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5. 研究成果の活用例
 昨年度日本造船研究協会のSRとRRの研究に関して、研究成果の活用例を調べた(H12年度報告書第5章)。本年度は、日本海難防止協会と日本小型船舶検査機構の研究成果活用例を調査する。
5.1 日本海難防止協会の研究成果活用例
 日本海難防止協会は昭和33年8月に設立された社団法人で爾来40有余年、海難防止、海洋汚染防止に係わる周知広報、訪船指導また調査研究等を続けている。
5.1.1 超大型船港内操船に関する調査研究委員会
 昭和40年代、船舶の大型化は史上例を見ぬ速度で進み、それまで1万トンクラスの実体験に基づく技能に依存するところの多かった操船者は、眼高40m、長さ300mの巨体に戸惑いながらも貴重な実船資料が集積され、なかには経験則にまで発展したものもあった。
 
 学界における研究も超大型船研究に相応しい実験施設(例えば浅水水槽)が無い等の障害もあり、その研究は遅々たる歩みではあったが進んでいた。
 
 こうした状況から当面急務の作業として、これまで得られた成果、経験則を集大成して超大型船を操船する海上技術者、また運航に係わる関係者の実務遂行に寄与することを目的に委員会が設置され、調査研究が進められた。
 
 研究成果は「超大型船港内操船の手引き」として公刊され、海事関係者の間で好評を得るとともに、航行安全に大いに寄与した。後に海事関係図書を専門とする出版社より複製発行され、超大型船初乗船の操船者にとっては貴重なマニュアルとなった。
 
 概略の内容は以下のとおりである。
 
(1) 超大型船の主要目および運動性能
 就航中のDW40,000トン以上の船舶の主要目、係船設備、錨等の法定属具また公式試運転の旋回性能、逆転停止距離、停止距離(満載、バラスト)所要時間等を一覧表にまとめ、操船参考資料としている。
(2) 操縦性能
 超大型船の操縦性能の特徴(旋回性はよいが、針路安定・追従性が悪く、旋回中の速力低下が大きい)を解説するとともに、操縦性能に影響を及ぼす要素(速力、載貨物状態)、また操縦性指数について、表と図表を用いて具体的に示し、旋回圏や新針路距離が比較的簡単に把握できるよう記述されている。
(3) 制限水路における操縦性
 船舶の大型化にともない、従来の船型では十分余裕水深もあり、水路幅もあった港内や水路が相対的に狭くなり、以下の影響について解説されている。
1) 船体の質量と憤性能率の見かけ上の増加
2) 船体にはたらく横抵抗と抵抗モーメントの増加
3) 二船間の相互作用の増加
4) 船体沈下量の増加
5) その他
(4) 風圧および流圧
 超大型船の離接岸作業中は本船のゆきあしがほとんど無く、作業は曳船の支援により、風と潮流の影響が極めて大きい。運航の安全を確保するためには、これを正しく把握する必要があり、基礎的な計算方法を解説している。また実務者の利便をはかるため、図表等を用いて各種の条件下における超大型船の風圧力、流圧力の概略の値を示し、流圧による回頭偶力、風圧流について解説している。
(5) 接岸力とフェンダー
 超大型船の接岸はほとんどが曳船の支援によって行われる。超大型船は満載時には巨大な質量を有しているので、接岸速度が過大であると船体、係留施設の損傷、時には油流出事故の原因となる。また無用に過小であると効率運航に影響する。適度の接岸速力は、接岸力の性質、係留施設の構造、フェンダーの性質、船体外板の強度、およびこれらの相互関係で決定される。
 フェンダー特性を考慮して、接岸力の大きさを接岸速度から推算する方法を解説するとともに、実測による接岸態勢、接岸速力に基づいて接岸力を表に示している。
(6) 逆転停止性能
 超大型船の港内操船では、プロペラ逆転による減速と停止は安全確保のうえで極めて重要である。次の項目について解説し、実務者が乗船時に自船の当該性能の概略を把握できるようになっている。
1) 初速と停止距離
2) 載貨状態による停止距離の変化
3) 逆転時の一軸船の船首偏向
4) 逆転停止距離および時間、航走距離、速力変化等の略算法等
(7) 超大型船操船用曳船
 超大型船の離着岸操船はほとんど曳船の支援によるので、接岸作業に際してどの程度の曳船を必要とするか把握しておくことが重要である。曳船の推進形式による曳航力の違い、横移動時の水圧抵抗と風圧抵抗、またこれに応じた曳船の所要スラスト等を図表で示し、曳船船隊の所要馬力数を把握できるよう解説されている。
 
