日本財団 図書館


2 いま障害者・高齢者が街に出るとき

 

小山恵美子

障害者国際交換プログラム・フットルース副代表

 

011-1.jpg

障害のある人や高齢者に配慮して道路の段差をなくした街並み。…高山市の事例

 

●外出時のバリアはトイレ

 

'80年代のノーマライゼーション、'90年代後半のバリアフリーへの動きの中で、移動が困難な障害者や高齢者がだんだんと外出しやすくなってきています。駅にはエレベーターやエスカレーターが設置され、建物の入口の階段脇にはスロープが設けられ、駅のホームや道路には点字ブロックが敷設され、街にはノンステップバスが走っています。特に、電動車いすの使用者にとっては、動きやすい環境ができつつあります。以前はほぼ利用が不可能だった地下鉄の駅でさえも、ずいぶん使えるようになってきました。

1994年のハートビル法や昨年施行された交通バリアフリー法などの、立法措置を伴ったバリアフリーへの動きが、これまで行動を制限されてきた人々の、街の中での生活を変え始めています。けれども、それでその人たちの外出時の問題が一挙に解決されたというわけではありません。外出の自由を得るためには、移動手段を確保するだけでは不十分です。その他にも障害になりうるものがあり、その一つとしてトイレの問題が挙げられます。

皆さんは、出かける時、どんなことを考えて準備をするでしょうか。「今日は雨が降りそうだから、折りたたみの傘を持って行こう」とか、「今日はたくさん歩くから、ヒールでなくカジュアルなシューズにしよう」などと、いろいろ考えて準備をされるのではないかと思います。しかし、「外出先でどこのトイレに入ろう」とか、「トイレが使えないと困るので水分は少しひかえておこう」などと考える方はおられるでしょうか。外出が半日以上になる場合、多くの人が外で一度はトイレに行かねばなりません。ですから、トイレを使うことの困難な人にとって、外出時のトイレの問題は切実なのです。

では、トイレを使うのが困難というのはどういうことでしょうか。本稿では、障害のある人や高齢者が、外出時にトイレを使う上でのバリアについて考えてみたいと思います。

 

●トイレを探す

 

例えば、視覚障害者の場合、出先でトイレを探しても、手がかりになるものがあまりありません。全く知らない場所で、一人でトイレを探すのは大変困難です。仮に水洗の音などで大体の場所がわかったとしても、それが男性用か女性用かを判断することは容易ではありません。「この人はヒールをはいているから女性だろう」とか「このコロンは男性だろうか」などと、知識と経験を総動員して、出てくる人の「出口調査」ができなくはありませんが、それは少なからず精神的なストレスになります。また、一つの建物の中でも、階によって男女のトイレの位置が入れ替わっていたりすることもあるので、不用意には入れません。したがって、最終的には誰かに尋ねることになります。好きな時に好きな場所で、一人でトイレに行くのは簡単なことではないのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION