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パネリストと聴衆のディスカッション
 
モデレーター: それでは、お約束どおり、少しフロアに開放しましょうか。秋山さん、どうぞ。元防衛次官ですから、頑張ってください。
 
秋山: シップ・アンド・オーシャン財団の秋山です。まず最初に、私は、基本的に田久保さんが言われた考え方に、だいたい足並みをそろえる者です。
 三つほど申し上げたいのですが、ハリー・ハーディングさんと田久保さんの意見は対立しているように見えるのですけれども、そうではないと思うんです。ハーディングさんが言われたように、トルストイの言う、似たような「普通の国」というのは、まずあるんですね。田久保さんは、われわれは似たような「普通の国」になるべきだということで、異常な国から正常な国になろうと。ところが、普通の家に入ってみると、いろいろな部屋があって、田久保さんは、たぶん右の奥のほうの非常に奥深い部屋をとろうとしているのだろうと思いますけれども、僕はもうちょっと違うし、ハーディングさんは、左の手前のほうの部屋のことをイメージしているのかもしれません。
 しかし、これはトネルソンさんもおっしゃっていましたけれども、日本の政策のアンサータンティに非常に関係があると思うんです。憲法を改正するとか集団的自衛権を認めるという場合に、何のために日本は何をやろうとしているのかというのは、必ずしもはっきりしていない。そこがアジアの国からも何か不安を持たれる一つの理由だと思います。
 ただ、普通の似たような家にまず入らなくてはいけないというのは、私は非常に正しい方向だと思うし、かつ、そのなかでどういう部屋を描くべきかという、ハーディングさんのおっしゃる話も非常によくわかる。これは両方やらなくてはいけないんじゃないかと思うわけです。
 それから、これは田久保さんの発言への私のコメントですけれども、シビリアンコントロールの話について、私の印象からしますと、えらく矮小化されたような話をされているような気がするんです。文官コントロールということを言われましたけれども、私の経験からしますと、10年から20年ぐらい前のことを言っているなという感じがしてならない。これは志方さんに聞いてもらってもいいと思います。今、防衛庁の中では、かなりシビリアンとユニフォームが一緒になって仕事をしているという実態がある。シビリアンコントロールについては、政治家とかオピニオンリーダーとか産業界の人、マスコミも含めて、日本ではシビリアンが軍事のことを知らなさすぎることが最大の問題だと思います。
 これはどうしても言っておきたいのですが、モースさんが、多少プロポガティブに言われたのだろうと思うんですけれども、アメリカのワシントンの雰囲気として、9月11日以降の1週間の日本に対する苛立ちなり不信感なりは私は非常によくわかるんですが、それが基本にあって、その後も日本に対して不信感がある、あるいは同盟国としてトラストできないというのが根っこにあるかなと私もちょっと思います。ただ、そこで中国のことを例に出されたので、私は、そこは違うかなと思ったんです。今度、アメリカは、インターナショナルソリダリティ、つまり、ロシア、中国、パキスタンなど、多くの国のサポートを得て、国際的な協調の中でアンタイテロリズムをやったと思うのですけれども、そのなかで、中国に対するアメリカの評価は、他の国のコントリビューションに対する評価と違うんじゃないかと思うんです。モースさんは非常に極端な言い方をされたのだと思います。この過程の中で、アメリカは日本を信用しない、中国とかロシアとかパキスタンを信用しているという言い方をされたのですが、私は、アメリカと中国の関係について非常に関心があって、そうではないんじゃないかと思います。べつに私は中国を敵視しているわけでも何でもないんですよ。だけども、9月11日のあとの米中関係は、いわれているようなグッドリレーションではないんじゃないかと私は思っています。以上です。
 
モデレーター: 田久保さんの基調講演に対して、アメリカの4人の方がコメントされたのですが、主として日米同盟関係の欠陥の指摘が非常に多かったわけです。やることなすこと遅い、信用できない、同盟の重要性も冷戦時代に比べれば低下した、となってくると、夫婦関係だったら離婚になっちゃうんですよ。もう一つ、では、どうしてお互いに同盟が必要なんだろうということも深めておく必要がある。欠陥だけ言うと、どうしたってこういう表現になるんです。日本語でやってもそうです。私がかみさんとけんかしたら、いつもこれですから。でも、どうして相手が必要なんだろうということを追求して、要らなければ離婚になるんです。だから、午後の第三部は、日米双方にとって、この同盟がお互いにどこが得なのかということも含めて討議していきたいと思います。
 