 他にも錨と係船設備、錨泊および係留法についても記述されており、超大型船の操船者、特に初乗船者にとって有用な研究成果となっている。
 
5.1.2 船舶の積載物による災審防止のための燭制に関する研究
 
 我が国の港則法には、その目的として港内における船舶交通の安全、港内の整頓とが定められている。そのなかで港則法上の危険物については、これを積載した船舶は港の境界外で港長の指揮をうけることとなっている。また危険物の種類は命令で定めることとされている。危険物は新規のものが次々に出現し、表記研究は「危険物研究委員会」と略称され、長年継続された調査研究の結果、次の項目が港長の行政指導などとして有効に使われている。
 
(1) 保安距離
 引火性危険物積載船への接近を制限する範囲は、日本海難防止協会の「タンカー荷役中の石油ガス滞留に関する調査研究」から、30メートル以内の海面としている。
(2) 危険物接岸荷役許容量
 荷役許容量は接岸荷役中、積載危険物の爆発、火災、流失、拡散等の事故が公衆の生命もしくは身体また荷役が行われている場所の周辺の住宅、その他の一般の施設に被害を及ぽさないように、荷役許容量を定めている。荷役許容量はまず当該岸壁の環境条件、すなわち旅客船バース、市帯地に近接しているバース等発災害時の影響が甚大また専用施設等環境条件により、岸壁をAからDまで区分し、危険物の種類によりそれぞれの岸壁の荷役許容量を定めている。
(3) 港則法危険物選定
 船積危険物は、IMOのIMDGコード改正に従って、「危険物船舶運送および貯蔵規則」および同告示が適用される。港則法上の危険物にこのすべてを選定することは、当該危険物積載船が全て港長の指揮をうけるため、船舶の運航に大きな影響を与える。そのため、港則法上の危険物は、性状、危険の程度等を考慮して選定されることになっている。危険物委員会では新規危険物の選定作業を行い、港内における安全確保、港長業務の利便を図っている。また危険物の種類、容器等級、量等による港則法危険物選定基準表を設定している。
(4) データ・コーディングシートの作成
 港則法上の新規危険物について、その積込、積替、また荷卸に係わる海上保安業務の効率化を図るため、品名、国連番号、化学式また物性、性状、危険性等を包含したデータ・コーディングシートを作成し、海上保安関係機関の業務の利便性を図り、港内における船舶交通の安全確保、港内の整理整頓に寄与している。
 
