日本財団 図書館


【質問】 自然の川というのは直線ではなくて、少し蛇行しているのが普通なはずなので、むしろそういう構造にした方がいいと思うのですが、それでは問題があるのでしょうか?確かに工事費はもっとかかるかも知れませんが。

 

【宇多】 この辺の土地というのは、先ほどバスの中でお話したように、浜の背後には低い湿地が広がっています。つまり、栗山川の河口は現在この場所ですが、硬いコンクリートの構造物がなければ右に行ったり左に行っていたりしているものです。それからここに打ち寄せる波は、今は夏ですから、正面やや右手側から寄せて来ていて、それによって砂はやや左手の方へ流されて、砂州は北へ延びようとします。一方、冬場は波の来る方向が逆になるので、砂州は南へ伸びようとする。要するに河口の砂州はフラフラしているのが自然な姿なのです。しかしこうした現象は、人間の土地の利用上非常に困ります。河口のどの辺りが一番深いのかというのを、漁船に乗る人が予めわかっていればいいのですが、実際は船が座礁して見て初めて浅かったということがわかるんですね。したがって利用者側から見れば、河口はやはり構造物で固定したくなります。

 

【質問】 本来、この川はどのくらい幅があったのですか?

 

【宇多】 本来の川幅というのは説明が難しいです。今日のように、水の少ない時期は現在の川幅ですし、大水が来ればそれこそ導流堤を越えて流れるようなこともあります。その時はそれが川幅なわけで、自然の川の姿というのは絶えず変化しているものです。

 

【清野】 今日は河口の物理的なダイナミズムというものを顕著に見ることができます。つまり、海の水と川の水が出会った時、どのような現象が起こるかを目の前で見ることができます。いま河口から200mほど上流を見ていただくと、泡だった潮目のようなものができていますが、そこを境に海と川が表面では分かれています。しかしそれは川の表面のみの現象で、川底のほうの部分では海の水はもっと上まで上がっています。つまり海水はくさび状に川底を這って遡上して行きます。今ちょうど潮が上げているので、表面部分では、あそこが真水と塩水の境目ですが、川底をとって見ると、海の水が数キロ上まで確実に上がっています。

 

【宇多】 この辺の川では、塩水は河口から7〜8kmまで上がります。だからこの辺りの川では表面は、真水でも川底の方は塩辛い水なのです。

 

【清野】 今日、海岸を見るときに気をつけて見て欲しいことのひとつに、海岸に公園を造るという事業があります。大抵は海岸環境整備事業と言われるもので、そこでは南国風の演出がされるということがよくあります。先ほど見学した本須賀海岸でも、熱帯植物のフェニックスという木が植えてありました。ここはまだ温暖な千葉だからいいのかなと思いますが、このようなフェニックスとかヤシの植栽を、新潟海岸とか福島でもやっています。好みとかもあると思いますが、きれいな海岸のイメージというのが南国風というような固定概念があって、公共事業までもそのようになってしまうのかなと思います。

 

ここ栗山川漁港でも環境整備事業をやっています。漁港建設というのは、水産業という特定の業種のみに対する支援ですが、その一方で、「何で水産をやっている人たちのためだけに税金を使うのか」という意見が出て来たことと、もっと多目的に高度利用しようという理由で、多くの人が使える空間整備をしようということになりました。それで特にバブルの時代に事業が進み、今では大体かなりの漁港で環境整備事業で造られた公園というのがあるわけです。

 

018-1.jpg

栗山川漁港に隣接する公園 小山の上から北東方向を眺む。(2001年11月)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION