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3) 燃料高圧管
 燃料噴射管は噴射ポンプにより圧送される高圧の燃料を噴射弁へ導く燃料高圧送油管であり、通常はインジェクションパイプなどと呼ばれている。高圧管の管内圧力は直接噴射式の場合瞬間的には78.4〜98MPa(800〜1,000kgf/cm2)程度に及ぶため、肉厚の高圧鋼管を使用し両端部は2・100図に示すような形状に成形されている。
 高圧管の長さは噴射遅れや管内圧力波と関係があるため、各シリンダとも長さを揃えてある。またセンタが合わず無理に傾いた状態でネジ込むとシート面から噴き漏れを生じシート面を損傷したり首部の段付個所に亀裂が入ったりするため無理な取付けをしないように両方の袋ナットを弛め両端とも無理なく取付けられるようにしてネジを締めることが大切である。
2・100図 端部形状
 高圧管は途中振れ止めを設けて振動を防止するようにしたものもあり、このような振れ止めは必らず取付けるようにする、振れ止めがないと振動により高圧管が亀裂を生じることがある。
 高圧管内部はピッチングやキャビテーションにより腐蝕したり潰蝕したりすることがあり、外観では判別できないので航海中突然に亀裂やパンクする事故に対して、常に1〜2本程度は予備品として備えておく必要がある。
 シート面をカラーチェックにより調査し、亀裂の有るものやシート面に損傷の有るものは交換する。
 
4) ユニットインジェクタ
 ユニットインジェクタは燃料噴射装置の一種で、従来の単筒形燃料噴射ポンプ、燃料高圧管および燃料噴射弁の3者からなるシステムを一体に纏めたものである。1気筒に1セットづつシリンダヘッドに装置されて、シリンダ内に燃料を送り込んでいる。両者の違いを解りやすく概念図として2・101図に示す。
2・101図 燃料噴射装置の概念図
(1) 構造と機能
 ユニットインジェクタはエンジンの回転速度や負荷に対して敏感に反応し、次の4つの機能をもっている。
(a) 負荷に見合った適量の燃料を正確に計量噴射する。
(b) 燃料の連続流れを作り、適当な時期に燃料をシリンダ内に送り込む。
(c) 効率良い噴射のために高い燃料圧力を作る。
(d) 燃焼室内で空気と混合し、燃焼しやすいように噴霧する。
すなわちユニットインジェクタは燃料の量の調節、噴射時期の選定、燃料の加圧、そしてノズルよりシリンダ内に噴霧する動作を適切に行なわなければならない。
(i) 構造
 ユニットインジェクタは2・102図に示す様にシリンダヘッド内の中央部にフランジ又はインジェクタクランプに取り付けられている。
2・102図 装着図及び外観
 ユニットインジェクタはポンプ本体、プランジャ及びバレル(ブッシング)、ノズル、ノズルボディ(ナット)、上部にピニオンギヤ(燃料加減輪)、コントロールラックからなっており、バレルには吸入孔と逃孔が設けてある。
プランジャ下部側面には軸方向に縦溝と上部に斜め切欠状の溝が切ってあり、縦溝により上部の斜め切欠溝部と下部のシリンダ部とが連絡するようになっている。
 プランジャの上部に設けた切欠がピニオンギヤの穴に嵌め込まれ、又はプランジャの上部にピニオンが設けられ、ラックの移動によってピニオンが廻り、プランジャが回転するようになっている。尚ユニットインジェクタの断面図を2・103図に、又名称を2・9表に示す。
 プランジャバレルはポンプ本体によって完全に保持され動くことは出来ないがプランジャは上下運動と共にコントロールラックによりプランジャ上部のピニオンギヤを介して回転するようになっている。プランジャバレルの下部にはチェックバルブの有るものもあるが、スプリングケース及びノズルがノズルボデイ(ナット)により取り付けられており、圧縮された燃料はスプリングケースに設けられた油穴を通りノズルに送られる構造になっている。
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2・103図 ユニットインジェクタ断面図
2・9表 ユニットインジェクタ部品表
No 部品名称 No 部品名称
1 プランジャ 9 スプリングケース
2 プランジャバレル(ブッシング) 10 ニードルスプリング
3 ポンプ本体 11 ピース
4 ピニオンギヤ 12 スプリングシート
5 コントロールラック 13 プランジャスプリング
6 ノズル 14 タペット(フォロアー)
7 チェックバルブケージ 15 ノズルホルダー(ナット)
8 チェックバルブ 16  

