第1回
「全てのカギは文化の産業化」
座長: |
浜野 保樹氏 |
(東京大学大学院助教授) |
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委員: |
鷺巣 政安氏 |
(日本動画協会事務局運営委員) |
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西村 繁男氏 |
(「週刊少年ジャンプ」元編集長) |
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掛須 秀一氏 |
(「ジェイフィルム」代表取締役社長) |
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森 雅之氏 |
(東京都杉並区経済勤労課長) |
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岸本 周平氏 |
(経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課長) |
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中尾根明子氏 |
(東京都産業労働局商工部観光産業課長) |
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日下 公人氏 |
(東京財団会長) |
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吉田 義和氏 |
(東京財団情報交流部) |
2001年7月30日(月)
浜野 第1回会議を開きます。私からは、どういう趣旨の展開にしたいか問題提起もします。マンガ、アニメーションを東京の顔にして、東京ないし日本全体の魅力の向上を図ろうという目的で皆様方にお集まりいただきました。まず会長より一言ごあいさつをいただいて始めます。
日下 趣旨・目的は、今、浜野先生からお話があったとおりです。世の中の人は、マンガ、アニメを軽蔑していますから、それは直していかなければいけない。何でも理性や論理で考え、科学を信仰することが全盛ですが、それはほとんど終わりかけています。感性の時代、科学ではない直感力の時代、総合的な判断は分析からはできないとか、いろいろなことが言われています。そういった点で、マンガ、アニメ、イメージ、デザインなどは、この危機を救うぐらいの力があると思っています。しかも、日本の得意分野でして、どんどん成長し、世界を変えつつあり、大産業になるだろうと思っています。別に高らかにほえなくてもいいのではないかと思っていますが、高等教育を受けて頭の中が偏っている人には分かりやすく教えてあげなければいけないかなと、思っています。
競艇の売上げの3.3%が日本財団に入ります。そこで曽野綾子会長が、良いと思う事業に資金を出し、悪いと思う事業は断ります。幸い私たち東京財団にも、年間数億円はよかろう、使いなさい、とお金が回ってきています。よいことに使わないと来年からいただけなくなります。私が良いと思うことの一つに、マンガ、アニメに注目せよというのがありまして、その方面で頑張っている皆様にいろいろ教えていただき、日本全土に発信していきたいと思っています。
浜野 それでは、掛須さんから、アニメーションと関係する部分を中心に話してください。
掛須 「ジェイフィルム」という編集会社をやっていまして、収入の約7割はアニメーションです。アニメーション業界自体は25年という長い時間を経て、アナログからデジタルに移行しつつあります。今まさしく、その過程を初期の段階から見ています。フリーランスで長年やってきたものですから、ほぼ東京にあるアニメーション制作会社のすべてと取引きがあります。顔だけはやたら広く、情報も一番集まるポイントになっています。会社も東京・杉並区の環八と新青梅の交差点との角で、勝手に「ブロードウェイと八番街の交差点」と呼んでいます。アニメーション会社は、当社を中心にしまして、半径4kmの中に36社ぐらい入ってしまうほど近いところにあります。いろいろな人間がそこで交流したりする場所になっていますので、何か情報をお伝えすることができればと思っています。
森 杉並区には、アニメスタジオが集積していることで、それを地場産業の1つとして位置づけて、今後振興していこうと考えています。山田区政が2年前に始まり、区政全般に劇的な変化が起こりました。従来であれば、いろいろなものを平均的にやっていこうとする考え方があったわけです。昨年9月に、新たに区の基本構想を定め、産業振興の部分については、「みどりの産業」といって、地域の住環境に負荷を与えないで発展していく産業、中でも杉並に集積しているアニメ産業に着目して振興していこうという方向性を打ち出しました。今後、どういう形で具体化して振興していったらいいか、どういう支援がアニメスタジオに対してできるかを現在模索していますので、このような場を通じて、情報を得て、また杉並区の考えを対外的にPRしていきたいと考えています。
中尾根 今年の4月から、観光を新たに産業の視点に据え、産業労働局という産業を主体とした組織へ観光産業課を移管いたしました。
私たちは、東京を世界にPRし、海外の方に東京に来ていただきたいという思いがあります。そのためには、東京の顔を売っていく必要があるということで、日本の輸出産業に大きな役割を果たしているアニメーションを東京の顔として出していきたいということです。来年の2月に「アニメフェア」として見本市、コンペティション、イベントを行うことになっています。現在、アニメ制作会社、関連企業の方々にお集まりいただきながら進めています。
鷺巣 本日は動画協会の一員として出席しています。動画協会は東映、手塚プロをはじめ、20社ぐらいが加盟していますが、その中の1社「エイケン」の鷺巣としても説明させていただきます。東映動画は戦後初めて「白蛇伝」を制作してスタートしました。その後、テレビ映画としては、手塚先生が昭和39年に「鉄腕アトム」でスタートしています。「エイケン」は「エイトマン」と「鉄人28号」でスタートしました。それから「サザエさん」を送り出し、視聴率がいいため続いていて、32年経つわけです。宮崎さんの「千と千尋の神隠し」のような新しいことを話したいんですが、この世界も歴史があります。現在があって、未来があるものですから、歴史も含めて、きょうはいろいろ討論したいと思っています。
吉田 私は財団の職員でして、本来事務局にいる人間です。実は昨年度、私が担当者として、11回にわたって「マンガフォーラム」という研究会を運営いたしました。日本のマンガやアニメの問題点を洗い出したり、いろいろな側面から、この分野の研究を行い、いろいろ勉強させていただきました。私なりにいろいろな知識を蓄えさせていただきましたので、本日もさらに勉強の延長ということで、私なりに申し上げさせていただきたいと思っています。
西村 「週刊少年ジャンプ」の創刊からずっとかかわってきて、30年近く「ジャンプ」にどっぷりつかっていました。マンガがテーマということで参加しています。何かお役に立てるのかどうか心配していますが、過去の知識が必要ということであれば、ご披露することにします。
マンガ・アニメの”聖地”、東京?
