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序章 調査研究の概要
1 調査研究の背景と目的
(1) 調査の概要
 本調査研究は、海洋レジャーなどによる観光公害の激化、耕作放棄やゴミの不法投棄などによる荒地化などが著しい海岸砂地地帯について、今後の地域づくり全体の中でそこが担うべき役割・機能を明確にし、その保全と活用のための具体策を提示するものである。
 このことにより、海岸砂地地帯が所在する各地の地方自治体の今後の取組に、基本的考え方、方法論及び推進方策などを提供することを目的とする。
 本調査研究は、対象地である静岡県浅羽町の沿岸域約350 h aについて、保全と活用のための基本方針を設定するとともに、2002年度以降の取組に向け実現の可能性に狙いを定め、リーディングプロジェクトの提示と具体的推進に関わる条件・課題の明確化を目標とする。
(2) 調査の背景
 本調査研究を実施する背景としては、次の3つがあげられる。
ア 町の潜在的資源・資質の活用
 静岡県を代表する田園風景や遠州灘沿岸域の松林、砂浜など、本町は良質な景観・自然資源を有するとともに、浜松市、袋井市の近接性を活かし、一定の産業立地も進んでいる。また、人口の増加率が静岡県下で最も高いことなど、今後の発展を見込むことが可能な高い潜在性を有している。今後は、地域振興や定住環境の向上等に、本町が有する資源・資質を有効に活用することが求められてきており、特に潜在化している未利用・低利用の資源・資質の積極的活用が必要となってきている。
イ 町民意識の多様化・個性化への対応
 核家族化や少子・高齢化の進展、新住民の増大等により、町民のライフスタイルは変容してきており、まちづくりに対する意識も多様化・個性化してきている。こうした町民意識を反映し、「第四次浅羽町総合計画」においても、町内各地域の均質的な発展を志向するだけではなく、各地域の実情やニーズに基づき、地域の活力を活かしたまちづくりを進めることとしており、こうした取組の具体化として特定地域における先導的な事業の検討及び導入への期待が高まってきている。
ウ 町南部(遠州灘沿岸)地区の地域環境の悪化
 町内他地域と比較して、町の南部(遠州灘沿岸)地区では、高齢化や兼業化の影響により、農地の荒廃化が進み、これに伴ってごみの不法投棄等が発生している。また、本町の代表的な景観を有する沿岸域においても松林の荒廃や砂浜環境の悪化などが生起し、貴重な自然環境の荒廃も深刻化している。このため、南部(遠州灘沿岸)地区の地域環境の改善は緊急性の高い問題となってきており、具体的な対応策が必要となってきている。
(3) 調査の目的
 上記のような背景を踏まえ、本調査研究は、本町の南部(遠州灘沿岸)地区を調査対象地区として設定する。本地区が有する顕在化・潜在化している地域資源を把握・評価し、本町全体の発展に資する、本地区の新たな土地利用のあり方を検討することが必要である。
 そこで、本調査研究の目的を下記のとおりとする。
【調査の目的】
浅羽町南部(遠州灘沿岸)地区の新たな土地利用のあり方
 本調査の目的を明らかにするために、下記の5つの個別の目的を設定した。
[1] 保全と活用の基本的な考え方
[2] 南部(遠州灘沿岸)地区の担うべき機能の明確化(地域振興・定住・産業・環境等)
[3] 生態系を含めた海岸保全・管理対策
[4] 荒廃地(耕作放棄地・遊休地)等の利活用方策
[5] リーディング・プロジェクト(先導的事業の導入)の明確化と整備方向
2 調査研究の視点
 本調査研究では、調査対象地区の新たな土地利用を検討する上で、次の3つの視点を設定した。
(1) 持続性のある環境管理対策(保全と活用の視点から)
(2) 広域的な視点からみた町のポテンシャルの検討と都市機能導入
(3) 観光レクリエーション、交流等を中心とした視点からみた土地利用の可能性と地域環境の魅力向上
(1) 持続性のある環境管理対策(保全と活用の視点から)
