日本財団 図書館


他人と触れあうことで、少しずつ何かが変わっていった

23歳 男子

 

引きこもり期間 23歳〜

 

《家族構成》

051-1.gif

 

自分について

私は大学まで出た身だが、社会に出てすぐに仕事をなくし、事実上家に引きこもるようになった。仕事をなくした理由は、頻繁に起こる頭痛だったが、その原因は思いあたらなかった。そのうち行きついた答えが、「心因性のものではないか?」というものだった。

精神科へも行き、カウンセリングも受けた。いままでの自分を振り返るということも、初めてした。家族構成は父、母、妹の4人、ごく普通の家庭であるように思う。経済的には多少貧しかったが、それでも特に不自由と感じたことはなかった。

ただ、両親の実家は商家で、しつけはかなり厳しいほうだったろう。他の家庭のことはわからないが、比較的愛情薄く、理性にしばられた家風ではなかったろうかと思う。そんな家庭では、私の失敗は確かに大事件だったかもしれない。親戚たちにとっても同じ印象だったろう。この親にしてこの親戚あり、といったところだろうから。

確かに、ストレートで大学まで卒業しておきながら、社会に出たとたん出鼻をくじかれたというのは、はなはだ印象が悪い。肩身の狭い思いは今でも続いている。

 

すべて“効率”が基準だった

家にこもるまでの経緯は、さして複雑ではない。よくいわれる人間関係のトラブルがあったわけでもない。ただ頭痛のため体調をくずしがちになり、仕事を続けるのが困難になったというのが直接的な理由だ。仮に原因が心因性のものとしたら、何が良くなかったのだろうか。

私は確かに神経質なところがある。他者に対して過剰に責任感を感じてしまうところもあり、ストレスは多いほうだと思う。目に見えない部分でそれらが積もり、自分の体調にある種の「ゆがみ」を生じさせたのではないか。そう考えると心当たりがなくもない。

思えば子ども時代から、私はどこか無機的だったと思う。言葉では表しきれないが、自分が人間的な魅力に欠けているという、コンプレックスを抱いていたようだった。感情の起伏が乏しく、物事はすべて効率を第一に考えて対処した。「他人」を推し量る時も、その人となりではなく、その相手と接することで何を得られるか、何のメリットがあるかということが主な基準となった。

同時に他人が自分に好意を寄せる理由も、私なりのこの方程式に当てはめなくては理解ができなかった。メリットがなくなれば友人も切り捨てる。または“使い方”を変える。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION