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4. 開発エンジンの概要

動力を発生するエンジンの燃料として天然ガスを用いることは資源、環境上の諸問題を解決する上で世界的に大きなトレンドとなっている。しかし、天然ガスを燃料としたディーゼルエンジンは気体燃料であるが故に熱効率が余り良くなく、液体燃料に比較し、其の熱効率は10%ほど悪い。この熱効率を大幅に改善する技術開発が急がれ、最近、多くの企業、研究者が研究に取り掛かるようになった。(財)シップ・アンド・オーシャン財団では、熱効率の大幅な改良を機械的方法で行うには限度があり、燃料の改質によって発熱量を増加させる方法が最も有力と判断し、(株)いすゞセラミックス研究所の協力を得て、本エンジンの開発を平成10年度から始めた。

 

本エンジンの開発構想は投入した天然ガス燃料の熱エネルギーを出来るだけ有効に利用するため、エンジンの構造を遮熱構造とし、燃料の燃焼熱を動力と排気ガスに移し、排気ガスの熱を用い、触媒装置上で天然ガス燃料を改質させ、更に排気タービンなどによって動力を回収させる事である。このため平成12年度は(株)アペックス及びフジセラテック(株)の協力を得て、エンジンの構造を遮熱構造としたシステムを完成させることを主要目的とした単気筒エンジンの試作を行うとともに、排気エネルギー回収システムの研究開発が行われた。

遮熱型エンジンの基本構造は燃料が燃焼し、作動ガスが高温度になり、其のガスが接触する燃焼室部分の熱放散をいかに小さくするかに掛かっており、其の最適構造体とすべく検討し、設計した。燃焼室を構成する各部の熱通過率を計算し、熱移動の抵抗を大きくするような構造を採用した。特に燃焼室の壁面外側に空気層を設ける構造は遮熱効果が大きいのでこの構造を用い、エンジンの基本構造体と接触面には薄板の多重積層ガスケットを配置する事により熱伝導率を小さくした。また、吸気、排気ポートにはポートライナーを挿入する構造とし、ポートライナーとシリンダーヘッドの間にガスが漏れ、対流が発生しない様、仕切り板を設け、熱移動を最小にするようにした。遮熱エンジンの材料は平均燃焼ガス温度1200℃、燃焼室壁温800℃と推定されるので、研究開発の速度を上げ、また便宜を図るため、従来の研究で用いたセラミックス(窒化珪素材)を使うことを止め、ニッケル、クローム系の耐熱合金を用いることとした。熱伝達量の大きい副燃焼室内壁と、副室−主室間の副室制御弁の外側には熱伝導率の小さいジルコニアをコーティングし、熱放散を防ぐこととした。このような構造により遮熱率を計算したところ遮熱率はセラミックスを用いた場合の目標値70%(通常の冷却液体燃料エンジンは0%)に対して63%となった。

燃焼室は副室式とし、主燃焼室と副燃焼室の間に制御弁を取り付け、エンジンの吸入行程後半と圧縮行程前半の期間に副室内に天然ガスを低圧で注入する構造とした。副燃焼室の容積比は15%とした。主燃焼室には吸入行程で吸気管に取り付けた燃料弁から導入した燃料が均一混合気として供給され、圧縮行程の後半、上死点40〜30度に制御弁が開弁され、主燃焼室内の希薄混合気が副室内に流入される。副室内では濃混合気が形成され、あちこちに着火が起こり、この火炎が主室に吐き出され、主室内の希薄混合気を一気に燃焼に至らしめる。この燃焼方式は、現在、ディーゼルエンジンの燃焼改善分野で、盛んに開発されている、予混合圧縮着火方式(HCCI)の一つの事例になり得るものとしてこの燃焼方式の確立を目指すことにした。

 

また、このエンジンには排気ガス再循環(EGR)の量を多く取り入れ、主燃焼室内の酸素濃度を16%程度にし、窒素酸化物の発生量を極端に少なくする方式を採用した。

主燃焼室方式の従来エンジンに対し、本エンジンでは主燃焼室、副燃焼室が存在し、主燃焼室と副燃焼室間に制御弁が存在するので構造が複雑となり、圧縮ガスが漏れ易い構造となっているがガス漏れについては特に気を使い、シールリング、Oリングの適切な使用方法を採用することを心掛けた。

 

 

 

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