一方、夢寐にも忘れ得ぬグラムパス島のことについては、海底火山の大爆発によって次第に沈降し、遂には海面下に没し去ったのではあるまいか……などと考えてみたりした。昔から小笠原周辺の海域は海底火山の活動が特に活発で、海底の変動も激しい。
それにしても、大爆発の形跡や情報が何一つない以上探索を諦め放棄することはできない。グラムパス島は必ず実在する!たとえ海中に没しても、あの壮大な虹は沈むはずがないのだ!新六は自分の弱気を叱咤した。折から、ロスヂャルデイヌという宝の無人島がマリアナ諸島の西側海域のどこかに存在するという噂を耳にすると、新六もまたその探検に青年のような闘志を密かにかきたてるのであった。
明治三十五年七月二十四日、突然軍艦笠置が政府の緊急決定で、石井菊次郎外務省書記官を乗せ、南鳥島に向けて横須賀を出港した。
四日後、笠置がその雄姿を南鳥島の南岸に現わすと、直ちに秋元秀太郎中尉以下十六名の陸戦隊が海軍旗を先頭に、物々しい恰好で上陸してきた。
魂(たま)消げたのは二十九名の島の労務者たちである。朝食中の彼らは箸をなげ捨て血相を変えて浜辺に走り寄った。
隊長の秋元中尉の語ったところによれば、
―米国の実業家ローズヒルなる人物が、最近になって、現在南鳥島など称する島はすでに十三年前、われわれ米国探検隊が上陸占領し米国領土として宣言したマーカス島のことであると新聞に公告し、さかんに米国の世論に訴えていたとのことである。さらにローズヒルは五万弗の保証金を支払ってマーカス島のグアノ採掘占有権を米国政府から取得していると吹聴し、世の投資家の関心を大いにそそっているという。