タイ造船業の現状と将来展望
1.タイ国内造船所の現状
現在タイ国内には約200の登録された造船所が存在する.うち約80%は建造・修繕能力100GRT未満の小型造船所である。その他の約20%は建造能力が4,000GRT以下であるか、または能力80,000GRT以下の浮ドックを備えている。
タイ国内の主要造船所の新造船・修繕船工事量を下表に示す。
タイ国内造船所の建造・修繕実績
  |
1998年 |
1999年 |
2000年 |
新造船 |
  |
  |
  |
1.隻数 |
89 |
69 |
42 |
2.売上高(百万バーツ) |
1,205 |
1,053 |
655 |
3.GRT |
不明 |
27,398 |
17,005 |
修繕船 |
  |
  |
  |
1.隻数 |
600 |
849 |
736 |
2.売上高(百万バーツ) |
757 |
301 |
169 |
3.GRT |
不明 |
1,406,710 |
794,224 |
出所:タイ造船工業会(TSRA)加盟15社
(i) 新造船
タイにおける造船活動は主として国内海運企業、政府機関、タイ王国海軍など国内から受注する小型船、大抵は1,000GRT未満の船舶に限定されている。国内で建造される船舶は以下のように4種類に分類される。
(a)巡視艇、浚渫船、タグ等の特殊船
(b)国内水路、沿岸航路向けの小型艇またはバージ
(c)小型旅客艇およびプレジャー・ボート
(d)漁船
現状では、タイ造船業は大きな拡大と成長の潜在力を秘めている。その要因の一つは、タイの遠洋漁船の多数が、一層大型の鋼船への転換を要するという事情にある。すなわち、タイ国内造船所は今後長期にわたって大きな新造需要に恵まれているということになる。
(ii) 修繕船
一方、タイ国内の造船所では修繕船活動が大きな比重を占めている。それは国内海運企業が新造船よりも主として既存船の修繕に自国の造船所を利用するためである。沿岸航路や内陸水路に就航している船舶の大半は国内で修繕されるが、技術的に高度な、あるいは大型の船舶は外国のヤードで修繕される。
2.造船政策と造船産業振興措置
タイの大手造船事業者は、造船産業の未来について楽観的である。海上輸送需要の伸びと船隊増強を図る政府の計画が、造船業の発展に好影響を及ぼすものと期待されている。政府は能力拡大、技術と人的資源の開発による効率化、市場拡大などの面で造船業の発展を図る政策を実施している。
このような政策に沿って、造船業への投資拡大と事業活性化を目指した一連の振興策が実行に移された。すでに実施されている措置には以下のようなものがある。
(i) 税制面での措置:15GRTを超える船舶の新造および/または修繕に使用される資機材の輸入税免除、あらゆる浮ドックの輸入関税を1%に引下げ、輸出向けFRP艇の建造振興のため、使用される部品および材料の輸入関税を還付するなどの優遇措置。
(ii) 資金援助制度:150GRT超、長さ24m超の鋼製漁船の建造には、農業銀行および農協から信用が供与される。
(iii) 投資インセンティブと特典:造船業界に提供されているインセンティブには、外国の専門家、技術者、その扶養家族を呼び寄せる許可、国内生産が不可能な工場機械設備の輸入税、その他の租税免除、投資振興特別地区における法人所得税の免除などがある。
さらに、政府の船舶調達では、外国造船所との入札価格差が15%以内であれば、国内造船所が優先される。
3.産業開発と日タイ協力
一般に、船舶の設計図面は外国の造船専門家から購入するか、特に技術的に高度な船舶の場合には、船主あるいは外国の許諾権者から造船所に支給される。それでも若干の造船所では、ブロック建造工法、設計・建造技術の改善、造機技術の導入、熟練工の養成など、近代的造船技術を採用して効率を高めている。また外国の造船所から生産性向上、造船技術の革新などの面で技術援助を受けている。このような、技術開発のための海外からの援助や協力は、国内造船所の技術水準に特筆すべき進展をもたらした。
日本とタイの間の協力について見れば、従来、日本政府から、JICAを通じての官民両部門に対する専門家の派遣など、技術援助を受けてきた。援助の内容としては、造船プロジェクトを指導する経営戦略、造船・修繕船産業近代化プロジェクト、技術協力振興プロジェクトの専門家および産業構造改革プロジェクトの専門家派遣などがある。タイ政府は日本政府に対し、国内の民間造船所への専門家派遣を更に養成し、現在その回答を待っているところである。
4.造船所近代化計画
政府は国内造船産業の構造改革を計画している。この計画は業界のあらゆる面を対象とするもので、民間部門の協力を得て実施される。海事産業開発マスター・プランに沿って、以下の目標達成を図る、タイ造船産業近代化のための包括的な計画である。
(a) 既存のヤードを改善し、新規ヤードヘの投資を促進して新造船・修繕船応力を拡充。
(b) マーケティング戦略を実施に移して市場を拡大。
(c) 技術開発と人的資源開発を奨励、促進する。
これらの目標を達成するため、前述のように、競争力強化のための優遇税制導入や、新造船・修繕船産業支援の財源創出など、具体的措置が進められている。
5.結論
現在、タイの新造船・修繕船産業は、国際市場向けの一層大型の外航船需要に対応するため、能力拡充を図る過渡期にある。短期的展望からすれば、海外のコンサルタントや専門家を通じて移転された技術や、あらゆるレベルの造船所要因の訓練が、タイ船舶産業が経済危機を乗り越えるのに役立つであろう。しかし長期的に見れば、グローバルな市場における競争力を強化するためには、技術的ノウハウ、事業経営、良質かつ廉価な資機材の確実な供給源、十分かつ適格な造船所要員、更に最も重要な要素として政府の支援強化など、一層の充実が必要とされる。
第1表 タイ国内主要造船所の設備
造船所名 |
新造船設備 |
修繕船設備 |
種別 |
長さ×幅
(m) |
最大能力
(GT) |
種別 |
長さ×幅
(m) |
最大能力
(GT) |
Wangchao Shipyard |
− |
− |
− |
F |
90×25 |
5,000 |
S |
60×15 |
600 |
Bangkok Dock |
D |
114.07×15.2 |
4,000 |
D |
114.07×15.2 |
4,000 |
Bangkok Dock |
D |
108.5×12.8 |
3,000 |
D |
108.5×12.8 |
3,000 |
Bangkok Dock |
S |
60×12 |
1,500 |
S |
60×12 |
1,500 |
Thai International
Dockyard |
S |
160×23 |
2,000 |
S |
160×23 |
2,000 |
Italthai Marine |
B |
350×4 |
4,000 |
F |
105×20, |
8,000 |
63×20 |
Marsun |
− |
− |
− |
F |
80×15 |
1,500 |
Unithai Shipyard |
− |
− |
− |
F |
282×47 |
80,000 |
Harin Shipbuilding |
− |
− |
− |
S |
120×15 |
1,000 |
Asian Marine Services |
− |
− |
− |
F |
160×36, |
9,000 |
106×18 |
Sahaisant |
S |
90×26.86 |
800 |
S |
90×26.86 |
800 |
Harin Panich |
− |
− |
− |
  |
80×9 |
500 |
LPN |
− |
− |
− |
F |
107×25 |
5,000 |
Engineering Prakarn Kolakam |
S |
190×5.5 |
− |
S |
190×5.5 |
5,000 |
PSP Marine |
S |
200×7,140×7 |
600 |
  |
200×7,140×7 |
600 |
Sea Crest |
S |
700M |
− |
S |
70M |
500 |
注:D=乾ドック
S=船架
F=浮ドック
B=建造船台
出所:海事振興委員会事務局
タイ国内造船所の所在地
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