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4 みんなで語ろう みんなで使えるトイレ

 

小林純子

設計事務所ゴンドラ代表

 

●マニュアルまかせの設計から脱却してみんなの声を直に聞こう

 

以前、障害を持った人から聞いた話ですが、外出予定の前日になると、トイレに行かなくてすむように、水分や食べ物をひかえることが多いのだそうです。トイレは社会的活動さえ制限してしまうほど、重要な場所です。誰もが平等に安心して外出できるよう、みんなが使えるトイレが街に用意されなければなりません。

私は、この13年間、公衆トイレの設計をしてきました。当然、障害を持った人のためのトイレも含まれます。告白すれば、当初4〜5年間は、彼らにとって使えるトイレになっているのか、使いにくいとしたらどこか、それがよくわからず、不安になりました。といって、その頃、決していい加減な設計の仕方をしていたわけではありません。参考書、自治体の条例集、メーカーの参考図等々、真剣に目を通し、設計図をつくっていました。

個人的な経験ばかりで恐縮ですが、考えてみると、私は生まれてこの方その頃まで、障害を持った人と直に接触したことがありませんでした。核家族だったため、高齢者とも生活を共にしていません。私の不安は、そうした方々の声を直接聞かずにいたことが大きな原因でした。

設計者には、様々な体験が必要であるといわれています。設計ごとに、一人の利用者の気持ちになって想像を廻らせることが、創作の原点になります。特に、障害者用トイレに関しては、本を見るだけでは想像力に限界があります。その上、設計するスペースの条件は、プロジェクトごとに異なります。マニュアルの丸写しが通用するトイレは少なく、応用するためには、なぜそうなのかを知らねばなりません。確かに各マニュアルは、専門家や研究者の検討、当事者への検証やヒヤリング等を行い作成されています。しかし、さらにもう一歩進めて、設計する側も、当事者と直に接し、生の声を聞き、マニュアルを応用していくことが必要ではないでしょうか。

障害は百人百様ですから、一人の意見がすべての解決にはなりません。が、多くの意見を重ね合わせれば、一人でも多くの人が使える、血の通ったトイレができるはずです。そんな設計をしていきたいものだと、私は考えています。

 

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JR品川駅チップ制トイレの多目的トイレ(女子優先)を別角度から撮影した。右は子供用コーナー。

 

 

 

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