西の山に赤い夕日がかたむいて、山はむらさきにもやっている。海に夕日がうつって、オレンジ色のさざ波がキラキラとかがやいている。
対岸の松林も、夕日をうけてオレンジがかってあかるい。ぼくの大すきな海のけしきだ。
そのとき、夕日の海に黒い点がみえた。
「ああ、父ちゃんの船や」
「ええっ、ほんまや」
夕日を船尾にうけた、黒い船体はまだ小さい。それでも漁船の位置が、定期船の航路とかさなりそうだ。
「おばちゃんガンバレ。魚にがしたらあかんでー」
とつぜん、にいちゃんが大声でさけんだ。
前かがみだったおばさんが体を起こした。漁船は航路から外れて、定期船がさんばしに着くのをまっている。
「ヨシキのおばちゃん、まにあったな」
ぼくは、息するのを忘れていたように、大きな息を吐いた。
「ヨシキんとこ、大漁やな」
にいちゃんが、うれしそうに笑った。
岸に近づいた定期船は、いっきに真っ白い船体を、さんばしによこづけして、ともづなをおろした。汽船のあと波をうけて、漁船は大きくゆれている。
つとめがえりの人、学校がえりの人、電車からおりてきたらしいお客さんも、みんな下船して改札口をでていった。
「おーい、ユタカ、タケちゃーんありがとうな」
おじさんの声に、ぼくらが顔をあげると、漁船はすぐそばにきていた。
「よおうおしえてくれなったなー。おかげで大漁だったでよう」
おじさんのはずんだ声にあわせて、おばさんも大きな声でいった。