日本財団 図書館


第3回
「日本のマンガ・アニメーション、プロデューサーからの視点」
座長: 浜野 保樹氏 (東京大学大学院助教授)



ゲスト: ケン・デュアー氏 (元ワーナーアニメーション副社長)



委員: 鷺巣 政安氏 (日本動画協会事務局運営委員)

西村 繁男氏 (「週刊少年ジャンプ」元編集長)

掛須 秀一氏 (「ジェイフィルム」代表取締役社長)

森 雅之氏 (東京都杉並区経済勤労課長)

岸本 周平氏 (経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長)

酒井 正幸氏 (東京都産業労働局商工部観光産業課)

日下 公人氏 (東京財団会長)
 
2001年10月5日(金)
 
浜野 今、千葉市幕張で開かれています「シーテック」という旧エレクトロニック・ショーで、ケン・デュアーさんが講演されたのを機会に、こちらにも来ていただきました。ケンさんは日本のアニメーションの制作や買付けもしていましたので、日本のアニメーション業界にも非常に詳しい。それ以外にも、韓国やアジアの状況にも詳しいので、アメリカから見た日本のアニメーションやアジアの状況をお話ししていただきたいと思っています。
漂流する制作現場
デュアー ワーナーには1991年から10年と少しいました。最初は海外担当のマネージャーとして入社したのですが、5年前から制作を全部任されるようになりました。アメリカ国内の制作と、韓国やアジアのスタジオのすべての制作の担当で、副社長(バイスプレジデント)になりましたが、8月(2001年)の初めに思い切ってやめて、フリーのコンサルタントとプロデューサーのようなことを始めました。
 アメリカ映画の「マトリックス」は、ウォシャウスキー兄弟という若い2人の監督が制作しました。非常にアニメーションに興味を持っていて、それも日本のアニメーションのファンだということです。「マトリックス」の世界は、実写の映画やゲームに加え、オンラインのウェブサイト、コミックス、アニメーションがあって初めて完成するようなコンセプトを持っています。アニメーションに欠けていた部分があったので、ワーナーがバックアップして、「アニマトリックス」というプロジェクトで、2002年のクリスマスぐらいにDVDのリリース予定で今、制作をしています。
 これはオムニバス形式です。大体5〜10分ぐらいの、いわゆるショートと言われる短いものを9本集めて、各作品を日本の有名な監督に監督していただくという、アメリカでも初めてのおもしろいプロジェクトで進んでいます。
 今のところ、川尻監督、小池監督、森本監督、渡辺監督、前田監督等の非常に活躍されている監督に制作してもらっています。各監督によってデザイン、話のスタイルが違うので、その辺もまた1本1本が全く違ったスタイルで上がってくるので、それもまたおもしろいと、アメリカのほうでも話題になっています。
 私はもうワーナーをやめたのですが、ワーナー・ホームビデオのプロジェクトの一員として動いていますので、そのままコンサルタントとして残り、制作は2002年の7月まで続く予定になっています。
 9本のうち、ウォシャウスキー兄弟が書いたシナリオが4本ぐらいあるのですが、あとはデザイン、アニメーションのすべてを日本の監督に、シナリオから関わっていただいています。音楽の部分は最終的にアメリカで行いますが、日本の監督がいろいろスーパーバイズして完成していくということです。初めての試みなので、何とか完成させたいと思っています。
浜野 アカデミー賞の「映画芸術科学アカデミー」で、毎年11月14日にアニメーションのパネル展が開かれます。ディズニーで非常に有名だったアニメーターが遺産を寄附して、毎年パネル展をやっているのです。今年は「日本のアニメーション」という題名で1日パネル展が開かれました。「映画芸術科学アカデミー」まで日本のアニメーションをテーマにしたのです。来年、初めて長編部門がアカデミー賞の対象に入ります。日本の「ブラッド」とアメリカの「シュレック」がノミネートされることはもう分かっています。そういうこともあって、日本の情勢について、ある程度知識を得たいこともあるのだろうと思います。
 それで、ケンさんに、アメリカのアニメーション産業の現状を短く紹介していただいて、ハリウッドや日本のアニメーションの状況、印象をお話ししていただきます。
デュアー 私がワーナー・ブラザーズに入った1991年ごろ、その3,4年前からアメリカでも、「アニメーション・バブル」が始まっていました。その前、1984〜5年はアニメーション業界の状況が非常に悪くて、スタジオも倒産したり、監督やアーティストも仕事がなくて困っていた時期がありました。1988〜89年ごろ、ディズニーの映画で「ロジャー・ラビット」という、実写とアニメーションが混じった映画が大ヒットして、そのあたりからどこの会社もアニメに力を入れ始めました。ハリウツドのメジャーなスタジオもアニメ部門を設立してアニメーションを制作し、それにつながるライセンシング、マーチャンダイジングのビジネスに乗り出していました。それから3年ぐらい、アニメーションが伸びて、アメリカのマーケットでもアニメーションがあふれる状況にまでなってしまいました。3年ほどでアニメーション・バブルははじけてしまい、2000年、2001年は、この15年ぐらいの間でアニメーションは非常に悪い状況にあります。メジャースタジオも、それまではアーティスト、プロデューサー、監督たちを契約で押さえて、ほかのスタジオに行かせないようにしていたのですが、今は、どこの会社も制作をどんどん切るようになっています。
 と同時に、「ポケモン」がアメリカで大ヒットしたこともあり、特に、アメリカのテレビ局は、高いお金を出してアニメーションを制作するよりは、既にできている日本のアニメーションをなるべく安く買うという方向に、移ってしまったのです。もちろん、前から少しずつ入っていたのですが、「ポケモン」のヒットでどのテレビ局も日本のアニメーションを探すようになりました。少しずつ落ち着いてきましたが、やはりいまだにアニメーション制作に戻ってきていないので、日本のアニメーションを買っているという状況は続いています。
 日本のアニメーションがアメリカに入って来るようになる前から、業界から見た日本のアニメーションは評価が非常に高い状況でした。宮崎アニメとか、大友さんの「アキラ」とか、スタジオIGの「Ghost in the Shell 甲殻機動隊」とか、ハリウッドのプロデューサーも注目するような作品が来ていますので、日本のアニメーション技術はすごいと評価が高い。アメリカのアニメーターよりもすごい技術があるということは、ハリウッドのプロデューサーはもちろん、アニメーションの制作プロデューサーも、分かっているのです。しかし、どうしても日本と合作をというところまで踏み切れない部分があります。いろんな理由があると思うのですが、日本とアメリカのアニメーションの違いというところでいま一つなのです。「アニマトリックス」で一緒に制作することが始まっています。私としては日本のアニメーターとアメリカのスタッフと一緒に合同でつくっていくことを、5,6年、ワーナーの中で言い続けてきました。いろいろ議論して、何が一緒にできない最大の理由なのかを話し合っていますが、いまだに議論だけで、まだ分からない状況です。
 アメリカのディレクターが日本に来るときに、宮崎さんや押井さん、大友さんに会いたいというのは、これだけ日本のアニメーションがアメリカに入って来ていますので、制作、プロデューサーのレベルでは一緒に何かをやりたいからです。しかし、お金を出すスタジオの方が、果たして日本のアニメーション、アニメーターを使って制作したときに、アメリカでヒットするような作品を制作できるのかという疑問がまだあるのです。
 アメリカの放送コードは非常に厳しいので、アニメーションは、アメリカではいまだに子供が見るものと思われていて、ファミリー・エンターテインメントでないと誰も大金を使って作ろうとはしないのです。アメリカの映画界のプロデューサーはディズニーのアニメーションを見て育ってきている人たちが多いので、どうしてもそれと比べてしまう。これまで日本の代表作はアメリカで公開され、評価も非常に高い。しかし、経営的には、子供が入れない、ファミリーで見にいけないということで、日本のアニメーション会社と一緒に制作することが、なかなかできない状況になっています。
浜野 例えば、「千と千尋の神隠し」もCGはほとんど韓国制作ですし、「千年女王」というすごく良い映画ができましたが、それもペイントは全部韓国でやっていて、ワーナーもほとんど日本ではなく韓国で制作しています。
デュアー 1980年代、もっと前かもしれませんが、どうしてもアメリカ国内でできなくなったときに、最初に仕事を持っていったのが日本でした。東映もアメリカの仕事をしていましたし、東京ムービーもアメリカの仕事を取っていたのです。しかし、日本のコストが上がったため、韓国や中国に行き、今ではフィリピンです。また、インドもアニメーション・スタジオが増えていますので、そちらへも移っています。と同時に、韓国のアニメーション、アニメーターのクォリティーが上がってきた。特に、アクション物になると韓国のスタジオに出るようになりました。どちらかというとマンガっぽい、ディズニーっぽい動きとか、昔からあるワーナー・ブラザーズの伸び縮みのある、弾力性のあるアニメーションになると台湾のスタジオが強かった。結構、国によってスタイルが分かれています。韓国のスタジオは、日本の仕事をしていたこともありましてアクション物に強いのです。
浜野 ある情報によると、ワーナーが配給している韓国の3Dアニメーションが、韓国作品として初めてアメリカで視聴率ナンバー1になって、日本のスタジオがパニック陥っているそうです。
デュアー 「キュービックス」という作品です。韓国の「ダイゲン」という会社と、アメリカの「ポケモン」を購入した「ポーキッツ・エンターテイメント」という会社(ニューヨーク)の合作で、ワーナー・ブラザーズのキッズWBというネットワークで流れているのですが、非常に視聴率がよい。キャラクター・グッズもおもちゃ屋さんに行くとたくさん並んでいます。
 でも、技術的に言えば、日本のスタジオがパニックに陥ることは、決してないと思います。
浜野 企画まで韓国製の作品が視聴率ナンバー1になる時代が、こんなに早く来るのかと、すごいショックだったと関係者は言っています。
デュアー ワーナーにいるころは、よく韓国のスタジオ、CGのスタジオからデモテープが送られて来た。何本かはびっくりするようなクォリティーの高い作品はあったのです。この2年ぐらいでCGスタジオが確かに増えています。