5.1.3 海上交通情報システムに関する調査研究
 
 東京湾と大阪湾など特に海上交通が輻輳する海域においては、船舶の大型化、高速化、および海域利用の多様化が進展していて、船舶交通の安全を確保するために海上交通情報機構(海上交通センター)が構築されている。
 伊勢湾(伊良湖水道)は、東京湾等と同様に船舶交通が輻輳し、特に伊良湖水道においては漁業活動が非常に盛んで海域利用の多様化が進んでいるが、現在十分な情報提供などのシステムが確立されていない。このような現状に鑑み、海上保安庁は、運用開始平成15年度を目標に伊勢湾海上交通センター(仮称)の整備を進めている。
 この調査研究は伊勢湾(伊良湖水道)における海域利用および船舶航行に関する情報の収集、提供ならびに航行管制のあり方等を検討し、海上交通情報システムの整備の推進に資するを目的として実施したものである。調査研究の概略の流れを以下に記す。
(1) 船舶交通環境の調査
 自然環境、船舶交通実態、漁船操業実態、海難の発生等について既存資料、ヒアリング等により調査し、船舶交通環境の現状を把握した。
(2) 航行情報の調査
 既存海上交通センターおよび当海域における航行管制、航行指導、情報提供等について調査し、現状を把握した。
(3) 現地調査
 伊良湖水道の現状を把握する目的で、委員等による現地調査を実施した。
(4) 運航者、海域利用者の意識調査
 当該海域を利用する運航者、漁業者に対してアンケート調査、ヒアリング調査を行い、意識、ニーズについて整理した。
(5) 情報提供業務の検討
 海上交通情報システムにおいて収集、提供すべき情報の内容、提供の方法等について、海域の特性、運航者、漁業者のニーズ等を踏まえて検討した。また外国船が増加していることから、外国語による情報提供についても検討を加えた。
(6) 航行管制業務の検討
 伊勢湾海上交通センター(仮称)において行われる伊良湖水道航路の航行管制のあり方について検討した。
(7) 考察および課題の整理
 海上交通情報システムの整備による効果について考察し、今後の課題を整理した。
 
5.1.4 プレジャーボート等の海難原因の究明およびその防止対策に関する調査研究
 
 昭和50年代以降、レジャー活動の多様化等にともなって、モーターボート、ヨット、遊漁船等のプレジャーボートを利用した海洋性レクリェーションが広く普及し、プレジャーボートの隻数も増加するとともに事故も増加した。事故防止対策を検討するために、昭和61年度に海難原因を調査した。
 
(1) プレジャーボート等の実態
 海洋性レクリェーションの種類、またプレジャーボート等の種類、隻数や係留場所等について調査した結果は次のとおりである。
【海洋性レクリェーションの目的による分類】
1) 回遊(クルージング):遊覧やスピードを味わう海上散歩的なもの
2) 釣り:磯釣り、ボートを利用した釣り、トローリング等
3) レース:ヨットレース等のレース参加やそのための練習
4) スポーツ:サーフィン等海洋性スポーツを楽しむもの
5) 潜水:海中の生物観賞等海中散歩的なもの
6) 遊泳、散策等:海水浴、潮干狩り、海岸の散策等
【プレジャーボート等の種類による分類】
1) 船舶とみなされるもの
・ モーターボート:推進機関を有するボート
・ 和船型ボート:推進機関を有し、和船の特徴を有するもの
・ ヨット:帆走艇(補助機関を有するモーターヨットを含む)
・ ボート:推進機関を有しないボート
・ 水上スクーター(ジェットスキー)
2) 船とはみなされない遊具
・ サーフボード:長さ2メートル前後のボード
・ セールボード:サーフボードに帆を取り付けたもの
・ 水上スキー:モーターボートにひかれ水上を滑るスキー
・ パラセール:モーターボートにひかれパラシュートをつけて空中に舞いあがる遊具
・ その他:スキュバーダイビング、シュノーケル潜水などの用具や遊具
 
(2) プレジャーボートの海難実態
【要救助海難】
 プレジャーボートの要救助海難数は、昭和56年に貨物船を抜いて、漁船に次いで2位となった(図5.1.1)。(平成12年には漁船を抜いてトップになっている。)
図5.1.1 用途別海難の推移
 
【海域】
 管区別に見ると、隻数が多く、プレジャー活動の盛んな第三管区が一番多く、次いで瀬戸内海を有する第六管区、第五管区、第七管区となっており、プレジャーボート海難の2/3を占めている(図5.1.2)。
図5.1.2 管区別プレジャーボートの海難発生状況
 
【シーズン】
 シーズン別に見ると、8月の海難が最も多く、初夏から秋にかけての海洋レジャーシーズンで多く発生している(図5.1.3)。
図5.1.3 月別プレジャーボート海難発生状況
 
【時間帯】
 時刻別に見ると、14時から16時の間にピークがあり、ほとんどが08時〜18時の昼間の時間帯に発生している(図5.1.4)。
図5.1.4 時刻別プレジャーボート海難発生状況
 
【事故原因】
 海難事故の種類を見ると、機関故障が最も多く(21%)、次いで転覆(17%)、衝突(16%)、乗揚げ(13%)で、この4海難で約7割を占めている(表5.1.1)。
表5.1.1 プレジャーボートの海難種類別発生状況
(単位:隻)
海難種類\年 55 56 57 58 59 60 61
機関故障 79
(20.3%)
78
(20.5%)
80
(16.6%)
110
(23.0%)
103
(24.2%)
84
(18.3%)
100
(20.9%)
転覆 82
(21.0%)
80
(21.1%)
135
(28.1%)
92
(19.2%)
82
(19.2%)
85
(18.5%)
81
(16.9%)
衝突 46
(11.8%)
53
(13.9%)
47
(9.8%)
61
(19.2%)
60
(14.1%)
54
(11.7%)
78
(16.3%)
乗揚げ 32
(8.2%)
28
(7.4%)
32
(6.7%)
50
(12.8%)
28
(6.6%)
97
(21.1%)
61
(12.8%)
推進器障害 32
(8.2%)
38
(10.0%)
31
(6.4%)
33
(10.5%)
38
(8.9%)
35
(7.6%)
43
(9.0%)
その他 119
(30.5%)
103
(27.1%)
156
(32.4%)
132
(6.9%)
115
(27.0%)
105
(22.8%)
115
(24.1%)
合計 390 380 481 478 426 460 478
 
【離岸距離】
 また海難の発生場所を見ると、港内および距岸3マイル未満で発生したものが94%と沖合での件数は少ない(表5.1.2)。
表5.1.2 プレジャーボートの距岸別・海難種類別発生状況(昭和60・61年)
(単位:隻)
距岸\年\海難種類 衝突 乗揚げ 機関
故障
火災 浸水 転覆 推進器
障害
その他 合計
港内 60 24 64 27 5 21 50 11 22 224
61 30 15 39 14 13 30 11 26 178
3浬未満 60 27 31 46 2 5 31 19 44 205
61 45 44 53 2 7 49 25 42 267
3〜12浬 60 3 2 10 1 0 3 5 3 27
61 2 2 6 0 1 2 6 9 28
12浬以上 60 0 0 1 0 1 1 0 1 4
61 1 0 2 0 0 0 1 1 5
合計 60 54 97 84 8 27 85 35 70 460
61 78 61 100 16 21 81 43 78 478
 
【機関故障】
 機関故障の原因は、機関整備不良が70%と圧倒的に多く、機関取り扱い不注意が14%で両者を合わせた機関取り扱い不良は86%に達する(図5.1.5)。
図5.1.5 機関故障の原因別発生状況
 
【転覆】
 転覆海難の原因は、気象・海象不注意が50%、操船不適切が35%、その他(避難時期不適切と荒天準備不十分)15%、人為的要因すなわち運航の過誤が94%と大部分を占める(図5.1.6)。
図5.1.6 転覆の原因別発生状況
 
【衝突】
 衝突原因は、運航の過誤が76%、不可抗力が24%である。運航の過誤は見張り不十分が70%、操船不適切が15%である。
【乗揚げ】
 乗揚げ海難の原因は90%が運航の過誤で、その内訳は船位不確認24%、水路調査不十分18%、見張り不十分16%、気象海象不注意15%、操船不適切11%、その他16%と多岐に及ぶ。
 