浜野 昔、少し映画のお仕事を手伝っていました。今もアニメーションをつくるお手伝いをしています。
私はぜひ東京都や日本、できれば世界の方々にマンガとアニメーションの存在についての提案を幾つかしたい。
日本の魅力といったものが、あらゆるデータから低下しているわけです。私が簡単にワープロで打った、棒グラフを見ていただきたい。右側が1999年のGDP、総生産に占める観光収入の割合を示しています。データをとれる49カ国中、日本は49位です。アメリカも44位ではないかと言われるかもしれませんが、それでも0.8%あります。日本は0.07%で、0.1%にも達しない。海外からお客様に来ていただくパワーが全く日本にないことが、このデータで分かる。左側のデータは、産業のニーズに大学は応えているかを世界中のトップクラスの企業人にアンケート調査をした結果です。日本は49カ国中49位です。全く日本の大学教育は何の役にも立っていない感じのデータです。私も大学に勤めている者として、こう言われても仕方ないかなという気もします。
話は変わりますが、イギリスのイメージ調査をすると、「古い」というイメージになってしまう。例えば、ブリティッシュ・テレコムという電話会社がありますが、「BT」という名前に変えました。なぜかと言えば、「ブリティッシュ」は「古い」というイメージになるので、「BT」と社名を変えたのです。特に、電気通信の事業で「古い」と思われたら具合が悪いので、国の名前を捨てざるを得なかったのです。イギリスのブレア首相が、マーク・レナードという、シンクタンクの27歳の若い男に頼んで、イギリスのイメージ戦略を考えさせました。その報告書が「トレードマーク・ブリテン」で、イギリスのイメージがいかに悪いかを指摘しています。あらゆる事柄が、バックミラーを見ながら前を進んでいるような感じで新しいイメージがないという内容です。そこでイギリスの強みを探し、イギリスの魅力を向上させようという戦略を提案したのです。
我々も、日本全体の魅力を上げなければいけない。しかし、あれもこれもはできないので、一点突破、それも全面展開の戦略を構築する必要がある。それでは日本の強みは何か。やはりマンガ・アニメーション、Jポップ、ファッション、建築などになってきます。ファッションは、フランスやイタリアなどに押さえられていますし、建築は、我々ではなかなかハンドリングできない。そこで一点突破の穴をあける一番大事なものとしてアニメーションとマンガを考えているのです。
19世紀までは、衣食住、工芸品、アートなどフランスがすべてを牛耳っていました。天皇陛下が国賓を呼んでもフランス料理やフランスのワインを出す。日本の食物がまずいと国賓に伝えているようなものなんです。世界の貴族文化がフランスに右にならえしてしまったためにそうなったわけです。20世紀は、映画や音楽で、物ではないイメージでアメリカが支配した。現在、アメリカの輸出産業の1位がエンターテインメント・コンテンツです。私がハリウッドで最近よく聞くのは、アニメーションは日本人に任せるというようなジョークです。そういうジョークが出るぐらいに日本のアニメーションのステータスは高い。そのアニメーションも、結局はマンガという素材があって成立しているシステムなので、この二つはうまく連動していかなければならないわけです。ハリウッドがなぜ強いかというと、エンターテインメント性の強い昔物語などのストーリーを世界中から集めて制作するからで、それで世界の国境を越えられるんです。日本はマンガというストーリーの宝庫からアニメーションがそのストーリーをとって、非常に練り上げたコンテンツを出しているので、ハリウッドと同じシステムがとれることで強い。マンガとアニメが両輪としてやっていかなければならないと思っています。
今、個人的に私が問題として感じているのは、制作の空洞化が起こっていることです。例えば、「千と千尋の神隠し」は「IMAGICA」の推計で、最終的には200億円の劇場売上高を達成すると見られています。日本映画全体の劇場売上高が300億円くらいですから、いかに「千と千尋の神隠し」がすごいか分かります。タイトルロールを見ていただくと、CG(コンピューター・グラフィック)を手がけている多くが韓国人の制作です。アナログで培ってきた部分は、ストーリーテリングとかありますが、デジタル化は、実はなかなかうまくいかなくて、「スタジオ・ジブリ」の方に聞いても、韓国の方が安くて速くて上手だと言うんです。韓国に頼まないと、あんなに早くはできなかったと「ジブリ」でも言っていました。これでは空洞化が起こります。2001年の8月中にアメリカのワーナー社の日本での下請けは全部閉じてしまいました。ワーナーは韓国でアニメーションを100%制作することを決定しました。日本のデジタル化のインフラが遅れているからです。
「統計で見るマンガ・アニメーション」という資料があります。これは韓国政府が毎年「統計で見る文化産業」という小さな冊子を出していまして、その裏側に、全世界の市場を書いています。これを見ますと、出版とアニメーションはほぼ同じぐらいの市場規模です。アニメーションに関わるキャラクターや、テレビのアニメーションも入れて、約8兆円の市場規模があり、65%は日本で制作されたと言われていました。2000年の「アニメーションワールド」という専門誌を見ると、韓国に制作本数は抜かれたと書かれていました。「専門家の推計」と、注釈は入っていましたが、アメリカの専門家の推計でも、ずっと日本が制作本数1番だったが、韓国が抜いてしまったということです。日木の輸出産業がメッセージを伝える大事なコンテンツであったマンガを前提としたキャラクターを使ったアニメーションが、どんどん韓国に追い上げられている状態にあると思います。
ハリウッドが、なぜハリウッドとしてチャーミングか。ハリウッドに行ったって実は、何もないんです。「ハリウッド」という名前があるから、何となく映画をつくっているところに来た。ディズニーランドや、ユニバーサルスタジオがあっても、実際の撮影現場を見ることはできない。ただ、ネーミングがあり、映画をつくっている土地に我々が行っているという認識を持つし、山の上に、大きな「HOLLYWOOD」というサイン(アイコン)がある。残念ながら、東京のアニメーションのハリウッドに当たる部分とか、漫画家の方がたくさん住んでいる地域を呼ぶ名前がない。「アニメーションのハリウッド」と言っても何となく格好悪いし、嫌だなという感じがする。そこでチャーミングで、そこに外国人が来たら、「あっ、ここで世界のアニメーションの半分がつくられているのだ」ということが何となくじわっと感動できるような名前やアイコンが欲しい。ハリウッドは、どこから見上げても「HOLLYWOOD」の看板が見える。サンシャインのビルを見たってしょうがない。それが私の第一の提案です。マンガやアニメーションは、東京の地場産業です。特に、ストーリーマンガは手塚先生がつくられた遺産です。例えば、シリコンバレーの普通の民家に行くと、ここでシリコンバレーができたという表示がある。ヒューレットパッカードを創設したガレージを守るために、そのガレージを大金持ちが買って、壊さないようにしている。その民家に大きなクマのマークのある門があり、“カリフォルニア遺産”みたいな形で大きな石に「Birth Place of Silicon Valley」「カリフォルニア州認定」の文字を銅板に打ってある。これを見に多くの人が来る。そうしたものを作れないかということが第二の提案です。
そういった“聖地”みたいなものを認定して残し、東京の顔にしたいと思う。残すべきものは残しておかないと何もなくなってしまう。チャップリンが作ったスタジオなど“カリフォルニア遺産”というべきものがきちっと整備されて残っている。東京はマンガとアニメーションの聖地であるというストーリーをきちっと残す。人々を連れていくところがある、海外から来ても巡礼する場所があるような形にしてストーリーをつくると、ここがアニメのメッカであることが分かるのではないか。東京でぜひそういったことをやっていただきたい。私の家の近くに黒澤明が育ったところがあります。凸版印刷の本社の敷地内にあるので、「碑を建ててくれ」と何度も言っても、聞いていただけない。こういうシステムを作っていただくと、いろいろ行く場所ができるのではないか。行くたびに東京の認識が深まるのではないかという気がします。
それと、「コミケ」のパワーとかも何らかの形でうまく使っていく提案ができたらいいと思います。ソウル市が「アニメーションセンター」を作りました。マンガもやっています。韓国は、日本よりも小さなプロダクションがプロジェクトごとに集合・離散していくシステムなので、自分たちでは海外と交渉できないようなことを、市が代わりに交渉したり、ファンドの面倒を見たりするセンターです。非常にうまく機能している。
鷺巣 経済産業省からチケットをいただいて韓国のアニメ関連イベントに行きましたが、盛大でした。実は今から35年ぐらい前に、第一企画の関連会社で、第一動画が設立され、「黄金バット」という紙芝居のマンガの企画を立てて、韓国の下請け会社に仕事を出した。日本のアニメ会社は当時、「鉄腕アトム」や「鉄人28号」などをつくっていた。日本では技術者も少ないし、飽和状態でできなかったからです。それで第一動画のスタッフが韓国へ行って技術者を養成した。今や、もうハリウッドも、ハンナバーバラも全部、ダイレクトに韓国に仕事を出しています。中国の人も韓国の人も手先が器用なんです。日本のアニメーターも確かに優秀だけど、韓国は、この35年の間に経済も成長したし、技術者も成長しました。手で描く、鉛筆で描くアニメーションも成長したし、CGもコンピューターもすべて成長した。
アニメーションで博士になれる国
浜野 ソウルのアニメーションセンターは、「国際アニメーション情報の総括的集積」「アニメーション作品の周期的な上映」「差別的な企画展示場運営」「共用機械のレンタル及び管理」「創業保育室の運営」のほか、ベンチャーの創設、専門教育、産学協同プロジェクトなどを目的として掲げています。