 新たな土地利用を検討する上で、海岸や松林など調査対象地区が有する貴重な自然・文化等の地域資源・環境を保全し、次代に継承していく視点と、荒廃化した農地など悪化していく地域環境に適切に対応していくため、活用の観点から新たな土地利用を導入する視点の双方の検討が必要となってくる。保全と活用の両面から土地利用を進めていくためには、土地利用の方向性として、将来に向けて「持続性のある環境管理対策」を重視する視点が重要である。
(2) 広域的な視点からみた町のポテンシャルの検討と都市機能導入
 町内(=町民)のニーズに立脚するだけではなく、広域的観点(静岡県中遠地域等)からみた本町に対するニーズや期待を明らかにすることにより、潜在化している本町の立地優位性を顕在化させ、新たな都市機能の導入を念頭に調査研究を行った。
(3) 観光レクリエーション、交流等を中心とした視点からみた土地利用の可能性と地域環境の魅力向上
 本町のまちづくりのなかで、これまで必ずしも十分に機能してこなかった観光レクリエーション、地域間交流等を中心とした地域振興に着目し、こうした新たな機能導入から南部地区の土地利用の可能性の拡大や今後の地域環境の魅力向上を念頭に調査研究を行った。
3 調査項目
 本調査では、下記の10項目を調査した。各調査項目の相関は、図表序−1のとおりとなる。
[1] 広域的な地域動向
[2] 浅羽町の地域特性
[3] 調査対象地区の特性と資源環境
[4] 住民ニーズの把握
[5] 対象地区に係わるインパクト分析
[6] 課題の抽出
[7] 事例研究  (課題に対応した事例を適宜選出する)
[8] 本調査の視点からみた土地利用の整備方向
[9] 戦略プロジェクト構想(リーディングプロジェクト)
[10] 今後の推進の考え方
図表序-1 調査のフロー
4 調査研究の内容と方法
 本調査では、次の4つの調査を実施した。
(1) 調査1 調査対象地区の特性と資源環境調査(前掲図表序−1のフロー番号[3])
(2) 調査2 住民ニーズ調査(同[4])
(3) 調査3 調査対象地区に係わるインパクト分析調査(同[5])
(4) 調査4 事例研究調査(同[7])
 各調査の内容と方法は、以下のとおりとなっている。
(1) 調査1 調査対象地域の特性と資源環境調査
 調査対象地区の地域の特性と保全あるいは活用すべき資源を抽出し、計画のための基礎的な条件を整理した。検討の方法は主として次の3つの方法から実施した。
[1] 既存文献・統計資料等による検討
[2] 現地踏査による検討
[3] 関係者ヒアリングからの検討
[1] 既存文献・統計資料による検討
 地域形成の流れや歴史的ストック等については町史や磐南地域に関する文献等を参考に把握するとともに、町統計書等により数量的な把握(人口、産業、観光レクリエーション利用等)をおこなう。また、沿岸地域の自然生態等については、当地域の自然環境について調査された文献やその他新聞等の情報を含め収集し把握する。
[2] 現地調査による検討
 空間的な状況を把握するとともに、保全あるいは活用すべきと思われる資源について現地確認をおこなう。
[3] 関係者ヒアリングからの検討
 一つは行政の関連各課(企画、産業、建設・都市計画等の担当セクション)のヒアリングをおこない、当該地域の状況(現状・問題点・課題・今後の整備計画等)を把握する。一つは、対象地域内の事業所(工場等)や主たる施設等にヒアリングをおこない、現在の事業・施設内容や今後の対応意向等について把握する。
(2) 調査2 住民ニーズ調査
 町民、地権者、事業所関係者等から当該地域に関する土地利活用ニーズ・期待等を把握・整理する。検討の方法は主として次の3つの方法からおこなう。
[1]地権者アンケート調査
[2]地権者・住民・事業所等ヒアリング調査
[3]町民意識・ニーズの把握
[1] 地権者アンケート調査
