はじめに
平成12年4月、地方分権一括法が施行され、これに伴い、国と地方公共団体は対等・協力の新しい関係に立つこととなり、各地方公共団体は自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を実践していくことが期待されている。しかしながら、地方を取り巻く環境は厳しさを増しており、地方財政の悪化、地域経済の低迷、少子高齢化の進行などさまざまな問題が発生している。地方公共団体に対しては、厳しい環境なかにあっても、今後の更なる地方分権を推進していくため、こうした問題に対して、積極的かつ果敢な取組が求められている。
当機構では、地方公共団体が直面する困難な課題の解決に資するため、一つは全国的な立場から、一つは地域の実情に即した立場から、多角的に課題を取り上げ、調査研究を行っている。本年度は8つの具体的なテーマを設定し、調査研究を実施した。本報告書は、このうちの一つの成果をとりまとめたものである。
我が国の地方自治は、地方分権推進法の成立を機に、議論の段階から実行の段階へ入り、分権時代と呼ばれるほど大きく変化してきている。本調査研究は、こうした分権時代において、地方行財政上の大きな課題となっている、新たな行政需要と自治体財政の2つのテーマを取りあげ、その動向や今後の地方公共団体が果たす役割についての検討を行ったものである。
本調査研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員各位をはじめ、総務省など関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
また、本調査研究は、競艇の交付金による財団法人日本財団の助成金を受けて、当機構と(地方公共団体名)が共同で行ったものである。ここに厚く感謝する次第である。
本報告書がひろく地方公共団体の各種課題の解決と施策展開の一助となれば幸甚である。
平成14年3月
財団法人 地方自治研究機構
理 事 長 石 原 信 雄
はじめに
1 本調査研究の趣旨
平成12年4月1日に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(地方分権一括法)が施行され、平成13年6月30日には「地方分権推進委員会最終報告」が公表された。これらにより、今後、地域における行政を自主的かつ総合的に担うべき地方公共団体の役割はますます大きくなるものと思われる。
一方、我が国においては、急激な情報化社会の進展、全国レベルでの廃棄物の急増、少子・高齢化の進行等、様々な分野で構造的な変化が進行しており、こうした変化は、自治体の情報化等のIT政策、廃棄物処理対策、高齢者医療対策など、地方公共団体が対応すべき政策課題となっている。こうした新たに地方公共団体に求められる行政需要は年々複雑化しており、地方公共団体が独自に対応することは、財政的にも、事務効率的にも、安定性を欠くものとならざるを得ない。さらに、社会の変化にともなうこうした行政需要に対しては、十分な分析がなされているとは言い難い面もある。
そこで、本調査研究は、このような社会の動きを踏まえ、分権時代において地方公共団体が果たすべき役割について考察を行うものである。
なお、本研究会では、委員長のご発案で委員の役職や肩書きに関係なく、個人的見解を基に自由闊達に議論するという運営を行っており、本報告書も委員会でのこの自由な議論の結果を出来るだけ尊重し、反映した形でまとめるよう努力している。
2 本報告書の構成
本報告書では、まず、第1部において、分権時代における新たな行政需要を取り上げ、分野ごとに施策の分析を行う。
第1章では、情報化時代に対応した自治体のIT政策を取り上げ、現状の国における地域情報化施策、先進的な電子自治体の実績と今後の自治体における電子化の方向と問題点を分析する。
第2章では、廃棄物対策を取り上げ、国における廃棄物行政の現状とこれからの在り方、さらに東京都における廃棄物行政の現状と問題点を分析する。
第3章では、高齢者医療の問題を取り上げ、社会保障制度における現状と問題を分析し、諸外国の事例を参考にしながら、これからの医療制度のあるべき姿を探る。
第2部においては、地方公共団体の財政をめぐる諸問題を取り上げる。
第1章では、自治体が健全な財政運営を行うための基本的な考え方やシステム、財政分析手法の一つとして自治体の債務償還能力という概念を考察する。
第2章では、地方財政に関するアンケートを基に、自治体における財政危機の認識と今後財政制度改革の方向を探る。
第3章では、自治体の財政と密接に関連する第3セクターの現状と問題点を分析し、検討すべき課題について考察する。