(ii) 作動
 2・104図はユニットインジェクタの主要作動部で、その作動を示す。プランジャはカムによりタペットを介して押し下げられ、プランジャスプリングで押し戻される一定の上下運動を繰返し行う。
(a) 燃料ポンプにより送り込まれた燃料油はノズルボデイ、ポンプ本体とプランジャバレル外周によって作られた油溜室に充満されている。そしてプランジャの上昇工程で、バレルの吸排出孔より吸い込まれたプランジャ室を満たす。
(b) プランジャが下降し、プランジャの下辺がバレルの吸排出孔を塞いだ時(静的噴射始めという)、油溜室とプランジャ室は遮断されプランジャの下降と共に燃料油の圧力が上昇する。(2・104図(A))
(c) 更にプランジャが下降し、圧縮された燃料油がチェックバルブ(有る場合)を開きノズルに至る。更に圧力が上昇してニードルスプリングに打ち勝ちノズルチップより燃焼室内に噴霧される。
(d) プランジャの上部リードがバレルの吸排出孔を覗いた瞬間、プランジャの縦溝より高圧燃料油は急速に油溜室へ戻され噴射が終わる。(2・104図(B))
(e) この噴射始めから噴射終わりまでの実際に燃料油を圧送している期間、行程を有効ストロークという。
(f) プランジャの縦溝と吸排油孔を一致させることにより、無噴射となる。(2・104図(C))
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2・104図 ユニットインジェクタプランジャ作動
(iii) 噴射量の調整
 ユニットインジェクタの噴射量調整はラック・ピニオンによるボッシュ式でその機構を2・105図に示す。
 この図で解るようにコントロールラックの動きに従ってピニオンギヤが廻り、ピニオンギヤを介して同様にプランジャも廻る。プランジャが廻ることにより、2・104図に示す有効ストロークが変化し噴射量を調整することが出来る。
噴射量の規制を2・106図に示す。
2・105図 噴射量調整機構
2・106図 噴射量の規制
(iv) 噴射量と噴射時期の関係
 ユニットインジェクタのプランジャには上部リードだけのものと、2・107図に示すように下部リードのついた両リードプランジャがある。下部リード付のものは下部リードにより噴射時期を次のように変えることが出来る。
(a) 噴射量の多いとき…噴射時期を早める
(b) 噴射量の少いとき…噴射時期を遅くする
2・107図 両リードプランジャ
(v) 燃料噴射量の調整機構(調速機構)
 燃料噴射量はプランジャを廻すことにより変わるが、この操作はエンジンの回転速度と負荷に直接結びついているので結局調速装置(ガバナ装置)によりこれを操作することになる。
 調速機との連結はボッシュ単筒形燃料噴射ポンプの場合と同様である。(指導書2・78図参照)
(2) ユニットインジェクタの特徴
 ユニットインジェクタには次のような特徴がある。
(a) より高圧噴射が可能
 従来の燃料噴射装置に比ベユニットインジェクタは長い高圧管がないので噴射ポンプとノズルの間の容積(高圧部容積―デッドボリュウム―)が非常に小さく、高い噴射圧力が容易に得られる。
 噴射圧力の比較を一例として2・108図に示す。
2・108図 噴射圧力の比較
 又高圧で噴射しても高圧通路内の圧力変動が小さいので2次噴射による燃焼性能劣化やキャビテーションエロージョン等による耐久性の劣化も起こりにくい。
(b) 噴射の遅れが小さい
 従来の燃料噴射装置は長い噴射管内での圧力伝播によって噴射が行われるので高速回転になると噴射遅れが発生する。従ってこれを補正する手段として噴射進角装置を設けるか静的噴射始めを早くしておく必要がある。
 ユニットインジェクタは高圧管(テッドボリュウム)がないので、この噴射遅れが小さく進角装置を必要としない。
(c) ユニットインジェクタ駆動装置、制御装置が複雑
 従来の燃料噴射装置に比較して、駆動系はユニットインジェクタがシリンダヘッドに装着されている関係上吸排バルブ同様ロッカアーム方式にするか、オーバーヘッドカム方式にする必要があり複雑となる。又高圧化の為に駆動系の剛性もより高める必要がある。制御系も調速機とのリンク装置がシリンダヘッド上になり複雑になる。








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