2.2 機関運動部
1) クランク軸、主軸受メタル、スラスト軸受
最近のクランク軸は機関の高出力化、高速化に加え、軽量化に耐えるよう、その形状、材質、加工に注意がはらわれて製作されている。その整備も慎重でなければならない。
3・8図にクランクピン、軸受部、アーム部の構造の1例を示す。主軸受部及びピン部は、それぞれ精密な表面仕上げをすることにより、軸受との間に良好な潤滑油膜を形成し、金属接触することなく最小の摩擦抵抗で摺動するよう配置されている。また耐摩耗性を向上させるため高周波焼入れ等により表面硬化される場合が多い。
3・8図 クランク軸詳細
主軸受部、ピン部両端とクランク腕つけ根部は、応力集中により特に大きな応力が加わるので、定められた大きさの丸みに精密に加工されている。主軸受部及びピン部には3・8図のような油孔により潤滑油は主軸受からピン軸受へと送られる。油孔の入口、出口は応力集中程度をへらすよう、この部の角部は面取り、丸み加工が入念に行われている。
機関内部で発生する往復及び回転慣性力の影響を少なくするために釣合おもりを使用する。おもりはクランク軸と1体で鍛造される場合と、別体で製作しボルトによって軸に取付けられる場合がある。
高速機関の場合釣合おもりに作用する遠心力は非常に大きいので、取付けボルトの締付けには細心の注意が必要である。
主軸受メタルには、つば付厚肉軸受メタルなど種々のものがあるが、最近は品質が安定して多量生産に適した、薄肉半割軸受メタルが多く使用されている。3・9図に主軸受の支持方法を示す。クランク軸の軸方向に加わるスラストに対するメタルとしては別に薄板状のものとなる。
材料は、ケルメット系の薄肉三層メタルが多いが、ホワイトまたはアルミ系メタルを使用する場合もある。
3・9図 主軸受の支持
(1) 点検および整備
3・4表 クランク軸の点検、整備による。
3・5表 主軸受け、軸受けメタルの点検、整備による。
3・4表 クランク軸の点検、整備
点 検 計 測 内 容 |
整 備 内 容 |
(1) クランク軸、軸受部 |
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[1] メタルとの当り状況、変色、腐食、焼付き損傷、ヘアクラックの発生、異常段付摩耗および偏摩耗の調査 |
軽微なものは修正、腐食のあるものは潤滑油を調査、修正不能のものは交換 |
[2] すみ肉部や油穴の周囲の状況特にヘアクラックの有無点検(カラーチェックや磁気探傷法) |
亀裂のあるものは交換 |
[3] 外径寸法計測 |
使用限度以上のものは研磨または交換 |
[4] 軸部と軸受とのスキマ |
スキマが限度を超える場合はアンダサイズメタルを使用する。 |
[5] 油孔のよごれ、つまりの点検 |
洗浄、掃除 |
(2) クランク軸 |
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[1] クランクピンで中空穴のあるものは中部のカーボン付着状況と盲プラグのゆるみを点検 |
カーボンの掃除、盲プラグのゆるみのあるものは締直し、回り止めをする |
[2] クランク軸の曲がり計測
必要な場合は接手部分の振れ |
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[3] 釣合おもりおよびクランク歯車のゆるみ、損傷を点検 |
ゆるみあれば締直し、歯車修正不能のものは交換 |
[4] 両端軸接手のリーマボルト孔や接手締付けナット類のゆるみ、損傷など点検 |
修正、締直し、修正不能のものは交換 |
なお、軸受スキマ(オイルクリアランス)はプラスティゲージを用いれば直接計測することができる。
3・5表 主軸受、軸受けメタルの点検、整備
点検計測内容 |
整備内容 |
(1)主軸受ボルト |
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[1] 植込みボルトおよびナットのゆるみの点検、 ねじのガタの大小点検 |
増締めする (使用時間限度をこえるものは交換) |
[2] ボルト、 ナットねじ部、 ボルト幹部の焼付き、 損傷状態点検 |
軽度のものは修正、 損傷のはなはだしいものは交換 |
[3] 亀裂の有無 (ねじ切初め付近) |
傷のあるものは交換 |
(2)主軸受 |
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[1] 主軸受押え (キャップ) 締付け面、 インロ部にたたかれ傷など異常がないか点検 |
異物のかみ込みは修正、 修正のできないものは交換 |
[2] 主軸受 (メタル) 内面の当り状況を点検 (肌あれ、 変色、 焼付き、 亀裂、 剥離、 腐食、 異常磨耗、 異物の埋没、 オーバレイ消滅) |
修正または許容限度以上ものは交換
(オーバレイ30%以上消滅は交換) |
[3] メタル背面の当り、 爪、 ノック部の損傷状況点検 |
軽度のものは修正 (当り2/3以上のこと) |
[4] メタル上下合わせ面のたたかれ傷などがなか点検 |
損傷のはなはだしいものは交換 |
[5] 主軸受の内径寸法計測 (メタルを組み込み規定トルクで締付けてから計測) |
軽微なものは修正、 はなはだしいものは交換使用限度以上のものは交換 |
(3)クランク軸メタル焼損時 |
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[1] メタルかん合部ハウジング内径計測 |
油孔周辺に亀裂がなく、 ハウジングひずみ、 真円度が修正可能程度であれば修正使用、 変形はなはだしいものは交換 |
[2] 同上油孔周辺、 亀裂の有無点検 (カラーチェック) |
[3] メタル交換 |
[4] ハウジング、 軸受内径、 真円度チェック |
ジャーナルやピンが変色しているものは交換、 軽度の焼付きは修正後、 寸法、 メタルとのスキマ、 表面硬度に異常のないことを確認すること。亀裂のあるものは交換 |
[5] クランク軸寸法計測 |
[6] 表面硬度計測 |
[7] 磁気探傷法にてヘアクラックのチェック |
(2) クランク軸の折損
クランク軸にはピストンに働いた燃焼圧、往復運動部分の慣性力、はずみ車の重量、軸自身の遠心力などによる曲げの力とトルク変動によるねじりの力が同時に働いている。
これらは周期的に変動するため、曲げやねじりの繰り返し応力が働くことになり、その応力が或る値(疲れ限度)を超えると破壊する。
[1] クランク軸の折損原因
折損原因は大別して
・ 設計、製作、材料の不良
・ 曲げ力の過大
・ ねじり力の過大
が有るが、使用上の原因として考えられるものに次のものがある。
a) 主軸受メタルの摩耗が不揃いとなったり、スラスト軸受の摩耗により、スキマが大きくなり、クランクアームの開閉が大きいとき。
b) 異常燃焼や長時間の過負荷運転で軸に大きな衝撃力が働くとき。
c) 機関の据付状態が変化し、デフレクションが過大になったとき。
d) 各シリンダの出力が不揃いとなり、軸に働くねじり力が許容値を超えたとき。
e) ねじり振動の危険回転速度で長時間運転したとき。
f) 急回転を起こし、大きな遠心力と慣性力による曲げの力を受けたとき。
g) 中小形機関における前部動力取出しの横引き力が過大なとき。
クランク軸が折損した場合、これらの使用条件を検討するとともに、メーカと相談して整備に万全を期すことが必要である。