手下の人夫たちの本業は漁師らしく、冬の海を恐れる気配も無い。親方のタナカは潮枯れ声をはりあげて命令した。
「いいか!おっどんが一番乗りじゃ。ひと頑張りして酒手をはずんでもらおうぜ!」
人夫たちは荒々しい歓声をあげると、どてらを脱ぎ捨て、日焼けした素肌に下帯一本になる。そして細縄の束をたすきがけにすると、次々に海へとびこんでいった。遠巻きに見物している野次馬の船から、ぱらぱら拍手が飛ぶ。俺とラスは番船の船首に立って眺めていた。
人夫たちは息継ぎのために、数分ごとに水面に顔を出す。潜っては浮かび、また潜る。
異変が起きたのは三度目の息継ぎのあとだった。二の組の人夫がひとり、血相を変えて水から艀船にあがってきた。続いてもうひとり、そして三人目は別の仲間を抱きかかえるようにして梯子を昇ってきた。最後にあがってきた男は、寒さで歯を鳴らしながら、タナカの問いかけに答えた。
「胴の間にゃあ気持ちの悪い色の水がよどんどった。初めはどうもなかったが、三度目に潜った頃から気が遠くなって、もう我慢できんじゃかの。仲間がもうひとり、胴の間で動かなくなり、死んだように沈んでいってしもうた。もう潜るのは勘弁してくらさい」
様子を注視していたラスが叫んだ。
「樟脳だ!積み荷の樟脳が水に溶け出してるんだ」