2.2 アイドリング中の異常な振動
(拡大画面: 32 KB)
1)機関振動
(1) 不整燃焼
燃焼不良、タイミング狂いなどがあるとアイドリング中に不整燃焼による回転変動を起こして、機関に異常な振動を生じることがある。
ハンチングや不整燃焼を修復しなければならない。
(2) ボルトナットの弛み
据付ボルト、機関台などの締付けボルトナットなどが弛むと、機関振動が増加する。
機関台や据付ボルトナットを増締めして、振動を軽減しなければならない。
(3) 亀裂破損
機関据付ブラケット、機関台などの据付部分に亀裂破損を起こすと、機関が異常に振動する。
亀裂破損個所を探し出し、修復すると共にその原因を調べ、必要ならば補強をする。
(4) 防振ゴムの変質亀裂
防振ゴムは、長期間使用するとゴム質が硬化変質したり、亀裂を起こす。防振ゴムは2〜3年程度の寿命が普通であり、亀裂や変質硬化する前に交換しなければならない。
(5) 軸芯の狂い
発電機などのカップルの場合は、軸芯に大巾な狂いを生じると、異常な振動が起こる。軸芯の狂いは、カップリングの振れ寸法が、芯及び面振れともに0.08mm以内になるように軸芯を修正しなければならない。
2) 共振
(1) 機関台との共振
機関が起振源となり、機関台の固有振動数と機関振動が合致すると、共振を起こして異常に大きな振動を発生する。機関台を補強して固有振動数を変えて共振を避けなければならない。
(2) 船体との共振
機関の振動数が、船体の固有振動数に合致すると共振を起こして、船体が異常振動を発生する。共振回転でのアイドリング運転を避けるか、機関台を補強して固有振動数を変えて、共振を防止する。
発電機などの場合は、共通台板と据付台の間に防振ゴムなどを挿入して、機関振動波を吸収させる処置が有効である。
(3) ねじり振動
周期的に変化する機関のトルク変動と、軸系の固有振動波が合致すると、振り振動による共振を起こして、振巾が増大する。共振すると歯車の噛合音が大きくなり、回転がおかしくなり、振動を発生する。
2.3 増速時に回転が追従しない
(拡大画面: 132 KB)
1) 燃料詰まり
(1) 配管系が細い
機関が要求する量の燃料は、配管径が細過ぎると短時間内に送油できなくなり、増速しようとしても回転が迅速に追従しなくなる。従って規定内径以上の銅管又は鋼管を用いて配管しなければならない。
(2) フイルタの詰まり
濾器のエレメントが目詰まりすると、通過面積が極端に減少するため、機関が要求する量の燃料を送油できなくなり、増速しようとしても回転が追従しなくなる。
従って濾器は定期的に分解清掃又はエレメントを交換しなければならない。
(3) フィードポンプ入口フイルタの詰まり
フィードポンプの入口には、アイ形接手をユニオンボルトで連結されるが、この部分のユニオンボルト内部に金網式濾器が設けられている。長い間にはゴミが詰まり、機関が必要とする燃料を供給できなくなり、増速しようとしても、回転が追従しなくなる。
従って2〜3年毎に金網を清掃しなければならない。
2) 燃料系に空気混入
(1) 吸い込みヘッドが大きすぎる
フィードポンプと燃料タンク油面の落差が1m以上になると、フィードポンプの性能が極端に低下したり、自吸不能となり、燃料送油ができなくなる。従って増速時の回転追従が困難となる。
フィードポンプの吸込みヘッドは、最大限1m以内になるように、燃料タンク(送油口位置)を配置するか、吸込みヘッドが1m以上になる場合は、別に送油ポンプを設けなければならない。
(2) 余剰油戻り管の空気混入
噴射ポンプの余剰油は、通常、フィードポンプ入口へ戻すが、フィードポンプが性能低下した場合に、余剰油が極端に減少して空気を混入し易くなり、微小な孔などから空気を吸入してしまう。このような場合は、余剰油戻し管を燃料タンクヘ戻すようにしなければならない。
(3) 燃料配管からの燃料漏れ
フィードポンプのサクション側に極く微小な燃料もれがある場合は、そこから空気を吸い込み、徐々にエアが蓄積されて送油不能となる。