東: 自由党の東祥三でございます。4人のパネリストのお話を聞いていて、たぶん私もそこに座ったら、まったく同じことを言うのだろうと。ただ違うのは、私は日本の政治家ですから、それをいい方向に持っていくための視点の発言で、日本の国益を踏まえたうえでの発言になるわけですが、モースさんは、本当のことを言ってくださったのだと思います。そういう意味では、日本は、1977年のダッカのハイジャック事件を持ち出すまでもなく、超法規でみんなやってしまっているんですね。90年代における地下鉄サリン問題も、何も落とし前をつけていない国ですよ。その国がテロの問題に対して、ちゃんとできるはずがないんですね。それを何も考えてこなかったのは、基本的には政治そのものに責任があるんです。どなたかが、たぶん皆さん方が、そういうことを考えない政治家を選んできちゃったんですよ。だから、今の段階において、しょうがないんですね。
 じゃ、どうするかといったときに、いつも田久保先生がおっしゃっている視点でこの問題を考えていかなくてはいけない。そこに行き着くんだろうと思います。政治の意思がないのですから。戦略がないと、多くの方々がよく言いますけれども、戦略を持つ以前に、戦略を持とうとする意思がないのだから、戦略なんか生まれてくるはずがないと思っています。
 僕らがもし政権をとってとれば、今のかたちとは全然違うかたちになっています。アメリカと徹底的に議論すると思います。まず、今回、問題が起きたときに、いままで何もやってきていないのですから。10年前に湾岸戦争が起こったとき、国連の武力行使の決議が出ていながら、日本は何もできなかった。130億ドルという、今のレートでいえば2兆円近いおカネを出して、それでも全然評価されない。あれ以後、日本は何も考えていないんです。どうしたらいいかということを、国民がというより政治が考えてこなかったんですよ。
 先ほど、ボイドさんが言われましたけれども、国民が国防や外交について考えているかを、いまの日本の政治家は、自分自身の意見を持つ前に聞いてしまうんですよ。普通の一般の国民は身の回りのことだけで、外交とか国防を考えているはずがないじゃないですか。当然、政治家がそういうことを考えるのだろうと託してくれているはずですが、その政治家が意見を持っていない。今の与党の人と話を詰めていったとしても、詰められないんです。だれも決められないのですから。本当に恥ずかしいことなんですけれど、それが日本の政治の実態です。
 しかし、アメリカが日本と同盟関係を組んでいるのは、ちゃんとした国益があるからだと思います。日本にとっての最大の国益は、日本とアメリカが同盟関係を組んでいれば、どこかの敵が日本を攻め込もうと思ったとき、アメリカと決闘しなくてはいけなくなりますから、今の時点においては、だれも攻めてきませんよ。ところが、「それでいいんですか」と問いかけられているんです。50年間、在日米軍がずっと日本にいる。「それでいいんですか」と日本は問いかけられているんですよ。それに対して答えを持っていない。そこが問題だと田久保先生がおっしゃってくれているのだろうと思います。
 僕は、トネルソンさんに一つ質問します。僕はアーミテージさんとももちろん話しますが、アメリカの方々は、国際機構の脆弱性をいつも言われます。僕は、そのとおりだと思うんですが、アメリカは今の時点において超大国であり、どこの国と戦ったとしても勝ち抜くと思いますけれども、本当に国際社会の世論を無視して生きていけるんですか。今回のアフガニスタンの支援のときには絶好のチャンスがあったのではないか。つまり、世界中を説得しながら、国連の武力行使の容認決議を受けて出ることができたのではないのか。ところが、アメリカにとってみれば、自国が初めてやられたことですから、国連がやるまいが、ほかの国が動くまいが、アメリカの意思として、たたくと決断したんですよ。だからやっているんですよ。でも、もう一つの角度から見れば、国際連合において国際社会における安保機関は唯一の拘束力を持っているんです。それを利用しようとする方向にどうして動かないのか。そういう意味では、中・長期的にアメリカはある意味では非常に難しい状況に追い込まれてしまうだろうと、私個人の見解として思っています。
 日本でわれわれが政権をとったときに、日米間で、喜望峰まで一緒に行くかどうか、アメリカの政府要人と徹底的に議論しなくてはいけない問題です。日米安保条約にもそんなことは書いてないのですから。そういうものをちゃんと踏まえたうえで、徹底的に議論をする。それすら政府与党はやらないんですよ。アメリカに行って、アメリカのために何かやらなくてはいけないと。しかし、湾岸戦争とまったく同じ事態が起きてしまったじゃないですか。ブッシュ大統領が国会で演説して、日本のことをたいへんアプリシエートしているとしても、担当者は、今回貢献してくれた二十いくつの列のなかでポコッと落としている。日本は何もやっていないということを、アメリカは如実に示してくれたんですよ。どうして政府与党は怒らないのか。怒れないんですよ。それほど日本の政治は本当におかしくなってしまっている。だから、各界の方々が一生懸命おっしゃってくださるのですが、詰まっていかない。残念ながら、アメリカが相手にしているということは、今、たぶんアメリカは押しやすいですよね。でも、それはそろそろ僕らが変えていかなくてはいけないという思いで頑張っているということだけ、コメントしてお伝えしたいと思います。
 
