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33) プロペラの回転方向
 プロペラの回転方向は3・36図に示すように、船が前進しているとき、船尾側から船首側を見て、プロペラが時計の針と同じ方向に回っているものを右回りと言う。その逆のものを左回りと言う。
1軸船では普通右回りのものが多く使われるが、漁船など、減速機などの関係でまれに左回りのプロペラもある。特に小型機関の場合左回りのものもある。
 2軸船では、右舷側プロペラは右回り、左舷側プロペラは左回りとなるのが普通であり、これを外回りと言う。まれには右舷側プロペラが左回りで、左舷側プロペラが右回りの場合もあり、これを内回りと言う。
 1軸船の場合、右回りプロペラは船の前進時に船尾を右舷方向に、船首を左舷方向にふれ回す性質がある。左回りプロペラはこの反対のふれ回り性質がある。プロペラの回転方向は非常に簡単なことであるが、実際にはよく間違いをおこすので、十分注意が必要である。
3・36図 回転方向
 
34) 固定ピッチプロペラ
 固定ピッチプロペラとは羽根がボスに固定され、ピッチ角が変えられないプロペラのことを言う。通常使用されているプロペラである。
 
35) 可変ピッチプロペラ
 可変ピッチプロペラとはピッチ角を船の前進から後進まで自由に変えることができる機構をもったプロペラを言う。(3・43図参照)
 
36) 一体型プロペラ
一体型プロペラとは羽根とボスとが一体に鋳造された構造のプロペラを言う。(3・28図参照)
 
37) 組立型プロペラ
 組立型プロペラとは羽根とボスとを別々に作って組み立てたプロペラを言う。可変ピッチプロペラは一種の組立型プロペラである。
 
38) キー付きプロペラ
 キー付きプロペラとはプロペラ軸とプロペラボスとのはめあい部にキーを用いて取り付ける構造のプロペラを言う。これは従来からのプロペラ取り付け方法で、中小型船のプロペラはほとんどがキー付きプロペラである。(3・28図参照)
 
39) キーレスプロペラ
 キーレスプロペラとはプロペラ軸とプロペラボスとのはめあい部にキーを使わずにプロペラを押込み、コーンパート部の摩擦力によって固定し、取り付ける構造のプロペラを言う。
 
40) 一定ピッチプロペラ
 一定ピッチプロペラとは3・32図に示すようなピッチが羽根の根元から先端まですべて等しい(一定)プロペラのことを言う。
 
41) 逓増ピッチプロペラ
 逓増ピッチプロペラとは3・32図に示すようなピッチが羽根の根元から先端にかけて徐々に増加しているプロペラのことを言う。
 
42) 逓減ピッチプロペラ
 逓減ピッチプロペラとは3・32図に示すようなピッチが羽根の根元から先端にかけて徐々に減少しているプロペラのことを言う。
 
43) ハイスキュープロペラ
 ハイスキュープロペラとは3・37図に示すようなスキュー角の大きいプロペラを言う。一般にスキュー角が25度以上のものを指す。
 
44) ダクトプロペラ
 ダクトプロペラとはプロペラの外周または前方にダクトを装備し、同一トルクにおけるプロペラのスラストを増加させ、推進効率の向上を図ったプロペラを言う。ダクトプロペラの羽根輪郭は3・33図に示すようなカプラン型が採用される。
 
45) スーパキャビテーションプロペラ
 スーパキャビテーションプロペラとはプロペラの翼面上に積極的にキャビテーションを発生させたときに、より高い性能を得ようとするプロペラを言う。高速艇に採用され、羽根断面形状はクサビ形をしている。
 
46) サーフェスプロペラ
 サーフェスプロペラとは船体航走時にプロペラの大半を水面上に露出させた状態で作動させ船体の抵抗を小さくすることにより、プロペラの露出によってプロペラ効率が低下しても船の推進性能を高めることができるプロペラを言う。高速艇のプロペラに適用される。
 
47) 二重反転プロペラ
 二重反転プロペラとは前方、後方の2個のプロペラを適当な逆転機構によって互いに反対方向に回転させ、推進効率の向上を図ったプロペラを言う。
2.2 プロペラの構造
 プロペラの構造は数枚の羽根とこれらの羽根を保持すると共にプロペラをプロペラ軸に固定する役目をするボス(CPP又はFPPで羽根をボルトで取付るものはハブ)とから成っている。この羽根とボスとが一体に鋳造されているのを一体形プロペラといい、羽根とボスが個別に鋳造されて、羽根の根元部において、ボスにボルトで締付け固着したものを組立形プロペラというが、現在では特殊な場合以外は殆んど使用されていない。通常のプロペラは一体形のプロペラであり、殆んどは固定ピッチプロペラである。固定ピッチプロペラは初めに設計し、製作したピッチをプロペラ使用中に変更することができない。プロペラボスはプロペラ軸に押込まれ、ボス船首側はプロペラ軸スリーブの船尾端とプロペラボスの間に海水が浸入しないように、3・16図および3・17図に示すようなパッキンゴム(Oリング)を装備する構造としている。通常は3・17図に示すようなパッキン押え方式が用いられる。プロペラはプロペラ軸に所要の押込量で押込まれた後プロペラナットで締付け、固定される。プロペラナットは保護のためボンネットで覆い、ボンネットの内部には海水浸入などによる腐食防止のためグリースなどを充填する。またプロペラボスの空所にもグリースなどを充填する。
 
1) キー付きプロペラ
 キー付きプロペラとはプロペラボスとプロペラ軸とのはめあい部にキーを用いて取付ける構造のプロペラである。
 プロペラボスコーンパート部の1個所にキーみぞを設け、またプロペラ軸テーパ部に設けたキーみぞにキーを植込んだ状態でプロペラ軸のコーンパート部にプロペラを押込む。この時プロペラボスのキーみぞとプロペラキーが嵌合するとともに、プロペラボスコーンパート部の面とプロペラ軸コーンパート部の面との間に摩擦力が発生する。この摩擦力とキーの作用によって主機関のトルクをプロペラに伝える。
 
2) キーレスプロペラ
 キーレスプロペラとはプロペラボスとプロペラ軸とのはめあい部にキーを使わずにプロペラを押し込みコーンパート部に発生する摩擦力によって固定する構造のプロペラである。キー付きプロペラの場合、主機関の高出力や1回転中のトルク変動が大きい船舶ではプロペラキー溝部分の応力集中による大きな応力が作用し、プロペラ軸の船首側のキーみぞなどにクラックが発生することがある。これらの損傷に対する防止策とともに、プロペラの取付けおよび取外しの容易な構造のプロペラキーなし(キーレス)によるプロペラのプロペラ軸への装着が考えられたのが、キーレスプロペラである。
2.3 ハイスキュープロペラ
 ハイスキュープロペラは3・37図に示すようにスキュー角が大きいプロペラを言う。ハイスキュープロペラの形状にはバランススキュー型とバックワードスキュー型がある。
 船の主機関の高出力化に伴って、船尾振動が増大し居住性の改善の対策の一環として、日本では昭和55年頃からハイスキュープロペラが採用された。ハイスキュープロペラは船尾振動の原因となるプロペラ起振力を軽減するのが主目的である。ハイスキュープロペラは船尾の不均一な流れに対して、プロペラの感度を弱め、プロペラ自身で、その発生する変動力を減少させようとするものである。ハイスキュープロペラは相当大きなスキューバックをもつ特異な形状をしたプロペラである。
 プロペラの起振力は、船体に伝達される道順により二つの成分に分けることができる。一つは直接的にプロペラ軸を介して船尾管軸受から船体に伝わるベアリングフォースと呼ばれるもので、もう一つは間接的にプロペラの作動によって水圧変動の形で船体および舵の表面を通じて船体に伝わるサーフェスフォースと呼ばれる成分である。
 ハイスキュープロペラの特長として、サーフェイスフォースやベアリングフォースが軽減できる。また通常型プロペラに比較して推進性能は前進時において、スキュー角にはほとんど影響されないし、プロペラのキャビテーション性能にも優れているので、高速船のプロペラとしても向いている。
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3・37図 スキュー型プロペラと普通プロペラ
 
1) ハイスキュープロペラの羽根強度
 ハイスキュープロペラの場合、羽根形状が通常型プロペラと大幅に異なるためプロペラ羽根には曲げによる力およびねじりによる力が複雑に作用する応力分布を呈する。通常型プロペラは、羽根根元部に最大応力が発生するが、ハイスキュープロペラの場合、最大応力の発生個所は、羽根根元だけではなく、羽根先端に近い後縁部にも発生する。
 3・38図に通常型プロペラの場合の応力分布を示す。また3・39図に可変ピッチプロペラのスキュー角度40度の場合の応力分布および3・40図に固定ピッチプロペラのスキュー角度40度の場合の応力分布の計算結果の一例を示す。
 
2) ハイスキュープロペラの特長
[1] 普通翼プロペラと比較して、推進性能、操船性能を損なうことなく、船体振動を大幅に低減できる。
[2] ベアリングフォースやサーフェイスフォースが低減できる。それほど極端なスキューをつけなくとも、ベアリングフォースで、15〜20%、サーフェイスフォースで、30〜40%の減少効果が得られる。
[3] キャビテーション性能が優れている。
[4] プロペラから生ずるノイズが減少する。
[5] 低回転・大直径プロペラの採用
 船体振動軽減効果により、在来船での船体振動が許容できるならば、振動レベルが同じになるまで、プロペラチップクリアランスを小さくして、より低回転、大直径プロペラの採用が可能となり、プロペラ効率を上げることができる。
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3・38図 通常型プロペラの引張最大応力分布図
3・39図 可変ピッチプロペラの応力分布
 