米国のジョンソン元大統領が「アメリカ映画協会」を作ったときに、3つの目的を掲げました。当時、ベトナム戦争の影響でアメリカ映画の人気が落ちていたときでした。トレーニング(人材育成)、民間に任せておくとライブラリーがなくなるというのでアーカイブの創設と、それにリコグニション(認識)です。映画は文化であり、財産であるとともに、尊敬の念を与える仕事であるというので、リコグニションを掲げたのです。日本でも人材育成やライブラリーは出てくるでしょうが、問題は認識です。アニメーションとマンガが我々にとってかけがえのない財産であるというリコグニションを、この会で何とか高める戦略をきちっと立てたいという気がするわけです。
これは参考ですが、1998年頃に、アメリカが日本の国宝制度を参考にして、米国映画の保護のため、毎年25本の映画を“国宝”に認定する法律を制定しています。選定にはインターネットなどで一般の人から応募してもらい、動画連盟や映画協会などから選定委員を出して、20人ぐらいで毎年25本を決めるんです。作品を決める際に、何で「スターウォーズ」が入るのだとか大変な議論が起こる。それ自体がまた楽しいわけで話題になる。議論になること自体がアニメーションのリコグニションを上げるわけです。こういったことを国ないし東京で、世界中で見られているコンテンツとして、アニメーションやマンガのおもしろいイベントができないかということです。幸い東京都には写真博物館というアニメーションに理解のある施設があるので、何か使えたらいいという感じがします。
アメリカの「アニメーションワールド」(AWN)という雑誌が、毎年、夏学期と冬学期のアニメーションの学校の一覧を制作している。不備が多いんですが、31ぺージに日本の学校が出ています。デジタル・ハリウッド、日本電子専門学校とダイキンが出ています。何でダイキンが出ているのか分かりませんが、要するに大学は一つも入っていない。私の学生を使ってAWNのデータを調べさせたら、アニメーションで学士号を取得できるアメリカの大学は80、修士課程は37、博士課程は8あるんです。多分、日本の大学にはアニメーション学科もないし、アニメーション学部がある大学はゼロだと断言していいと思います。日本では人材育成のシステムがない。韓国は、5、6年前に、マンガ・アニメーション学科を国立大学4校、私立大学5校に政府の命令で作った。英才教育を施しています。今、ソウルのアニメーションセンターの中に、修士課程だけの大学院大学があって、監督レベルで宮崎駿さんのような、個人で名前の出せる作家を送り出せないかと、英才教育をしています。人材育成の面でも韓国に遅れをとっている気がします。
これまで日本のアニメーションとマンガが力を持って、世界に受け入れられてきたが、今アニメーションに関しては、曲がり角に来ているのではないかというのが私の認識です。
韓国政府は毎年、「文化観光白書」を出して、アニメーションの市場規模を年毎に分析して載せている。実情を把握しながら前に進んでいる。きちっとデータを踏まえながら前へ進む努力も必要と思っています。リコグニションを上げること、東京の産業自体をもう一度活性化させることを提案しますが、ゆっくりしていられない作業と思っています。
岸本 1月6日に行政改革があり、文化情報関連産業課が新しくできました。映像、音楽、ゲーム等々のコンテンツ産業を所管するということで、その中にアニメも入っているものですから、動画協会さんには大変お世話になりながら、今勉強を始めているところです。
浜野 「アニメーションワールド」の一番最新のホームページをプリントしてきました。この中のトム・シートーは、ハリウッドのアニメーション協会会長です。私の昔からの友人で、初めて「ルーカスフィルム」が制作するフルCGの映画の監督です。現在、全米公開された「Osmosis Jones」というワーナー社のアニメーション監督もやっています。日本に来たときに、たまたま私はジブリのミュージアムの評議員をやっていたため、見たいというので、連れていったら、その訪問記を書いてくれました。長い記事が「アニメーションワールド」のウェブ・サイトに掲載されています。それぐらい日本のアニメーションヘの注目度は高いのに、東京へ来ても連れて行くところがない。アニメーションの専門家が来ても、スタジオとかは連れていけるのですが、残念ながらほかに行くべきところがなかった。かなり切望されたので、建設中だったのを無理して連れていったんです。非常に注目度が高いと思っています。東京にきたくなるようなマンガとアニメーションのサイトがあれば、外人の方は必ず来てくれるのではないかと思っています。
本日は第1回目なので、なかなかプライベートではできないため、公的な部分としてはどうすべきかという点に絞って議論をしたいと思います。
アナログとデジタル化
掛須 今、デジタル過渡期と言われています。1997年頃に何人か集まって分析をして、将来どうなるだろうかという予測を立てました。そのときに2000年秋ぐらいにアニメーション・テレビの70%はデジタルになるのではないかと私が予測しました。他の人は50%以下と言っていましたが、ふたを開けたら69%と私の予測通りになりました。実は、2001年秋から2002年4月で、95%以上がデジタルになってしまうのではないかという状況が見えてきました。そこで、多分こういう問題が起きるだろうと、去年、予測を立てたところ、その通りになりつつあるのが、30コマのシート問題なのです。アニメーションはフィルムダイでスタートしてしますから24コマなのです。これが突然、テレビアニメーションで30コマで描かなければいけなくなった。最初は24コマで描いて、最終的に無理やり30コマにする。次にデジタルのソフトが30コマで展開しているので、必然的に30コマで描かなければいけなくなった。この2、3年でデジタルで始めた動画マンたちはみんな30コマで描き始めたわけです。24コマで習ってきた人間が30コマに展開するのは、理屈で分かるから移行が出来るんです。ところが、24コマのシートを描きなさいといっても描けないのです。つまりアナログからデジタルには移行できるけど、デジタルからアナログには戻れないということです。
危惧すべき状況としては、アニメーションのアナログ撮影の会社がどんどん縮小していることです。デジタルに転換している。例えば、アニメの線画台が、ここの半年で極端になくなったんです。驚くほどです。逆に言えば、劇場用アニメーションがデジタルになった。スタジオ・ジブリは全部デジタルで制作したが、反面ジブリがデジタルで制作してくれてよかった。なぜよかったか。アニメの線画台が減ったため、東京で同時期にアニメーションの劇場用長編作品が3本動いたら閉塞状況になるんです。動脈硬化が起きる。アニメーターの数から2本までが限界と言われている。さらに大きな問題は、その線画台がなくなる心配が出てきた。つい2ヵ月ほど前、「トラノサチ」が7台のカメラのうち2台残して処分した。この半年、1年で、多分、アニメ業界から線画台が半分は消えました。
鷺巣 BS放送になったとき、やはりフィルムがいいということで、35ミリの線画台はすごい量になったが、それは一過性だった。
掛須 一過性でした。今、HDは1080に合わせる、1kでいいということです。1kの画質をつくるのに、半年前のマシンパワーとコストで考えたらできないから、クオリティまで上がらない。35ミリフィルムで撮影し、それを全部テレシネかけてHDで納品します。それでダウンコンしてオフラインで編集して、オンライン編集でHD納品、もしくはもっとアナログ的にやれば、プリント、ネガ編までやっちゃえとなる。それからHDヘテレシネかければいいではないかというのが2001年3月です。
そのうち、マックのG4、ペンティアム3の966が出てきて、突然、マシンの機能が上がった。そうしたらこっちでやったほうが早いという話になった。フィルムでやると、結局、フィルム管理、アナログの状態、ラボの問題がある。現像所が5年ほど前から現像してくれなくなった。東京現像だけがやってくれている。だから東京現像にアニメーションが全部集中しているという状況がある。私達編集者は、それまでは夕方6時以降にフィルムは上がってこないので夜中は作業しなくて済んでいた。ところがデジタルになった瞬間に24時間作業になって、大変な状況になった。
それが結局、マシンパワーが上がったことによって、最後に全部HDアップコンでいくことになった。納品もデジベースクラスでつくっておけば、520の画素数を最終的に1080にアップコンして納品してくれればいいという話になった。580でも納品オーケーと、レベルが若干緩くなった。マシンパワーのアップと基準値の下がりで、デジタルでやることが2000年の10月ぐらいにはじまったら、本当にフィルムがなくなったんです。
デジタル部分のフィルムレコーディングの分はどんどん早く上がるんです。2000年とは全く逆の業界の状態ですが、アナログが全然動かないんです。彩色は全部韓国に出しています。それから、撮影台が減った。それに撮影監督のクラスまで、要するにキャリアのある人たちが全部リストラされてしまった。今、最高の経験者でも5年未満です。彼らが撮影している撮影技術ははっきり言ってひどいものです。アナログの純粋な撮影を必要とするセルアニメーションの劣化がものすごい。
浜野 アナログの部分も韓国のほうがいいわけですか。
掛須 そうです。アナログを、見切りだしたのが早過ぎたのです。
鷺巣 アニメの撮影だけではなくて、例えば、彩色マンも、CGでやれ、筆を捨ててコンピュータでやれと東映動画は求めている。そうすると、絵の具が売れない。絵の具店では、跡継ぎがいなくなる。東映は絵の具を全然買ってないわけです。希少価値で残ったものは白黒のラボじゃないけど高くなるわけです。今後は、すべてコストが高くなります。東映の劇場用アニメは、35ミリで撮影しているんでしょう?
掛須 そうです。ただ、東映化学がフィルムレコーティングを去年から本格的に立ち上げましたから、近い時期に東映動画も全部デジタルになります。
鷺巣 東映は、線画台はないし、アニメも平面版、紙と鉛筆を使わないで電子ペンを使ってます。今後の展開はどうですか。
掛須 フィルム編集をやる人がいなくなってきた。極端に減ってきている。2000年の1年間で、フィルコンを含めて廃業された編集部が3組ぐらいあります。当社のように、デジタルで先行したところには、仕事が集中し、1年遅れたところはもう転職がきかない状態になった。早く転職しなければならない状態にある。「高橋プロ」が2年先行して盛り上がったので、みんなそれに追いつけということで、アナログを廃業させていく。パニック状態に近い。
鷺巣 経済産業省も、盛んにアナログからデジタルに変えるように要請しています。長野に何かすごい設備ができました。もうとにかくやらなければいけないということもあったと思います。
掛須 私が、1995年頃から“オオカミ少年”のように随分早く騒いでいたときには誰も見向きもしてくれなかった。アニメーションは1998〜99年ぐらいからデジタルになると言っていたときに、業界全員からフィルムで培ってきたこの技術は、デジタルになるはずがないと総すかんを食っていたのです。
鷺巣 韓国がそこまでやっているのに、先生、日本の対応はどうなんですか。
浜野 過渡期だから、痛みはあるわけです。ではアナログでいいかというと、発注はほとんどが海外からです。
掛須 緩やかにデジタル化に転換する状況がなかなかつくれない。「プロダクションIG」は、デジタルチームを数人だけ特化させてクリエイティブを勉強させ、アナログを伝授する方法として、緩やかにチームでアナログの人と混ぜていくというシステムをとった。ところが、普通のところは、経営者がデジタルは得意ではないということで、専門家を集める。システムエンジニア、オペレーション関係に強い人たちを集めてきて、研究プロジェクトをつくる。
ところが、その中に数人入っているだけで、プロジェクトが動くのです。今まで何10人かで会議、ミーティングをしなければいけなかった。それがデバイスがよくなり、プレゼンがうまくなってきた。その結果は早くでき上がる。1本のアニメーションのテレビシリーズの企画立ち上げで10人ぐらいが半年ぐらいかけてばたばたやっていたものが、3ヵ月、5人でできるようなスピードになったのです。あとは動画、原画、背景などの仕上げをうまく行う体制だけつくれば、これまでの通り流れる。しかし、実は、全く錯覚で、インフラが整備されていない状態で、どこのプロダクションがどんな技術を持って、どんなソフトで、どんなマシンでやっているのかというのは誰もリサーチしないまま、「さあ、Here we go!」と行ってしまった。結局は、今ぼろぼろなんです。デジタル系のアニメーション制作体制の7割はひどい状態です。足元を見てみると、動画マンや原画マン、仕上げの人間も結局、確保できてないんです。つまり数字的に、このマシンを使って、このシステムでやれば、5倍から10倍の労力アップができると過信している。それでは、3倍として計算すればいいだろうと作業をしていたら、全然できてない。全く机上の空論でしかない。実態を把握しないで、みんながデジタルでやっているという強迫観念で動いている。これがこの半年ぐらいの傾向だと思っています。
浜野 私が一番怖いのは、日本のアニメーションは、セル画で手抜きをしたが、非常に日本的なアイデアとか職人技で日本のテイストになったわけです。日本のアニメ的なアメリカ映画のことを「アメリカンアニメ」って言うんです。それぐらいアニメは、あるテイストを持っていた。しかし、今度はゲームから出た、3Dでピントがぴーんと合ってしまった。ごりごりのアニメーションがアメリカでもどんどん増えた。それはゲームで、ほとんど100%韓国製。そんなピントが合ってつるつるのキャラクターを見ても、アイデンティファイできないから、人気がすぐなくなるだろうと思ったら大間違いだった。子どもたちはゲームを見ているから、そっちのほうがリアリティがあって、2Dの方が小さい子には、すごい違和感があるらしい。だから、日本のアニメって総称されていたテイストが、実は古くさいと子どもたちに思われた途端に、韓国にばーっとシフトした。韓国の呼び名が、実はアニメーションの総称になったりすることを私はすごく危倶している。まだ2Dの宮崎さんとかが頑張って世界に出ていっているが、「トイストーリー」や「バグズ・ライフ」とか、興行的には失敗したが、坂口さんの「ファイナルファンタジー」といった3Dが、実は、アニメーションだという全体のイメージができたら、日本のアドバンテージが100%なくなる。
鷺巣 3Dもアニメのカテゴリーだからいいんです。アニメそのもの、つまり鉛筆で作画している場合、日本の対応が問題です。例えば、経済産業省の梶山さんと「シンエイ」さんに行ったんです。経済産業省は、コンピュータ(CG)にすれば雇用も増えるのではないかと言う。「シンエイ」はもともと東京ムービーの「エープロ」がシンエイになったのです。シンエイの楠部社長は、下請けにアニメを出している。CGにすると、その人たちが失業するので忍びないから、「ドラえもん」が続いている間は下請けは切らない方針でいる。新しい企画はCGでできるんです。だけど、「ドラえもん」や当社の「サザエさん」などは、30年余も共に苦労した下請けを切ってCGに変えられない部分がある。手づくりがいいと私は言っているわけではないんです。東映に、「エイケンは伝統工芸をやっているんだ。いまだに職人芸でやってるんだ」って言われる。本当は今の世の中の流れの中でCGにしたいんです。でも、CGにすると首にしなければならない人も出てくるので、できない部分もあるんです。だから、「シンエイ」は苦労している。アナログだけの仕事をしていられないという現実もある。
掛須 今、変わり方が極端すぎると思うんです。例えば、撮影監督の存在意義はどこにあったのか。撮影監督がやっていたことを演出さんがアフターヒクスを使うなど、いろいろなソフトで、自分らの世界に入り込んでやれてしまっている。だから、トータルで見ていないで、部分で見ている。でも、撮影監督は、効率性や全体のバランス、カラーリング・コーディネーションとかで、全部見ているという前提があった。スタジオ・ジブリの奥井さんは、撮影監督として、カラーバランスや全体のシステムの色の統一性をやる人で、別のシフトを組み上げた。それで、ジブリの撮影部はスキャニングするチームと、編集デジタルの管理をするチームに分業化されていった。でも、ジブリには、いまだに1億円のスーパーカメラが2台ある。ローリングタイトルなんかでも、タイトル撮影のときには使っている。ジブリのすごいと思うところは、アナログの手法は必ず少しずつでもいいから残していくということです。全プロジェクトが社内でできる体制の中で、経験としてのアナログを必ず維持していく体制がとられている。
ジブリの体制は理想的だと思う。しかし、独立系の撮影会社で、これから新人が入ってきて、アナログの技術を教えつつデジタルもということはすごく難しいと思います。ただ、その辺をバランスがとれるような仕事の入りようはある。例えば、「ドラえもん」がそうです。テレビシリーズはフィルムで撮っている。でも、劇場用はデジタルです。両方やっているからバランスがとれていると思います。
他国人に握られる流通
浜野 公的な話に戻ると、アメリカは大学が一括研修を引き受けたりしている。例えば、カリフォルニア州には、多くのスペイン人がアニメーターで働いている。半年だけ働いて(アメリカで半年働くと1年ぐらい遊べる)スペインに戻り、またやって来て半年働く。すごくクオリティは高い。ただ、稼いだ金を持って帰るので、税金が同州に落ちない。それでカリフォルニア州は困っていて、州民をアニメーターにしようと、高校のときからサマースクールなどを開いている。だからキャリアパスとしてアナログからデジタルに転換するときのコストを、州とか州立大学が負担してあげるのです。会社を持たなくても転換できるクッションの役割を果たしている。ところが日本は全部会社が負担しなければいけない。
掛須 アナログの経験をしつつデジタルヘ移行することは、これは教育です。独立した会社で考えると、当社の場合は、映画も含めて全部編集ですから、アナログもデジタルもやらなければいけない。実写もあればアニメーションもある世界で、幅広くやっているので、いろいろな経験ができます。しかし、ある部分では特化せざるを得ない。そうすると、それに合った人材しかいらなくなってくるので、それ以外の人材を抱えられなくなる。要するにリミテッドアニメという世界です。進化したという意味では進化したのでしょうが、ある意味では制作コストとのバランスです。物価はどんどん上がっていったのに制作コストが上がっていかないから、枚数を減らさなければいけなくなった。枚数を減らさなければいけなくなったから動きを簡素化するようになってくる。それをカメラワークなどでごまかして、流れをよくさせようとした。効率性とか演出力によって進化してきたんだと思うんです。
アニメーションのコストで一番の問題点は、動画の1枚の単価料金です。これが全部の基本になっている。その後の背景などは、動画の金額が幾らになっているかという基準から全部できている。総枠のコストになってくる。デジタルだろうがアナログだろうが、いまだに1本のアニメーションの制作費は800万円程度という金額は変わっていない。そうすると、何を下げなければいけなくなったか。紙なくなりますよ、セルなくなりますよ、絵の具なくなりますよ、フィルムなくなりますよ、現像なくなりますよと、そこをまず引きました。それでは動画を増やしましょう。中割り動画もモーフィングを使えれば、もう少し柔らかくできる、効率よく早くできる。ペイントはアニモレタスを使えば通常の人間の大体50倍から120倍とまでいわれるスピードで彩色ができる。それで時間が短くなるとは言わない。人数が減らせるという。1週間という彩色の時間はとっておくけど、それまで延べ120人必要だった人間が2人で済むではないかという発想になる。
つまり、全部縮小化する方式です。アニメーションの基にある動画の発注金額をどう割り振りするか、その方式を変えようかというだけです。つまり、それぞれのパートにおける進化論は全く無視して、ある一部の進化に全部頼っている。ほかの部分を切り捨てていいから、そのシフトに乗った効率性にシフトしようというのが現状です。それがいいかどうかは問題点だと思うが、おもしろみも出てくる。例えば、先ほど言ったゲームのような3Dのなめらかな動きは、キャプチャリングをやって、データを放り込んで、1度モデリングすれば、あっという間にできる。生産効率はすごい高い。
浜野 そういった産業的な問題は、公的機関が手を出すことではないので、全体の幸せになるような部分で提案していかないといけないのではないか。細かなことは、会社のやり方もあると思う。
掛須 でも、どこかで公的機関がリーダーシップをとって、何か強いものを出さなければいけないことではないですか。アニメーション業界って、一番まとまりがない業界なんです。(笑)動画協会があって、エイケン京都の動画部があって、事業者協同組合があっては、全然まとまらない。
鷺巣 実態は確かにその通りです。実際、動画協会は、まだゆとりがある方なんです。アニメ事業者協会は、例えば、5000円会費が10,000円会費になったら、払えなくなって、みんな脱退するというレベルなんです。そのぐらいひもじい。仕事は過酷なわけです。東京都が、手塚治虫も宮崎さんもいるから、アニメを日本が発信したいといっても、プロダクションはひもじいのです。
掛須 だから、動画協会が中心になって顧問弁護士を入れて、契約関係を全部統一化しようとか、きちんとキャラクター権利を取りましょうというような動きもやっていた。それができたら私も入ろうと思っていた。しかし、不払い問題があったときに、「みんなで同時に訴訟を起こしましょうよ」と言ったものの、「テレビ局などからにらまれてはまずい」と結局、署名捺印を拒否した。それで個人会社が個人的に戦わなければいけなくなった。だれも共闘しなかった。空中分解です。
浜野 それは原因はあるわけです。例えば、日本でつくっているアニメーションの8割ぐらいが外国に行く。ほんとうはそんなに貧しいわけないんです。「ポケモン」が米国で80数億円を売上げたのに、日本にはそんなに多くは戻ってこなかった。逆に、日本で84億円売上げてディズニーに数億円しか払わなかったら、訴えられます。流通を日本人がやってこなかったらかです。
鷺巣 アニメの動画協会もアニメ事業者協会も20年以上歴史はあるんです。ワーキンググループで経済産業省の岸本課長と研究しているんですが、これからは地上波からブロードバンドまであらゆるメディアのコンテンツを持っている人の垣根はなくなると思うんです。確かにコンテンツ、つまりソフトは大事になるんですが、まだ、なかなかその辺がうまくいってないんです。
東映は徹底している。「ドラゴンボール」で800万円いただいたが、制作費は1,200万円かけていて、400万円の赤字をつくっている。付加価値を稼ごうとしているからです。要するに商品化、売れる物だけやろうという姿勢です。東映はその辺徹底しているから、動画協会の中でも東映は一番メジャーですよ。そういう意味では、一番先行ってます。
浜野 私が思っているのは、日本のアニメを何でアメリカの会社経由で韓国に売らなければいけないのかということです。アジアはアジアで、特にテレビのアニメーションは、ダイレクトに取り引きしたいって、最近言い始めている。いろいろなアニメーションを扱っているアメリカの会社は2社しかない。そこが独占的に扱っている。
「マンガ・エンタテイメント」と「セントラルパーク」の2社です。「火垂るの墓」もどちらかの扱いです。アジア同士だからと「ミップ」という会社でテレビ用アニメーションの売買をしようという意見もあるが、流通をみんな持っているからアメリカ人の会社のハンドリングになってしまう。韓国は韓国でやりたいから、ソウル・アニメーションセンターというくいを打った。それで、政府が代わりに、我々がやってあげようと、東京にも出張してきている。
利益と栄誉の欠乏症
中尾根 2002年2月の「アニメーション・フェア」(見本市)は、まさに海外に売りに行くだけではなく、海外のバイヤーの方々に東京に来ていただき、東京で商談をすることによって、優位性を持ちたいという狙いがあります。ですから、バックアップの体制も作りたいと思っています。経済産業省も、その辺の案件の問題も研究をしているでしょうし、そちらとも連携しながら、商売するには、まず自分たちの土俵に連れてこないとだめだろうという思いがあります。アジアの方にも今回来ていただきたいと思っていますし、8月のソウルでの展示会にも、ブースを出してPRしてきます。
ただ、「アニメフェア」は、第1回目ですので、非常に難しいだろうと思っています。アニメフェアの実行委員会には出版社、テレビ関係、ビデオ関係、アニメ制作会社の方にも入っていただいていますので、どのように運営していくか討議しているところです。
浜野 最初からアメリカ人の会社に来てもらって、オープンにしてやらないと邪魔が入ると思います。ただ、流通をやらない限り、日本のアニメーションは豊かにならない。「ポケモン」が今、アメリカで日本映画の興行記録を持っている。その前は、「Shall weダンス?」で、あれは30〜40億円売り上げたのに、日本には一円も入ってこないんです。周防監督のドキュメンタリー本を読んだら分かるが、「一円も入ってこなかったが、アメリカ人に見てもらってうれしい」って書いてある。黒澤監督も一円も入ってこなかった。みんなそうなんです。利益が上がっても、「宣伝費がかかりました」と言うが、そんなわけない。「でも、ヒットしたよ」と相手に言われたら、「ああ、うれしい」と言って、それで帰ってくるんです。アニメーションもそうです。外国で見られている、うれしいって、それで終わっていた。
鷺巣 ただ、「ポケモン」や「もののけ姫」にしても、アニメだから万国共通の部分がある。三船敏郎がグランプリをとったころは、世界で三船敏郎という役者が市場に乗ったが、今、東洋で売れているのはジャッキー・チェンぐらいです。その点、アニメは注目されていいんですが、実態はすごく大変なんです。「ポケモン」の暴力はいけないといっても、実際、向こうの子どもは喜んでいます。国民性の違いはあっても万国共通なんです。
浜野 ディズニーの比率とまでは言わないが、見られた対価はきちんともらわないといけません。
鷺巣 宮崎さんがディズニーの市場に乗せましたが、それはフロンティア精神でやろうとしたのではないですか。
浜野 「もののけ姫」なんか4スクリーンでしか上映しなかった。
鷺巣 結果論としては分かります。徳間康快社長が生存中の記者会見に行ったら、ディズニーの副社長、徳間康快社長、宮崎さんも来ていた。インタビューで記者が宮崎さんにマイクを向けて、「宮崎さんはディズニーが好きじゃないんでしょう?」と聞いたら、「あまりディズニーは好きではないが、世界の市場にジブリのアニメ作品は乗るから、徳間社長がディズニーの市場にビジネスとして乗せたんだ」と言っていました。両方にプライドがあるんです。宮崎さんはディズニーを尊敬していないって言っていた。
浜野 アニメーションはディズニーのブランドなんです。それがアジアの国々にとって、「アニメーションはジブリ」になったからです。
人の前では違うことを言うでしょうが、基本的には、二枚看板は嫌なんです。アニメーションといったらディズニーなんです。
アメリカはしたたかで、グローバルマーケットです。我々も意識して、きちっと海外の情報も得ながら対応していく必要がある。ただ、日本は情報交換がないんです。例えば、ユニオンの会長のトム・シートーに「誰を知ってるの?」と聞いたら、日本人を誰も知らないんです。それで私も日本のことを教えてあげたり、向こうも教えてくれたりします。そういう情報交換の場もきちっとやって、もちろん敵対するだけじゃなくて協力すべきところは協力しなければいけない。
吉田さん、マンガの勉強会での洗い出しはどうなっていますか。
吉田 おおむね、アニメ問題と同じような方向です。あと、著作権の問題があります。ですから、このご提案の内容で全面的にいいなと思ったのです。
冒頭に人数が足りないとか、意識が低いという問題がありました。アニメの聖地を残すような活動をやりたいという場合に、「税金のむだ使いだ」と言う国民や都民がいるわけです。そういう人たちにどうやって意識を変えてもらわなければいけないのかと考えています。例えば、東京に巨大なアニメのテーマパークをつくるとします。あるコーナーには、宮崎さんの部屋があったり、原画などの売買もできるようなテーマパークです。東京をマンガ・アニメのテーマパークにしようと言い出せば、「何だ、この人たちは」って、そこでまず注目されるし、「ああ、そうか。そんなに価値があるんだ」ということになります。
私の調べでは、京都市で今、サービス産業に従事している人は71%いるそうです。東京都でも70%と、ほぼ変わらない。両市ともサービス業で生きている都市です。それなのに、観光収入はお話にならないくらい低い。そういう状況に気づいてもらうきっかけとして、アニメ・テーマパークのような構想を打ち上げると、皆さんがそれぞれの分野で動きやすくなるのではないかと考えていました。
浜野 「アニー賞」という賞があります。アメリカでのアニメーションのアカデミー賞です。3〜4年前に宮崎さんが「ライフ・アチーブメント・アォード」(生涯功労賞)をいただいた。アメリカのゲームの生涯功労賞は4年前に始まって、第1号は宮本茂さんです。3番目が「ファイナルファンタジー」の坂口さんです。
アメリカのユニオンが決める「Hall of Fame」という殿堂にも、日本人が数多く入っている。宮本さん一人で「スーパーマリオ」7本で1兆円を売上げたときに、私は、政治家をはじめいろいろな方に、「国民栄誉賞をあげてほしい」とお願いしたが、審査にもかけていただけない。
ビートルズが何億円か売上げたときに、エリザベス英国女王陛下が勲章をあげ、貴族に列した。イギリスは、貴族の一番嫌うロングヘアーの不良みたいな男たちに勲章をあげた。日本は、宮本茂さんに何の名誉もあげないのに、アメリカのゲームの殿堂入り第1号になった。宮本さんはどっちに恩義を感じるかといったら、アメリカに恩義を感じて当然です。
漫画家の消耗品化が進む
中尾根 アニメフェアの中でコンペティションをやります。商業べースのアニメ作品を、アカデミー賞方式という形で1票を投じながら、優秀作品を選んでいこうというものです。新人育成として、ショートのフィルムを公募し、さらに都民の人気投票でアニメ作品を選んでいきます。それからアニメーションに対する功労賞があってもいいという話も出ていて、今検討中です。
鷺巣 文化庁が今から5年ぐらい前に、情操教育に関係あるからと、毎年5本ぐらいアニメ優秀賞で700万円ぐらい出したんです。それが廃止されたんです。
日下 都知事賞でもいいと思います。足りなければ雅子妃殿下賞とか、天皇賞でもいいのです。別に出さないという法律はないのですから、雅子さんが泣いて喜ぶようなマンガをつくればいいわけです。赤ん坊が生まれて子育てのマンガを制作するのも1アイデアです。
お話を伺っていて大変勉強になりました。レコグニションは、残念ながら格の高いところからおりてくる。マンガは、子どもの教育に良いとか、子どもを悪くするとか、全部子どもが見るものだ、というのはアメリカの受け取り方です。ところが、日本では大人が見るものだというあたりがかなり革命的だったと思うんです。
私は前からマンガは頭が良くなると思っている。頭の良い人はマンガを見る、マンガを描く。頭のよい人が考えていることは、文章では書けない。ついマンガで描きたくなると、昔からそう思っている。そう思っていると、経済学がだんだんマンガになりまして、需要曲線とかの曲線を書いて、シフトする。あれ、マンガです。口で言えば言えるが、書いたほうが早いから、黒板に書いている。そういう意味で、文章で書けないぐらいのコンテンツを出せば、学術書になるわけです。だから、「マンガ日本経済入門」はヒットしたけど、中身はただの経済学です。マンガでなければ描けないような経済学をつくってみたらどうでしょう。以心伝心の経済学です。日本型会社経営なんかをテーマにとれば作れるのです。例えば、Eメールが増えるとスキンシップがなくなる。これで日本の会社は悪くなるというようなことは、言葉で書いていくと、まだ用語がないんで無理です。社員のモチベーションやスキンシップはあります。これをマンガできちっと表現すれば、日本の主張にもなり、理論経済学会賞か何かもらってもいいと思うんです。