(3) 海難事例による事故原因の分析
 プレジャーボート海難の約60%を占める転覆、衝突、乗揚げ、機関故障の4海難を対象として、その原因を調査した。調査対象として使用した資料は、海上保安庁の海難調査表で、各海難に対する資料件数は、転覆50件、衝突76件、乗揚げ51件、機関故障81件である。
 各海難の分析結果は以下のとおりである。
【転覆】
単独集計で特に目立つ項目は次のとおりである。
1) 1トン未満の船舶が80%以上を占める。
2) 10年以上の経験年数を有する操船者が約25%の海難を起こし、1年未満あるいは1年から3年の経験者とほぼ同等の割合を占めている。
3) 風力、波浪の強いときは発生率が高い。
4) 操船不良が約半数を占めている(経験の少ないものが大半)。
気象・海象、経験年数と直接原因との関係を調べた結果は次のとおりである。
1) 操船不良は、風力の増加とともに増加するが、風力6〜8以上になると発生件数は減少する。
2) 操船不良と波浪も風力の場合の関係とほぼ類似している。
3) うねりの高い場合、事故例は増加傾向にあるが、うねりの無い場合の転覆が約半数を占めている。
【衝突】
 環境条件(天候、視程、発生時刻)、直接原因(見張り状況、速力)、操船者の経験年数と衝突海難の関係を調べた。
1) 天候は63%が晴れ、発生時刻は6g%が昼であり、視界良好時にほとんど(94%)の事故が発生している。
2) 直接原因は、見張り不十分が77%と圧倒的に多い。内訳は、怠慢が63%、作業中が14%である。トリム過大や誤認によるものは無い。
3) 速力過大が34%と多い。
4) 経験年数は10年以上が約半数、6年以上を含めると2/3となる。
 経験年数と見張り、速力過大とのクロス集計、ならびに見張り不十分と気象海象とのクロス集計の結果は以下のとおりである。
1) 見張り不十分の衝突海難の30%が経験年数4年以下、70%は経験年数9年以上の操船者によって発生している(5〜8年の経験者はゼロ)。
2) 速力過大の衝突海難も30%が経験年数4年以下、60%が9年以上の経験者によって発生している。
3) 見張りなしと気象・海象とはほとんど相関が無い。
【乗揚げ】
 直接原因の単独集計結果は次のとおりである。
1) 地形や船位の把握不十分が約1/3を占める。
2) 操船不適切、見張り不十分、故障等による航行不能がほぼ同数でこれに次ぐ。
3) これらの直接原因が重複して発生しているケースが同数にのぼる。
 環境条件を見ると、他の海難と同様に風力、波浪、うねり、視程等が悪い状況下において集中して発生していることは無く、比較的好条件下においても多く乗揚げ海難が発生している。クロス集計結果は次のとおりである。
1) 風、波浪の比較的強いときに故障が発生し乗揚げ海難に至っている事例が多い。さらにこの時地形に関する不十分な把握や操船不適切が重複しているケースも多くみられる。
2) 経験の少ない操船者では、不適切な係船方法によるための乗揚げ海難が多く発生している。
3) 経験の長い操船者が起こす乗揚げ海難の原因は、見張り不十分、地形の把握不十分によるものが多い。
【機関故障】
 機関故障の原因を機関種類別と故障系統別に調べた結果は次のとおりである。
1) ガソリン機関では、電気系統の故障が1位で38%、2位が燃料系統で22%である。ディーゼル機関では、逆に燃料系統の故障が1位で35%、2位が電気系統で27%である。どちらも燃料系統と電気系統の故障が60%程度を占める。
2) 電気系統故障の原因は、3〜4割がバッテリーの放電である。
3) 電気系統、燃料系統の故障とはいえない初歩的なミスが約25%強ある。
【纏め】
1) 転覆海難は風、波浪の大きい環境のもとで、不適切な操船が行われた場合に発生する。
2) 衝突海難の原因は、見張り不十分が圧倒的に多いが、その理由は視界不良や荒天によるものではない。特に長い経験を有する操船者が怠慢により、見張りを怠けて海難を発生させるケースが多く見られ、同時に速力過大のケースもある。
3) 乗揚げ海難は、悪天候と地形の不十分な把握、操船不適切等の各要因が同時に生起するとき発生する。
4) 機関故障は、電気系統、燃料系統の故障の発生頻度が高いが、バッテリー放電や燃料切れ等の初歩的ミスを無くせば大幅に改善される。
 
