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2.1 エンジン本体部
 エンジン本体部はシリンダ、クランクケース、シリンダライナ、シリンダヘッド等で構成されている。
 
1) シリンダとクランクケース
 シリンダとクランクケースは、機関構成のべ一スであり部品としては最も大きなもので、大形機関では別々に造られるが、中小形機関では、一体で造られるのが一般的である。クランク軸の支持方法として台板式とハンガタイプとがあり、台板式の場合、シリンダをシリンダブロック又はシリンダ架構と呼び、クランク軸を支えているクランクケースを台板又はベッドと呼んでいる。
 ハンガタイプの場合は、シリンダにクランク軸を吊り下げた構造となっているため、シリンダをクランクケース又はシリンダブロックと呼び、下部の油溜まりをオイルパンと呼んでいる。
 なお、2〜3気筒の小形機関の一部には、主軸受けメタルをメタル胴と共にクランク軸に組み込んだ後メタル胴ごとシリンダ内に挿入して組み付けるメタル胴タイプのものも採用されている。
 シリンダの構造は、中心部にシリンダライナを配しその下部にはクランク軸を、側面にはカム軸をまた、上部にはシリンダヘッドなどを配置し、内部には冷却水通路並びに潤滑油通路などが設けられているほか、最近の機関には吸気マニホールドを一体構造として剛性を上げているものもあり、振動にも十分耐えうる強度を有するように設計されている。
 シリンダの構造を2・42図に示す。
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2・42図 シリンダの構造
 
2) シリンダライナ
 シリンダライナは、シリンダヘッド、ピストン、ピストンリング等とともに燃焼室を形成する部品の一つで、機能面、耐久性の面からも非常に重要な部品である。
 シリンダライナの摩耗は、機関性能の低下、潤滑油消費量の増加等、分解整備の間隔に大きく影響するので、耐摩耗性に優れたパーライト鋳鉄や、ボロン、燐、などを含んだ合金鋳鉄が使用されている。
 シリンダライナには2・43図に示すように、ライナの外周を直接水で冷却する湿式ライナ(ウェットライナ)と間接的に冷却する乾式ライナ(ドライライナ)とがある。なお、このほか小形で使用頻度の少ない一部の機関には、ライナを使用せずシリンダを加工してライナとして使用しているスリーブレスのものも使用されている。
2・43図 シリンダライナの種類
(1) 湿式ライナ
 湿式ライナはシリンダライナの交換が容易に行え、ライナの冷却も良好であるため舶用機関にはこの構造が多く採用されている。
 シリンダライナの内壁はピストン及びピストンリングが円滑に摺動出来るように精密な加工(ホーニング研磨)がなされ、上部は燃焼ガスのもれを完全に防止するため、シリンダヘッドとの間にガスケット又は銅パッキンを介してヘッドボルトで締め付けられ、燃焼室の気密性を保持すると共にシリンダブロックのインロ部でしっかりと支えられている。スカート部は冷却水がクランクケース内へ漏れぬように2〜3本のOリングが入れられ、スカート部は下方へ自由に熱膨張しうるような構造となっている。
(2・44図参照)
 海水冷却機関には耐摩耗性を向上させるため内壁に硬質クロームメッキを施したシリンダライナも使用されている。硬質クロームメッキライナの表面は潤滑油の保持性が劣るため、メッキ施工時に逆電流を流しメッキ表面に小孔や溝を無数に造り潤滑油の保持性をよくしている。
2・44図 湿式ライナの水密構造
(2) 乾式ライナ
 乾式ライナは、炭素鋼製の薄い円筒状のもので一般にはスリーブと呼ばれており、このスリーブとシリンダブロックとの嵌合にルーズとタイトの2種類がある。ルーズタイプのスリーブは手で挿入できるが、タイトタイプのスリーブは油圧プレス等でシリンダブロックに圧入後ホーニング研磨して仕上げる。
 乾式ライナは冷却水への熱伝導が湿式ライナに比べ悪いという欠点があるが、水漏れの恐れが無くシリンダの剛性も高くなるので、清水冷却の小形高速機関に多く用いられている。
(ライナの摩耗について)
 ライナの一番摩耗しやすい位置は、ピストンが上死点にある時のトップリング位置であり、つぎはピストンが下死点位置にある時のトップリング位置である。
 従ってライナの内径計測は、前記2点及び中間位置を、クランク軸方向及びこれと直角方向をシリンダゲージで計測する。(2・45図参照)
2・45図 ライナの摩耗と計測位置
(ライナ外周面の腐食について)
 ライナの外周面に発生する腐食の大半は異種又は同種金属間に発生する電気腐食でありこれは防蝕亜鉛の定期交換で防止できるが、2・46図に示すような小孔が冷却水入口の反対側に密集して発生している場合はキャビテーションの恐れがあるのでメーカの指示を受けて処置する必要がある。
2・46図 ライナの腐食
 
3) シリンダヘッド
 シリンダヘッドは、シリンダの上部に取り付けられ、シリンダライナ、ピストンでもって燃焼室を形成している。
 シリンダヘッド上部には吸排気弁を動かす動弁機構を納めた弁腕室があり、ヘッド下面には吸排気弁、燃料噴射弁、空気始動弁などが設けられ、ヘッド内部には吸排気ポート及び冷却のための水路があるほか、副室式機関では、予燃焼室や渦流室などの副室部分が設けられた複雑な形状をした部品であり鋳鉄で造られる。
 最近の高速高出力機関には、高速時の充填効率を高めるために吸排気弁の数を多くした3弁式、4弁式のものが多く採用されている他、形状的には1シリンダ毎に造られた独立形と、数シリンダを一つにまとめた一体形のものとがある。
2・47図 シリンダヘッドの形状
2・48図 吸排気弁の数
  (シリンダヘッドの締め付けについて)
(1) シリンダヘッドは、片締めにならぬようメーカで指定された締め付け順序で、2、3回に分けて徐々に締め付け、最後はトルクレンチを使用して規定トルクで確実に締め付ける。
 なお機関によっては、締め付け角度、或いはボルトの伸びを計測して締め付けるものもあるので、その場合はその指示に従うこと。締め付け順序の一例を2・49図及び2・50図に示す。
(2) 上記ヘッドの締め付けボルトには、ねじ部、及び座面にメーカで指定したオイル又は、潤滑剤を塗布して締め付ける。
(3) トップクリアランスは、銅パッキンかガスケットパッキン又は連接棒フートライナにより規定の寸法に調整する。
(4) ガスケットパッキンは、ヘッドを分解したときは必ず交換する。また銅パッキンも交換することが望ましいが、再使用する場合は必ず焼きなまして使用する。
2・49図 一体形シリンダヘッド締め付け順序例
2・50図 独立形シリンダヘッドの締め付け順序例








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