浜野 2001年に米国で公開された「シュレック」が、すべてのジャンルで売上げ1番です。カッツェンバーグは、もう少しターゲットの年齢を上げてもアニメーションの市場はあると言っていたが、他の作品では失敗した。「シュレック」で初めて金鉱を掘り当てたわけです。日本のアニメーションが開拓してきたバイオレンスやセックスを参考に、少し年齢を上げてディズニーと住み分け、あまり競争のなかった部分をカッツェンバーグがやったわけです。それで、「アトランティス」には、タバコを吸ったり、血を出したりというシーンを初めて入れたんです。日本的なテイストを全部入れた。だから、アメリカのアニメーションも日本と完全に住み分けたために、日本がマーケットにしていた部分に進出したのではないかという感じがするのです。
デュアー 二手に分かれていまして、映画界の人間、アニメーション業界の人間は、そういう作品を作りたくてうずうずしているところがあるわけです。カッツェンバーグもそうです。アメリカでは、親の団体や学校に関係している団体などが非常に力を持っているので、業界は作りたいが、できないのだと思うのです。アメリカは、すぐに訴訟を起こす国なので、少しでもバイオレンスとか際どい部分を見せてしまうと、まずおもちゃは売れません。テレビだったら、テレビ局が訴えられます。例えば、子供がナイフで人を刺してしまったとかいう事件に関連していくと、映画会社はノータッチということになってしまうのです。ディズニーも、宮崎さんの映画がアメリカで公開されたときも、ディズニーのレーベルは出さなくて、「ミラマックス」というディズニーの子会社を通して公開したのも、その辺にあると思うのです。その辺はなかなか難しく、超えられない部分でしよう。
 ビデオはそれなりに出ます。でも、日本の大作が映画館で上映された本数は非常に少ない。
西村 日本の場合、その先兵的な役割をコミック誌が担ってきた。昭和30年代(1967,8年頃)は、雑誌マンガに描かれたスカートまくりなど取り上げられて、PTAなどで不買運動が起こるような状況だったのです。しかし、子供たちをいつまでも無菌状態の中で育てられるのか、周囲を見回しても、そういう状況はいくらでもあります。子供が読むマンガで、行き過ぎはよくないが、そういう部分も広げていかなければいけないという出版社側と、PTAや警察(青少年関係)などが討論しながら、こちらの主張をし続け、徐々に押し返しながら、少年誌の枠の中で大学生も読めるようなマンガを各誌が載せるようになった。そこからコミックの読者層の幅を広げていったのです。
 バイオレンスやセックスの問題は、テレビアニメにするときにもいろんな形で規制がかかってくる。ここまでは大丈夫だろうと、徐々にそれを広げていった状況があるので、劇場用アニメも大分変わってきていると思うのです。相当幅広く作れる形になってきたのではないかと思います。
アニメーターの青田買い
デュアー インターネットがすごく普及して、アニメーション・サイトは、アメリカでこの5年ぐらい、いろんな会社が出てきました。基本的にはネット上であればテレビ局のような規制は一切ないわけですから、みんな「待ってました」というような感じで、いろんなことをやりました。バイオレンスあり、非常に際どいセックスっぽいシーンなどです。基本的にはビジネスにつなげていくというところで、それに向かって進んでいったのですが、みんなインターネットでお金もうけはできないことは分かっています。インターネットで流すことで客層をつくり、これだけのファンベースがあるので、テレビ物にしたらいいのではないか、劇場用にしたらいいのではないかと試みたのです。しかし、最終的にはビジネスになるのはテレビ、ビデオ、劇場で、ネット上に流れているものは、カルト的な要素は非常に強くて話題にはなったのですが、イコール、ビジネスにつながらないということで、ほとんどのウェブサイトのアニメーションがなくなりました。日本のコミック、マンガから流れてきたアニメーションは、子供も大人も読む非常に幅の広いもので、もう40〜50年経っていますが、アメリカのマンガはいまだにコミックス、イコール、子供という考えが残っています。大人っぽいマンガを作ってしまうと、どうしてもアンダーグラウンドでしか伸びないというところがあります。
鷺巣 日本の場合もいろいろ変わってきています。例えば、東映が戦後初めて「白蛇伝」を作ったとき、オーソドックスなディズニー・アニメに匹敵するものと評価が高かった。松島トモ子を子役にして、1本劇映画を作って、そこに絵をはめた。ディズニーが「バンビ」で本当の鹿を使って制作したのと同じです。ところが、それからしばらくたって、「宇宙戦艦ヤマト」がテレビから派生して劇場用アニメになった。劇場用のアニメと違った形で出てきたわけです。学生運動が盛んなとき「カムイ伝」を、テレビ放映したのですが、劇場用にしたいという意見が出てきた。劇場用では、女の白土三平のヌードを出すわけです。それはテレビではないからできたわけです。
 確かに「宇宙戦艦ヤマト」をテレビ用から劇場用に持ってきたのはセンセーショナルだったと思う。太平洋戦争時、日本の象徴の「戦艦大和」を宇宙へ飛ばすのですから、アニメの技術はディズニーに匹敵しないかもしれないが、発想が素晴らしい。テレビ用から劇場用に変えるのは、「ドラえもん」や「ポケモン」もそうでした。テレビでは視聴率が低かった「エヴァンゲリオン」も劇場用にした。東映が初めから劇場用に作っていたのと質が違ってきた。
デュアー アメリカでも基本的には、いくら素晴らしいデザインで、素晴らしいアニメーションであったとしても、ストーリーがよくなかったら成功しません。日本のアニメーションが成功した一つの理由は、アメリカでつくる動きまではいかないのですが、ストーリーで勝負していることだと思います。「ポケモン」を見ても、今のアメリカのテレビ局は、日本から買って流せば当たるだろうという考えだけで、間違った買い方をしている。
 「ポケモン」は日本のアニメーションだから当たったのではないと思います。あれは非常におもしろいコンセプトだし、子供たちがのめり込んでしまうストーリー性があったから、あれだけ当たったと思います。マンガという部分もあると思いますが、日本のアニメの歴史を見てみますと、ディズニーのようにはお金を使えないが、ストーリーで勝負すれば続くと思います。私は小さいときに「巨人の星」が非常に好きで、よく見ていました。1球投げるのに2週間ぐらいかける部分がある。せりふとか、昔に戻ったシーンが出てきたり、ストーリーで勝負しようとするところで成功したと思う。それが今、アメリカで注目されているのです。
 アメリカのアニメーション業界も今、スランプに陥っている状況で、お金は使えないわけです。どう安くアニメーションを作ったらいいのかを、みんな考え、工夫しているところです。「パワー・パフガールズ」という作品は、今、日本のテレビで流れていますが、はっきり言って、アニメーションとしては動きが鈍い。でも、チャーミングな3人のキャラクターがいて、ストーリーも非常に簡単ですが、子供たちが興味を持つストーリーだから当たっていると思う。何10億円、何100億円の資金を使っても、ストーリーが良くなかったら当たらないと思います。
岸本 日本のマーケットで育ったアニメーターで、ハリウッドで働いている人はいますか。
デュアー 6人ぐらいいます。
掛須 1996年ごろ、ワーナー・ブラザーズが日本に来てアニメーターの青田買いをしようとしたことがありました。
 時期を同じくして「甲殼機動隊」を制作していたころ、完成してすぐ、私の知り合いを通じてジェームス・キャメロンが試写を見た。その試写の現場から私のところに電話がかかってきて、どの程度の予算で作ったのか、何人のメインアニメーターを使ったのか、メインスタッフのリストを送ってくれと言われました。メインスタッフのリストにマーキングをして、これだけの人間に会いたいと言ってきた。できればアメリカに連れていきたいという話でした。「甲殻機動隊」は、6人ぐらい相当優秀なアニメーターが関わっているわけです。日本でトップアニメーターと言われる人は10人程度というのが私たちの見方です。実は、トップクラスのアニメーターが作画監督もやっていて、それでクォリティーをぎりぎり維持している。オリジナリティーを持った能力の秀れたアニメーターは10人もいない。その中の6人ぐらいが「甲殻機動隊」に関わっていた。彼らを全部アメリカに連れていかれたら日本のアニメ業界はつぶれます。そら恐ろしい話です。そういうところをジェームス・キャメロンはきちんと臭いを感じとっていた。アニメーターたちには、すごく評価されているということで自信持っていいのではないかという話はしました。キャメロンが全部費用を持つからロサンゼルスヘ来てくれと言われたことに関しては、お断りしようということで、トップアニメーターたちを除いた8人のアニメーターがツアーを組んで行った。いきなりスタジオ内を案内して、帰り際には、いきなりお金の話が出てきた。月1万ドルで、アメリカでの生活を完全に保障するという。最初に3ヵ月間の仮契約をし、その後は18ヵ月の契約をするという。そのときは「スパイダーマン」を作ろうとしていたようです。結局、OKしたのは2人でした。2ヵ月いましたが、言葉の壁があって、コミュニケーションができない。それと、システムの違いにショックを受けて、引き揚げた。その後はそのチームからは、だれも行かせていない。
 最初はそういう形の展開でした。その当時、別なラインからも、アニメーターの調査で、誰がどんな能力を持っているのかを、遠回しに聞いてくる時期があった。1995〜6年ぐらいでした。
デュアー その頃は、ディズニーが長編で非常に成功していた。「ドリームワークス」がアニメ部門を、フォックスも長編部門をつくったりと、アニメーション業界は絶好調の時期だったと思う。ワーナーは劇場部門でアニメーションを2本作ろうとしていた。1本は60億円ぐらい使う作品。もう一本は15〜20億円ぐらいで、アメリカの劇場用のものでは、どちらかというとBクラスぐらいのバジェットの作品です。「ディジコミックス」というマンガ会社がアメリカにあります。そこの「ニュー・ゴッズ」という作品があって、宇宙の惑星が2つあって戦うという話なのです。こういうのだったら日本のアニメーターにもってこいだと、予算20億円ぐらいで、大友さんと「4℃」にプロデュースしてもらおうとしたことがあります。
 アメリカのアニメーターがいなくなってしまって、ワーナーなんかロンドンに「ワーナー・アニメーション・ロンドン」というスタジオまでつくった。ディズニーもオーストラリア、カナダのほか、フランスにも「ディズニー・パリ」というスタジオをつくった。基本的には、優秀なアニメーターが足りなくて、3年契約、5年契約で全部縛るわけですから、アニメーターが足りなくなった。自然と日本に目がいったと思います。
掛須 「ガイナックス」、「4℃」、「プロダクションIG」は、兄弟会社のようなものです。3社にいるアニメーターたちは、プロジェクトによって流動的に3社を異動している状態です。作品ごとに向き不向きを考え、自分の好きな作品を選択していきながら、お互いが協力し合うという体制です。優秀なアニメーターたちが、金銭による拘束ではなく、仕事がし易いということで在社しているわけです。他社は、社内にみんな抱え込もうとする。アニメーターは、自分の好きな系統の作品を選びたがる傾向があります。たくさん人を集めたが、一番不向きな人間を集めてしまったということは、プロジェクトの中でよくあることです。
