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3) 圧縮系統の不良
(1) バルブとシートの摩耗
 バルブやシートが摩耗すると圧縮もれを生じ、出力が低下する。摩耗した分だけバルブが沈み、バルブクリアランスが減少するので定期的にバルブクリアランスを調整しなければならない。
 バルブクリアランスがなくなると、傘部がピストンと干渉して大事故を起こすと共に、シートに着座しなくなるので、ガス吹抜けや熱伝導ができなくなり、バルブは溶損する。
 バルブの摩耗修理は、シート面をグラインダ又はシートカッタで削り、バルブはリフェーサで研削したあとバルブコンパウンドで摺り合せ、最後に油摺りをして完了するのである。
 修正後、青ペン又はベアリングレッドをバルブにうすく塗布してシート面に強く叩きつけ、当たりを点検し、外当りとなることを確認する。
 摩耗が軽微な場合は、コンパウンドと油摺りだけで修正する。シート面の当り巾は1.5〜2.0mm程度に修正し、当り巾が2.0mm以上になった場合は、角度の異なるカッタでシートを削る。
(2) バルブとガイドの摩耗
 バルブステムとガイドのスキマが摩耗により、大きくなってくるとバルブの着座が不安定となるため、シート面への当り不良となり、ガス吹抜けを生じ易い。またオイル下がりによるカーボン噛み込み、熱伝導不良によるバルブ溶損、欠損、スティックなど、色々なトラブルの原因となる。
 従って限度以上にスキマが大きくなった場合は直ちにバルブ又はバルブガイドを交換修復しなければならない。
(3) ピストンリングの摩耗
 ピストンリングが摩耗すると合口スキマが増加して、圧縮もれやガスもれを生じ、オイルコントロールができなくなると共に、リング背面からのガス圧力増加により摩耗が一段と促進する。従ってピストンリングは1〜2年毎又は定期的に交換しなければならない。
(4) シリンダライナの摩耗
 シリンダライナが摩耗すると、ピストンリング摩耗と同様な状態となるほか、殆んどの場合、ピストンスラスト力による偏摩耗により楕円形になって摩耗する。
 従って圧縮もれ、ガスもれで出力が低下するほか、オイルコントロール不能となるので、限度を超えて摩耗したものは交換するか、スリーブ式の場合はボーリングやホーニング修正して、オーバサイズ化を計る。
(5) ピストンピン部の摩耗
 ピストンピン及びロッド小端部のブッシュとのスキマが摩耗して、大きくなると、衝撃摩耗が促進され圧縮比が小さくなるので出力が低下する。
 限度以上に摩耗した場合は、ピストンピン又はブッシュを交換修復しなければならない。
(6) クランクピン部の摩耗
 ピン及びメタルとのスキマが増加すると、衝撃力が一段と大きくなり、摩耗を助長すると共に、ロッド大端の応力が急激に増大して、大端部に歪や変形を生じ、メタル焼付きを誘発する。限度以上に摩耗した場合はメタルを交換して修復する。
 またピンを研削修正した場合は、アンダサイズの厚肉メタルに交換しなければならない。
 シリンダの圧縮圧力を点検する場合は、ノズルを外し、アダプタを挿入し、ゲージを取付けて、スタータモータでクランキングして、圧縮圧力を測定する。クランキングの回転速度が120〜200min−1に達した時の圧力を読み、修理限度以下になったものは、オーバホールをして修理しなければならない。

単位: Mpa
項目 組立基準 修理限度
圧縮圧力 2.8 以上
(120〜200 min-1にて)
1.9 以下
2.4 以上
(120〜200 min-1にて)
1.9 以下
2.4 以上
(120〜200 min-1にて)
1.8 以下
〔測定上のポイント〕
(ア) 測定は機関の規定回転速度で行う。
(イ) 測定は各シリンダとも2回以上行い、平均値をとる。
(ウ) 2、3のシリンダを測定して他を推定するのは危険であるから必ず全シリンダを測定する。

