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3.質疑応答
竹中 
 どうもありがとうございました。ぜひご議論していただきたいと思います。ご質問は日本語でも英語でもどちらでも結構です。
 
A 
 日米関係について5つの流派をご紹介いただきましたが、私が一番重要だと思っておりますのは、どのようなアプローチをとるかではなく、日本がどのような役割を果たすべきか、アメリカがどのような役割を果たすべきか、あるいはアメリカはアジアにどのように関与すべきかという、何を、という点で分類すべきではないのかということです。漸進的なアプローチといっても、漸進的に何をやるのかということだと思うのです。あるいは、日本について不安だと言われますが、不安を与えるのであれば日本は何をやればいいのか、何をやらなければいいのか、という役割、使命に焦点をあてた議論をしなければ、従来から言っているようなアメリカ不信とか日本不信のような議論で止まってしまっては具体的な方法が出てこないのではないでしょうか。そのような意味では、5番目の流派には具体的に何をやるかということが明確にされていると思いますので、そのような観点からの議論が必要だと思います。
 
モチヅキ 
 コメントをどうもありがとうございました。おっしゃる通りで、なぜ今までプロセスばかり強調してきたかといいますと、アメリカ人としてはどのような役割を日米それぞれが果たすべきか、またどのように役割分担すべきか等についてまだ決めかねおり、よくわからないからです。アーミテージさんと私は、できるだけプロセスではなく中身に関して話し、将来のビジョンを描こうと試みました。二国間の安全保障関係についてマイナーなことばかり話し合われているといういら立ちは、将来のビジョンが大所高所からまだ話されていないことを示しており、日米の新政権同士で真剣に討議していただきたいと思っております。
 
B 
 現在のアメリカ、恐らくはワシントンを中心とする専門家の日米関係に関する考え方を整理して非常に明確に教えていただいたと思っております。大変参考になりました。私も東京にいてアジア、太平洋あるいはアジア太平洋地域の安全保障の枠組みというのは今後どのようになっていくのかという点についてずっと考えておりますが、先生の希望的観測の3番目に出てきたことについて、少し細かな点ですが教えていただけたらと思います。第1点は安全保障コミュニティーという表現を使われましたが、この安全保障コミュニティーも専門家によって定義の仕方や位置付けが異なるように思います。モチヅキ先生の考えられる安全保障コミュニティーはどのようなものなのかについて教えていただきたいと思います。その関連で北太平洋フォーラムをトラック1、トラック2でつくってはどうかというのは、私もやはり今のARFがだめだというのではありませんが、どうしてもASEAN主導で、ASEANとASEAN外からの共同議長を立てるなどいろいろアイデアは出ておりますが、やはりASEANが中心だったからできた、中国が入っているから意義がある、そこに北朝鮮が入って、本当の意味で包括的なものになるということに価値がもちろんあると思うのですが、おっしゃるように北東アジアの問題が十分に取り上げられているとは少なくも私には感じられない。そうなったときに、北太平洋安全保障フォーラムをつくったとして、先生はどのようにイメージしておられるのでしょうか。3番目に、東アジアというのはあまりよい思い出のある表現ではなくて、19世紀には中国を中心に、20世紀の前半には日本が中心にこの東アジアという言葉をつくって、その結果は必ずしもよい結果ではなかったにもかかわらず、97年のアジア危機以降、東アジアでの何らかの地域協力の必要性というのは、少なくとも東京から仕事をしておりますと、アジアの、特に東南アジアの同僚たちから聞こえてきます。その1つの現われがある意味ではASEANプラススリーではないのでしょうか。コリアのフレームワークになって、これがある意味でメカニズムとして、単なる首脳会合だけではなくてほかの皆さんも会合をもつようになる。この点についてアメリカで何か意見が出ていますでしょうか。あるいは先ほど、日米防衛関係に関心をもつ人がわずかだと言われましたが、このようなことはあまり注目されてはいないのでしょうか。この3点について教えてください。
 
