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南インド・ドラヴィダ研究から汲み取る現代社会への視座
   〜日本そして世界〜  レジュメ
 
森尻純夫
1) 2001〜02年のインド
 ニューヨークテロ以後のインド・特に2001年12月からの緊張・国境線カシミール
インド国内: ニューデリー…首相官邸襲撃テロ(01.12)
       コルコット(カルカッタ)など…キリスト教会テロ(02.1)
       ニューデリー・ムンバイ…イスラム・モスク (寺院) 建設阻止(02.1〜2)
周辺地域: ネパール、マオ派による不穏行動・パキスタンの対米政治対応
       ・アフガニスタンからの原理主義者の流入
       ・バングラデッシュ、モスリムの原理主義への呼応、など
インドはすでに間接的には、戦争当事国といえる・カシミールは紛争要因を蓄えている
 カルナータカから見つめるカシミール・宗教/階級/地域共同体への理解
 非ヨーロッパ思考・グローバリズム・グローバルスタンダードヘの異議
 
インド全図 北に三分割されたカシミール、南にカルナータカ
地図下:民俗英雄マイラーラ物語を唱導する遊芸人ゴロア
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マイラーラの祭 上は祭礼の中心階層ゴロアたち、下は祭に参加したクルバ(遊牧民)族
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2) コミュニティ(共同体)と階級
事例1. 民俗英雄“マイラーラ”
 牛飼い階級ゴロアの妻取り物語
 第一の妻ガンギ アンドラプラデッシュ州との境界地域ティルパティ・チンナッパのシェッティ家の娘
☆現代のシェッティ氏族・・・11〜12世紀のシヴァ神宗教運動(リンガエット運動)
 カルナータカ中北部では12世紀以降リンガエット(最上階級)となる…リンガエットの祖といわれる氏族・・・現代・同地域では約60%がリンガエット(最上階級の空洞化)
 カルナータカ南部(マイラーラ信仰は希薄地域)ではバンツ
(カースト第三階級・地域多数派)
第二の妻クルバッタウァ カルナータカ北部の羊飼いの娘
      第一の妻との相克・・・和解と協同
      マイラーラ信仰の地域性・・・遊牧地域への浸透
第三の妻コマリ 北部カルナータカ ゴロア階層 (共同体) 一部ではゴウダ氏族ゴティの娘
      ゴロア・・・牛飼い、遊芸人 階級外層・一部は不可触民
      ゴウダ・・・主としてカースト第三階級ウァッカリガ共同体
   ・地域によって階級外
      ゴティ・・・石女の牝牛、の意・コマリは牛から生まれたという神話
 
民俗英雄マイラーラはトリッキーな侵犯性によって、階級を破壊し、社会の通風孔に、なる。下位は下位であるアイデンティティを以って上位を承認する。日本人の心性である“分”を弁える、に同様だが誇りを伴っている。
 

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ヒロイン・シリの祭 憑依して物語を謡う女たち
 
事例2.神格のヒロイン“シリ”
 シリという女と娘、孫娘、三代の物語…バンツ(階層)共同体の祖
 奇跡による誕生、政略的結婚、離婚、棄郷、異宗族男性との同居・第二夫人としての再婚、娘の結婚、孫娘の不慮の死、・・・・
A) 南カルナータカ、バンツ階層の女性による信仰・・・母系・農業民・地域多数派
B) 祭礼・・・シリが遍歴した古跡でおこなわれる・女たちが憑依して物語を謡う・物語は語り手によってニュアンスを変える(語り手の人生が反映)・女たちの癒し/アイデンティティの称揚/女性ソサエティの獲得/他の階層の参加
C) 宗教背景・・・ブランマ(地域独特の神格・ヒンドゥのブラフマンに似て非)ナーガ(蛇神・ブランマの従神・生命力を加持・民俗信仰)
D) シリ信仰・・・バンツ女性にはじまって、汎階級女性の信仰に発展
 
 ヒロイン・シリは、青森県のイタコ、各地の民間巫女、ゴゼ、朝鮮半島のムーダン (巫女)などに共通した女性コミュ二ティを成立させている。地域は特定、限定されているが、階層、階級は限定的ではない。
3) カシミールとカルナータカ
ヴィクラム・A・チャンドラ著「カシミールから来た暗殺者」伏見威蕃訳 角川文庫
Vikram A. CHANDRA 「THE SRINAGAR CONSPIRACY」原題「シュリナガルの陰謀団」
著者チャンドラ・・・ジャーナリスト・よく知られたニュースキャスター
  本作品は、著者はじめての小説;ドキュメントでありレポート
「インドは昔からさまざまな民族や血縁集団がパッチワークのキルトのように入り混じった国で、広大な亜大陸にはこの世のありとあらゆる宗教を信じるものがいて、ヨーロッパ大陸のすべての国を合わせたよりも多くの言語が使われている。・・・・」「そうしたパッチワークをつなぎ合わせているのは、インドという漠然とした定義−たとえていうなら、国旗やインド・クリケット・チームに対する忠誠、・・・・。しかし、遥かなる国境地帯では、アイデンティティなど簡単に崩れてしまう・・・・」
 
カシミールとカルナータカの違い
カシミールからの視座
 固有のコミュニテイ(共同体)の希薄化、あるいは喪失 (宗教・階層・地域・血族)長い紛争と不安定な情況・内陸国境地帯・経済的、社会的 (文化的) 自立感の喪失
 提言:ひとつの道筋(グローバルスタンダード)を受け入れず、自らの「世間」の思想によって「他者」「異質 (異文化) 」と対面することでなければならない。
 共同体は一様ではなく宗族、血族、地域、職能などが、多層に個人を取り巻いているものであることを認識する。
 共同体は、常に多様で、固有のものである。








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