鷺巣 西村編集長の先輩で長野さんという人がいて、「週刊少年ジャンプ」は出遅れたんです。「エイトマン」が最初で次に「少年マガジン」、それから小学館の「少年サンデー」。一番出遅れたんです。出遅れたから、講談社と小学館にとられて漫画家を押さえられないんです。後に講談社が、「集英社は敵ながらあっぱれだ」と言ったのは、長野さんが、手塚治虫先生が生きているうちに「手塚賞」を設けて、新人漫画家の登竜門にしたからです。その後を継いだのが、西村編集長です。そして「少年ジャンプ」は600万部までもっていった。その話をしてください。
西村 マンガは、400字詰めで何枚も書かなければならない事柄を、1カットで表現できる手段だとは当初から分かっていました。「少年ジャンプ」は、創刊のとき、活字のぺージがほとんどなかった。全部マンガで表現できるはずだと、マンガと写真以外は、応募要項や目次を除いて活字のぺージはつくらなかった。「手塚賞」に関しては、確かに新人に頼らざるを得ない状況の中で、最初は新人マンガ賞をつくったが、弱いということで、手塚先生の名前をいただいた。それはそれでよかったと思うんです。
今、マンガ全体は、もうピークを過ぎたと思うんです。爛熟期というか成熟期に入ったとも言えないと思う。あまりに発表する場が増えたことと、数の論理みたいなことで、部数競争になっていきました。その片棒を担いだのは我々もそうです。それが落ち着いたここ数年、雑誌も単行本も部数が落ちてきている。これは、学齢人口がどんどん減ってきていることとも関係はあると思うし、携帯にとられたとか、いろいろな言いわけをするが、マンガそのものがおもしろいものと、どうでもいいものが混在し過ぎているからです。ある漫画家に言わせると、10%ぐらいのマンガ以外は、あってもなくてもいいマンガだという。絵はうまくなっているがマンガ作品としてどうなのか。それをほかの原作物として使えるかどうかという作品で考えていった場合に、かなり下降線の状態になってきていることが見えてきているんです。
鷺巣 長野さんが言っていたことでよく分かるのは、マンガと小説と、もう垣根がないんです。600万部売った頃は、小説を書いているのと同じぐらいの精神でマンガをつくっているわけです。そこに絵が入っていることだけが違う。だから我々がアニメをつくるとき、絵だけ動かしているのではないんです。基本的には、マンガにしても、アニメにしてもドラマツルギーがないとダメです。いかに脚本(シナリオ)がおもしろいかということなんです。マンガとか小説とか文学とかではなくて、とにかくおもしろいという意味は、人間ドラマがかけているかということだと思うんです。
西村 テレビアニメの功罪がもちろんあるのだが、ある時期からアニメーションになることで、読者層が低年齢化していくわけです。アニメから入ってきた人が、また新たに読者に加わってきてくれるということで、雑誌と単行本の売れ行きに結びつく。それを歓迎するという意味でアニメ化を働きかける。そうすると、漫画家もキャラクターによる収入から単行本の売上げまでが期待できることで意識するようになる。まず原作があり、そこからいろいろなものが派生してくるのを忘れていた。どうやったらこのマンガを早くアニメにできるか、ゲームになるだろうか、キャラクター商品になるだろうか、そういう利益優先型のところから制作しようという形が出てくるわけです。確かに、連載されて、すぐアニメの話が来て、ゲームになり、商品化されるときはいいのだが、アニメーションが終わると途端にそのマンガの人気もなくなる。単行本の売れ行きにも響く。そうすると、漫画家の寿命が短くなるわけです。再登場させるまでにはものすごく時間がかかる。あるいは、そのまま消えてしまうというケースもある。鳥山明さんが、1作、2作とも大ヒットが続いたというケースはほんとうに希有な例なんです。
そう言う意味では、漫画家が消耗品化していると言えると思います。鳥山さんも今はマンガをかける状態じゃない。消耗品化させたくないという思いは、私達が現場にいたときから考えてはいたが、コマーシャルベースで雑誌をつくらなければいけないということで、なかなかそれができない。それを今、新潮社と組んで、コアミックスが試みています。
鷺巣 あれは作家に配当を還元することなのですか。
西村 配当は、まだ実行していません。あるいは漫画家の救済になるファンドをつくることを考えているようです。原稿料の安い若い漫画家がヒットしていくことで、出版社側が結果的に暴利をむさぼることになる。だから、最初にぽんと原稿料をあげようということで、入選賞金5,000万円の日本で最大の賞金のつくマンガ賞を設定したりしています。結果が出るのは2002年以降になりますが、募集を始めています。そういうところで漫画家を育成して、息長く良い仕事をしてもらおうという動きは、傍流のところから出始めています。マンガを供給してきた大手の小学館、講談社、集英社などは、マンガが落ち込んで売上げ実績が落ちているので、かなりシビアな形で、マンガに対しても考え始めている。
鷺巣 要因としては、携帯電話に小遣いをいっぱい使うようになったとか、まんが喫茶とか、いろいろある。その中で、最近特に、ちばてつやさん、さいとうたかをさんが注目しているのは、“新古書店”という、古本屋のライセンスで新しい本を売っている本屋。新刊が出ると、すぐ買うよと言って、その1冊の本が読者の間をいったりきたりする。だから作家の人が再版で生きているのに再版が全然ないと、ちばてつやさんなんかもこぼしていた。でも、古書店のライセンスだから法的に対抗できないんです。
浜野 ある人が、アニメーションのことをいろいろ褒めてくれるが、アニメーションから世界を制覇したキャラクターはない、すべてマンガが原作だと言うんです。
鷺巣 そんなことはないと思う。ただ、アニメが西村編集長と私達と同じようで違うのは、私達は願いとしては宮崎さんのようになりたい。しかし、実際は東映でも、「少年ジャンプ」600万部の読者は、宣伝しなくても、ある程度視聴率に結びつく。そうすると、原作の知名度などが読者に受けているものは、それを出せばある程度成功する可能性があります。一方、全くのオリジナル作品は、知名度も何もない。しかし、宮崎さんはそれを「風の谷のナウシカ」で成功した。ロボット物では、サンライズが「機動戦士ガンダム」というオリジナルで成功させている。そういうのは我々の理想なんですが、スポンサーを説得したりするのに、「「ジャンプ」の600万の読者がいますよ」と言う方が、例えば、「ドラゴンボール」の方が強いわけです。だから、我々の願いは、宮崎さんのようにオリジナルでやりたいということになる。テレビ映画だけの企画を出したい、決めたい、それで、人気を出したいのは我々のアニメ界の願いなんです。ただ、600万部とか「少年ジャンプ」とかは知名度があるから、スポンサーがつきやすいし、売れるし、視聴率にも結びつく。実態はそういうことです。
行政の支援は「小さな親切、大きなお世話」か?
