■整備の趣旨
JR金沢駅西口から線路沿い約1.4kmの中心市街地にある旧大和紡績工場用地(約9.7ha)に、大正末期から昭和初期にかけて造られた倉庫群を活かして、若者の文化活動拠点として整備された施設である。
市では、当初、跡地利用を学校建設の方向で考えていたが、市長の現場視察を経て長年ランドスケープとして親しまれてきた倉庫群を残して、演劇を中心とする市民の文化施設化の方向が提言され、若い人の文化的関心の高い演劇、音楽、美術や関連技術の振興、とくに市内に不足している練習場を軸に若者文化活動の拠点化を図ることが合意され、整備された複合施設である。
■施設概要
□ PIT1/エコライフ工房(延床面積:148m2)
□ PIT2/ドラマ工房(延床面積:842m2、定員250名)
□ PIT3/オープンスペース(階段部分503m2、倉庫部分269m2、水上ステー6×6m2)
□ PIT4/ミュージック工房(延床面積:498m2、定員100名のメインスタジオの他スタジオ室)
□ PIT5/アート工房(延床面積:859m2、制作展示部分498m2、階段部分182m2、倉庫部分182m2)
□ カフェレストラン「れんが亭」(延床面積:318m2、客席102席、営業時間11時から23時)
□ 事務所棟(木造二階建、延床面積:584m2、研修室、会議室、和室など)
□ 交流施設「里山の家」 (木造二階建て、延床面積:302m2)
□ 金沢職人大学校(平屋建て、延床面積:476m2、石工、瓦、左官、造園、大工、畳、建具、板金、表具の研修指導)
〔金沢市民芸術村の平面構成と外観〕
■総事業費:
約17億円(倉庫群のみ)
■運営主体:
(財)金沢市公共ホール運営財団
この財団は金沢市文化ホール、金沢市民芸術ホール、金沢市観光会館を運営しているが、この芸術村についての施設運営はディレクター制による市民の自主管理を基本とする。
■運営方針:ディレクター制による24時間、365日運営を基本とする。
○「ディレクター制」の導入は、制作活動における時間と規制の自由を利用者に保証する利用者管理方式として採用されたもの。
○具体的には、ディレクターを各工房から2人と、総合ディレクター1人の9人を民間からボランティアとして参加してもらい、市民芸術村村長を加えた10人で施設の運営を行う仕組みである。
○各工房の規則はディレクターが定め、火気厳禁のみが金沢市の規制を受けている。
■運営費:
約1億2,000万円(内3,000万円が金沢市の助成)
■備 考:
低廉な利用料金と規制の自由度から、プロ集団の利用が目立ち始めたといわれるが、市民文化施設の趣旨から、プロの利用の場合は、リハーサルの公開とワークショップの開催を条件としている。
資料:「1997年11月レジャー産業資料」総合ユニコム株式会社、金沢市民芸術村ホームページ。
D. 伝統工芸・町並み・文化環境を活かした地域文化産業創造プロジェクト
<ねらい>
熊野古道の五躰王子の一つである「藤白神社」、鈴木氏のルーツといわれる「鈴木屋敷」、日本四大漆器の一つに数えられる黒江の「紀州漆器」や、「のこぎり歯状」の独特な「町並み」などを活かした体験学習や国際性ある交流観光を推進し、伝統産業の活性化、文化創造拠点の形成、及び市民アイデンティティのシンボルづくりをねらう。
<内 容>
■整備の枠組み
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■整備イメージ
[1] 熊野古道の交流・体験学習の拠点形成
平安末期に居を構え、全国の鈴木氏のルーツである鈴木屋敷、熊野古道五躰王子の一つで、里神楽、すもう、和歌会などが催され、数多くの文人墨客の来訪もあった藤白神社などの歴史・文化性を活かし、現代の熊野古道の休憩スポット(王子)として、また、海南の一つのシンボル拠点として、鈴木屋敷などの再整備・活用を図る。
[2] 黒江の町並み再整備事業の推進
紀州漆器伝統産業会館、酒造資料館、黒江のあがえ(町家・町屋)をはじめ、熊野街道沿いに形成された、伝統的な古い町並みなどを一体的に連携させ、文化・観光・交流拠点を形成し、この町並み環境を活かして若者や高齢者、女性参加の観光産業やコミュニティビジネスを育成する。
○既存スポット周辺の整備とネットワーク化の推進
スポット周辺(紀州漆器伝統産業会館、酒造資料館、黒江のあがえなど(町家・町屋))の環境整備を優先的に進めると共に、スポット間を結ぶ歩く散策ルートを整備する。
○街角ミュージアムの展開
地元の商店・工場・工房、さらには一般住民にも協力してもらい、店や我が家のお宝を一般公開する仕組みを作る。
○お休み処の整備
空き家や遊休地を活用して、健康食・薬膳茶店、カフェ・エスニックレストランなどの小さなお店づくりを進める。
○海南版エルダーホステルシステムの導入
高齢者の歴史・文化学習ニーズや日本らしさを求める外国人観光客を受け止める仕組みとして、空き家や風呂屋(温泉の導入)を活用した宿泊滞在型拠点を形成すると共に、市の生涯学習事業と連携させた旅行プログラムをつくる。
また、国際的な組織であるNP0法人日本エルダーホステル協会と連携し、全国からの来訪や外国人観光客の誘致を促進する。
○アーティスト・イン・レジデンスの展開
