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この会の目的にはもう一つ、環境保存をはかるということもあるのです。散骨することによりまして、あちこちに墓地が乱開発されなくても済むのだということ。それからもう一つは、宗教的な意味で申しますと、骨が海や山に撒かれることによりまして、自然にもう一回還ることができるというのです。そういえば、『失楽園』という小説の最後で心中した二人は散骨されていましたね。

それからもう一つは、火葬にした骨は、リン酸を含んでいますが、リン酸カルシウムは植物の生長にとっても非常に有益なのだと。そして、自然葬にして浮いた費用は、自然環境保護運動に捧げたいのだと。そういうようなモットーで設立したとのことです。この会には、やはり、松本由紀子さんの調査ですと、年間費を納めている会員が2,700人おります。そのうち現在実際に契約にもとづいて自然葬をした人が150人いらっしゃいます。具体的に申しますと、海での散骨が23回、山での散骨が6回。この会では、『再生』という会報を年4回、出しています。そして月1回例会をしております。

この会報に載っている手記を見ますと、まず一つは、従来の葬儀や、墓のあり方に対する批判です。総サンプルが100ぐらい挙がっているのですが、57人がそれを批判しております。約半数強ですね。どうして葬儀や墓のあり方を批判するかといいますと、人間は死んで火葬されると灰になって物質になってしまうのだと。だから、そういう形のものに葬儀は不必要なのだと。これはさっき申し上げました、この世だけがあってあとは物質になるのだと、そういう発想につながるわけですね。それと日本では伝統的な葬儀は、共同体が中心にやるわけですから、個人が尊重されない。むしろ自分自身の意思で自分の最期は決めたいのだと。とくに近年は墓とか葬儀が、営利事業化してよくないのだと。そういうことから、自然葬的なやり方をするというケースが見られるようになりましたがその一つのグループなのですね。

確かに、最近、さっきの「もやいの会」のように、死を迎える人がお互いに温め合って死の苦しみを乗り越えようとするものもありますが、今一方で葬儀の方法が大きく変わっておりますね。その契機は、大正年間に霊柩車が登場してからだといわれております。それ以前の葬儀は、生きて残っている人たちが亡くなった人の魂をあの世に無事に送り届けて、そして仏とし、やがて神としていく。そこに焦点を置いたのが昔の葬儀だったのですね。現代の葬儀は、それとはちょっと趣が変わっておりまして、多くの場合には「偲ぶ会」が行われています。私も来週の土曜日に友人の偲ぶ会があるのですが、偲ぶ会というのは、あの世へ行ってしまった人を、この世で偲ぶというか、この世であの人はあんな立派なことをしたのだという形で、死者をこの世に取り戻して、そこで死者のこの世での貢献を考えようとするものですね。つまり、あの世の存在を認めてはいますけれども、自分たちの気持ちとすれば、この世で亡くなった人を偲び、そしてその人の生き方を自分たちの生きる指針にしていきたいと。だんだん葬儀がそういうふうに変わりつつありますね。そうしたような動きが自然葬の中にもあると思います。余談ですが、最近は宇宙葬というのもありますよね。私の友人の俵さんという人が奥様を宇宙葬にして、奥様の霊魂が宇宙を回って自分を見ているといっていますけれども、そういう葬儀も出てきています。こういうのも新しい死の設計なのですね。

 

 

 

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