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4.3 亀裂を持つ材料の強度
1) 破壊力学
 無限遠方で一様な引張り応力を受ける無限平板において、楕円孔先端の曲率半径を小さくして行くと式(14)から分かるように、最大応力は次第に大きくなって行き、曲率半径がゼロの極限では、遂には無限大になる。楕円孔の先端の曲率半径がゼロということは、亀裂を意味する。実際には機器の定期点検時などに亀裂が発見されることがしばしば報告されるように、亀裂が存在していても機器は壊れることなく作動していたわけである。すなわち、このような場合、無限大の応力が存在しているにもかかわらず材料は破壊することなく負荷荷重を支えているのである。このことから、このように亀裂を持つ材料に対しては、応力を強度の基準にする事はできない。無限大の量に大小は考えられないからである。
 さて、補・53図に示す長さ2a亀裂先端近傍の応力分布σyは次式で与えられる。
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 ここで、xは亀裂先端を原点に水平方向に取った軸である。ここで定義されるKは応力拡大係数と呼ばれる。亀裂先端近傍の応力分布はKの値が決まれば、唯一的に定まる。亀裂先端では常に応力は無限大で、応力状態の差を区別できないが、少し離れた亀裂先端近傍の応力状態はKの値で唯一的に決まるのである。その応力状態はKの値とともに比例的に増加する。材料の破壊は亀裂の先端が成長することにより進行するものと考えられるから、亀裂先端近傍の応力状態が亀裂の成長を決めると考えて良いであろう。このことから、亀裂のある材料においては、応力拡大係数Kが応力に代わって強度の基準になる量であることが分かる。破壊力学は、材料に亀裂が存在することを前提として、その強度を議論する手法である。
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補・53図 き裂先端近傍の応力分布
 
 
2) 破壊靭性
 亀裂を持つ材料に荷重を加えていったとき、ある値のところで、それ以上に荷重が増加することなく、そこからいっきょに破壊が進行することがある。この現象を不安定破壊という。このときのKの値Kcは材料の破壊抵抗としてのKの限界値である。Kcを破壊靭性という。補・54図に示すコンパクト・テンション(CT)試験片は破壊靭性を求めるための標準試験片である。荷重Pに対する変位uが亀裂長さaの関数であることを利用して、変位を測定することにより亀裂長さを求める方法である。現実の材料に対しては、応力拡大係数の定義について、幅が有限であることからくる補正を、係数βを用いて修正しなければならない。すなわち、有限幅の材料の応力拡大係数は次式で与えられる。
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負荷応力σが与えられたときの亀裂長さの限界値acは次式で与えられる。
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 亀裂長さaが与えられた場合には、破壊応力σcは次式で求められる。
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 破壊応力σcは、亀裂長さaの増加とともに小さくなる。抗張力の大きい材料の方が、亀裂の存在する場合の破壊応力が小さくなることがしばしばあるから、強度設計に際しては充分注意しなければならない。
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補・54図 コンパクト・テンション試験片
 
3) 応力拡大係数の応用
 幅Wで、引張り荷重の方向に対して垂直な長さ2aの亀裂を持つ大小2つの相似形試験片について、破壊応力σcの相似則を調べる。補・55図に示すように、大小の試験片の諸量にそれぞれ、添字1、2をつけると、両者は相似形をしていることから、(a1/W1)=(a2/W2)である。有限幅の補正係数βは比(a/W)のみの関数であることがわかっているので、式(19)より、
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となり、大きい試験片の破壊応力の方が小さいことがわかる。これを相似形試験片の寸法効果という。大きな実構造物の強度を、模型試験片を使って調べる場合にはとくに留意しなければならない現象である。
 つぎに、同じ長さの亀裂が試験片の表面と内部に存在するときには、破壊応力にどのような違いが現れるかを見る。17図に示すように、半無限板の表面亀裂と無限板の内部亀裂に対して、それぞれ、β=1.12、β=1であることを用いると、破壊応力の比は
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となり、表面亀裂の破壊応力の方が小さい。これを表面効果という。表面に存在する亀裂の方が危険である。そのため、表面を硬化するなどして、強度を上げることはしばしば行われている。
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補・55図 寸法効果
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補・56図 表面効果








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