デュアー 日本の監督が、いろいろなところからアニメーターを集めてくる状況をアメリカ人のプロデューサーは知らない。例えば、「エヴァンゲリオン」なら「ガイナックス」が制作したことだけを見て、「ガイナックス」に仕事を出せば、同じように質の高いものができるのではないかと、錯覚しています。
鷺巣 各種学校の東映アニメ研究所にも、金の卵がいるんです。目をつけて、この人は東映に入れようと思っていると、今の生徒はしっかりしているから、庵野さんのいる「ガイナックス」に行きたいと言う。メジャーに入ることではなくて、本当に小さくても、マイナーでも、自分の好きな会社に入ることだから、それはそれとしておもしろいと思う。
浜野 日本でアニメーションの仕事をする場合、良いところと悪いところがあると思うんです。もちろん、アメリカにも良いところと悪いところがあるでしょう。こうすればアニメーションの仕事をしやすくなるとか、ここを直したほうがいいということを率直に話して下さい。
デュアー 1つは、テレビ用アニメーションを作っていて、日本のスタジオになるべく仕事を出そうとするのです。日本と、韓国や中国のスタジオとの一番大きな違いは、監督が素材やコンテを見て、これは違うだろうと戻してくることです。何が違うのかと思って、アメリカのディレクターと話してもよく分からない。よく話を聞くと、日本の監督は、私だったらこういう風に見せると主張する。間違っているとか、合っているとかの問題ではなくて、こちらのほうが格好いいと言ってくる。アメリカのプロデューサーは、ああ、そうだなと思えば、ではそうしてくださいという話で簡単に済みますが、けんかになったりする場合も多い。最終的には、アメリカのそのプロデューサーは、うちが仕事を出しているのだから、黙ってやってくれということになります。
 日本のアニメーションは、歴史が長いので、すごくプライドを持っていますし、技術も高い。その辺から自分たちのアイデアがどんどん出てくるのだと思います。
 監督がわがままだと思えるのは、あまり言われ過ぎると嫌だし、何も言わないのも嫌だということです。クリエイティブな人間は、プライドが傷つきやすい人が多い。頑固な人になると、間違っていても、いや、それでいいのだみたいな話になる。言い方もあるのですが、けんかして、そのスタジオから、もう2度と仕事を出さないとか、あの監督とは2度とやりたくないということが起きてくる。
 日本の監督は英語を話せないので、どうしてもファックスのやりとりになってしまうのです。文章ですと結構きついことが書かれてしまいます。それが翻訳されると、また変わってくる。
 それは日本サイドだけではなくて、アメリカも、お互い理解し合うように気をつけないといけないと思うのです。そうしたトラブルは、日本のスタジオの方が多いようです。
鷺巣 アメリカと仕事をする場合、契約に少しでも違反すると、ペナルティーをすぐ請求してきます。その辺は徹底しています。
掛須 日本のアニメーターの特性として、テレビ・シリーズは、その絵コンテの中にある指定された秒数を厳守することが前提でないとシリーズは完成しません。劇場用アニメーションは、逆にそれをまともにやってはバカバカしいという傾向があります。つまり、絵コンテ通り描いているような発想力のない人はダメだといって、コンテ通りに描かない人がヒーロー視されることがあります。最後までそのシークエンスが上がらなくて、上がってきたら、素晴らしい。ただ、予定していた分量をかなりオーバーしてくる。ルール違反もいいところです。「人狼」という映画を監督した沖浦氏は作画監督としては超一流です。「甲殻機動隊」の彼のオープニング・シーンは、世界的に評価されている。ところが、最後の最後まで絵コンテを重視していない。完全に自分の独自の世界観に持っていって、絵コンテの秒数で8秒と書いてあるところを25秒もかけてくるという。これでは、映画づくりの根本はどうしてくれるということになりますが、その評価は高い。公開されたときに、結果として、ファンや周りのアニメーターたちが、すごく評価するのです。そうすると、それに追随したみんなが、それが正しいと、ヒーロー視する傾向はあります。
デュアー 素材を送って、「バットマン」の長編のビデオを作ったんです。制作費4億円ぐらい、長さ70分ぐらいの作品です。当社の監督は、テレコムでやっていただくことになり、素材を送りました。初めて背景もすべてデジタルで始めたプロジェクトでした。それまでは背景ボードを、こういう色並みでやってくださいという見本を送って、日本の背景の絵を描く人が、それを見ながら色を決めました。しかし、デジタルになると、デジタル情報で送ります。それをモニターで見るのですが、モニターの色は若干違います。上がってきたものが、考えていた色とは違うということで、急遽、日本に飛んだことがあります。夜の町の背景で、当社が送ったビルの影の部分は紫色をつけていた。テレコムから上がってきた背景は、もっと濃いブルーでした。背景を塗った人からは、夜に紫の影が出るわけはないというコメントが出てきた。確かにそうかもしれないが、これはマンガですから、紫色でもおかしくない。プロデューサーが紫の影が好きで、全部それで統一しているから、紫色にしてくださいと言って、延々3時間ぐらい、議論しました。アメリカ人のプロデューサーは、「日本人のアーティストは、真剣にとらえ過ぎる」と考えています。マンガを作っているのですが、どうしても現実に即した動きや色で見るのです。
 「甲殻機動隊」や「アキラ」がそうですが、日本の大作には結構、リアルなアニメーションがあります。アメリカのプロデューサーがそれを見たとき、「何であれをアニメーションでつくったのか」と、びっくりしていました。実写にすればよかったのではないか、ということです。
鷺巣 日本の場合、例えば、「アンパンマン」の企画を、やなせたかしさんが提出したとき、代理店は、クライアントとしてパン屋をねらおうと考えます。しかし、バイキンマンが登場することは、現実を考えるとタブーです。しかし、既成概念を壊すことでアニメのおもしろさがでてくるわけです。「ウルトラマン」だって、怪獣が出てきて、ヒーローが生きるわけです。だから、「アンパンマン」はやっぱり宿敵が出てこないとおもしろくないわけです。代理店はすぐ既成概念で考える。スポンサーがつかなくなるから、バイキンマンは登場させないでくれと言う。やなせさんは承諾しなかった。正義の味方がバイキンマンをやっつけるおもしろさがあるからです。普通、既成概念では、現実とは異なるからおかしいとなります。国民性の違いでそういうことはあります。
 「サザエさん」は、33年間も視聴率20%で来ています。初めは江利チエミが東宝でさんざん演じた実写ものを、なぜアニメーションにするのかと言われたんです。「鉄腕アトム」のように、アトムが空を飛んだり宇宙に行ったりするのに、アニメの企画で役者がさんざん演じたものをアニメにするのは邪道だと言うのです。それが33年間続いているのですから、不思議なものです。だから、僕はアニメの企画にはタブーはないと思います。
 「サザエさん」は、アニメではないと言う人もいますが、アニメにはいろんなジャンルがあっていいと思うのです。
マンガ・アニメの市民権
浜野 フランスに国立アニメーション学校ができたということです。フランス政府とポワティエ市が一緒になって、フュテュロスコープという新しいテクノポリスを展開した。そのコンセプトがポール・イメージ、映像の核になるということです。イメージはフランス語でイマージュ。それで映像中心のIT核都市をつくろうということのようです。アングレーム市がポール・イマージュの中心的な市らしい。コンセプトは産業、教育、エンターテインメントということで、国立アニメーション映像センター、バーチャルリアリティーのセンター、アニメーション美術館などが集中的につくられています。そこに1999年にアニメーション映画学校ができた。少数精鋭で、15〜20人の生徒を、全部無料でアニメーションについて徹底的に1年間教えるらしいのです。
 それと関係して、国立アニメーション映像センター、デジタル映像研究所などを設立し、アニメーションを集約しています。実写ではなくてコンピューター・グラフィックスとかCGIに関する産業となっています。パリから300〜400Km離れたところです。人材育成に関しては、日本の某新聞に、国立演劇映画学校をつくれという趣旨の投稿が出ていましたが、フランスで、こういったことをやっているということです。
 本来の「マンガ・アニメーションを東京の顔に」のテーマに戻り、ご提案、やり残したこと、これからやらなければいけないことなどをお話ください。
西村 マンガは、まだ数の上では市民権がとれたのか分からない。マンガは“一次コミックダラー”という呼ばれ方をされましたが、出版社にとっては稼ぐセクションではあります。出版社にショーウィンドーがあるとしたら、ショーウィンドーに飾るものではない。コミックが稼いできた金で他の本を作り、それがショーウィンドーに飾られるのだというような考え方が出版社の中にも8割方あります。依然として活字やアート系の出版物が本来的な出版物であって、マンガは、稼いでくるセクションに過ぎないという認知のされ方です。マンガに本当に携わってきた人間を除くと、まだ出版社の中に、そういう雰囲気が残っています。
 そういう状況の一方で、前向きに考えていこうという漫画家の人たちがどんどん出てきてくれるといいのですが、漫画家は、やはりその日その日の締め切りに追われていますから、大所高所に立って活動していくときに、旗を振る人はいたとしても、賛同して一緒に運動していく人は現役を離れて、仕事量も少なくなった人ぐらいに限られるわけです。その辺が非常に難しい。
 これからは、いろんな形でマンガがアニメと連動し、マンガそのものの形をきちんとした文化の一端を担うものにしていくには、まだまだ時間がかかる作業だろうと思います。
浜野 出版社の中でも、そういう雰囲気ですか。
西村 収益が4割、5割の部分を占めていても、マンガを出している出版社の代表であることに何か屈折したものを感じている経営者が6,7割はいます。社内でマンガを認めないことではない。表向きの顔としては、総合出版社の経営者でありたいというところがどうしてもあるのです。今、経営のトップになっている人は大体60〜70代でしょう。今の40代ぐらいの人がトップに加わってくれば、少し変わってはくると思います。出版社の売上げのトータルの中で占めるマンガの部分と、マンガに携わっている人間の数では、マンガ以外に携わっている人間のほうが多い。体制として、マンガに携わって成長してきた人たちが、相当強い意思を持って、マンガも活字と並立するくらい重要な出版物だと立ち上がってくれないと、将来的にも出版の顔みたいな形にはなり得ないだろうと、今のところそう思っています。
