まえがき
九十九里浜の侵食メカニズム
今回巡検を行う片貝以北の九十九里浜のうち、特に北部では侵食が顕著で、このため護岸工事が施された人工的で無機質な海岸線が続いています。今日は九十九里浜の北半分のうち特徴ある7箇所の海岸を選んで、そこを中心に皆さんと海岸線の現状を見ていきたいと思いますが、ただ漠然と海岸に行っても侵食の因果関係など分からないと思います。なぜなら、どこの海岸線に立っても、同じようにほぼ正面から波が打ち寄せては砕ける、といった一見何ら変わりない光景が見えるだけだからです。恐らく皆さんがこうした波の動きを見る限り、砂は岸向き沖向きの2方向のみに行き来するものと考えがちで、砂がゆったりと横方向に移動し、それが大きな地形変化を引き起こすことなど、とても想像もできないはずです。しかし長さ約60kmの九十九里浜のうち、北半分の海岸線では緩やかではありますが平均すると南向きの砂の流れがあります。その砂の流れを人工的に断ち切ったり、あるいは流れる砂の量が減少した結果、長い年月を経た今、とても大きな地形変化が生じているのです。したがってこのような特徴を持った海岸線を巡検する場合には、沿岸に沿う砂の流れ(沿岸漂砂)を考え、その流れの下手から上手、あるいは上手から下手の方向へと順に現地を訪れることが必要なのです。
このことは図1の模式図のように、ある川を考えたとき、その川が海に注ぐ場所、すなわち河口から上流方向へ遡り、最終的には川の源流まで見て歩くこと、あるいは逆に上流から下流方向へ順番に見て歩くことと同じです。九十九里浜北半分の海岸線に沿って沿岸漂砂の下手側から上手側に番号?@〜?Fを付けると図1-2のようになりますが、この順番で見て歩くことは川に沿って下流の?@から上流の?Fへ見ていくことと全く同じです。このルールをわきまえずに、でたらめな順序で海岸を見て歩いても因果関係が掴めないので訳がわからなくなります。
今日の巡検では漂砂の流れる方向が予めわかっているので、漂砂の下手側から上手側へと遡るように、すなわち図1-2の?@に位置する本須賀海岸から?Fの屏風ヶ浦まで北上しながら見て歩きます。
九十九里浜の近くには利根川の河口があるので、そこから砂が流れて来ると思う方がいるかも知れませんがそれは間違いです。利根川は太平洋に流れ込んでも砂は北の波崎の方へ流れます。それに利根川は現在のように銚子に流れ込むようになってから、たかだか250年しかたっていませんから、九十九里の砂浜の形成には関係がありません。