(4) プレジャーボートの運航と設備等にかんする運航者の意識調査
 プレジャーボート等の安全対策を検討するために、運航者の海やボート等に対する知識、安全に対する意識、またプレジャーボートの設備等や運航実態に関するアンケートを小型船の運航者を対象に実施した。
 調査は、各管区海上保安本部を通じ、海上保安部署、小型船安全協会、海上安全指導員およびマリーナ関係者の協力を得て実施した(総配布数10,000、回答数2,098)。
【運航している小型船舶】
1) 船の種類:モーターボート39%、和船型ボート31%、ヨット12%
2) 船の所有者:本人所有81%、グループ7%、法人7%
3) 係留場所:有料係留地44%、無料係留地44%、自宅の庭が4%
4) 船の大きさ:6〜8m(35%)、8〜12m(29%)、4〜6m(27%)
5) 船体の材質:FRP90%、木製8%。
6) 機関の形式:船外機44%、船内機36%、船内外機18%、無動力2%
7) 船齢:4〜6年(29%)、1〜3年(28%)、15年以下が9割ちかい
【使用目的・時期・場所等】
1) 目的:釣り71%、クルージング18%、レース4%
2) 曜日:土曜・日曜61%、不特定30%
3) 季節:夏78%、秋14%
4) 1回の連続使用時間:3〜7hr(57%)、1〜3hr(17%)、7〜9hr(12%)
5) 年間の延使用日数:全ての区分が10%程度、100日以上は11%
6) 航走水域:岸から5km以内(44%)、10km以内(29%)、20km以上(6.4%)
【出港前の気象・海象状況の把握および船体・機関の点検状況】
1) 天気予報聴取:必ず聞く88%、聞くこともある10%
2) 天気予報入手方法:テレビ54%、ラジオ21%、電話14%、新聞、マリーナ掲示等
3) 天候による出港中止・延期の理由:強風55%、波浪37%、雨3%、霧3%
4) 使用直前の点検:経験による点検64%、チェックリスト点検25%、しない5%
5) 備品等の保有状況:救命胴衣99%、海図57%、機関関係予備品・修理工具93%、ラジオ59%
6) 航海計画の連絡先:家族54%、マリーナ管理者29%、友人7%、海上保安庁1%
【出港後】
1) 航法等の認識度(「知らない」または「聞いたことが無い」割合):
 海上衝突予防法12%、港則法14%、海上交通安全法14%  (海上交通規則を知らない人が操船にかかわっていることは問題)
2) レジャー中の速力(通常の航海速力)
 21〜30kt(15%)、31kt以上(1.4%):モーターボートの高速化
3) 航海中の見張り状況:
 航走中、見張り員を決めている:11%
 運航者が見張り員を兼ねている:69%(見張りがおろそかになる)
4) 事故の種類:機関故障で22%、乗揚げ7%、衝突14%
5) 航走中の事故等の経験:35%
6) 機関故障時の対応:大体または簡単ならできる90%、全くできない7%
7) 注意している障害物:暗礁・浅瀬27%、魚網22%、遊泳者17%、漁船16%
8) 注意している気象・海象:強風40%、波29%、霧23%
【通信連絡設備等】
1) 通信連絡設備の必要性:必要85%、不要13%
2) 不要の理由:あまり遠くにでない(湾内のみ)、必ず仲間と行動している
3) 無線設備の有無:有45%、無55%
4) 無線設備なしの理由:
 あまり遠くにでない、船が小さくスペースが無い、基地局が無い
5) 無線設備の種類:アマチュア無線40%、パーソナル無線31%、簡易無線13%
【海技免状制度、講習会】
 海技免状制度については、「プレジャーボートの実情に合った新しい免許が必要」と考えている人が21%もある。
 講習会への出欠状況では「ある」とした人が62%と多いが、これはアンケートの配布を「小型船安全協会」、「マリーナ」を通じて行ったため何らかの組織への加入者が多かったせいと思われる。
 講習内容の希望は、「海上交通法規」、「運航上の注意」、「機関修理」の3項目で69%と7割ちかい。
【海上交通環境の改善】
1) 環境情報提供:
情報提供は必要無いとの回答が30%と比較的多いが、これは自分の活動海域を限定しており、その海域を熟知しているためと思われる。知りたい情報は航泊禁止区域37%、漁船の出漁情報14%であった。
2) 交通管制等への希望:
無謀運転の取り締まり44%、使用水面の指定(ゾーニング)14%
3) 船舶保険
強制保険では無く67%が未加入。船舶保険の普及が望ましいが、夏場の休日のみしか利用しない、グループや法人が船を所有している場合を考慮して検討する必要がある。
【船舶の改善】
 現在使用している船舶と比較して、改善を希望する点は次のとおりであった。
1) 転覆しにくいもの:21%
2) 機関の作動が確実なもの:21%
3) 保存手入れが容易なもの:18%
4) 運航操作が簡単なもの:11%
5) 付属品積載場所を十分に確保:10%
 
(5) 基本的安全対策
【環境面の対策】
 プレジャーボート等の安全確保に必要な周辺環境の整備について検討した。
1) 連絡体制の確立:
無線設備を備えている割合は4割強と少なく、情報交換、緊急時の連絡、情報提供、救助側の対応のために無線連絡体制の確立が必要である。
2) 情報提供
出港前に外洋の波やうねり等の情報が適切に提供されていれば、海難を防げたケースがある。
a) 運航者が必要とする情報
・ 自然の障害物の情報
・ 工事などの航行禁止区域の情報
・ 漁船の出漁状況
・ 海上航行船舶の混雑状況
・ 強風(突風)、霧等の気象状況
・ 波、うねり等の海象状況
b) 情報提供の方法
・ 情報提供者:海上保安庁、気象庁、海上工事の事業主体など
・ 情報提供の方法:テレビ、ラジオ、新聞、パンフレット、マリーナ等の掲示板、無線を利用した緊急連絡など
3) 施設整備(マリーナに望まれる施設、設備)
a) 安全な係留施設、または上架格納施設
b) 小型船舶専用桟橋、または岸壁
c) 船体・機関のためのサービスステーション
d) 燃料等の補給施設
e) 無線基地局
4) 海域利用調整(ゾーニング)の必要な場合
a) 同じ海域で漁業と海洋性レクリェーションが共存している場合
b) ボーティングと潜水など共存できない場合
c) 海域の広さに比べ利用者が多すぎる過密状況
5) 船体の整備
プレジャーボートの海難原因の分析結果、波やうねり等の気象・海象による船体の破損といった事例は無く、船体の強度に関しては問題は感じられない。
船体に関しては1トン未満の小型船の転覆が問題であるが、この程度の舟艇は人の移動だけでも大きく傾斜するので、大型船の復原性基準は適用できない。小型船の復原性基準は、検討する必要がある。
6) 機器の整備
プレジャーボート海難の約2割は機関故障が原因で、さらに転覆や乗揚げなどの重大海難に至る場合もあると思われるので、その防止対策は十分検討しなければならない。機関故障の原因は次のとおりである。
a) 不可抗力:
機関の構造的なもので、運航者による通常の点検整備では発見、修理が不能なもの。
b) 定期点検不十分、整備不良:
機関の整備不良等による故障で、注意して取り扱うか事前に点検していれば発見することができたか、あるいは事前修理が可能であったもの。
c) 使用直前の点検不良:
出港前の点検がなされず、燃料切れ、バッテリー切れ等の初歩的ミス。
d) 機関に関する知識不足:
運航者に機関に関する知識が全く無く、冷却水のコックを開放せず、エンジンを焼き付かせるなどの初歩的なミス。
【教育面の対策】
 プレジャーボートの海難は、気象・海象の把握不十分、地形の把握不十分、怠慢による見張り不十分、航法規則の知識欠如、船体機関の点検整備不良等初歩的なミス等、知識技術の習得不足によるものが大半であることが調査結果から判明した。
 プレジャーボート運航者の多くは、基本的な運航知識、技能の不足を自覚しており、これらの習得度を高めることは海難防止に大いに役立つものと思われる。そのための教育と指導が必要である。
1) 海難防止講習会等
a) 海上保安庁:
プレジャーボート等の小型船舶の関係者を対象とした海難防止講習会を全国各地で開催し、訪船指導を実施している。またユーザー等民間有志による安全活動の育成を目的とした海上安全指導員制度を推進し、プレジャーボートを対象とした安全指導を行っている(注1)。
b) 日本マリーナ協会:
全国の会員マリーナで講習会を開催し、ヨット・モーターボート教室および健全な海洋性レクリェーションと正しい海事思想の啓蒙普及を図る等の成果を挙げている。
2) 講習会等に必要な環境
a) 運航者は必ず何らかの団体に加入し、団体を通じて受講できる体制つくる。
b) 夏季行楽期直前、秋季の台風時期前等最も効果的な時期に開催する。
3) 講習項目
a) 海上交通法令の遵守
b) 気象・海象情報の的確かつ早期把握
c) 運航中止基準の確立、厳守
d) 最大搭載人員の厳守
e) 法定書類および法定備品の備え付け確認
f) 救命胴衣の着用
g) 緊急時における応急措置体制および連絡手段の確立
h) 海図、水路図誌等による水路の調査
i) 船体、機関の点検整備
4) 洋上における指導
洋上で直接運航者に対し次の事項等について周知、指導することにより、プレジャーボートの安全確保に寄与するものと思われる。
a) 適正航法の遵守
b) 見張りの励行、船位の確認
c) 運航マナーの向上
d) 救命胴衣の着用
e) 気象・海象の把握および荒天予想時の早期避難
f) 連絡手段を有する場合の定期的な連絡
(注1)
 海上保安庁では昭和49年より、海上安全指導員制度を設けプレジャーボートの運航に対する十分な知識および能力を有する者を海上安全指導員に指定し、また一定の要件を満たす船艇を安全パトロール艇に指定して、ユーザー自身による安全活動を推進している。
 
