって、皆さんの支持をお願いします。そして、大統領は条約上の義務を守り、前へ進む際には適切な通告をすると皆さんに保証することができます。
 
 ロシアと了解に達する見通しについては、楽観しています。新しい安全保障の枠組みに到達することが双方の利益になるからです。冷戦は終わりました。ソ連はもう存在しません。ロシアはわれわれの敵ではありません。冷戦のイデオロギー対立に縛られる状況にはもうないのです。にもかかわらず、ABM条約は、二一世紀にもはや通用しない冷戦時代の関係を条約にしたものなのです。
 われわれが配備するミサイル防衛は、まさに防衛なのです。だれを脅かすこともありません。そうではなく、弾道ミサイルでわれわれを脅かす者を抑止するのです。ロシアがそのような国だとは考えていません。冷戦時代にソ連の先制攻撃を心配したのとは違って、ロシアの大規模な先制攻撃が不安で、米国民は夜も眠れないといったことはありません。
 われわれのミサイル防衛は、ロシアの脅威になりません。ミサイル防衛の目的は、限定的なミサイル攻撃から身を守ることにあり、そうした攻撃を仕掛けてくる可能性のある者は増えていますが、ロシアが持つ何千ものミサイルから身を守ることは目的でないのです。
 さらに言えば、ミサイル防衛は、われわれが構築しようとしている、より大きな二一世紀の抑止の枠組みの一部にすぎないのです。冷戦時代にわれわれの目標は、単一の敵国が既存の兵器を使用しないよう抑止することでした。二一世紀には、多数の潜在敵国が既存の兵器を使わないよう抑止するだけでなく、新しい危険な能力をそもそも開発しないように仕向けることが課題なのです。
 それには、抑止とは違ったアプローチが必要です。ミサイルの脅威にさまざまな段階で対処する「多層的防衛」の構築を目指しているのと同じように、攻撃力と防衛力をまとめて開発する「多層的抑止」の戦略も必要となります。この戦略によって、今生まれつつある多種多様な脅威をさまざまな段階で抑止し、脅威を及ぼさないように持っていくことが可能になるのです。
 この戦略の目標は、潜在敵国の競争意欲をそぐ能力を米国が開発・配備することによって、そうした国が危険な能力をそもそも開発しないように仕向けること、そして、既に危険な能力は生まれているが、まだ重大な脅威になっていない場合には、潜在敵国がそうした能力に一層の投資をする気にならないようにすること、さらに、危険な能力がわれわれの脅威にまでなった場合には、圧倒的な反撃力をちらつかせ、潜在敵国によるその能力の使用を抑止すること、なのです。
 米国が圧倒的な海軍力を持っているので、潜在敵国は米国に対抗する海軍の建設に投資してまで海洋の自由を脅かそうという気になりません。なぜなら、いくら財産を注ぎ込んでも、戦略目標を達成することができないからです。それと同じように、われわれは一定の新しい能力を開発すべきであり、その能力があるために、潜在敵国はわれわれに対抗する別の能力に投資する気にならない、というように持っていくべきなのです。
 ミサイル防衛は一つの例です。ミサイル防衛は目新しいので、大きな注目を浴びています。しかし、ミサイル防衛は、新しい抑止の枠組みの一要素にすぎません。この枠組みは多層的で、外交、軍備管理、テロ対策、兵器拡散対策、比較的小規模だが効果的な核攻撃戦力など、相互に補強し合う幾つもの要素で構成されるのです。
 
