日本財団 図書館


2. 運転
 船用ディーゼル機関は、新規製造の場合、船舶安全法あるいは各船級の規則に陸上運転及び海上運転が義務づけられている。
 また、就航船に搭載されたディーゼル機関は主機・補機を問わず、定期的な検査・整備あるいは修理等で機関を開放・復旧した後、試運転をして機関が正常に作動しているか確認することは通常行われている。
 特に、昨今のように製造物責任法等がさけばれる時代においては、整備後の運転は、船舶の安全を守る非常に重要な責任を負わされた、顧客に引き渡す前の最後の仕事である。
 よって、このことを常に念頭におき細心の注意が求められるため、ここでは、検査・整備あるいは修理後に機関を運転するときの方法、注意事項並びに確認すべき事項について述べるが、この中では、何故行われているか、何故行うかについても一部言及する。
2.1 運転準備

1) 取扱説明書
 整備中も本船の取扱説明書に従って行われたと思うが、整備後の各部隙間、調整値および運転等の全ての基準について、正確な数値を取扱説明書によって確認することがまず行われなければならない。また、基本的にはこれらの数値は勝手に変えてはならない。もし、取扱説明書の中の数値が手書き等で書き変えられていたときには、必ず本船の監督か責任者に確認をとることが必要である。

2) 陸上運転成績表
 運転前の調整、運転時の各部データをチェックするために本船より陸上運転成績表を借りてくること。これらの取扱いについては、取扱説明書と同様に行われなければならない。

3) フラッシング
 船内の油管等を新替えした後はフラッシングを行って、管内のゴミ等を完全に排出しなければならない。
 ここでは、基本的な方法を述べるので、実際には適用個所を集中して行えばよい。

(1) 主軸受け油主管に小型ストレーナを取り付け、カム軸軸受け、カム軸駆動歯車軸受け、過給機等の入口油管には盲板を取付て管中のゴミ侵入を防ぐ。
(2) 潤滑油漉器をよく洗浄する。特に漉し網の破れ等に注意する。
(3) 機関室パイプラインのバルブの開閉をチェック。
(4) 使用油は主機の潤滑油を使用し、予備潤滑油ポンプを駆動して約半日程度行う。
(5) フラッシング時油温が上昇して水蒸気が発生すると、発錆の恐れがあるためクランク室のドアは開放し通風をよくしておく。
(6) 途中、漉器にゴミの溜まり具合を注意し、ゴミが溜まらなくなった時点で、フラッシングを終了し配管を戻してもよい。
 この時、前もって取り付けた盲板の取り外しを忘れぬこと。
(7) 全ての配管を戻した後、改めて潤滑油ポンプを運転して過給機、メタルからの油の流れ、フランジ等からの油漏れを検査する。

4) 水通し
(1) ジャッケト冷却水ポンプを運転し、常用圧力まで上げて水漏れがないか検査をする。
(2) 特に、シリンダライナを交換したときにはクランク室ドアを開放して、クランクケース内に漏水がないかを念入りに検査する。

5)  各部調整
(1) 吸排気弁タペットのスキマを規定値に調整する。
 大形機で油圧タペット方式の時には、潤滑油ポンプを運転してから行うこと。
(2) 燃料ポンプ周りを整備したときは、突き始め角度をチェックする。
(3) 燃料ポンプラック目盛りを全シリンダ合わせておく。
(4) 油圧調速機を整備したときには、油面計のレベルを注意をして検査をする。少なすぎても、多すぎても作動不具合を起こす恐れがある。
(5) 操縦・調速機リンク、レバー等の軸受けへの注油と動きを検査をする。
 機関は始動が非常に大切であるので、リンク等のコジレで始動不良を起こすと整備の命取りにもなりかねぬので特に注意をする。
(6) 操縦ハンドルが停止位置で、燃料ポンプラックが0(無噴射)になることを確認する。

