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3. プロペラ
3.1 プロペラの補修
 プロペラが海難等により損傷した時、プロペラの補修として、溶接を行うことがあるが、般に欠陥またはき裂等が発見された場合には、当該部をなめらかにはつり取るだけとし、できれば溶接をしない方がよい。はつり取ったままの状態よりも、溶接補修を行った方が、強度的あるいは技術的に信頼性が高いと判断された場合、あるいは欠損の場合に限り溶接を施工するのがよい。
 プロペラの補修を行う際、個々の具体的ケースについて、関係者と十分に協議を行う必要がある。
 日本海事協会発行の舶用プロペラ補修方針、および2級のテキストのプロペラ整備修繕基準を参照のこと。
1) プロペラの材料
 プロペラに使用される材料には、高力黄銅鋳物(CAC301、旧記号HBsC1)およびアルミニウム青銅鋳物(CAC703、旧記号AlBC3)があるが、材料の違いにより、プロペラの溶接補修、曲り直しなどの作業条件が異なる。
(1) 化学成分および機械的性質
 高力黄銅鋳物(CAC 301)およびアルミニウム青銅鋳物(CAC 703)につ+いて、規則に定められているその化学成分および機械的性質を7・7表および7・8表に示す。
7・7表 化学成分
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(JIS H 5120,1997年版)
7.8表 機械的性質 (別鋳込)
(JIS H 5120,1997年版)

3) プロペラ損傷の種類
 (1) 割れ
 海難事故による曲りにともなう割れの他に応力腐食に起因する割れが生ずることがある。
 応力腐食割れは高力黄銅プロペラに多く、検査時に見落した微細な割れを、そのまま使用したため進展して、翼が折損した例もある。
 アルミニウム青銅は、海水中での応力腐食割れの感受性がすくないため事故例はすくない。
 (2) 曲り
 プロペラの曲りは主に流木、流氷その他の浮遊物が、回転しているプロペラに衝突することにより発生する。
 (3) キャビテーションエロージョン(潰食)
 プロペラの回転にともない空洞現象によって発生した気泡が翼表面上で崩壊し、急激な衝撃が加わるため、翼表面がアバタ状になる物理的破壊現象で、翼表面のエロージョン、翼後縁の曲損、欠損が発生する。
 (4) コロージョン(腐食)
 プロペラは海水中での耐蝕性は良好であるが、極度に汚染されている海域または船体防食が不十分である場合、時として、コロージョンが進行することがある。これは化学的現象で、翼厚が薄くなることもある。
3) 割れの溶接補修方法
 銅合金プロペラの溶接補修にはイナートガスアーク溶接(inert gas shielded are welding)が最適である。そのうち、溶接補修面積が小さい場合は、TIG溶接(tungsteninert gas welding)。大面積の場合は、MIG溶接(metal inert gas welding)が適している。
 アルミニウム青銅プロペラの翼の欠損、潰食、割れなどの修理には、主として溶接補修が行われている。その溶接方法は、TIG法およびMIG法が広く採用されている。アルミニウム青銅は、応力腐食割れに強いので、通常は後熱処理は必要ない。
 MIG法または、TIG法は不活性のアルゴンガスで溶接部をシールして溶接が行われるので、高力黄銅では、亜鉛の蒸発を僅少に抑えることができ、アルミニウム青銅では、アルミの酸化物の発生を極力避けられる。従って十分な溶接強度と欠陥のない補修が可能である。
4) プロペラ翼の曲り直し
 流木などの衝突による翼中央から先端部における翼の曲りは、主機関の過負荷および振動の原因になるので修理が必要である。翼の曲り直しは冷間あるいは熱間で行われる。
 具体的な曲り直し方法、加熱方法、加熱温度などについては、日本海事協会発行の舶用プロペラ補修指針によるものとするが、プロペラ前進面の翼根部より0.4R附近は溶接補修を禁止している。熱間曲り直しの条件は7・9表による。冷間曲り直しの方法は200℃以下で油圧ジャッキなどにより静的荷重にて行うこととしハンマリングなどの衝撃荷重は僅かな小さな曲りの補修を除き禁止している。
7・9表 熱間曲り直しの条件
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7・10表 アルミニウム青銅の溶接に推奨される溶接条件
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7・12図 イナートガスアーク溶接法
3.2 プロペラトルクリッチ対策
 船舶は、就航後の船体の汚損、主機関の汚損、プロペラ汚損などの経年変化によって、主機関回転速度が低下し主機関のトルクが過度になり、所謂トルクリッチの状態になることがある。これを通常プロペラが重くなったと言っている。この対策として、プロペラ設計時に予め経年変化を考慮して、プロペラ回転速度マージンを付ける手法が約30年前から行われている。