浜野 「バガボンド」の11巻、初刷りが150万部だそうです。私の知り合いでロボットの研究をしている人は、みんな手塚治虫のマンガを見て、アトムのようなロボットを作りたいと工学部に入って研究者になったというのです。すごい影響力がある。岩井俊二さんだって、マンガから映画に入った人です。
鷺巣 ひと口にアニメと言ってもいろんなジャンルがあるように、マンガもいろんなジャンルがあります。初めは、児童マンガから来た。それが少年マンガになって大人の読者が増えて、今、「モーニング」みたいな青年マンガになった経緯がある。アニメもそうです。
 ただ、宮崎駿さんのように、哲学があって、劇場であれだけブレイクすれば素晴らしいのですが、「ポケモン」にしてもテレビからスタートしている。
 例えば、「ドラえもん」や「サザエさん」をコンピューター、CGで制作した方がいい雰囲気だと思うのです。「サザエさん」も“伝統工芸を守る”わけにいかないから、いずれCG化されると思います。業界の流れです。だから、今から準備しておかないと、「ドラえもん」や「サザエさん」といえども、手づくりでは済まされないと思います。
 パソコンも、技術の発展は日進月歩で、リズムが速過ぎるんです。だから、我々の業界もどうなるか分からないのです。
 アニメといえども、いろいろなジャンルがあると思う。マンガ、コミックもいろいろなジャンルがあります。これからいろいろな形で連動して展開していくと思います。
浜野 選択科目と思いますが、近く高校か中学に映像という科目が取り入れられます。そうすると、映像の歴史、貢献した人の名前、技術などを伝えていきます。手塚治虫がストーリーマンガを作ったという理由で、尊敬する人が数多くいます。科目にアニメーションをきちんと入れようと、今活動しています。
 ハリウッドのシステムが非常にうまくできているのは、大学に、映像とか映画学の学部が400ぐらいあるからです。そこの主任教授はわりと高名なプロデューサーとか監督とかがなるわけです。もう疲れたから人材育成に回るという理由です。4万人ぐらいの学生が、みんなプロを目指して勉強するわけです。
 ディズニーのエリック・ゴールドバーグという人は、ディズニーのテイストをコントロールしてきた人です。今は辞めてユニバーサルにいます。彼は、必ず1人で決めて、その人が全体のイメージを決めるんです。
 彼が言っているのは、ストーリーから抜けても使えるキャラクターをつくれということです。
鷺巣 それはみんなが目指しています。番組から派生したおもしろいものをつくれば商品化できます。
浜野 例えば、「アラジン」から離れて「ジニーの冒険」というテレビシリーズができたりします。日本はストーリーから離れることができません。ストーリーを語るためのキャラクターだということです。アメリカは徹底して、「これはスリラーにも、コメディーにも、Tシャツにも使えるか」と企画を練りに練る。それを半年ぐらいやるらしい。
鷺巣 キャラクターは、本編を本当におもしろくして、そこから派生していくものでしょう。だから、本編が、おもしろくないと基本的にはだめです。
西村 マンガの場合、キャラクターが立つとか、立たないなどという言い方をします。まずキャラクターがあります。それが十分に受け入れられる魅力のあるキャラクターであれば、キャラクターを動かすことでストーリーが自然にできてくる。ストーリーがあってキャラクターがあるのではない。一番のべースはキャラクターだと思います。「ポケモン」というキャラクターさえあれば、いかようにも話をつくれると思う。キャラクターの中には、画像で見る部分とキャラクターの設定の部分、それが一番のべースです。
鷺巣 世界の市場に乗せるには、親子の愛情に関連したストーリーがいいようです。ラブロマンスは海外では売れないそうです。「ハム太郎」も、そういうものをねらってヒットしているようです。
浜野 「ポケモン」は、ストーリーと関係なしに切り出してもOKというディズニーが使った方式に、初めて近いやり方をしたと言われています。
掛須 「ポケモン」の制作者は、アニメーションを大学で研究しているから、ディズニーの歴史、プロデュース、制作方法も知っているし、そこそこ語れるのです。日本はそういったトータルなことを教えることところがありません。国立大学にアニメーション学科が1つもないのです。学部もなければ学科もない。
岸本 日本の大学できちんとプロフェッショナルを育てるところはどこもない。それは日本の問題点です。アニメだけの問題ではなく、日本の大学でプロフェッショナルを育てるところは、どこもない。
浜野 学校があると、人も、ノウハウも、ライブラリーも蓄積されていきます。例えば、東京芸大にアニメーション学科があったら、アニメーションを目指す学生は志望すると思うのです。専門学校しかなければ、残念ながら、東京芸大に入学できるような人は、どちらを選ぶかといったら、アニメーションをあきらめて油絵へ行く。アメリカにはUSC,UCLA、カールアーツもあるから、ハーバードでも入学できる優秀な人がカールアーツに行ったりする。そういうキャリアパスがありますが、日本は親がそんなところには行くなと言う。東大や京大に入学できる子が、アニメーションの専門学校には行かない。だから、すごくいい人材が入ってくるのを阻害していると思うのです。