浜野 アニメーションは、特に東京でアドバンテージが多い。沖縄をはじめ全国でもいろいろなところが手を挙げているのですが、東京だと施策がやりやすいというか、集約の強さがあります。国が、東京で特化して何かやることは、難しいのですか。
岸本 東京の産業振興は東京都に頑張っていただけたらいいと思うのですが、もともとアニメーションやマンガは、行政と最もかけ離れている世界で成功してきたわけです。中央政府が何かしようなんて、おこがましいことは一切思っていません。そんなことをすると、ろくなことはない。行政がやるとどうしても「小さな親切、大きなお世話」になりがちです。少なくとも日本が世界に冠たるゲームやアニメに、およそ政府が口を出すなんていうことはやってはいけないと思っています。
ただ、浜野先生がご説明されていたことについての認識は全く同じですし、本日、ご議論されていることについての認識は私も中尾根さんも共有しているわけです。コンテンツをつくる力が相当落ちてきていることについては、何かを抜本的に議論する必要はあると思います。クリエーターサイドにインセンティブを考える必要があるのではないか。もちろん「武士は食わねど高楊枝」なので、内部からほとばしり出るように(芸術ってそういうものだと思いますが)、作りたいとか、やりたいとかいうことは無視できません。しかし、結局、お金がもうからない世界には基本的に人材は来ない。人材が来なければおもしろいものは作れない。携帯電話の費用が高いのではなくて、携帯電話よりおもしろいものが提供できなくなっているということだと思います。
アナログからデジタルに切りかわるのは、ビジネスモデルですから、そこのコストはもちろんビジネスでやっていただけばよい。ただし、アニメの世界で言えば放送局とか、マンガの世界で言えば、出版社は相当力が強い。その次に、広告代理店が、ファンディングの力があるがゆえに、当然力を持っている。
そうすると、川上であるはずの制作側、あるいはその先にも原作者がいるのですが、それぞれに権利関係が複雑ながら、今、多分インセンティブが薄いわけです。これを、抜本的に変えなければ優秀な人材がハリウッドや韓国に行くでしょう。
そこを何とかできないか〜が今、我々の悩んでいるところです。今、まさにエイケンさんをはじめ業界の皆さんと一緒にアニメ産業の勉強会を始めています。それからコンテンツ全体の研究会。制作側にお金が回る仕組みを何か考えられないか。それはおそらく著作権の契約の問題であったり、ファンディングの問題であったりします。制作者側がアメリカのように、自分のポケットにお金が入っていれば、すごく強いわけです。
それから、常識的に考えれば、すべてのコンテンツはデジタル化されるでしょう。コンテンツがデジタル化されたときに、コピーが不正にされないような技術をつくらなければいけない。できれば、それをモニターとして課金していくシステムがないと、ブロードバンドに誰もコンテンツを出してこないということになる。そうだとすると、そこの技術開発です。それをすべて民間の方にお願いするわけにはいかないと思います。そこは政府がお手伝いするということではないか。政府がやる仕事は非常に限定されているが、しかし大事なことはあると考えています。
我々は東京都と一緒の方向で努力していて、ぜひ2002年2月のアニメの見本市は成功させたいと思っています。べースのところで、お金が制作者側に行くような仕掛けはどうしたらつくれるか。今のところ、具体案は分かりません。
浜野 今、アニメーションスタンドが廃棄されています。日本で一番大きいスタンドを廃棄するので50万円で引き取ってもらえないかと要請がありました。何とか私の研究費で引き受けようとしたのですが、タッパが高すぎて置くところがない。それで、泣く泣く廃棄になった。どんどん文化財みたいなものが廃棄されている。誰かがどこかに集積しないと、伝統まで分からなくなる。「ときわ荘」もそうですが、世界ですごく受け入れられたアナログのアニメーションの歴史ですら、地上からなくなる可能性がある。
鷺巣 「ときわ荘」は、出版社などが、帝国ホテルのように、一括して明治村のような場所に保存することが望ましいと思います。
浜野 ハリウッドの人は、政府には何もお世話にならなかったという誇りを持っていますが、実は違います。情報収集は、ほとんどアメリカ政府がハリウッドに頼まれて、大使館経由でやっていた。世界のスクリーンの数や入場者数など政府が持っていないデータまで大使館が収集した。情報収集などは、日本の企業だと無理だと思う。公的機関の仕事ではないかという感じがする。
岸本 一般論で言うと、アメリカ政府ってその点はすごいんです。統計をとることは政府の仕事だと思っていて、非常によくやっています。しかも、デジタルで、すべてインターネットで検索できるようにまでしている。立派だと思います。我々日本政府も2003年から「e-ガバメント」(電子政府)をやるのは、それがモデルなんです。それはやりたいと思いますが、諸外国の膨大な情報を調べてこいと言われても、残念ながら人手がなさ過ぎる。大使館員の数が余りにもアメリカとは違いますので、今の体制では難しい。
浜野 アニメーションについても、戦略を立てたくてもデータがないから、相手とやりとりしても、やられてしまう。
岸本 情報共有はすごく大事だと思いますが、それをすべて政府に頼らないで欲しいと思います。何故なら、民間企業が持っている情報を共有することが全くできていないのに、政府に頼られても困ります。しかし、現実にインターナショナルビジネスをやっている人たちは、問題意識をもっていますから、それをやりましょうということになっているようです。
インターナショナルなビジネスについて、余りにもナイーブ過ぎる点については、そういう問題意識を持っていただくような働きかけは我々もしなければいけないと思っています。
それから、デジタル化に対しての問題意識を持っていただくにはどうすればいいかを研究することも、我々の仕事かなと思っています。
森 東京の魅力としてアニメを考えていくときに、デジタル化とアナログの問題があります。私どもも区内の中小のスタジオの皆さんとよく話し合うのですが、アナログにずっとこだわり続けたいという人たちがいます。デジタル化が時代の趨勢だと分かっていてもそう言っています。
デジタル化は、それは当然だと思うのですが、日本のアニメの魅力の中に、アナログの部分があり、これが本当にこのまま消えていっていいのか疑問がありますし、どういう風に技術をつないでいくのか考えます。アナログにこだわっているのは、アナログの技術にこだわっているだけではなく、資金面でデジタルの機器を導入できないとか、人材の面とか、そういう点をきちんと考えていく必要があるということです。文化として認識させるというお話については、全く地域レベルですが、杉並区にどうしてこれだけたくさんのアニメスタジオが集積しているかということを調べて、郷土史の視点から、杉並区の郷土博物館が取り組もうとしています。東京ムービーからの流れを引いて、どういう風なスタジオの系譜があるかなどを地道に積み上げていくことによって、文化として認識してもらえると思います。日本の文化として海外に示すこととは、レベルが違うかもしれませんが、地域レベルからいくとそういう視点で取り組んでいるというところです。
杉並区を中心に、三鷹市、練馬区、武蔵野市あたりにアニメスタジオがたくさんありますが、三鷹市からも声がかかり、4区市で、集まりをつくって、都や国などへ何らかの働きかけをつくっていきたいと考えています。東京の一部の地域が将来的にアニメの「ハリウッド」という名称はともかくとして、そういったものにつながっていく地域レベルの動きなのかなと感じています。
浜野 2002年か2003年に、高校か中学か分からないが、選択科目か何かで「映像」が授業に入るんです。
鷺巣 昔、水を通ってくる青コピーがありました。アメリカの東映のスタジオの1部屋にベルトコンベアが回っていて、黒いカーボン紙に、鉛筆で描いた原画のセルを重ねると一回りして複写されてくる。今はコンパクトで簡単にゼロックスで複写できます。
東映がビルを一つ買うぐらいの値段で青コピー機を買ってきたら、無用の長物になってしまった。我々の世界でも、セルにゼロックスをかけるのは画期的だったわけです。今はもうデジタル化で、そんなセルなんかなくなった。マニアの間で、セルが買えなくなるとか、影響はいろいろあります。
森 区内の中小のスタジオの中には、アナログの手法に非常にこだわっているところがあります。そこの意識改革が必要なのかもしれませんが、私たちには技術的な話は分からないものですから、本当にこだわっていくだけの価値があるものなのかどうかも考えてあげないといけないかなと感じているところです。
鷺巣 出版もインターネットとか、映像の出版物だってできているが、紙の本はなくならない。
西村 紙の本はなくならないと思いますが、変化はしていきます。コンピュータで絵が描けるといっても、やはり手描きの絵は残っていくと思うのです。いろいろなものが融合されて進化していくと思うので、新しい技術や手法を無視した形で、マンガの世界も古典的なスタイルだけではやっていけないと思います。
浜野 今後の日本のあり方で、文化の産業化が一番重要ではないかと思うんです。いわゆる先進国の中で、滅びる国と滅びない国を分けるとすると、文化の産業化が成功した国は生き残る。そう言うことを考えると、アニメーション、マンガ、ファッション、建築などは大事だと思います。