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3・40図 固定ピッチプロペラスキュー 角度40度引張最大応力分布図
2.4 プロペラ材料
 プロペラに用いられる材料には高力黄銅鋳物、アルミニウム青銅鋳物、ステンレス鋳鋼などがある。一般に高力黄銅鋳物とアルミニウム青銅鋳物が使用される。
 高力黄銅鋳物(JIS記号CAC301、旧記号HBsCl)の化学成分は銅(Cu)が55〜60%と亜鉛(Zn)が33〜42%を主体としてそれにマンガン(Mn)、鉄(Fe)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)などの多くの元素を加えた合金である。機械的性質は船舶機関規則などにより、引張強さ430N/mm2(44kg/mm2)以上、伸び20%以上と定められている。材料の比重は約8.3である。
 アルミニウム青銅鋳物(JIS記号CAC703、旧記号AlBC3)の化学成分は銅が78〜85%とアルミニウムが8.5〜10.5%を主体にしてそれにマンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni))などを添加した銅合金である。機械的性質は引張強さ590N/mm2(60kg/mm2)以上、伸び15%以上である。材料の比重は約7.6である。
 船の航路、船種などにより高力黄銅鋳物が使用されることがあるが、最近ではほとんどのプロペラにアルミニウム青銅鋳物が使用されている。
2.5 プロペラに発生する現象
 
1) プロペラキャビテーション現象
 プロペラキャビテーションはプロペラの回転数がある範囲を越えるとプロペラ羽根によって、水が加速され、水との相対速度の関係で羽根表面にある限界の圧力より低い部分が発生すると気泡が生ずる。この現象をキャビテーション現象あるいは単にキャビテーションと呼ぶ。日本語で空洞現象と呼ぶこともある。
 キャビテーションが発生した状態でプロペラを回転させると、羽根表面に壊食(エロージョン)が発生し、初期の間は、わずかに羽根表面に凹凸が見られるだけであるが次第に表面に無数の小さな穴ができ、アバタ状になる。そしてついには羽根に穴が貫通したり、羽根先端がぼろぼろになったりまた羽根後縁側が曲ったりすることがある。
 プロペラキャビテーションによって、プロペラ効率が低下したり、振動や騒音が発生することがある。このキャビテーションは物理的な現象である。
 
2) プロペラ腐食
 プロペラは海水中では耐食性が良好な材料であるが、極度に汚染された海域または船体防食が不十分な場合、プロペラ材料は合金であるので、異った性質を持つ金属粒子間で一種の電気的作用が発生する。高力黄銅(マンガン黄銅)鋳物製プロペラの場合、亜鉛を約40%含んでいるので、亜鉛分が海水にとけ出しプロペラ表面が黒色または黒褐色に変色して、肌荒を生ずることがある。これは脱亜鉛現象と呼ばれるもので、化学的な現象の腐食(コロージョン)である。
 
3) プロペラ空気吸込み現象
 プロペラの中心から水面までの距離が浅い場合、プロペラが回転した時、水面から空気を吸い込み、船速が急激に低下したり、プロペラ回転数が急激に上昇したりして、プロペラの効率が低下する現象である。
 
4) プロペラの鳴音
 プロペラが水中で回転する時プロペラ羽根の後縁から規則正しい渦(カルマン渦)が発生し、この渦の発生周期とプロペラ羽根の固有振動数とが、同調するとキーン・キーンとかウオン・ウオンとかいう異様な金属音が発生する。この現象を鳴音といい、いつもきまった回転数のところで起きる。鳴音はプロペラ性能に直接影響は与えないが、不快感を伴う場合には、プロペラ羽根の後縁側を修正することによって、比較的簡単に解消できる。なお、鳴音は舵を転舵することによっても消えることがある。
 
5) プロペラが重いまたは軽い現象
 プロペラが重いとか軽いとか一般にいわれるのは、プロペラの重量が重い、軽いを指すのではなく、主機関にかかる負荷の状態を表わしている。船は就航後の船体の汚損、主機関の汚損、プロペラの汚損などの経年変化によって3・41図に示すように主機関の同一出力に対して回転数が低下し、主機関の負荷(トルク)が過度になる現象をプロペラが重い(一般にトルクリッチと呼ばれる)といい、逆に主機関のトルクが非常に低くなる現象をプロペラが軽いという。
 プロペラが重い場合はプロペラ直径またはピッチを修正することによって、主機関の負荷を適正にすることは可能であるが、プロペラが軽い場合は、プロペラピッチを大きくすることも考えられるが、一般には対策として良い方法はないので、新たにプロペラを設計しなおして換装するより他に適当な方法はない。
3・41図 重いプロペラ、軽いプロペラ
2.6 プロペラの強度に関する規則
 プロペラは船舶の主要部品であり、特にプロペラ強度に関してはプロペラの羽根の厚さ、プロペラボス強度およびプロペラ押込量が船舶機関規則によって規定されている。プロペラ羽根の厚さは、主機関の連続最大出力、回転数、プロペラ直径、ピッチ、羽根数などにより、プロペラ半径の25%および60%の位置における最大羽根厚さが規定されている。
 プロペラの押込量については、キー付きプロペラおよびキーレスプロペラの場合について規定されている。特にキーレスプロペラの場合、通常型プロペラに比較して、プロペラ押込量が多いので、プロペラボスの強度について十分な考慮が必要である。








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