モデレーター: ありがとうございました。ということです。もう一つ、いま政治の話を東さんがおっしゃったのですが、こういう質問が出ているんですよ。「普通の国」という日本語は、英語だと二通りに訳せるんですよ。「ノーマルカントリー」と「オーディナリーカントリー」です。そして、ボイドさんが問題提起したのは、オーディナリーピープル、市井の一般人、僕みたいな人が本当に安全保障のことを考えているんですか、国を守る気持ちがあるんですか、と。そのへんがわからなければ、憲法を改正するといったって大変じゃないの、ということをボイドさんはおっしゃったわけです。
 ボイドさんはヨーロッパの専門家だけれども、アジアの経験は若いときしかないから、それを教えてちょうだいとおいでになったんですよ。国を守る気概とか、憲法改正のための世論調査など、いろいろ数字があるはずなので、お持ちの方はそれを示して、ボイドさんのためにお答えになっていただけませんか。
 
モース: 世論調査なら持っています。お役に立つかどうかわかりませんけれども、2001年8月の毎日新聞によるもので、66%の国民が集団的自衛権に関しては否定的である。日本に侵攻されたときには40%だけが自衛隊を支持する。それから、2001年9月の日経新聞では、自衛隊がアメリカに協力するのに賛成しますか、イエス。それから、2001年10月20日、83%がアメリカの対テロ作戦に賛成で、日本が支援するべきだというのは63%です。2002年2月、64%の日本国民が有事立法に関しては慎重であるべきであると言っています。2000年11月22日、ブッシュの、これは何でしょうか、2001年12月10日、79%のアメリカ人が、日本の対応に対して好意的であると言った。ということは、アメリカ人は日本の対応を非常に評価して、支援をしていると考えている。しかしながら、9月11日以前の段階においては、日本人は日本独自の、たとえば自衛隊の行動に関しては、あまり支援しない。しかし、9月11日以降に関しては、若干変わったけれども、今年2月、64%は、疑いを持っている、有事立法に関しては慎重にと考えているということです。ですから、非常にアンビバレントな状況だといえると思います。
 
モデレーター: このポールの数宇のインタープリテーションが必要なんですね。これをどう読むかということです。
 私はモデレーターなので意見を言うことは禁じられているんですけれども、一言だけ言わせていただきたいのです。生易しい、生ぬるい、遅い、少ししかやっていないとおっしゃいますけれど、日米同盟関係が始まって、もう50年でしょう。その昔に比べたら、これでもかなり進展しているんです。「コップの中に水が半分しか入っていない」「コップの中に水が半分も入っている」と二つの言い方があるんです。もしも水が半分入っているとしたら、私は「半分しか入っていない」とは言わない。「昔に比べれば、よく半分入りましたね。昔は水は一滴も入っていなかった」と表現させていただきたいと思うんです。
 あまりペシミスティックにならないほうがいいんですよ。双方がペシミスティックになると、必ず終末は離婚ですから。というのが私の感想です。
 