日下 農林水産省が狂牛病で牛乳が売れなくなってきたと言っています。それは「美味しんぼ」が、昔描いたことだなと思い出しました。「美味しんぼ」が、牛乳はいんちき商品であるように描いて、それで農林水産省が怒ってつぶした。10年も前の話です。マンガは絶対に必要だと思います。新聞などの媒体では農林水産省に向かって文句を言えない。マンガだから言えたわけです。そのマンガが売れたから怒られたわけで、発表手段として大事だと思います。さまざまな発表手段が、この世になくてはいけないと思うのです。
西村 表現手段としてのマンガの影響力は、ものすごく強い。確かに今、読者層が広がったこともありますが、やりようによっては洗脳できるぐらいの影響力を持っています。2年、3年と時間をかけて、あるマンガを連載し続けていくことで、ある種の洗脳もできないわけではないと思ったことがありましたから、非潮怖い媒体ではあるのです。
浜野 ハリウッド映画は、それだけ見ていても社会情勢が分かると黒澤明監督は言っていました。離婚が増えたことは「クレイマー・クレイマー」を見たら分かるし、シングルマザーも増えた。常に時事的な内容を、分かりやすく描いています。誰でも映画さえ見ていれば社会情勢がわかるようにハリウッド映画は作られていると黒澤さんがよく言っていました。日本映画はそれから完全に離れてしまい、アートでしか生きていけなくなって、芸術だ芸術だと言うとも話していました。確かにそうで、日本の映画を見て、時事的なことは何も分からない。でも、ハリウッドだったら、常にNSAが危ないとか、そういうことでもすぐ映画にします。日本では、その機能をマンガが果たしていると思いました。
注目される新潮社の新雑誌
鷺巣 今度、新潮社が新しいマンガ雑誌を出して、漫画家に還元すると盛んに言っていますが、どう見ていますか。
西村 これから先の話で、雑誌をきちんと軌道に乗せることが大事なんです。新潮社は出版元になっていますが、編集自体は、「コアミックス」という編集専門会社が受け持つということです。そこに昔の「週刊少年ジャンプ」に関わった編集長クラスが3人ぐらい移っています。私の後輩が漫画家を連れて、会社を設立したのです。漫画家も出資して、制作会社を作ったところに新潮社がドッキングしたのです。新潮社はノウハウがないから、社外の制作会社でという形でできたのです。
 「コアミックス」は、制作集団ですが、将来的には人材の育成も考えて、ファンドみたいなものを設けるため、基金づくりをするということです。
鷺巣 そういう形は画期的なのですか。
西村 画期的でしょう。創刊したのは2001年5月ですから、まだ半年です。
鷺巣 漫画家も資本参加しているわけですか。
西村 何人かは参加しています。
鷺巣 売れたときは配当もあるわけですか。
西村 そういうことになると思いますが、これからです。週刊誌としては、スタートは成功していると思います。
鷺巣 ノウハウを持っている人たちだから、それだけのクォリティーがあると思って見ています。
西村 つくり方は一応できています。
掛須 「コアミックス」の「北斗の拳」の原さんと北条さんと個別に少し付き合いがあります。創刊前に、「どうしてこの本に参加するのですか」と聞きました。彼らが、「週刊少年ジャンプ」で描いていたころ、自分たちはこんなに売れているのにどうしてお金が入らないのだ。権利の問題とか、キャラクターも自分たちの許可なく使われていた。そういったことに対して憤懣があって、それで今回のプロジェクトに参加するのだと言っていました。
 皆さんが言っていたのは、新人の育成と、アニメーションと直接連動したいということです。自分たちで企画して、アニメーションを直接制作することを前提として参加していきたいということです。また、雑誌などの紙媒体はやめて、ネットで配信するアニメーションをもっと積極的に作りたいと言っていました。
 ただ、矛盾があります。本当はオリジナルでスタートしたいはずなのに、どうして「シティーハンター2」や「北斗の拳2」で始めたかということです。
鷺巣 知名度があります。
掛須 彼らは全然違った場を作ったのだから、これまでとは違う作品でいきたいのだが、仕方なくというところがあるようです。
 読者や周りの反応を聞くと、完結したストーリーを、無理やり掘り起こしているのは少しつらいかなという感じではあります。
浜野 本日の話でよく分かったのは、日本のアニメーションは現場の努力で発展してきたが、流通や外回りの部分をないがしろにしてきたということです。東京都も杉並区も応援してくれるし、今、ある程度、じたばたしないと、そう楽観はしていられないのではないかというのが私の意見です。学校作りなどを、できるだけ文部科学省に働きかけたいと思います。
鷺巣 我々の動画協会は、テレビで今60本ぐらいの番組を持っています。劇場用は、今度は実行委員会で資金を集めながら作ります。テレビ用は、この時間帯のこの枠で企画を出せと言われれば、10本ぐらいすぐ出る。その中で1つ決まると、それだけでありがたがる。落札すると、もう値段のことは後回しです。従って、制作して放送してから契約書を書く。もう決まっただけで喜んでしまうのです。そうしたことが30年間、ずっと続いている。だから、契約書も、すごく弱いものになるわけです。ひどいときは、2クール終わったときまで、まだ契約書ができていない場合もある。テレビ局がそれだけ強い立場にあるということです。








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