フィリピン
造船・修繕船産業現況報告(1999-2000年)
フィリピンの海事産業の中で最重要の一角をなす新造船・修繕船(以下SBSRと略す)部門は、船舶の設計、建造、検査、修繕および改造に従事する多数の企業から成る。フィリピンの国土は多数の島から成るため、地域経済は長距離にわたる海上輸送に依存するところが大きい。経済が海上輸送に依存しているため、SBSR部門の主要な使命は、現在から長期的未来に及ぶ貿易の需要に応えられるような、近代的な新造船、外国建造船に匹敵する質の船舶を、海運部門が比較的低価格で取得する機会を提供することにある。今日、フィリピンの海運活動が多様性を増すと共に、SBSR産業の能力に対する需要が引き続き拡大するものと期待される。
業界のプロフィル
MARINA公認のSBSR企業
1999年12月現在フィリピンでは、前年度より23%多い、341のSBSR企業が海事産業局(MARINA)から免許を受けている。これらの企業は、ルソン島に143社(42%)、ビサヤ諸島に131社(38%)、ミンダナオ島に67社(20%)という風に、全国の戦略的位置に立地している。新規参入企業の大半はビサヤ諸島とミンダナオ島に位置している。SBSR産業の地理的分布を第1図に示す、
第1図 MARINA公認SBSR企業の分布
これらの企業を設備能力別に分類すると、111社(シェア34%)が、船舶の建造、修繕、その他の入渠工事用の設備を具えている。1999年には造船所数は17%増加した。これらの造船所のうち11は大型、16は中型、73は小型造船所で、また11が修繕船設備を具えている
最大のシェア(41%、141社)を占めるのが沖修繕業者または無設備業者と分類されている事業者である。小型艇建造事業者は1998年の31社から99年は88社と、65%の飛躍的増加を示した。これらのボート建造所は、主としてビサヤ諸島とミンダナオ島に立地している。
第1表に、事業部門別、地域別にわが国の公認SBSR企業の数を示す。
第1表 SBSR企業数、1999年12月現在、事業部門別・地域別
事業部門 |
ルソン島 |
ビサヤ諸島 |
ミンダナオ島 |
合計 |
新造船・修繕船企業 |
  |
  |
  |
  |
・大型造船所 |
4 |
5 |
2 |
11 |
・中型造船所 |
7 |
7 |
2 |
16 |
・小型造船所 |
43 |
13 |
17 |
73 |
修繕船企業 |
6 |
3 |
2 |
11 |
沖修繕企業 |
70 |
62 |
9 |
141 |
小型艇建造企業 |
12 |
41 |
35 |
88 |
船舶解撤企業 |
1 |
− |
− |
1 |
合計 |
143 |
131 |
67 |
341 |
出所:MARINA造船監督局
第2図 SBSR産業における各事業部門のシェア
出所:MARINA造船監督局
設備の概要
設備面で見ると、フィリピン国内の入渠設備の合計建造・修繕能力は1999年現在で1,529,041DWTに達する。うち238基(92%)がMarine Railwayと総称される設備、7基(3%)が乾ドック、10基(4%)が浮ドック、2基(1%)がリフト・ドックである。MarineRai1wayの基数では対前年比25%、DWTべースの能力では5,5%の増大を示したことが注目される。
第2表 MARINA公認造船所の設備の概要、1999年12月現在、地域別
入渠設備の種別 |
ルソン島 |
ビサヤ諸島 |
ミンダナオ島 |
合計 |
基数 |
総建造
能力
(DWT) |
基数 |
総建造
能力
(DWT) |
基数 |
総建造
能力
(DWT) |
基数 |
総建造
能力
(DWT) |
Marine railway |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
  |
・Slipway |
61 |
72,500 |
33 |
108,400 |
23 |
24,350 |
117 |
205,250 |
・Shipbuilding Way |
21 |
25,900 |
3 |
6,500 |
8 |
2,050 |
32 |
34,450 |
・Building/Repair berth |
43 |
791,470 |
9 |
8,500 |
- |
- |
52 |
799,970 |
・Launching Pad |
21 |
17,564 |
12 |
10,500 |
4 |
7,350 |
37 |
35,414 |
Graving Dock |
5 |
355,345 |
2 |
37,000 |
- |
- |
7 |
392,345 |
Floating Dock |
5 |
17,800 |
3 |
14,812 |
2 |
4,000 |
10 |
36,612 |
Liftdock |
1 |
20,000 |
- |
- |
1 |
5,000 |
2 |
25,000 |
合計 |
157 |
1,300,579 |
62 |
185,712 |
38 |
42,750 |
257 |
1,529,041 |
第3図 種類別乾ドック設備の内訳
出所:MARINA造船監督局