インタビュー調査などによると、黒江には、潜在的に芸術家などの来住ニーズがあり、空き家などを活用した誘致を図る(街角ミュージアムとの連携を図る)。
[3] 情報提供の充実
熊野古道や漆器・町並み文化など、海南市が有する文化蓄積を「わかりやすく・楽しく・持って歩ける」情報マップとして作成する。
[4] 人材の育成
観光ボランティアガイド、ミニショップの展開、エルダーホステルの運営など、中軸になる若者と共に、元気高齢者や女性パワー、それに在住外国人などの活用によるコミュニティビジネス的な事業の担い手になる人材を育成する。
[5] 交通システムの整備
マリーナシティとネットワークするシャトルバスの導入や、海南駅を中心としたレンタサイクル(高齢者や障害者に配慮した交通手段も含めて)システムを整備し、“歩いて楽しめる観光ネットワーク”づくりを推進する。
[6] 回廊文化を活かした多彩なイベントや顧客対策の強化
熊野街道、高野街道の結節点としての回廊文化を背景に、藤白神社での楽市楽座の拡充イベント(歌舞音曲の演出など)や全国鈴木さん大集合の開催、あるいはマリーナシティや温山荘などと連携した共通利用券の導入など、各種の利用促進策を講じる。
また、熊野古道の世界遺産化への動きを含め、外国人観光客への対応など、国際性ある受け入れ態勢を整えていく。
<推進の考え方>
鈴木屋敷などの再整備については、現在、市民サイドで動きがみられる保存・再生の動きを軸に検討を進める。
黒江の町並み再生については、関係者からなる協議会を軸に、所有者意向を含めた空き家調査を実施しつつ、行政が先導的に再整備計画とアクションプログラムの策定を支援し、推進主体としては官民協働方式を検討しつつ、段階的に事業を推進する。
参考事例:福岡県吉井町の「筑後吉井の小さな美術館めぐり」
■吉井町の概況
吉井町は、福岡県の南部、耳納連山と筑後川の挟まれた肥沃な沖積低地で、人口は18,000人、町のほぼ中央を久留米市と大分を結ぶ鉄道(久大本線)と国道210号線が走っている。
歴史的にみると、江戸時代は有馬藩と天領日田を結ぶ豊後街道一のにぎわいをみせた宿場町である。そのために、町には白壁土蔵づくりの商家がたくさん残っている。
■町おこしイベントのきっかけ
昭和60年頃、国道210号線の車の流れで、東は湯布院、別府へ、西は有田、長崎へ滔々と流れていく有様をみて、なんとか吉井町にその流れを引き留められないかと思ったところから始まる。白壁を保存する運動はその前から続けられており、「ふるさと創生事業基金」を活用して町が「白壁土蔵の町並み保存計画」を立ち上げたこともあり、これとドッキングして、町に眠っている骨董品を活かしたり、なぜか多い在住の画家、陶芸家、写真家などと連携して「田舎型美術館」ともいうべき「小さな美術館めぐり」が発想された。
■小さな美術館めぐりのポイント
[1] 白壁の土蔵、寺の本堂、骨董品屋、商店のウィンドウ、個人の住宅などを展示館としてゴールデンウィークの期間中利用する。
[2] 展示品は、町内在住の画家、陶芸家、木工芸家、手芸家、書家などの作品、及び地元の美術愛好家の所蔵品を展示する。
[3] 原則として徒歩で見学し、入場料は無料とする。
[4] 期間中は、国指定の史跡「日の岡」と「月の岡」両古墳を公開する。
これらは、街全体を展示空間として再構成し、土蔵や民家、商店などの「小さな美術館」を、川、道路、緑地などの中に配置し、古い町並みの散策が自然と美術鑑賞に繋がっていく空間の創出であった。
参考事例:チャレンジ精神と知的好奇心旺盛な大人のためのエルダーホステル
■エルダーホステルとは
ユースホステル運動と北欧の国民高等学校における生涯教育制度をヒントに、1975年、アメリカのニューハンプシャー州で始まった55歳以上の人のための宿泊型生涯学習プログラム。我が国では、NPO法人エルダーホステル協会が設立され、50歳以上を対象にした会員組織が形成されている。
■エルダーホステルの特徴
○旅して学ぶシニアライフ
旅と学習、そして人々の出会いを通して人生を豊にしていく。全国から集まるホステラーたちと、共に学び、同じ釜の飯を食べながら、語り合い、同世代としての共感を深める。普通の観光旅行では味わえない体験がある。
○バラエティ豊かな講座内容
政治、経済、文学、歴史などから音楽や語学研修、そして自然観察やトレッキングまで多彩な内容や、開催地の特色を生かした課外活動などが用意されている。
○ゆとりの日程、シンプルライフ
エルダーホステルは滞在型のプログラムであるから肉体的にも疲れず、精神的にもリラックスできる。豪華なホテルや至れり尽くせりのサービスは無いが、ホステリング精神に沿ったシンプルで自立的なライフスタイルが、かえって利用者に充実感をもたらす。
■エルダーホステル講座事業の内容
○国内講座 :50歳以上の人を優先、全国各地で3泊4日程度を目安に開催されている。
○海外講座 :50歳以上の人を優先、海外17カ国の大学で行われ、期間は約1〜3週間程度。(使用言語は日本語)
○日本学講座:55歳以上の米国・カナダ人を対象に日本で行われる講座。(使用言語は英語)
カナダ「モントリオールの歴史」の講義
岡山県牛窓で開かれた天体観望プログラム
資料:日本経済新聞1999.11.29