「ウラタのオジン、いま浜へきとるかなあ」
「わからん。昼間じゃけん」
「うちのオバアがウラタのオジンがいるときゃ、浜さ行くなって言っとるぞ」
「だまっとりゃわからせん」
「そいでもなぁ」
「なんじゃ、おまえ、うわさを信じとるんか。しょんべんくせぇ」
「しょんべんくせえっちゃなんじゃぁ。いくら太一じゃってゆるしちゃれんぞっ」
「こわがってしょんべんちびるっちゃあ、弱虫じゃってことじゃあ」
「だれがこわがっとるってか。ゆうてみい。だれがじゃいっ」
「正すけ、おまえに決まっちょろうが。かあちゃんもこわけりゃ、オジンもこえんだ」
「こわかねえや、あほったれ」
「ほんじゃ、正すけもきてみいや。今夜じゃぞ。きっとじゃからな」
「そんなもんかってに決めくさっても、今夜オジンがいるって、だれぞに聞いたんか。おるもおらんもわからんのに、行けるか。あほったれ」
「あんなぁ正すけ、悪いがよ、今夜は満月じゃ。ウラタのオジンはな、満月の夜にはかならず浜にきとるんじゃ。知らんのか、あほが。うそだと思うんならきてみい。ま、こわいのに無理することもねえけどな」
「ああ、きちゃる。ぜーてえ、きちゃる。くっからな。太一こそ、おじけて逃げるなよ」
「おれは正すけとはちげえんだからな。おじけるかよ!」
「よっし、ほんじゃ今夜だぞ、浜で待っとれ」
「おお。今夜じゃからな。浜で待っとるわっ」
太一と正すけは、村の十字路にある郵便局の角で別れた。