第3表に掲げた、新造船/入渠設備合計能力の規模順で上位11工場だけで、上記111工場の合計能力の86%を占めている。これら11大造船所のうち5社は、外国資本との合弁新造船・修繕船企業である。Keppelグループは、サムバレスのSubic Shipyard&Engineering,Inc.、バタンガスのKEPPHIL Shipyard,Inc.、セブのKeppel Cebu Shipyard,Inc.、日本の常石造船株式会社の子会社である、セブのTsuneishi Shipyard(Cebu),Inc.、英国のFBM Marine GroupとAboitiz Groupの合弁企業である、セブのFBM Aboitiz Shipbuildersから成る。11大造船所のうち、8社がフィリピン造船工業会(PHILSAR)の会員で、PHILSAR加盟企業で業界の合計能力の84%を占める。
第3表 フィリピン国内大型造船所、1999年12月現在
社名 |
所在地 |
設備 |
合計能力(DWT) |
シェア(%) |
1.Subic Shipyard &
Engineering,Inc.* |
ザムバレス |
・Building/repair berth
・Graving dock |
1,012,500 |
68.94 |
2.KEPPHIL Shipyard, Inc.* |
バタンガス |
・Building/repair berth
・Floating dock
・Liftdock |
107,000 |
7.28 |
3.Tsuneishi Shipyard
(Cebu),Inc.* |
セブ |
・Slipway
・Floating dock |
65,500 |
4.46 |
4.Keppel Cebu Shipyard,
Inc.*(旧Cebu Shipyard & Engineering Works, Inc) |
セブ |
・Slipway
・Shipbuilding way
・Graving dock |
47,000 |
3.20 |
5.Mariveles Shipyard Corp. |
バターン |
・Slipway
・Graving dock |
16,500 |
1.12 |
6.Sandoval Shipyard, Inc.* |
セブ |
・Graving dock ・Slipway |
16,500 |
1.12 |
7.A.G.&P.Co.
(Marine), Inc.* |
バタンガス |
・Slipway
・Shipbuilding way
・Building/repair berth |
14,000 |
0.95 |
8.Phil.Iron Const.&
Marine Works. Inc.* |
カガヤンデ
オーロ |
・Slipway
・Liftdock |
13,500 |
0.92 |
9.FBM Aboitiz Shipbuilders* |
セブ |
・Shipbuilding way |
10,000 |
0.68 |
10.Mindanao Shipbuilding
Corp. |
ダバオ |
・Slipway |
10,000 |
0.68 |
11.F.F. Cruz&Co. |
イロイロ |
・Slipway
・Launching pad
・Floating dock |
8,812 |
  |
合 計 |
  |
  |
1,321,312 |
89.35 |
出所:MARINA造船監督局
*フィリピン造船工業会(PHILSAR)会員企業
造船労働力
フィリピンの新造船・修繕船産業の総従業員数は、技術者・熟練労働者の合計で1998年の35,152名より増加し、38,667名に達している。その内訳では、熟練工が31,707名で、全体の82%と最大の集団を形成し、技術職が2,127名、6%、事務職が2,350名、6%、半熟練工が1,933名、5%、管理職が580名、1%と続いている。
第4図 職種別新造船・修繕船従業員比率分布
出所:MARINA造船監督局
造船所の経営状況
新造船部門
1999年にフィリピンでは、国内船主向け、輸出向け合わせて、様々な船種、船型の船舶479隻、推計98,644.80GTの船舶が建造された。1997年から1999年までに、TsuneishiShipyard(Cebu),Inc.は、輸出向けに撒積船23,000DWT型9隻、45,000DWT型4隻を進水させた。さらに同じく輸出船として、2000-01年に撒積船6隻の建造を予定している。同じくセブのFBM Abolitiz Shipbuildersはこれまでに高速艇5隻を進水させ、うち4隻は輸出向け、1隻は国内向けである。同社は2000-01年納期で、さらに5隻の引渡しを予定している。
第5図 1999年国内建造船の隻数
出所:MARINA造船監督局
第4表 1998-99年国内建造船の隻数と合計トン数、船種別
船種 |
国内船 |
輸出船 |
1998年 |
1999年 |
1998年 |
1999年 |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
旅客フェリー/バンカ |
3 |
54.11 |
