【質問】 浚渫ではなくて、例えば、下にトンネルを掘るとか、何かそういう方法はないのですか?
【宇多】 外国でやっているのは浚渫ではなくて、手前側でパイプをつくって水ごと吸う仕組みです。そして向こう側に水ごと吐き出します。浚渫よりもその方が楽です。しかしパイプが磨耗したり、ポンプが傷んだりとデメリットも多くて、それを無限に続けるのは馬鹿らしいという意見も出て来るわけです。
しかし基本的にはやはり、自然の状態をなるべく変えないでやろうという動きの方が強いです。
一方で漁業関係者の視点というのはこれとは全く正反対で、安全に出漁できるためには浚渫は本当に必要なのだから、海岸侵食が起こるから浚渫を中止しようということには同意できないわけです。これはどちらが正しいとか、間違っているとかいう次元の問題ではなくて、全く違う評価基準での議論ですからその調整が難しいんです。
【質問】 海には沿岸流という自然の流れがありますから、それをうまく使って流すような方法というのは難しいんですか?
【宇多】 それは、皆さんよく言われますが非常に難しいです。砂を運んでいる沿岸流というのは、汀線と砕波点の間の帯状の区域(砕波帯)を流れています。防波堤というのはまさにこの沿岸流の帯を分断するような構造物です。沿岸流をそのままの状態に保つには、陸上の2mから水深4mくらいまでの緩やかな斜面が必要なんです。それはつまり砂浜です。しかし、この砂の斜面こそが漁港に出入する漁船にとってみれば最大の敵です。ですから、それを取り除きたいという強い要望がある。要するに砂浜と航路は両立し得ないものなんですね。仕方なく航路確保のために、防波堤のような沿岸流に少しでも当たるような構造物を造ると、瞬く間にその外側に砂浜ができるのです。
【質問】 離岸堤を設置する人と、漁港を造る人というのは、今までコミュニケーションが無かったんですね?
【宇多】 基本的にはそうです。ただ飯岡漁港では昔、浚渫した砂を下手側へ流していたときは色々と相談をしていたはずです。
【質問】 銚子沖では、海底の砂を土木工事に使うために採取していると聞きましたが?
【宇多】 そうです。ですからこの九十九里浜の沖でも、海砂を採りたいという声もあります。しかしそれは漁業との兼合いがありますから、なかなか難しいと思います。
【質問】 縦割りの海岸管理者同士の音頭をとるというのは、今までなかったわけですか?
【宇多】 実際には音頭をとるのは不可能です。ここの管理者とあちらの管理者というのはそれぞれの立場があって、しかも、お互いの責任も力関係もフィフティ・フィフティですから、誰かが抜きん出て音頭をとるということは難しいんです。
ですから今まで、お互い干渉しないようにやって来たんです。しかしそれは国民の立場から考えると、何か変な話ですよね。例えば、ここの漁港を造るときの本来の目的は、漁業者の肉体的負担をなるべく軽減して、効率よく水揚げしようということであって、漁港を立派にすることだけが目的ではありません。ただし、これには前提条件があって、まず漁場が豊かであることが最も重要です。漁港というのはそのための根拠地ですから。しかし、立派な漁港を作るために生態系を変えてしまって、漁場を潰してしまうようなことをしてしまっては、本末転倒です。
【平本】 確かにここ飯岡でも、シラウオの水揚げは激減しています。シラスは獲れても、シラウオはほとんど獲れないんですね。シラウオというのは海の中でも比較的漂砂の少ない、小砂利がある場所で産卵するようなので、どうも浚渫で海底をかき回すのが良くないようです。