4) 排気管及びバルブタイミングの不良
(1) 排気抵抗が大きすぎる
 176ページ3)−(5)項参照し、背圧を下げるには、配管絞りをなくし、消音器を無抵抗形にし、排気の冷却水を絞る。これでも効果がなければ、管径を太くし、曲がりを大きくするか個数を削減する。
 排気管を施設する以前に、どの程度の排気抵抗になるか試算して、許容値以内に排気抵抗が入るように配管を計画しなければならない。
(2) バルブクリアランスの調整不良
 基準値より過小、過大になるとバルブタイミングが変化して、ガス交換などに悪影響を与えるので出力低下する。
(3) カム山タペットの摩耗
 バルブ開時期が遅れ、閉時期が早まると共にバルブリフトが小さくなる。従ってシリンダ内への吸気量が大巾減少し、オーバラップ期間の短縮で、ガス交換が不十分となり、出力が大きく低下する。
 カム山の摩耗は、表層部の焼入れ硬化層が摩滅すると急速に摩耗するから、運転に支障をきたすので、早めにカム軸及びタペットを交換しなければならない。
(4) プッシュロッドの曲り
 自然に曲がることはないが、バルブクリアランスの調整不良、バルブスティック、バルブスタンプなどにより、ブッシュロッドが座屈して曲がりを生じる。プッシュロッドが曲がると、バルブタイミングが大巾に狂うと共に、バルブの開閉作用に支障を起こして、運転不能となる。
(5) ロッカブッシュの摩耗
 ロッカの支点であり、ブッシュとロッカシャフトのスキマが大きくなると、正しいバルブクリアランス調整が難しくなり、作動時の衝撃が増大して、亀裂破損や各部摩耗を促進して騒音を増加する。

5) オーバヒート
(1) 冷却水の不足
 冷却水が不足すると、機関がオーバヒートを起こし、各摺動部スキマが小さくなり、摩耗抵抗などが増加して出力が低下する。極端な時は焼付きを生じるので運転する前には必ず点検すること。
(2) ジャケット内壁の汚れ
 冷却水通路内壁にスケールが付着堆積すると、熱伝導が悪化して、オーバヒートし、熱膨張による亀裂を生じ易く、摺動摩擦が増して出力が低下する。
(3) 室温水温の上昇
 気温が上昇すると機関室の室温が上昇し、吸気温度が高くなるので、空気密度が低下して、出力不足となる。
 冷却水温度も同様に、気温が高くなると上昇するので冷却効率が低下する。
 いずれも、極端な温度上昇は、機関のオーバヒートを起こす原因となるので、ラジエータやヒートエクスチェンジャの容量増加や、サーモスタットの設定温度を下げるなどの処理が必要である。
(4) 冷却装置の不良
[1] 冷却水ポンプの性能低下
 インペラやケーシングの摩耗、ユニットシールの水もれ、ベアリング摩耗損傷などにより、吐出性能が低下して水流が不足して、オーバヒートを起すことがある。
 特にゴムインペラ形の場合はゴムインペラの摩耗損傷やカム板の摩耗による寿命が比較的に短いので時折点検して、交換しなければならない。
[2] サーモスタットの故障
 ワックスの変質、ワックスの流失、弁軸の曲がりやこじれなどにより、弁が開かなくなると、冷却水がラジエータやヒートエクスチェンジャに流れなくなるので、オーバヒートを起す。
[3] ファンベルトの不良
 ベルトが切れたり、張り不足や油脂付着でスリップを生じると、送風量が不足して冷却できなくなり、オーバヒートを起す。
[4] ラジエータの汚れ
 冷却フィンの表面に土砂やほこりなどが付着すると冷却できなくなるので、オーバヒートを起す。
 圧縮空気で冷却フィンを清掃修復すると共に洗剤で内部を清掃する。
[5] ヒートエクスチェンジャの汚れ
 海水通路内壁にスケールが付着したり、錆を生じると熱伝導が悪化して、冷却不足となり、オーバヒートを起す。冷却パイプの外側に付着したスケールは洗剤で清掃する。
[6] 空気冷却器の汚れ
 空気冷却器の水通路にスケールが付着したり、空気側の冷却フィン表面に汚れが付着堆積すると、給気温度を低下できなくなり、酸素不足で出力低下すると共に、燃焼温度が上昇するので、オーバヒートを起す。
 空気冷却器は2〜3年毎又は定期的に洗剤を用いて、洗滌清掃し、冷却効果の減少を防止しなければならない。
(5) 潤滑系統の不良
 オイルの入れ過ぎ、不足や汚損劣化した場合は、潤滑油そのものの温度が上昇して、劣化を促進するので、オーバヒートを起こし易くなる。運転する前には必ず点検して、必要な処置をすること。
[1] 潤滑油ポンプの故障
 軸受けや歯車、ケーシングなどが摩耗するとポンプ性能が大巾に低下し、送油量が減少し冷却不足となりオーバヒートを起こすことがある。運転中は潤滑油の圧力に注意しなければならない。
 軸受け焼付、軸の折損を生じた時は、送油不能となり油圧が全く零になり、主要部が焼付くので、直ちに運転停止をしなければならない。
[2] 油圧調整弁の故障
 弁の摩耗、スプリングのへたりや汚損の場合は、リーク量が多くなり、送油量が不足して油圧が低下し、潤滑不良は勿論のこと、オーバヒートを起す。
 このような場合や、メタル摩耗によるリーク量過多で油圧が低下した時はネジの締込みだけで調圧すると、チャタリングを生じ、弁の摩耗、バネ折損を誘発することがあるので、原因を探求して修復しなければならない。
[3] オイルクーラの汚れ
 冷却水管内壁のスケール付着や、油通路側の汚れ、スラッジ付着堆積を生じると、熱伝導が悪化して冷却不足し、オーバヒートを起す。3〜4年毎又は定期的にオイルクーラは洗剤で清掃しなければならない。
[4] 摺動部のスカッフ
 ピストンライナ、軸受けなどに軽微な焼付きを生じている場合は、発熱により油温が上昇し、オーバヒートを起すことがある。その分だけ摩擦損失が増加するので出力低下となる。油温が上昇すると油圧も低下するので、直ちに運転停止して、ハンドクランキングできるか否か点検しなければならない。
[5] クラッチ板のスリップ
 摩擦による発熱で潤滑油温度が上昇し、オーバヒートを起し、油圧が低下する。
油圧クラッチ減速機の潤滑油温度は、トロール弁や定速弁操作による場合でも、最高80℃までの範囲で使用することが重要である。
(6) 噴射タイミングの遅れ
 燃料噴射タイミングが遅れると、あと燃えが多くなり燃焼温度が上がり、排気温度も上昇するので、オーバヒートを起すことがある。
(7) オーバロード長時間運転
 過負荷運転を長時間連続して行うと、オーバヒートを起こすので、過負荷運転は最長でも連続1時間以内に止めるようにしなければならない。

6) ガバナ故障
(1) ガバナスプリングのへたり
 バネ力が減衰してくると、フライウエイトとのバランスが崩れるので、コントロールラックの移動量が少なくなり、噴射量が不足する。従って出力低下となる。
 スプリングを交換するか、シム調整するか、アジャスティングスクリュにて、ガバナの種類に応じて適当に修正をしなければならない。
(2) オイルフィルタの詰まり
 専用フィルタが設けられており、エレメントが目詰まりすると、油量が不足して油圧が低下するので、出力が低下する。フィルタは定期的に点検清掃すると共に、エレメントを交換しなければならない。
(3) リリーフ弁の膠着
 リリーフ弁からのリーク量が多い状態で、スティックすると、油量不足となり油圧が低下するので、出力が減少する。リリーフ弁の分解修理が必要となる。
(4) ガバナの調整不良
 ガバナは機関の出力及び回転速度をコントロールする重要な機能を持っている。スモークセットや高速ストッパ位置、及びトルクスプリングやアダプタスプリング力などは、全て動力計により所要の性能スペックに合せて調整し、通常は、これら調整をむやみにできぬように封印をして工場から出荷されている。
 これらは機関の品質を所要の性能スペックで、メーカが保証できる条件として、また機関の安全運転を確保する条件として制限しているものであり、万止むを得ない場合を除いては、絶対に、これら制限装置の封印を切ってはならない。スモークセットや最高回転速度の制限 封印を万止むなく解除して再調整しなければならぬ場合は、次の要領に従って実施しなければならない。









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