6) 始動準備
(1) 各予備ポンプを運転する。
(2) 機関計器盤の各圧力計の指針が全てグリーンマーク内にあるかチェックする。
(3) クランク軸をターニングして十分に潤滑油を各部に行きわたらせる。
(4) シリンダ注油のあるものはこの時、注油器のプライミングハンドルを20〜30回ほど手回しする。
(5) ターニング装置を脱にする。
(6) 台板内またはオイルタンクの潤滑油量をチェックする。
(7) 各保護装置等の電源を入れる。

7) 排気ブロー
(1) ピストン抜きした後はシリンダヘッドを復旧後、燃焼室や排気管中に異物等の残しの検査をかねてエアランによる排気ブローをする。
(2) 排気ガス過給機入口のベローズを取り外して、そこに盲板をあて、過給機に異物が飛び込まないようにする。
(3) 回転部周辺、動弁装置周辺の安全を確認してからエアランをして、管内のゴミは外部に排出する。
(4) 異状が無ければベローズを取り付ける。
8) エアラン
(1) 始動空気ダメのドレンを排出してから、指圧器弁を開け、再度エアランをして冷却水や潤滑油が噴出しないか検査をする。
1) 陸上での試運転
(1) 出力計測装置
 通常、機関を本船から取り外して工場に持ち込んで整備をするときには、主機であれば中間軸、補機であれば発電機とのカップリングで取り外すことが多い。
 よって、工場で試運転をするときには機関のみの空運転か、水動力計とカップリングをして負荷運転を行う。なお、発電機付きであれば発電試験を行うこともできる。
[1] 水動力計
 機関製造所であれば、水動力計を装備している。
 水動力計の原理は、5・26図の如き装置に一定の圧力を持った水を供給し、水の排出をバルブで操作することで内部の水圧を制御して、機関の回転力を水を介してケーシングに伝達し、その時のケーシングが回ろうとする力を荷重として計測する。
 トルクコンバータと同じ原理と考えればよい。
 出力の算出は下式による。
z1150_01.jpg
 Pe:ブレーキ出力(kW)、    n:動力計の回転速度(min−1)
 L:動力計の腕の長さ(m)、   W:腕の長さLにかかる正味荷重(kg)
なお、下記の条件を与えれば非常に簡単な式となる。
Pe:C×n×W
 C:定数で2πL×0.735/4、500
 L:0.9744mとすればC=1/1、000となり
z1151_03.jpg
5・26図 水動力計
[2] 水抵抗器
 発電容量の測定は、通常は5・27図の水抵抗器を設備して行う。
 この装置の原理は、3相の場合は木材等で等間隔に3枚をお互いに絶縁をして水中に入れる。
 各極板に配線をして水中に電気を流すことで、電力を熱として消費して発電量を測定するが、非常に多量の水を必要とする。
 水中に電気を流すため、海水が利用できるところは海水を使用し電気伝導度を上げたり、水道水に食塩等を混ぜて行うこともある。いずれも腐食の発生は避けられない。
 電力の消費は、極板の水中への深度をチェンブロック等で上下にコントロールするが、非常に高電圧を使用するので感電に対して安全対策を万全に期す必要がある。
 なお、最近は水道水の代わりに「純水」を用いることで水中の電気抵抗を極端に増して、発熱量を押さえ水の使用量を極限にまで減らすことで、水道水を外部冷却のために少量使用するが、トラックの荷台に装備したコンパクトな移動式のものがあり、場所を選ばずに計測できるようにはなっている。
5・27図 水抵抗器
 水動力計を使用して運転を行う場合の負荷は次のようにして決定される。
 整備後の運転では負荷を連続最大出力の1/4、2/4、3/4及び常用出力(機関長等との協議によって決定するのが良い)として運転する。特に、機関が稼動後長年月を経ている場合やシリンダライナ・ピストンを新替えした時には、顧客の要望があっても高負荷を掛けるのは避けること。何れの場合も、回転速度は連続最大出力に対する出力比の3乗根に比例して変化させる。
 
(拡大画面: 49 KB)
 
 また、この時に前頁で説明したL=0.9744mのブレーキアームを持った水動力計を使用したとすれば、水動力計に掛ける荷重は次の如く計算される。
 
Pe (出力) = n (回転速度) × W (荷重) /1,000 より
W = Pe×1,000/n となる。
1/4(25%) 負荷時 荷重 W= 250×1,000/239.4=1,044kg
2/4(50%)  〃    〃  W= 500×1,000/301.6=1,658kg
3/4(75%)  〃    〃  W= 750×1,000/345.3=2,172kg
4/4(100%) 〃    〃  W=1,000×1,000/380.0=2,632kg
 
(3) 試運転及び注意事項
[1] 水動力計に通水をせずに機関を低速で運転をして、内部から異音の発生がないかチェックすると共に、調速機、燃料ポンプ、吸排気弁駆動装置や機付き各ポンプ類の軸受け等に発熱がないか手で触れてチェックする。
[2] 25%程度の負荷で10分ほど運転をしてから、クランク室のドアを開けてピストン、クランクピン軸受、主軸受等手で触れて発熱状態をチェックする。
[3] 負荷を50%→75%と30分程度をかけ少しずつ上昇して行くが、まず回転速度を上げてから水動力計の荷重を徐々に上げて行く。特に、シリンダライナ新替後はピストンリングとのナジミを付けるために注意をして負荷をゆっくりと時間をかけ増加させると同時に、シリンダ注油のある機関は20%程度増量する。
[4] この間、ジャケット冷却水、潤滑油出口、給気圧力、排気ガス温度に注意すると同時に、各部に手を触れて発熱状態、異状振動や異状音にも注意を払う。
[5] 指圧器採取装置か最高圧力計が装備できるときには必要に応じて50%、75%負荷時に計測を行うが、回転速度及び水動力計が安定を確認してから計測することが大切である。
[6] この時、全シリンダの燃焼最高圧力及び1〜2シリンダの圧縮圧力も忘れずに計測しておくが、計測中に各シリンダにバラツキがあるか注意をして、異常と判断される時は、再度計測をすること。
[7] 調速機を整備したり新替えしたときには、調速機試験を行い、調速機が正常に作動することを確認しておくとよい。
[8] 始動性に不具合があるときには、始動試験を行うとよい。

(4) 試運転時の各性能チェック
[1] 機関一般性能を記録
 通常は陸上試運転の成績と比較することが行われる。
 機関製造所における陸上試運転成績表を参考として5・3表に示すが、整備後の運転では簡単に次の項目程度を採取すればよい。
 出力(kW)、回転速度(min-1)、燃料ハンドル目盛、調速機入力・出力目盛、冷却水・潤滑油機関入口温度(℃)、各シリンダ・燃料ポンプラック目盛、排気ガスシリンダ出口温度(℃)、冷却水シリンダ出口温度(℃)、燃焼最高圧力・圧縮圧力(MPa)、給気圧力(MPa)、採取できれば過給機回転速度(min-1)、給気温度・空気冷却器出入口温度(℃)、過給機潤滑油出口温度(℃)、室温(℃)、燃料油入口温度(℃)など。
[2] 性能チェック
 陸上試運転時の性能曲線を成績表からコピーして利用すればよい。
 性能曲線は、出力、機関回転速度、燃焼最高圧力、過給機回転速度、給気圧力、排気ガス温度(シリンダ出口、過給機入口・出口)、燃料ポンプのラック目盛燃料消費率等の各計測値を縦軸に、横軸は負荷率(%)とした負荷べースか回転速度べースとして作成してある。5・28図(156頁)に、1,000kW×380min-1(rpm)の性能曲線の例を示す。
 性能曲線上に各計測値をプロットすることで機関データのバラツキを確認できる。
 また、計測点が性能曲線上に乗ってこないときは、計測のミスも考えられるため全ての計測を終了してからプロットするのでなく、運転中に簡単にプロットすると計測ミスも自ずとチェックできてよい。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION