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【清野】 飯岡漁港にはまき網船団が泊まっていて、その前の岸壁には、たくさん漁網が積まれているのを見ることができます。何気ない漁村の風景ですが、この漁網というのは漁師の方にとってはとても大事なもので、また非常に高価なものです。

 

【平本】 まき網というのは、通常一つの船団で、本船(網船)2隻、魚探船1隻、運搬船2隻で構成されます。漁網というものは非常に高価で、大きいものですと一式1億円近くします。小さいものでも5,000万円はします。通常この辺りの船団は、大羽(おおば)イワシやアジ用、それから小羽イワシ用のものと最低2種類持っていますから、漁網だけでも十億円以上の資産になります。その他、魚群探知機などの計器にも多額の費用がかかりますから、現在の漁業というものがいかに資本のいる産業であるかがわかっていただけるかと思います。

今、漁網の素材はナイロンといった化学繊維になりましたから、このように漁港に雨ざらしで積んでおいても腐りませんので、保管が大変楽になったわけですが、昔は木綿でできた網でしたから毎回干していたんですね。化学繊維の登場は、漁師にとっては大変な労力の削減となったわけです。

 

今、イワシの水揚げが最盛期の3%以下に落ちてしまいましたが、これだけ落ちるとイワシの値段がすごく上がります。片貝漁港では、つい1カ月ぐらい前にマイナス35度で冷凍できる大きな冷凍庫ができまして、冷凍イワシが1日15トンできます。最近、回転寿司なんかでイワシの寿司というのは結構人気がありますが、あれはマイナス35度まで一気に冷凍したイワシを使っています。今、ちょうど入梅イワシと言いまして、1年間で一番脂の乗ったイワシが獲れますが、その多くは、回転寿司などで消費されています。

ですからイワシ漁業1つとっても、地域によって、ものすごく経営の仕方が違って来ていて、九十九里の場合には、どちらかというと豊漁過ぎると儲けにつながらないようです。

 

今、九十九里浜では年間1,000トンぐらいイワシのシラスを獲っていますが、表向きはシラス漁ではなくシラウオ漁と称しています。ここ九十九里ではイワシがたくさん獲れますから、その稚魚のシラスもたくさん獲れます。つまりシラウオ漁と言っても、実際には99.9%はシラスです。ちなみにシラウオですと1kg 4,000円もしますが、シラスですと10分の1以下だと思います。年間4億円ほどの水揚げがあります。

 

私は、「本当は九十九里浜ではシラスが年間3,000トンは獲れるはずだから、今の3倍の12億円にはなるはずで、あと8億円は儲かるはずだ」と思っています。しかし、こうした小魚を獲る漁業は船引き網漁と呼ばれ、もともとまき網業者の勢力が強い土地柄ではなかなか難しいようです。ましてや行政がそんなことをやったらつるし上げられてしまいますので、今もって千葉県農林水産部では腰を上げないわけです。けれども私は、九十九里浜の漁業にとって最後の砦はシラス漁だろうと思います。と言いますのも、イワシの餌になる栄養塩が同じぐらいある茨城県の鹿島灘では、多い年には7,000トン、少ないときでも数千トン獲っているわけで、千葉県同様、漁業の不振が続く茨城県の漁業はとりあえず船引き網で成り立っているような感じだからです。

 

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飯岡漁港のまき網船団と漁網

 

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港に積まれた様々な種類の漁網

 

 

 

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