3) 吸入空気量不足
(1) 換気不良
機関室の換気が不足すると、給気量が不足し出力低下するので、増速時の追従性が悪くなる。また換気不足は室温の異常上昇を誘発するため、機関性能の低下を助長すると共に排気温度が上昇し、益々悪影響を及ぼす。従って最低限度、必要とする換気量を得るようにしなければならない。
(2) 室内温度が高い
機関室内の温度は、通常40℃まで、最悪でも45℃以下としなければならない。それ以上に室内温度が上昇すると急激に性能低下するので、増速時の追従性は悪化する。
また排気温度が異常に上昇するので機関の熱負荷過大によるトラブルを誘発する。従って十分な換気量を得て、室内温度を低下させなければならない。
(3) エアクリーナの詰まり
プレクリーナやぺーパ式エアクリーナなどが目詰りを起こすと給気量が不足し、燃焼に必要な酸素が欠乏して出力低下するので、増速時の追従性が悪化する。
エアクリーナは定期的に清掃又は交換しなければならない。
(4) 過給機の性能低下
タービンホイールのカーボン付着、コンプレッサホイールの汚れ、シールリング、ベアリングなどの焼付きなどが起こると、タービン回転が重くなり、増速時の追従性が悪くなるので、十分な給気量をシリンダ内へ供給できなくなり、出力低下して機関増速時の追従性が悪くなる。
(5) 排気抵抗が大きすぎる
排気管の管径が細く、曲がり個数が多い場合や、
排気の冷却水によどみができたり、出口が水中に没したりすると、排気抵抗が過大となり、出力低下して増速時に回転が追従しなくなる。
背圧(バックプレッシャ)を測定して下記の値以下になるように排気管を改善しなければならない。
発電機セットの場合 |
|
背圧は400mmH2O以下 |
一般動力用{ |
無過給 |
|
〃 400mmH2O以下 |
過給 |
|
〃 250mmH2O以下 |
4) オーバロード
(1) オーバロード
過負荷状態で運転している場合は、機関出力に余裕がなく、増速しようとしても回転は上昇しない。
通常、連続定格出力の110%までを限度として、燃料噴射量の制限をしており、このような過負荷運転は、連続1時間以内に限っての使用に対して、メーカは製品の保証をし、それ以上の連続使用は、常識では考えられないこととしている。
従ってオーバロードでの使用は万止むを得ない場合に限り、1時間以内での使用に限り認められているのであり、通常は定格出力及び回転速度以下で運転願いたい。
(2) アイドリング回転の下げすぎ
規定回転速度以下に下げ過ぎた場合は、増速時に追従しないばかりでなく、エンストをする。
このような倍は600〜650min−1の範囲にアイドリング回転を上げなければならない。
5) 噴射タイミングの狂い
(1) タイミング調整不良
a) 噴射タイミングの調整不良
噴射タイミングは早過ぎても遅過ぎても燃焼に悪影響を与えて出力低下するので、加速時に回転が追従しなくなる。噴射タイミングを正しく修正しなければならない。
b) バルブタイミングの調整不良
カム山及びタペットの摩耗により、バルブタイミングが大巾に狂うと、出力が低下して増速時に回転が追従しなくなる。
カム軸及びタペットを交換又は調整して修復しなければならない。
(2) カム山、タペットの摩耗
燃料カム山及びタペットが異常摩耗を起こすと、噴射タイミングが大巾に狂い、カムリフト量も大巾減少するので、出力低下して増速時の追従性が悪化する。
カム軸及びタペットを交換し修復しなければならない。
6) フィードポンプの故障
(1) ピストンの摩耗
フォードポンプのピストンが摩耗すると、吐出性能が低下するので、増速時の追従性が悪化する。ピストンを交換して修復する。
(2) バルブの不良
バルブ及びシートの気密不良により、もれを生じ吐出量が減少する。バルブを交換して修復する。
(3) リターンスプリング折損
ピストンを戻すバネであり、折損するとピストンが作動できなくなり、燃料供給が停止する。
(4) 燃料カム山の摩耗
カム山及びタペットが摩耗すると、ポンプリフトが減少して、吐出量が低下する。
いずれも、フィードポンプの性能が大巾に低下し吐出量が減少するので、直ちに修理しなければならない。
7) コントロールラック、リンクの作動不良
(1) ラックの曲がり、引っかかり
コントロールラックが曲がったり、そのストローク範囲に他との接触や干渉があると、円滑に摺動しなくなるので、増速時にコントロールラックが動かず、追従性がなくなる。
コントロールラックを手で動かし、円滑に動かぬ時は円滑に動かせるように修正しなければならない。
ラックの摺動抵抗は規定値以下でなければならない。
(2) ピニオンの変形
ピニオンの変形、歯車欠損などを起こすと、コントロールラックとの噛合が円滑にできなくなり、作動が不確実となる。ピニオンを交換修復しなければならない。
(3) プランジャのスティック
プランジャの摺動面が腐食、損傷、焼付きなどを起こして、プランジャがスティックすると、コントロールラックが動かなくなる。プランジャ及びバレルを交換修復しなければならない。
プランジャの戻しバネが折損した場合は、プランジャが戻らなくなり、ピニオンが円滑に動かなくなるので、コントロールラックも円滑に動かなくなる。
(4) リンクの作動不良
コントロールラックに連結するリンクや軸などに曲りやこじれを生じると、コントロールレバーの動きがコントロールラックに円滑に伝え難くなり、作動不良となるので、増速時の追従性が悪化する。
(5) 左右連緒リンク取付不良
V形機関の場合は、左右のコントロールラックを連結するリンクが取付不良になると、左右シリンダの出力がアンバランスとなり、増速時に回転が円滑に追従しなくなる。
(6) ユニットポンプのリンク取付不良
シリンダ毎に設けられた噴射ポンプのコントロールラックを連結するリンクや連結桿が曲ったり、こじれたりするとコントロールラックが円滑に作動しなくなるので追従性が悪化する。曲がりやこじれを修正し、円滑に作動するようにしなければならない。
8) ガバナ故障
(1) スイベルレバーのネジ調整不良
ガバナスプリングの張力をネジにより調整してガバナの速度変動率を調節できるようになっている。
ネジを弛め過ぎるとバネの張力が減少して、増速時の追従性が悪化する。反対に締め過ぎると鋭敏になり過ぎて、回転変動が生じ易くなる。
このネジによりガバナスプリングの張力を調整した場合は、ガバナ性能が変化するので再調整しなければならない。ネジの調整範囲はガバナにより、異なるので注意しなければならない。
(2) ウエイトバネ力調整不良
ガバナウエイトの先端に、バネ力調整ネジが設けられており、このネジにより速度変動率を調整する。
このネジ調整の極端な調整不良によって増速時の追従性が悪化する。ネジの締め過ぎは、速度変動率が鋭敏となり、回転変動を生じ易く、弛めると鈍感になる。
ネジの調整範囲はガバナにより、異なるので注意しなければならない。
(3) ニードル弁の調整不良
ウッドワードガバナの場合、ニードル弁を閉じ過ぎると、追従性が悪くなる。通常は、ハンチングするまでニードル弁を開き、混入する空気を完全に抜いてから、ハンチングが止まるまで徐々に締め込む。ニードル弁の開度は、最低限1/4〜1/2回転程度は開けておかなければならない。
(4) パワーピストンの作動不良
パワーピストンが膠着して、円滑な作動ができなくなると、追従性が悪くなる。分解清掃又はガバナを交換しなければならない。さらに潤滑油濾器も点検清掃又は交換しなければならない。
(5) 油圧が低すぎる
濾器の詰まり、リリーフ弁の膠着、ポンプの摩耗などで油圧が低下し過ぎると、追従性が悪化する。
その他、ドレン孔や油通路孔が詰まると、同様に追従性が悪化する。
(6) 速度ドループの調整不良
速度ドループピンの位置を、フライウエイト方向へ寄せ過ぎると、追従性は悪化し、パワーピストン側へ移動すれば、速度変動率は鋭敏になり、回転変動が出やすくなる。