モチヅキ 
 よいご質問をいただいてどうもありがとうございました。確かに安全保障コミュニティーについては、さまざまな意見が出ていますが、価値観と政治体制を共有した国々同士によるものがベストであると思います。この地域で私が考えているのは、それほど野心的なものではなく、ブルッキングス研究所が言っているような、まずは協力的な安全保障体制を確立しようということです。ある任務において共同作業をし、徐々に信頼関係を醸成していき、利害関係が複雑であろうともできるだけ衝突の可能性を下げるということです。北太平洋対話についてですが、確かにARFというのはすべてを含むというよりも、どうしても南の地域が対象になっております。この北太平洋対話につきましては、クリントン政権が樹立したころに、多国間主義を標榜し、トラック2の対話をこれからどのように進めていくべきかという点について討論され、カリフォルニア大学サンディエゴ校を中心に北東アジア協力対話の設立を進めるということになりました。当時国務省が誰をメンバーに入れるべきかということを話した際、カナダとしてはよりたくさんの国を入れたい、つまり、2つのコリア、日本、アメリカ、中国、ロシアに限らずカナダとモンゴルも入ったようにしたほうがいいという提案をしておりました。しかし、全部入れてしまうと結局あまりに大所帯になり過ぎるということで、最終的にカナダ、モンゴルはメンバーから外れてしまいましたが、私はこれを大きな間違いだったと考え、北太平洋フォーラムを提唱しているのです。北太平洋フォーラムとARFの関係については、1つの可能性として北太平洋フォーラムをARFの部分集合とすることも考えられますが、ARFはASEANの地域フォーラムで、アジアの地域フォーラムではないため、できれば私としてはARF自体に支障を来さないよう気遣いながら、独立したものとするのが望ましいとは思っております。最後に東アジアに関するご質問ですが、かつてアメリカは数年前東アジア経済協議体(East Asian Economic Caucus, EAEC)構想にいら立ちを感じましたが、現在のASEANプラススリーに対しては、メンバーではなくとも以前に比べて地域レベルのイニシアチブについてあまり敏感に反応しないようになってきております。それ以上に、現在アメリカ人でASEANプラススリーの存在を知っている人というのはほとんどいないのではないでしょうか。ASEANプラススリーを知るアメリカ人について言えば、金融面でのイニシアチブに注目しているのであって、スワップ協定の多国化について財務省は非常に綿密にフォローしています。ASEANプラススリーは経済分野に限らず、外交問題も扱っていくということで、個人的に私は今後の方向性について非常に関心をもっておりますが、やはりほとんどのアメリカ人は存在さえ知りません。
 
C 
 アメリカでの中国学派は非常に増えておりますが、何人ぐらいいるのでしょうか。また、ヘンリー・キッシンジャーも含めて中国学派の人たちと50、100人の日本学派の人たちとが日米関係、米中関係、日米中関係について議論をしたことがあるのでしょうか。
 
モチヅキ 
 中国学派の人は日本学派の倍くらいはいるのではないかと思います。中国に対しての需要はこのころ非常に強いですから、中国については何も知らない人でさえ中国について何か語っています。おもしろいことには、日本専門家と中国専門家同士で交流がほとんどなく、両方のグループに関係しているのはわずか5人か10人ぐらいです。私自身は日、米、中の相互影響に関するプロジェクトを進めている関係で、中国のスペシャリストと非常によく議論はしております。インターネット・スタディ・グループもございます。50人のグループのうち3名から4名ぐらい日本専門家がいますが、その人たちは真剣に台湾有事を含めて中国について話し合っております。ただし、今までアメリカは対日、対中、対韓政策があっても、包括的な東アジア政策がないことが問題で、統合することが課題であると思っております。
 
D 
 大変おもしろいお話をありがとうございました。単刀直入にマイクの希望的観測の3要素については、私自身の考えと非常に近いので励まされました。最近書いたものの中で私は、日本が日米同盟におけるより大きな対等性を獲得するために、集団的自衛権の問題をもっときちんと主張しないといけないということを書きましたし、日米同盟の多国化とは言わず日米同盟の拡大化という言葉ですが、を将来は考えるべきだということをやはり書いたことがあります。昨年私も参加して日本国際フォーラムで行った政策提言では、まさにツープラス・フォープラス・カナダ・モンゴルのフォーラムをつくるということを提唱しました。非常にマイクさんと同じ考えであることを知って力強く思ったということを申し上げた上で、2点質問がございます。第1点目は、集団的自衛権の問題をきちんとしたうえで、日本、アメリカにより大きな対等性を認めるように迫れというのが私の主張でもありますが、本当にそうなるとお考えでしょうか。例えば、アーミテージさんもそうですが、日本が大きな役割を果たせば果たすほど、アメリカにとってよりよくなると本当に考えているようにはどうしても私には思えないのです。一部の、マイクさんはじめ何人かの人はそう考えてくださっていると思いますが、むしろ多数派の30人か50人の人たちは、アメリカにとって都合のよい限界まで日本が役割を果たすことは望ましいが、対等性や自立についてはあまりいいことではないと実は思っているのではないでしょうか。集団的自衛権問題をクリアにしてもより大きな対等性につながるとは限らないのではないかという疑念を私はもっておりますが、いかかでしょうか。第2点目ですが、北太平洋の安全保障フォーラムは私もその提案を作成しましたので、基本的には支持しますが、心配なことがあります。北太平洋にある国の半分ないしはそれ以上が日本、アメリカ、中国、ロシアですから、いわゆる大国です。そのような状況で本当の包括的な安全保障コミュニティーとか多国間安全保障コミュニティーのようなものができるのかどうか、原理的に何か違ったものになるのではないでしょうか。数はたくさん集まるかもしれませんが、より伝統的な外交手段の場となってしまうのではないかという気もするのですが、いかがでしょうか。
 
モチヅキ 
 日本がより大きな役割を果たすことに十分安心感を持って快適に思うアメリカ人は、アーミテージさんはその1人ですが、やはり少数派だとは思います。だからこそ、多くの人々が漸進主義を支持されるのでしょう。アメリカは日本がより多くのことをして欲しいと思いながら、あいまいで心が決まっておらず、試しながらゆっくり進むプロセスを重視するのです。漸進主義の背景には、あいまいさや不信感があり、結局、アメリカ人は常にアメリカが優位にあり、日本が従うという関係を望んでいますが、私はこのような関係を将来長く維持することはできないと感じております。北太平洋の話ですが、アメリカが北東アジア協力対話を考えていたときに、スーザン・シャーク国務省中国担当次官も想定するところは安全保障コミュニティーではなく、日、米、中、口のような主要国間の協調であると話していました。特に地域安全保障コミュニティーを私は標榜していますが、この中にはぜひモンゴルと2つのコリアとカナダに入ってほしいと思います。特に重要なのはカナダです。アメリカにとって共通価値観についての不明確さがないことに加え、カナダは多国間を標榜し、非常に積極的に国連のPKO等にも参加し、多国間主義や信頼醸成に取り組んでいる機関を多くもっています。カナダは規模的には中小国ですが、アメリカに対して知的に異なった考え方を言い得るため、話し合いのトーンも変わり始める可能性もあります。カナダに入ってもらい、真の意味での大国の協調が生まれることを望んでおります。
 
E 
 私はIMFやG7、蔵相サミットを担当しておりますが、私自身アジア通貨基金や先程おっしゃった二国間のネットワークに参加しておりました。私は安全保障の専門家ではないのですが、経済問題と安全保障というのは非常に結びついているような気がだんだんしてきております。日本が軍事的にアクティビズムに行こうという気はないし、日本とアメリカの安全保障の同盟は非常に重要だと思う一方で、ジュニア・パートナーとしての地位が経済的な問題にまで拡張してくることに対する反発が非常に強くなってきているのではないかと思います。接受国支援のような問題もありますが、例えば日米構造協議や日本の経済政策についてのアメリカの態度は非常に日本をジュニア・パートナーとして見ているような感じを受けます。それは、日本のマスコミの伝え方、受取り方にもそのような面があり、ヨーロッパの人が日本の経済政策について何か言っても誰も気にしないが、アメリカやIMFが言うと、あたかも占領軍がやった、指示されたというように思ってしまうのです。それから、例えばヨルダンなどいろいろな地域において、日本がやはりアメリカが軍事的に日本を守ってくれている一方で、お金は日本が出すという発想が日本側にも少しありますが、アメリカ側にも非常にあって、日本のフラストレーションを強めているのではないでしょうか。アジア通貨基金のような地域的な、本来何の安全保障と関係もない問題についてまでそのような文脈で捉えられているように思います。冷戦の中で西側に入っていかざるを得ないときと違って、日本を非常にジュニア・パートナーあるいは保護国という感じで捉えるということについては、軍事的なものはともかくとして、経済的な問題としても非常にフラストレーションが高まっていて、軍事的な問題ともだんだん反発があるのではないかと思います。結論から言えば、軍事的な問題はともかくとして、経済的な問題について日本がジュニア・パートナーというふうに、明確に自分たちがシニアで日本はジュニアであるという位置付けをやめることは軍事的な同盟関係の安定にもつながるのではないかと思います。
 
モチヅキ 
 ご意見には、ほとんど賛成です。共和党と私の意見が一致しないのは、彼らのイデオロギー、つまり、アメリカの覇権、優位性はアメリカと世界の利害にかなうと信じ、アメリカのスタンダードや価値観は押し付けられるべきだと主張する点です。私自身は覇権主義者でもありませんし、長期的に見れば、よい地域主義が積み重なれば安定度はそれだけ上がると思っております。アメリカの抵抗を気にし過ぎず、着々と進められることが私からのアドバイスです。アジア通貨基金に関しては、少々根回しが足りず、提案の性格も明確ではなかったことに問題があったのではないでしょうか。しかし、現在日本は中国とも話を始めており、ASEANプラススリーも活用され、うまく対応されています。アメリカはチャルマス・ジョンソンが言うように反発が出てくることを認識しておりますから、あまりご心配なさらない方がよいと思います。
 
竹中 
 ありがとうございます。まだ議論は尽きないと思いますが、予定の時間を過ぎてしまいましたので終わらせていただきます。本日はマイク・モチヅキさんにおいでいただきました。マイクはブルッキングス研究所からジョージ・ワシントン大学に移られてますます生産的に希望的観測を実現できるような力をもっていただきたいし、そうなっていくのだろうと思います。本日はありがとうございました。 (拍手)
[文責事務局]








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