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自助グループでの出会い

自立回復のきっかけはそれほど劇的ではない。運命的な出会いだとか、人生の転機のようなことがあって立ち直るというケースを期待されそうだが、実際見聞きした感じではそういうケースのほうが少ないように思う。強いて言えば私の場合、積もり積もった危機感がきっかけで変わっていけたのだと思う。

その頃の私にとって、自分の現状を認めるということは、大変な苦痛を伴うものだった。しかしそうしなければ、いずれ取り返しのつかない所まで行ってしまうのではないか?というマイナスの考えばかりが膨らみ、それが危機感に変わった。そして自分から行動することなど考えることすらできなかったのに、3年間悩み続けてようやく、考えることよりも動くことが重要だと思えるようになった。

いろいろな自助グループに顔を出すようになったのが、ちょうどその頃だった。同じように、自分自身を嫌っている人たちがいた。同じように、自分に自信の持てない連中がいた。当初は、そんな人間もまた自分とは別の種類なのだと、離れた位置から見ていた。だが自分自身のスタンスがどうあれ、人とのかかわりがあれば考え方も変わってこざるをえないようだ。

問題の解決には直接結びつかないまでも、人とのかかわりが自分の考え方に多くの影響を与えたように思う。それぞれは細かいことで、特にこれと思い出されることはほとんどない。ただそれらの細かいことが積み重なり、少しずつ「何か」を変えていった。うまく言葉で表現できないが、「なんだか妙な感じ」だった。私に対する周囲の人の対応も、なんとなく変わったように思う。なにより、自分自身がひしひしと感じていたあの危機感は和らいだ。ひとりでどれだけ深く悩むよりも、人とかかわることのほうがずっと効果的であることがわかった。

そういった会やグループなどで、新しい友人もできた。映画のことや音楽のことを話したり、いっしょに出かけることもあった。それまでのひとりでいるばかりの生活と比べると、だいぶ張りが出てきた。気がついてみると、病院に通う回数も以前よりだいぶ減っていた。薬の種類も減っていった。

今はアルバイトなどを通して、本格的な社会復帰を目指している。とはいっても、まだまだ他人とかかわるには抵抗があるし、いまだに警戒心は残っている。しかし、方向としては良い方に向かっているように思う。

 

他人と触れ合うことがなにより大切

まだ完全に立ち直ったとはいえないが、これらの経験から私が今引きこもっている人たちに言えるのは、「とにもかくにも他人との触れ合いを持つべき」ということである。特に対人関係の苦手な人にとって、それは恐怖を伴うことであるかもしれないし、「それだけは避けて通りたい」というのが本音かもしれない。しかし、ただひとり引きこもって悩むだけでは、どれだけ自分のことをわかっても多分、事態は好転しないと思う。

自助グループでは、以前引きこもっていたという何人かの人とも話してきた。学校での人間関係がうまくいかずやめたケースもあれば、親との関係がこじれて家を出たというケースなどさまざまで、中には自分とは比較にならないほど重い人もいた。他に今は引きこもってはいないが、以前は引きこもっていたという人も多い。

 

 

 

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