5.2 日本小型検査機構の研究成果活用例
(1) 沿革
 昭和40年代に入り、プレジャーモーターボート、ヨット、遊漁船等の小型の船舶は隻数が増加するとともに事故も急増した。このため小型船舶の堪航性を確保し、人命の安全の保持を図る必要性が生じ、昭和48年に船舶安全法が改正され小型の船舶が検査対象に加えられるとともに昭和49年には長さ12メートル未満の小型船舶の検査事務を国に代わって実施する全額政府出資の運輸大臣の認可法人として日本小型船舶検査機構が設立された。
 その後、昭和58年臨時行政調査会の答申並びにこれをうけた昭和62年の行政改革大綱に基づき昭和62年に船舶安全法が改正され、日本小型船舶検査機構の自立化と受検者のサービスの向上を目的とする民間法人化で政府出資金は全額返還するなどの措置がとられ、検査実施面では国の代行機関として重要な役割を担いつつ、経営的には完全に自主独立した民間法人形態となった。
 また近年小型船舶の構造簡易化等の状況から平成5年に船舶安全法が改正され、平成6年5月から日本小型船舶検査機構が実施する船舶の範囲が長さ12メートル未満から総トン数20トン未満の船舶に変更された。
 
(2) 調査研究内容
 小型船舶の安全性の向上を図るため、復原性、防火、材料・構造、救命設備など幅広い分野の調査研究を学会、国公立研究機関などの専門家からなる委員会を組織して実施している。また日本の安全基準と海外の基準との調和を図るため、日本船舶標準協会を通じてISO(国際標準化機構)における小型船舶の規格作成作業への協力、諸外国の基準調査などの活動も行っている。
 
(3) 研究成果とその活用
 その成果は報告書の形で関係者が利用できるようになっている。また各年の活動状況は“JCIレポート”として一般に公開されているほか、操船に役立つ知識をまとめた各種マニュアルを発行している。具体的には表4.2.1に記載したような調査研究が行われ、その成果は全て検査業務適正化、基準改正、運航者へのサービスとして操船マニュアル作成などに活用されている。








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