36 |
492.86 |
1 |
660.00 |
1 |
660.00 |
タンカー |
7 |
4,500.00 |
1 |
660.00 |
- |
- |
- |
- |
一般貨物船 |
- |
- |
3 |
4,525.39 |
- |
- |
- |
- |
撒積船 |
- |
- |
- |
- |
5 |
73,500.00 |
4 |
82,200.00 |
陸揚用運送舟艇 |
3 |
1,591.68 |
4 |
1,513.38 |
- |
- |
- |
- |
陸揚用機動舟艇 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
バージ |
- |
- |
3 |
1,421.75 |
- |
- |
- |
- |
漁船 |
350 |
3,531.61 |
396 |
6,425.08 |
- |
- |
- |
- |
タグ |
- |
- |
2 |
117.62 |
- |
- |
- |
- |
巡視艇 |
2 |
96.00 |
10 |
109.27 |
- |
- |
- |
- |
高速艇/スポーツ艇 |
6 |
22.80 |
8 |
27.20 |
- |
- |
- |
- |
アルミ艇 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
レジャー用ヨット |
1 |
103.79 |
11 |
492.25 |
- |
- |
- |
- |
合計 |
372 |
9,899.99 |
474 |
15,784.80 |
6 |
74,160.00 |
5 |
82,860.00 |
出所:MARINA造船監督局
修繕船部門
一方、フィリピンの修繕船部門にとって、市場の前途は明るい。修繕船事業は今日なお、造船所の活動の中心をなしている。内航・外航船隊の平均船齢と内航荷動きの伸びからすれば、修繕船サービスの需要は高い。1999年に国内の造船所で修繕、その他入渠工事を受けた総隻数は986、うち869隻、88%が国内船、117隻、12%が外国船で、それぞれの合計トン数は665,165.32GT、2,546,812.89GTとなっている。
第6図 1998-99年に国内で修繕等、入渠工事の対象となった国内船と外国船の隻数比較
出所:MARINA造船監督局
第5表 1998-99年に国内で修繕等、入渠工事の対象となった隻数と合計トン数、船種別
船種 |
国内船 |
輸出船 |
1998年 |
1999年 |
1998年 |
1999年 |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
隻数 |
合計GT |
客船 |
213 |
185,458.15 |
219 |
248,809.30 |
- |
- |
1 |
325.00 |
タンカー |
50 |
54,459.74 |
46 |
60,948.33 |
13 |
180,515.14 |
5 |
29,355.22 |
一般貨物船 |
195 |
200,468.60 |
185 |
158,715.06 |
22 |
238,527.60 |
33 |
273,821.42 |
撒積船 |
1 |
3,981.90 |
4 |
12,364.17 |
31 |
1,150,557.00 |
42 |
1,976,667.50 |
鉱石専用船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
1 |
102,395.00 |
コンテナ船 |
- |
- |
7 |
17,007.63 |
- |
- |
8 |
81,575.00 |
家畜専用船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
3 |
4,194.66 |
プロダクト船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
5 |
31,019.00 |
冷蔵船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
2 |
10,969.00 |
木材専用船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
2 |
9,033.00 |
自動車専用船 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
1 |
1,321.00 |
バージ |
53 |
29,812.35 |
68 |
98,944.97 |
- |
- |
8 |
18,257.09 |
漁船 |
664 |
64,622.75 |
286 |
55,208.16 |
1 |
1,100.00 |
2 |
1,995.00 |
タグ |
107 |
13,000.00 |
54 |
13,167.70 |
1 |
933.00 |
- |
- |
その他 |
48 |
31,350.55 |
- |
- |
9 |
117,924.17 |
4 |
5,885.00 |
合計 |
1,331 |
583,154.04 |
869 |
665,165.32 |
77 |
1,689,556.80 |
117 |
2,546,812.89 |
出所:MARINA造船監督局
SBSR産業についての政府の政策と諸計画
海事産業局(MARlNA)
海事産業局は、新造船・修繕船部門を含む海事産業の規制と振興の任を負う政府機関である。この機関は、新造船・修繕船部門に関する政策と計画の策定、公布、施行の責任を負っている。この付託された任務により、MARINAは新造船・修繕船部門についての一連の政策と計画を発表してきたが、それらはいずれもこの部門の能力拡充を支援しようとしたものである。
基本的に、新造船・修繕船部門に対するMARINAの規制・監督権限は、新造船事業者、修繕船事業者、洋上修繕船事業者、小型艇建造事業者、および船舶解撤事業者への免許発給指針に関する1995年1月14日公布の回覧覚書第95号、新造船工場、修繕船工場の操業を規制する大統領令第1059号、およびフィリピン国民が所有する船舶および/またはフィリピン籍船すべてにMARINAの免許を得た工場での修繕・入渠を義務づける大統領令第1221号が法的根拠となっている。これらの法令に基づいて、MARINAでは、造船と船舶修繕の免許の発給と更新、SBSR企業の資格付与前検査と年次検査の実施、船舶の建造、改造および/または船種転換工事の計画と仕様の承認、建造、改造および/または船種転換工事期間中の船舶の定期的検査の実施、そしてフィリピン籍船が必ずMARINA公認の工場で修繕、その他の入渠工事を受けるよう監視を行う。一方、SBSR産業の発展は、官民の関係部門の一致した努力を必要とする。しかし、実施に向けて一貫性のある諸計画を策定する上で多様な視点を調和させる責任はMARINAの肩に掛かっている。国の開発努力における造船業の重要性にかんがみ、その更なる成長と発展に対する関心は増すばかりである。その発展を加速させるために、MARINAは、フィリピンを東アジアの主要な新造船・修繕船に変貌させることを同部門の全体目標とした中期発展計画をまとめた。その目標を達成するために、MARINAと関係民間部門との間で以下のような戦略が策定された。
・新造船・修繕産業の成長と持続的な発展に資するような政策、立法措置を通じて政府が主導権/指導力を発揮する。
・市場の要請と自国の海事産業の現在から将来にわたるサービス需要に応えるため、海事産業団地の開発を促進する。
・政策的に環境を整備して、外国投資家とフィリピン国内造船所との合弁事業を奨励する。
・業界のために総合的なインセンティブ制度を提供する。
・投融資に有利な環境整備を促進する。
・関連工業、鉄鋼産業など支援産業の発展を図る。
・研究開発能力の技術的向上を図る。
・総合的マーケティング・プログラムと情報キャンペーン・ネットワークを確立する。
投資委員会(BOI)
投資委員会(BOI)は、船舶の効率的な運航にとって重要な、具体的には島嶼間海運、外航海運(フル・タイム用船を除く)、造船、修繕船、解撤、その他、直接関係する諸設備等の関連産業への優遇措置の提供により、投資を調整し、また促進する任務を付託されている。これには、1987年制定の包括的投資規則で優遇措置の対象とされた投資分野として、1997年の優先投資計画(IPP)で指定された海運企業、新造船設備、修繕船般備の近代化が含まれる。IPPにより、内航海運に使用される輸入船(付随する交換用部品、機器を含む)でBOIに登録されたものについては税金、関税が免除される。免許を受けた新造船・修繕船企業で、拡張ないしは近代化実施中のものは、関税免除、税額控除、課税対象所得に適用される追加控除、その他、財政措置を伴わないインセンティブなど、各種優遇措置や特典を享受することができる。これらの措置により、新たな資本の流入が促進されるので、新造船・修繕船産業の一層の振興が期待される。
SBSR産業開発関係民間団体/協会等
フィリピン造船工業会(PHILSAR)
フィリピン造船工業会(PHILSAR)は、フィリピンにおける新造船・修繕船産業の成長と発展を促進するために、国内の造船・修繕船事業者により結成された団体である。この団体は、特定の分野における企業間の協力協定を作り上げるための協調の精神を醸成し、全会員が関心を抱くような、価値ある重要な海事産業関連情報を整理、伝達するための常設事務局を設置、運営し、会員間の意見交換のフォーラムとして機能している。また、わが国とその国民のために先進的な新造船・修繕船産業を確立することを目的として、フィリピン政府の関係省庁、一般国民、その他各方面の関係先に会員の共通の立場を説明、主張する媒体となり、さらには他の世界各国の同種団体との円滑な協力関係を推進することも、フィリピン造船工業会の使命である。
フィリピン造船技師・舶用機関技師協会(PANAME)
フィリピン造船技師・舶用機関技師協会(PANAME)は、フィリピンの造船技術者の団体で、専門職としての水準と尊厳を維持する一方、現代のニーズに合うように新造船・修繕船技術の方向を近代化するための制度と手法の整備を、その結成の目的としている。
この協会はまた、海上における人命と財産の安全性の向上と海洋環境保護のための、現実的な基準の策定について調査、研究を行う。PANAMEの目標は、政府および海事産業全般と緊密な調整を図りながら、海洋安全訓練計画を策定することにより、海運業界の海上安全意識を高揚させることにある。
フィリピン船級協会(PRS)
フィリピン船級協会(PRS)は、船級付与を目的として、非自航バージを含む、あらゆる種類の船舶、舶用機器の設計、建造、検査についての規則と規格の設定、開発、更新、管理に従事する。PRSは、船級協会に通常求められる業務、すなわちPRS船級取得船舶の定期検査、特別検査の実施と証明書の発行、証明書の有効期限確認、その他フィリピン政府および/または外国政府が認可した法定海事関係業務を行う。
業界の将来展望
新造船部門の発展
○老朽船舶の代替、船舶金融、内航船隊近代化の計画を積極的に推進しようとする現在の政府の姿勢からして、国内の新造船および船舶解撤の能力に対する需要は、今後数年にわたって増加するものと期待される。短期的見通しとしては、5,000GT以下の小型船の建造がターゲットになる。業界の建造能力がさらに向上、発展すれば、50,000GTまでの中型船も建造可能になるものと思われる。
○海事産業団地(MIP)は、海事産業中期開発計画(MTPD)を支援して、海事関連インフラの立地ニーズに応えて構想された。当初の段階でこのプロジェクトは、新造船設備、石油物流/備蓄基地、部品供給基地、海事産業労働力充実のための地域調査/研修センターの用地を提供することになる。
○ここに立地する企業は、フィリピンに地域事業本部(ROHQ)を設置する多国籍企業を誘致するためのEPZA、PHIVIDEC、R.A.8756などのインセンティブを享受し、またブルネイ・インドネシア・マレイシア・フィリピン東部ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)において雇用を創出することにもなる。これは地域協力のためのイニシアティブに沿った、またミンダナオ島に開発努力を集中するよう求める政府の要請にも応えたMARINAの貢献である。
・この産業団地はMARINAとPHIVIDECとの間で交わされた協定覚書に基づいて、カガヤンデオーロ市のPHIVIDEC工業団地内100ヘクタールの区画に配置されている。2000年1月5日に、ジョセフ・エストラーダ大統領が開設式典で標識の序幕を行ってMIPを発足させた。
・一方、立地企業を誘致するためにインフラの整備が進められている。
修繕船需要の増加
○修繕船業界の市場の将来性には、明るいものがある。東アジア地域における海運活動の増大はもちろんのこと、内航・外航船隊の老齢化が進んでいるため修繕工事に対して需要拡大が見込まれる。さらに、フィリピン海域を通過する外航船の数はますます増加し、これも修繕船需要に寄与するに違いない。これは外国船によるわが国の修繕船設備利用を促進するために採用された、自由化政策の成果である。修繕船需要は、2000年には大幅な拡大が期待される。
小型艇建造部門の急成長
○小型艇建造部門の将来はきわめて明るい。わが国における小型艇建造は、バンカと呼ばれる小艇に集中している。零細な釣舟業者はこの種の艇の取得に非常に熱心である。この部門は低所得者の日常的なニーズの充足に役立っている。
○小型艇建造部門の急成長に呼応して、建造事業者の技能を高め、事業協同組合が官民の金融機関からの資金支援を得る際に役立つように、政府がセミナーや研修プログラムを実施する。
外国の技術援助計画の利用と外国投資家にとって魅力ある投資機会
○2000年に向けたフィリピンのビジョン実現を進めて行く過程で、造船業の発展に弾みをつけるには、新たな取組みが必要とされる。造船所の発展が加速すれば、海外の優秀造船所との合弁事業や技術提携に投資を呼ぶことが可能になり、また提携の相手先からは造船技術を導入できることになる。一部の外国造船所は、そのような事業への投資に関心を示している。
船舶研究開発センターの設立
○業界では、先進技術の取得と労働生産性向上の必要性が痛感されている。船舶の設計・建造・改造・修繕工事面の欠陥、そして有能な熟練船員・造船労働者の不足などの問題は、適切な技術の振興と訓練の継続によってのみ、適切に解決することができる。船舶の経済的耐用年数全期間にわたって耐航性を確保するためには、中古船であれ、新造船であれ、必要な調査、実験室テスト、海上試運転が絶対に欠かせない。一方、造船技術研究者、船舶検査官、その他の種類の造船技術者、技能者については、それぞれの職分で要求される任務が適切に遂行できるよう訓練が必要とされる。
○政府の研究開発計画の一環として、大型船、小型艇とも標準設計の開発が進められている。中でも優先順位が高い分野は、現在旅客フェリーや釣舟として使用されている機動木製バンカの代替として、FRP、アルミ等、新素材による小型艇の標準設計である。
SBSR優遇措置の利用
○優遇措置の利用は、国内造船所の採算性を高めるのに役立つ。SBSR部門に対する優遇措置を定めた上下両院の法案には、SBSR用機械、設備、資材、部品についての輸入税免除、付加価値税免除、一定期間の課税猶予等が盛り込まれている。