 調査対象地域の地権者に対してアンケート方式による悉皆調査を実施し、調査対象地区の土地属性、地権者属性、土地利用の現状、今後の土地利用意向等についての把握を行った。
[2] 地権者・住民・事業所等ヒアリング調査
 調査対象地域の地権者・住民・事業所(担当者)等に対してヒアリング調査を実施し、現在の土地利用の問題点・課題、当該地区における今後の定住(又は営農・経営)意識、新たな土地利用において活かすべき資源・ニーズに対する考え方等の把握を行った。
[3] 町民意識・ニーズの把握
 既存の町民実態及びニーズ調査等から、今後のまちづくりに対する町民意識・ニーズ、まちづくりにおいて導入すべき機能等の把握を行った。
(3) 調査3 対象地域に係わるインパクト分析調査
 当該地域に関係する既定計画を把握するとともに、当該地域の立地変動要因になると思われる道路計画(構想)、あるいは周辺地域における産業開発や宅地開発等のインパクト要因を抽出し、それが及ぼす影響、それに対する対応の基本的な考え方等を整理した。検討の方法は主として次の3つの方法から行った。
[1]計画図書や関連資料・文献の収集・分析
[2]所管機関へのヒアリング
[3]定性・定量的な影響把握
[1] 計画図書や関連資料・文献の収集・分析
 県・広域圏・町等の各計画・構想については、計画書を収集し計画内容を把握するとともに、当計画での本調査対象地域の位置づけや方向付けについて明確にする。地域形成の流れや歴史的ストック等については町史や磐南地域に関する文献等を参考に把握するとともに、町統計書等により数量的な把握(人口、産業、観光レクリエーション利用等)をおこなう。また、沿岸地域の自然生態等については、当地域の自然環境について調査された
文献やその他新聞等の情報を含め収集し把握した。
[2] 所管機関へのヒアリング
 基本的には町を中心に担当部署に対するヒアリングをおこなうが、必要に応じて、県や国(土木事務所等を含めて)へのヒアリングをおこない、計画概要を把握するとともに、各計画及び本調査対象地域への影響について検討した。
[3] 定性・定量的な影響把握
 [1]、[2]によって得られた情報を基に、本調査対象地域への影響を定性的、あるいは可能なものについては定量的に検討する。また、図上に影響要因をプロットし、影響や対応の方向について空間的な検討を行った。
(4) 調査4 事例研究調査
 対象地域における課題に照らし合わせ、参考となる事例を抽出し研究した。研究ポイントは、[1]事業の背景と経緯、[2]うまくいったポイントや隘路となった課題等、[3]事業の手順や組織的な仕組みづくり(官民の役割分担を含めて)3点とした。事例の抽出は、既存の文献や関連図書、あるいは新聞等幅広い情報ソースから拾い出すとともに、有益な事例については現地調査等のオリジナルなヒアリング調査を実施した。なお、想定される事例対象としては次のようなものが考えられる。
■生態系を含めた沿岸地域の保全や活用事例
■遊休地等の活用事例
■近年のニーズに対応した海浜レクリエーションの活用事例
■砂地農業の事例
■特産品の開発事例 等
5 調査研究体制
 本調査研究を専門的、地域的観点から審議するための調査研究委員会を設置した。委員会は、学識経験者、町内有識者、行政関係者(県)、調査主体代表(町・地方自治研究機構)で組織し、調査研究の企画、調査研究の分析、最終報告の提言等について審議を行った。
 委員会では委員長を選出し、委員長が委員会を総理・運営した。また、委員会の庶務・調査の具体的作業等を行うため、幹事会を設置し、町企画課・地方自治研究機構調査研究部が担当した。調査の専門的・基礎的作業を行うため、基礎調査機関として(株)ジェド・日本環境ダイナミックスを選定し、作業を委託した。
 上記の調査研究体制は、図表序−2のとおりである。また、本調査研究委員会名簿については、巻末に掲載してある。
図表序-2 調査研究体制








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