白石でございます。よろしくお願いいたします。
今日は日本財団からのご依頼で、「日本海賊とマラッカ海賊」という、関連のあるようなないような、大変難しいテーマで話を進めてまいるつもりでおりますけれども、初めにお断りしておきたいことがあります。それは、私は小説家でして、海洋史や海事史の学者ではないということです。
つまり、小説家といいますのは、いわば嘘つきであります。特に私の場合は、歴史小説を専門に書いておりますが、その時代背景を徹底的に調べはするんですが、そのうえで架空の人物を作り出して、その架空の人物を中心に虚実を取りまぜて物語を進めます。物語を進めるうちに、あわよくば、事実を超えたところに何か普遍的な真実を見つけようと、努力をする職業でございます。そのために、すべてを具体的に考える癖がついております。例えば、その時の人物の表情はどうだったか、どういう風貌をしていたか、どんなものを食べていたか、どんな着物を着ていたか、そういう具体性にだけ捕われるために、もともとない論理性というのが、ますますなくなってくるんです。
ですから、私はこうしてたくさんの皆さんの前で、論理的に話を展開していくのが一番苦手です。論理的な話ができないような体質になってしまっていますので、支離滅裂といいますか、途中で嫌になってくることが多いものですから、先ほど笹川理事長がご紹介下さいましたように、この十年間こうしてたくさんの皆さんの前でお話しする機会がありませんでした。