タキチロが通訳し、ラスが杯を受ける。
「今日ははからずも楽しい交流の機会が得られて光栄です。ところで貴方はどんな漁をしてるのですか?」
キウエモンの話によれば、彼は実は漁師というよりも肥料にする鰯を専門に扱う魚商人である。十三歳から船に乗って鰯をとり、十九の歳には自分の船を持って干鰯(ほしか)と絞粕(しめか)を作って販売していたが販路が広がり、今では自分で作るだけでは足りず、この長崎港口の香焼島(こうやぎじま)に仮住まいと集積所を設け、長崎周辺の漁師に委託して鰯を買い入れ、肥料にして販売している。そのために四百石積の西漁丸(さいりょうまる)と二百石積の西吉丸(さいきちまる)という船を持っているのだと。
俺は気になっていた事を聞いてみた。
「それにしてもあんたの今日の踊りは面白かったねえ。神様にお参りするときは、いつもあんな風に踊るのかね?」
するとキウエモンは真顔でこう答えた。
「他の船乗りと同様、私も信心ぶかい人間でして、どこの土地に行っても神様へのお参りは欠かしません。神様にお参りするには、まず神様の気持ちを楽しく解きほぐして差し上げなければいけない、と子供の時に親から教えられました。それで私はお参りする前には、神楽舞いをする気持ちで、踊りながら神殿のそばに行くことにしています」
「いやあ、あの踊りはよかった。俺の国のインディアンの踊りにそっくりだったぜ」