 ミサイル防衛計画とはこういうものだという話をしてきました。こういうものではないという話もしなければなりません。
▼ミサイル防衛は、米国の周囲に侵入不可能な盾を築くものではありません。スターウォーズ計画ではないのです。われわれの目標は、限定的なミサイル攻撃に対して効果的な防衛システムを配備するという、ずっと限定されたものなのです。実際、ソ連が保有する何千ものミサイルから、少数のミサイルによる限定的な攻撃へと脅威が変化したことで、効果的な防衛システムの配備は以前より現実味を増してきました。
▼ミサイル防衛は、だれの脅威にもなりません。米国の国民や同盟国や海外展開部隊を弾道ミサイル攻撃で脅かすことを望む、ならず者国家にだけ問題になるのです。
▼ミサイル防衛は軍備管理を危うくするものではないし、軍拡競争に火をつけるものでもありません。どちらかと言うと、効果的な防衛システムの構築は、弾道ミサイルの価値を減らし、それによって弾道ミサイルの開発と拡散の誘因を取り除くのです。ロシアのミサイル能力に実質的に何の影響も及ぼさないので、ロシアがミサイル防衛を打ち破ろうとして、乏しい財源を使う誘因にはなりません。また、中国は既にミサイル能力の急速な近代化に取り組んでおり、われわれがミサイル防衛を構築するかしないかにかかわりなく、この近代化を継続するでしょう。逆に、ロシアと中国としては、米国がその核攻撃戦力を大幅に削減するのを目にするのですから、自分たちの核攻撃戦力を増強する必要はないのです。今回の予算案だけでも、ピースキーパー、トライデント、B1の削減により、米国は戦略兵器削減条約(START)の規制対象となる弾頭を一千発以上減らすことになるのです。われわれはロシアが何を決めようと核戦力を縮小する計画ですが、米国と同じ道を歩むことがロシアの利益に最もかなうと確信しています。
▼ミサイル防衛は「こけおどし」の防衛システムではありません。われわれは、効果的な防衛システムをできるだけ早急に構築し、配備するっもりです。防衛システムは時がたつにつれて実効性をどんどん増していくでしょう。高性能な防衛兵器を組み合わせて順次配備することによって、どんな射程のミサイルであっても、飛行のすべての段階で対抗できる「多層的防衛」が実現できるからです。防衛能力は高ければ高いほどよいのですが、人命を救い、死傷者を減らす上で、完全である必要はありません。湾岸戦争中、PAC2(第二世代のパトリオット・ミサイル)ほど不完全なシステムであっても、配備の追加を求めない同盟国や司令官はいませんでした。
 われわれのミサイル防衛システムは、百パーセントの効果を上げられるでしょうか。委員長。百パーセントの防衛というのは存在しないのです。テロ対策に何十億ドル使っても、コバル・タワー、ケニアとタンザニアの米大使館、世界貿易センターなどへのテロ攻撃を阻止できませんでした。それでも、完全に防衛できないからテロ対策に支出するのをやめるよう主張する人をわたしは知りません。そもそも、防衛システムは百パーセントの効果がなくても、抑止に大きく貢献をするのです。
▼ミサイル防衛は、納税者に何千億ドルもの負担をかけるものではありません。われわれが予算案で求めているミサイル防衛関係費は、他の主要な国防開発計画の費用とそれほど違わないし、米国の安全保障戦略を構成する他の要素にかかる費用ともそれほど違いません。二〇〇二年度には、ミサイル防衛に八三億ドルの支出を求めています。これでも大きな数字ですが、ミサイル防衛ができない場合の影響は計り知れません。
▼ミサイル防衛は、より差し迫った他の脅威から注意をそらしたり、財源を奪ったりするものではありません。一部の人は、スーツケース爆弾を使うテロリストこそ現実の脅威だから、ミサイル防衛に金を使うべきでないと主張しています。これは、泥棒は窓を破って入って来られるので、玄関のかぎを締める必要はないと言っているようなものです。両方とも現実の脅威です。しかし、過去一〇年間、テロの脅威への対策は積極的に進められてきたのに、弾道ミサイル防衛の努力は時代遅れの理論により妨げられてきました。われわれはこれを正そうとしているのです。
 委員長。実験と開発を加速する過程で、われわれは間違いなく障害にぶつかるでしょう。実験の失敗はあると予想しています。人類の歴史において、大きな技術開発は一つの例外もなく、試行錯誤から始まっています。米国の兵器開発でも、非常にうまくいったものの多くは、実験の失敗が付き物でした。
 例えば、
▼コロナ衛星計画は、初の偵察衛星を生んだ計画ですが、一一回連続で実験に失敗しました。
▼ソー・工ーブル、ソー・アジェナ・ロケットの打ち上げ計画は、五回のうち四回が失敗でした。
▼アトラス・アジェナ・ロケットの打ち上げは、八回のうち五回が失敗でした。
▼スカウト・ロケットの打ち上げは、六回のうち四回が失敗でした。
▼バンガード計画では、初めの一四回の人工衛星打ち上げのうち一一回が失敗でした。
▼ポラリス・ミサイルは、一二三回の発射実験のうち六六回が失敗でした。
 委員長。こうした失敗から、既に配備されたうちで最も効果的な能力の幾つかが生まれたのです。失敗によって学ぶのです。もし、実験に失敗したことのない計画があるとすれば、それは、だれかが十分なリスクを負って性能をぎりぎりまで高めようとしていないことを意味します。どんな最新兵器の開発計画でも、賢明なリスクを負うことは決定的に重要です。効果的な弾道ミサイル防衛の開発でも、決定的に重要になるでしょう。
 
 委員長。わたしが最初にお話しした点に戻って、証言を締めくくりたいと思います。この脅威は、フィクションではありません。限りのあるものでもありません。遠い先のものでもありません。そして、厄介な政権が一つか二つ消えてなくなっても、この脅威が消えることはないのです。
▼もし朝鮮半島で明日戦争が起きるなら、北朝鮮のミサイルは、たとえ通常弾頭だけの装備であっても、韓国の人口密集地と在韓米軍に壊滅的な被害を与えるだろうというのが、米情報機関の判断です。そして、北朝鮮は今、日本にも大きな脅威を与えています。
▼さらに、イランが核兵器を開発するのは時間の問題であり、イスラエルと一部のNATO同盟国を攻撃する能力を間もなく持つだろう、ということが分かっています。
▼今から三、四年後に、もしイランがイスラエルか湾岸駐留米軍を攻撃できる中距離ミサイルを持っていたら、あるいは北朝鮮が長距離ミサイルで米国を攻撃する能力を持っていたら、どんな公聴会が開かれるかを考えてみましょう。わたしなら、この委員会に連れてこられ、来るべき脅威を無視して可能な限りの対応を取らなかった理由を説明させられるのは、願い下げです。
 これは党派的な問題ではありません。ならず者国家が核兵器か化学兵器か生物兵器でロサンゼルスかデトロイトかニューヨークを攻撃できる能力を持つという危機に最初に直面する大統領が、共和党員なのか民主党員なのか分かりません。しかし、その大統領が米国人であることは分かっています。われわれも、共和党員や民主党員としてでなく、米国人として事を進めないといけないのです。
 今の時代を振り返る将来の世代に、党派抗争を見せるのではなく、生まれつつあるこの真の脅威から米国と同盟国と海外展開米軍を確実に守るため超党派で立ち上がった政治家の姿を見せようではありませんか。
 ご静聴ありがとうございました。








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