トネルソン: 一つだけコメントを急いでしたいのです。世論調査に関しての意見ですが、日本の外交政策の世論調査がアメリカの外交政策に関する世論調査の内容と似ているとするならば、世論の動向を知るにあたって何の役にも立たないだけでなく、むしろ邪魔になるということを言っておきたいと思います。なぜかというと、設問がばかげているぐらい曖昧な質問になっている。たとえば「日本人はアフガン作戦を支援するか」というとき、支援の意味かよくわかりません。ありとあらゆる意味が含まれるということで、ばかげているほど曖昧であるわけです。あるいは、白か黒か、上がるか下がるか、という大まかな選択肢しか与えない。一方、人生において、世界において、そうやって白黒に切り分けられるものはほとんどないと思うんです。もしかして日本の世論調査のやり方は、アメリカのものと違って、非常に内容がいいのかもしれませんけれども、どうも日本もきっと同じような世論調査なんだろうなという気がしています。
 もう一つ、ほかの単語よりきわめて重要な単語がありました。それは“Will”という言葉です。またこの話に入ってしまうのは申し訳ないのですけれども、これはソフトウェアという言葉と非常に違っています。「ソフトウェア」という言葉を使うことによって、現実には非常に政治的な問題を技術的な問題に矮小化してしまうような気がするわけです。正しいソフトウェアさえ、コンセントに差し込むように、パッと差し込めば、日本の問題は解決しますというふうに聞こえてしまうわけです。しかしながら、これは「政治的な意思」の問題です。たしかにおっしゃるとおり民主主義は非常に時間がかかるし、曖昧なものです。しかし、うまくいけば、インセンティブさえあれば、民主主義は物事が先に早く進むものなのです。日本のソフトがないということは、要するに、インセンティブがあるということが人々に伝わっていないということを意味するわけで、だからこそこれだけ混乱した状態になっているのではないかと思います。
 それから、国連に関して、どうしても言わなければならないのは、アメリカが国連に加盟していて、場合によっては、湾岸戦争のようなときに、中程度には国際的に承認を得られたという感じになることもあるけれども、その役に立つ立ち方は非常に小さい。アメリカにとっては国連はほとんど役に立ちません。北欧諸国にとってみれば役に立つかもしれません。だからといって脱退しようと言っているわけではないのですけれども、アメリカの外交政策上、国連の位置は非常に重要になることもないということを言っているわけです。
 私は、「国際コミュニティ」という言葉には実体がないと思っています。意味がないフレーズだと思っています。共同体というのは、構成員がみんなお互いに愛情と義務を感じるようなものをコミュニティと呼ぶべきで、国際コミュニティというようなものはない。もしも国際コミュニティというような共同体が本当に存在していたとするならば、ワールド・トレート・センターが倒れていることはないと思います。ですから、そういうような意味のない言葉を使うべきではないと思います。国連は、アメリカにとって重要ではない。脱退するほどの重要性もないと思っています。アメリカの外交政策において大きな意味を持つ機関ではありません。
 
モデレーター: トネルソンさん、日本人もそう思っている人が多いんですよ。いま拍手があったでしょう。日本人は世界でいちばんの国連信仰を持っているわけではないですよ。そんなものは30年、40年前の話ですよ。
 
トネルソン: そうかもしれませんけれども、繰り返し繰り返し国際機関の話が出てくると、とくに日本の外交政策に関しての見解を読むと、国際機関重視、国連重視ということですが、それが実体を表していないということであれば、うれしいです。
 
田久保: いまのモースさんが挙げた世論調査は、有事法制が必要かどうか、国家安全保障基本法が必要かどうかと、こういう聞き方は問題があると思うんです。いつもこれは問題になるのですが、自衛隊があったほうがいいかどうかというのは、できればないほうがいい。有事法制がなくて済むなら、そのほうがいいですよ。この数字は世論調査で、あまり価値がないものだと私は思います。
 私自身が関わり合いを持った問題で申しますと、今から20年前に「改憲軍団」という本が出て、私は現役の記者だったのですけれども、そこに2〜3ぺージぐらい書かれて、三原防衛庁長官より右の現役のジャーナリストがいると書かれて、びっくりしたことがあるんです。右も左もないじゃないかということです。当時、福田恆存さんが、シンポジウムに出て「改憲を言おうと思う」と言われたら、親友中の親友が「福田、それだけはやめておけ」と言ったというのですが、今、世論調査で改憲賛成は70%前後にきている。これは軍事と違って、憲法9条だけに関わらないだろうと思いますけれども、憲法に対する考え方も、この10年間でかなり変わったということを、アメリカの方々に申し上げたいと思います。
 去年と今年、あるいはテロが起こってから今までの間にどう変わったか変わらないかと、こんなところで見ないで、もう少し大きなところで見て、大きな流れはゆったり変化していくということで、私は日本に住んでいるとフラストレーションを起こすのですけれども、アメリカから見た場合は、ゆったりと変わっていく。ただし、いったん変わった以上は、簡単には元に戻りませんよ、ということで少し安心していただきたいと思います。これはべつに楽観主義ではないと思います。以上。
 
モデレーター: 田久保さんに、モデレーターの言うべき総括をしていただいたので、ここで第二部を打ち切ります。そして、先ほど、第二部で話したことを、私がメモして皆さんにお配りするとお約束したのですが、こういう状況なので、第三部をどういうふうに進めるか、コーヒーブレークの間、考えさせていただきたいのです。そこで、第二部についての私の義務は免除してください。(拍手)
 
進行役: どうもありがとうございました。これから4時まで、約25分間ほどですが、コーヒーブレークにさせていただきます。また、第三部が終わったあと、夜にレセプションを予定しておりまして、お時間のあるかぎり、ぜひご出席いただければと思います。よろしくお願いいたします。








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