 主軸回転速度回復のためのプロペラの修正量としては、プロペラ効率に影響を及ぼさない範囲で工事を行うが、プロペラ翼後縁側ウォッシュバック修正による方法の場合、回転速度で3〜5%が多い。プロペラ直径カット法の場合、プロペラ回転速度で3〜5%(プロペラ直径で5〜7%)が多い。プロペラ翼を捩りピッチ修正する方法は小型プロペラで行われている。
1) プロペラが重すぎる場合
 海上試運転で、プロペラをまわした際に、機関の排気温度が高くなって、定格回転速度まで回転を上げることが危険になる場合がある。すなわち、この時には、規定の回転速度まで回転を上げることができない。
 この原因としては、プロペラのピッチが大きすぎて、プロペラをまわすに必要とされるトルクが予想外に大きいことにある。
 また、このようにピッチが大きくなりすぎた原因は、船の馬力と速度の推定に誤りがあったか、伴流係数の推定が不適当であったかのいずれかにある。
 この対策としては、プロペラのトルクを小さくする為に次の三つが考えられる。
 (1) 翼断面形状を変更して、プロペラの有効ピッチを減少させる。
 これは7・13図に示すように、翼断面の後縁の圧力面側をけずりとって、ウォッシュバックをつける方法で、有効ピッチが減少し、若干プロペラの回転速度を上昇できる。
 この場合、プロペラの静的バランステストを省略することがある。翼後縁側ウォッシュバック加工時には各翼の加工切削量が均等になる様に切削し各翼の切削量の重量を計測して、各翼の重量バランスを確認する。
7・13図 翼断面形状の変更
 (2) プロペラ直径をカットする
 直径が小さくなれば、ピッチが同一であっても、プロペラを同一回転速度でまわすに必要とするトルクの量は著しく減少し、同一出力における回転速度は上昇することになる。
 プロペラ直径カット量によっては、プロペラ性能が低下し従って船速が低下することがあるので、直径カット量の決定に当っては十分留意のこと。
 (3) プロペラ翼を捩る
 この方法はプロペラの翼根部をソフトバーナなどで加熱し、翼先端に治具を固定し油圧ジャッキなどで、翼を捩りピッチを減少させ、翼を永久変形させる。
 この場合、捩り修正作業時は、プロペラ加熱温度管理に十分留意し、プロペラ材質に影響を及ぼさない温度(高力黄銅の場合500〜800℃、アルミニウム青銅の場合750〜950℃程度)とする。
2) プロペラが軽るすぎる場合
 この場合、海上運転時の定格回転数における機関の排気温度が低くすぎて、計画の馬力を発生することができない。従って船は計画船速を出すことができない。この原因は、プロペラピッチが小さすぎることにある。この対策には、良い方法はなく、ピッチがあまりにも小さすぎる場合には、新たにプロペラを設計しなおして、換装するより他に適当な方法はない。
 また、プロペラが重すぎたり、軽るすぎたりする場合に、特に小型プロペラで修正する目的で翼をハンマで叩いて、ピッチの加減をすることは賢明な策ではない。ハンマで叩くだけで、各翼を同一ピッチに修正することはできない。もし、各翼の間にピッチのアンバランスが生ずると、運転中に振動の原因となるので留意のこと。
プロペラピッチ、回転数、および直径との相関関係は近似的に次のようにいえる。
 回転数1%(min−1)はピッチで約1.5%に相当する。
 プロペラ直径(D)とピッチ(P)の和は一定である。
 D+P=一定
3.3 入渠時のプロペラの状況確認
 (1) プロペラ翼面のき裂の有無の確認。
 通常型プロペラの場合、プロペラ前進面側の翼根元部のカラーチェックなどの非破壊検査を行い、き裂が検視された時は、き裂の深さを確認しながら、スムースに加工修正する。ただし、検査官と協議、立会いの上施工しなければならない。
 (2) ハイスキュプロペラの場合
 上記の翼根元部の精査は勿論のことであるが、ハイスキュプロペラの場合、翼後縁側の0.6〜0.8R付近に最大翼応力が発生する個所があるので、その付近のカラーチェックを行い、き裂の有無を確認する。き裂が検視された場合は、検査官と協議し、対策を行う。
 (3) プロペラの曲損、欠損の確認
 プロペラの曲損、欠損が発見された時には、プロペラの補修に記した要領で工事を施工する必要があるが、船級協会によっては、0.7R以下の位置での新しいピースによる切継ぎ溶接を認めていないので、工事を行う際は検査官と十分協議をする必要がある。
 (4) プロペラの翼面は、海洋微生物による汚損によって生じる翼面粗度の変化、自然損耗によるプロペラの翼面粗度の経年変化、キャビテーションによって生じるプロペラ翼面粗度の変化などによって、肌荒れ状態の場合は、プロペラ効率に影響を及ぼすので、翼面研磨が必要である。
 (5) プロペラボスをプロペラ軸から引抜く場合の加熱温度は100℃を超えないこと。








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