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(ア) 沿岸域を中心に全市的に謳われている「海」
 「海」については、57校(全体の約78%)の校歌で謳われている(図表2-15)。海岸からの距離に着目すると、海岸から1kmの範囲に立地する39校のうち、38校の校歌に「海」が謳われており沿岸域に立地するほとんどの学校の校歌には、「海」が謳われていることがわかる(図表2-17)。
図表2-17 学校の海岸線からの距離と海要素との関係
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(イ) 地区毎のシンボルとなっている近在の「山」
 一般名詞としての「山」については、59校(全体の約81%)の校歌の中に謳われている(図表2-15)。
 これに対して、固有名詞として謳われている山は、最も多い「富士山(静岡県)」で8校であり、「鷹取山」の6校、「大楠山」の4校がそれに続いている(図表2-18)。以上から、横須賀市では、全市的なシンボルとして校歌に謳われているような山が存在せず、各地区に近在する山がそれぞれの地区内のシンボルとなっていると考えられる。
 以上の特徴は、山と学校との位置関係からも裏付けられる。次頁に、「鷹取山」「大楠山」「武山」「富士山」が校歌に謳われている学校の位置図を示す(図表2-19)。この図より、「鷹取山」「大楠山」「武山」が校歌に謳われている学校はそれぞれの山の近傍に位置しており、このことから、「鷹取山」「大楠山」「武山」はあくまでもその地域固有のシンボルであって全市域的なシンボルにはなっていないと考えることができる。
図表2-18 校歌に謳われた固有名詞
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(注) 2校以上で歌われた固有名詞を示した
図表2-19 校歌に歌われた固有名詞と学校との位置関係
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(2) 町名・小字名にみる横須賀市のイメージ
 我が国においては、地名は一般に地形語から構成されている場合が多く、名付けられた地名は、その場所の地形的特徴や環境的条件を表している場合が多い。例えば、「横須賀」という地名も、砂洲を意味する「須賀」に由来するもので、東京湾を臨むようにのびた長い海岸線にちなんだ地名である。
 これは言い替えれば、我々は地名を通じて、その場所の地形や場所のイメージを認識する場合があることを示しており、このような地名から想起される場所のイメージは、共通のイメージとして不特定多数の人々に共有化され、定着されているものと考えることができる。
 このような考えから、ここでは横須賀市に存在する地名の特徴から、人々に共有化された横須賀のイメージの把握を行い、後述する横須賀市の景観形成に関る検討のための基礎資料を得ることを目的とし、分析を行った。調査対象、調査項目は以下のとおりである。
 
ア 調査対象
 横須賀市域内にみられる町名・小字名を対象とする。
 
イ 調査項目
 地形や場所性、眺望を表す町名・地名に着目し、それらの特徴を整理する。具体的には、以下の項目について、調査を行う。
・ 横須賀市に特徴的な地形に関る町名、小字名を抽出する。
・ 前章で示したように、横須賀市では特に昭和30年代以降、数多くの埋め立てや宅地開発が行われており、これらの前後において、新たな町名・地名の誕生と消滅がみられる。
そこで、これらに着目し、町名・地名の変遷を整理する。
 
ウ 調査結果
 
(ア) 横須賀市の地形に関る町名、小字名
 「横須賀の町名」(横須賀市、平成元年3月)に整理された横須賀市の町名・小字名の中から、例えば「○○崎」や「○○丘」などの様に、地形を表す語尾を有する地名の抽出を行った。その結果を、図表2-20に示す。
図表2-20 地形を表す語尾からみる横須賀市の町名・小字名
追浜町  久里浜  御幸浜 ・ 浜町  八幡久里浜
明浜 追浜 大浜 をと浜 栗谷原 小白浜 小松浜 米ヶ浜 失鎌浜 多々羅[良]浜 田ノ浦浜 なとはま 長浜 西ノ浦浜 松ヶ浜 御幸浜 矢浜 米ヶ浜 
箱崎町  森崎  洲崎  山崎町
荒崎 磯崎 岩崎(3) 鵜ヶ崎 大崎 大山崎 岡崎 尾ヶ崎 尾崎(2) 尾瀬ヶ崎 狩屋ヶ崎 仮谷ヶ崎 観音崎 桐ヶ崎 検校崎 芝崎 鯛ヶ崎 大門崎 楢ヶ崎 太郎崎 千代ヶ崎 つる崎 天神崎 島ヶ崎 箱崎 平等崎 真崎 松ヶ崎 松崎 三浦崎 森崎 山崎(2) 用崎
汐入町
家ノ入 猪が入 塩入 菖蒲ヶ入 駿馬入 関ノ入 竹ノ入 蔦ヶ入 半ノ田入 東ノ入 日向ノ入 ふじの入 平六ヶ入 坊田入 堀田ノ入 谷戸入
井合口 大沢口 坂口(3) 障子口 大門入口 龍ノ口 出口 豊口 火ヶ口 水口(2) 谷戸口
楠ヶ浦町  田浦町  長浦町  安浦町
内浦 蜥浦 小海浦 小長浦 志はく浦 水ヶ浦 伊勢浦 大浦 かき浦 田中浦 田之浦 富浦 深浦 本浦 本長浦 屋形浦 館浦
谷(戸) 秋谷 大ヶ谷 金谷 須軽谷 西金谷町 東金谷町 谷戸
谷 谷戸(7) イウゴウが谷 家ノ谷戸 池田谷 池ノ谷(2) 池之谷戸 石田谷(2) 石谷 石谷戸 いなりやと 乳母ヶ谷 梅田谷戸 栄地谷 永戸谷 扇の谷 蔔ヶ谷 大町谷 大谷(6) 大谷戸(6) をかたの谷、 岡田谷戸 おくるがやと 鬼ヶ谷 柿ヶ谷 柏木谷 金谷 蒲ヶ谷 かまが谷 神応谷 キトジ谷 きねが谷(2) 草丸谷 倉沢谷 倉美谷 堅女ヶ谷 小池谷 香ヶ谷 小ヶ谷 越ヶ谷 腰越谷戸 小荷谷 小麦谷(2) 小矢ヶ谷 小谷 小谷戸(2) 権田谷戸 佐原谷 三谷戸 失鎌谷 湿りヶ谷 下ノ谷(2) 菖蒲谷(2) 神明谷戸 信楽寺谷 杉長谷 菅ヶ谷 スカリが谷 鈴木ヶ谷 清次谷 関ヶ谷(3) 関ヶ谷戸 関ノ谷戸 堰ノ谷戸 節季谷 善ノ谷 蔵徳谷 染谷(2) 台ノ谷戸 高石谷 竹ノ谷戸 田之浦戸 陀羅ヶ谷 太郎崎谷 貞昌寺谷 天王谷 塔ヶ谷 堂ヶ谷戸 童子ヶ谷(2) 中之谷 中ノ谷戸 南郷谷戸 西ヶ谷 西ノ浦谷 西ノ谷(5) 西谷(2) 西谷戸(2) 蜂ヶ谷 東谷 東谷戸 引地ヶ谷 姫城ヶ谷 百八田ノ谷 深谷(3) 船越谷戸 武兵衛谷戸 逸見谷 坊ヶ谷(3) 星谷 松ヶ谷 三足谷 南谷戸(2) 宮ヶ谷 宮ヶ谷戸 宮ノ谷 妙ヶ谷 向大谷 向ヶ谷(2) 狢ヶ谷(3) むじな谷(2) 矢ノ津谷 山ヶ谷 湯谷ヶ谷 吉田ヶ谷 四ツ谷
柏木谷台 金谷込 日谷枝 小谷前 栗谷浜 町谷原 蒲谷新田 射矢谷 稲荷ノ谷 扇ヶ谷戸 柿ノ谷戸 勝畑谷戸 蟹ヶ谷戸 北ヶ谷戸 木戸ヶ谷戸 栗谷戸 源蔵谷戸 小谷戸 背越谷戸 尚武谷戸 関谷戸 中ノ谷戸、 浜ノ谷戸 逸見小谷戸 深山谷戸 森崎谷戸 八十八谷戸
池ノ上 稲荷ノ上 井ノ上 漆山ノ上 大久保ノ上 正光寺ノ上 諏訪ノ上 台ヶ上 竹ノ上(2) 寺の上 堂ヶ上 長浜ノ上 番湯ノ上 日向ノ上 北条ノ上 宮ノ上
宮下
新巻下 池田下 石ノ下 庚申下 米ノ下 坂本下 芝下 杉之下 堰下(2) 関下(2) 寺ノ下(3) 中下 二軒家下 原下 火出下 深田下 船蔵下 宮ノ下(2) 矢倉下 山下(3) 湯谷ノ下 吉井下
浦上台 小原台 久里浜台 汐見台 田戸台 浜見台 深田台 平和台 望洋台
台(4) 上ノ台 榎之台 大松台(2) 小原台 柏木谷台 米ノ台 坂ノ台(2) 竹ノ台 田台 中台 荻ノ台 舞台(3) 孫ノ台 御立台 平だい 
浦賀丘 桜が丘 鶴が丘 緑が丘 
長坂 高坂
赤阪(2) 石ヶ坂 稲荷坂 大阪 乙女坂 弧坂 高坂 塩坂 菖蒲坂 駿河坂 台坂 台ノ坂 道金坂 ひどめ坂 藤ヶ坂 向坂 矢ノ津坂(2)
西逸見町 東逸見町 富士見町
西見 祢具留見 フガラミ
(注) 太字は町名、細字は小字名、( )内はその数
資料:横須賀市「横須賀の町名」(平成元年3月)
 
 先に抽出を行った地名を、その語尾が指し示している地形形状に着目して、分類を行うと、以下のように整理することができる。
 
a 「海岸」に関る語尾を有する町名、小字名
 「海岸」に関る語尾を有する町名、小字名としては以下が挙げられる。
 これらは、それぞれ海岸線の平面形状を表しており、このような多様な海岸線の存在が、横須賀市の一つの特徴となっていることが伺える。
「浜」:追浜、久里浜、御幸浜、米ヶ浜、長浜、松ヶ浜 等(町名:5、小字名:18)
「崎」:箱崎町、森崎、洲崎、荒崎、観晋崎、松ヶ崎 等(町名:4、小字名:38)
「浦」:田浦町、長浦町、安浦町、内浦、水ヶ浦、大浦 等(町名:4、小字名:17)
 
b 「地形の入り組み」に関る語尾を有する町名、小字名
 以下は、「地形の入り組み」に関する語尾を有する町名、小字名である。このなかでも、特に「谷(戸)」を語尾にもつ地名が多く見られることが特徴的であり(図表2-21)、台地に刻まれた小さな谷地形である「谷戸」に代表される、小さな地形の入り組みが、横須賀市において特徴的であることが地名から伺える。
「谷(戸)」:秋谷、大ヶ谷、谷戸、扇ヶ谷戸、逸見小谷戸 等(町名:7、小字名:184)
「入」:汐入町、関ノ入、竹ノ入、家ノ入、谷戸入 等(町名:1、小字名:16)
「口」:大沢口、水口、坂口、瀧ノ口 等(小字名:14)
 
c 「地形の上下関係」に関る語尾を有する町名、小字名
 以下は、「地形の上下関係」に関る語尾を有する町名、小字名であり、これらは横須賀市の地形の断面的特徴を表すものである。
 これらの中でも、「浜見台」「望洋台」は、台地の上から海への眺望が得られることを示唆するものであり、横須賀市の景観を考える上で、特徴的な地名であるといえる。
「上」:池ノ上、日向ノ上、長浜ノ上、宮ノ上、諏訪ノ上 (上町) 等(小字名:17)
「下」:宮下、宮ノ下、石ノ下、深田下、寺ノ下、(下町) 等(町名:1、小字名:29)
「台」:浜見台、望洋台、浦上台、小原台、御立台 等(町名:9、小字名:23)
「丘」:浦賀丘、桜が丘、鶴ヶ丘、緑が丘 (町名:4)
「坂」:稲荷坂、乙女坂、谷ノ津坂、狐坂、駿河坂、平坂 等(町名:2、小字名:19)
 
 以上の地形地名の分析により、横須賀市においては、海岸部、内陸部における平面的な地形の入り組み、地形の上下(断面形状)が、地名として集団表象化されており、これらが横須賀市の景観イメージの一端をかたちづくっているということができる。
 
(イ) 埋立てによる新町名 -馬堀海岸と新港町-
 海岸部埋立てによる市街地の拡張が横須賀市の特徴の一つである。戦後の主な埋立て事業によって誕生した新町名としては、「馬堀海岸」「新港町」「平成町」等があり、埋立てによる新町名においても、「海岸」「港」など、海との関わりを意識した町名が付けられていることがうかがえる。
 
(ウ) 宅地造成による新町名 -「丘」「台」「野」そして「ハイランド」-
 戦後の宅地造成によって誕生した新町名には、「〜丘」「〜台」「〜野」が多くみられ、丘陵部の宅地造成による新町名においても、丘陵部の高台であることを意識した町名が付けられていることがうかがえる。
 特に、「浜見台」「汐見台」「望洋台」といった町名は、丘陵部の高台からの眺望を意味する町名であり、単なる高台という地形上の事実だけでなく、そこからの眺望が強く意識されていることが読みとれる。
図表2-21 宅地造成による団地名と新町名
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資料:横須賀市「横須賀市史」(昭和63年12月)








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