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ただ、持家政策がなくなった場合、老後の不安があるから、みんな全然動かなくなってしまう心配がありますが、きちんと対応できれば、何かできると思う。

戦前と戦後の文化の問題文学の問題も含めて、借家政策と持家政策の非常にアンバランスの中で、失ったものが大きいのではないかなという気がしている。

 

青木 パリは、よほどの身分か偶然でないと、自分の家は持てない。借家だと、税金もかかってこない。大分違う。自分でマンションを持っていれば、ローンだけでなく、税金もかかってくる。

さまざまな背景をもつ人の交流の場としての東京を、もっと大々的につくってほしいなと思います。大企業、大学、普通の会社、住宅地も含めて、いろいろな外国人が住んで、活躍できる場になってないことは事実です。人の交流の条件を整えることを、もっと意識的にやっていく必要があるのではないかと思います。

ファッションをとってみても、パリ・コレクション、ミラノ・コレクションなどの場と比べて、お金を使っている東京コレクションは評判にならない。しかも、東京には、三宅一生、高田賢三、山本耀司、森英恵さんたちがいる。この人たちはパリ、ミラノやニューヨークで評判を取っている。東京で、それを発信できればいいのです。アジアにも関心を持っている人はいっぱいいるし、韓国、中国にはファッション・デザイナーはたくさんいるので、人の交流の場の形で発信できるはずなのに、そうはいかない。

近代の西洋思想の受容についても、例えば、ハーバード・スペンサーの社会進化論が、19世紀に日本ではやった。中国人も関心を持ったそうです。初めは日本へ来て学ぶのですが、ハーバード・スペンサーの理解は中国で育った。日本では流行に関心をもつけど、それが終わると別のほうにいって、結局、あまり根づかなかったという研究を、私の教え子の中国人が修士論文で書いたのがいました。日本は、どうも一過性のものでやっていくようなところが、近代では強いのかなと思います。

ものの集積も、ハイテク製品のセンターみたいなものは、もっと文化として、東京の中で位置づけてもいいのではないかと思います。情報はいっぱい入ってくるといわれていても、シンガポールや香港と比べてそんなにたくさん日本へ入っていないと思います。香港のほうが、情報はあふれているのではないんですか。香港だと、ヨーロッパやアメリカの情報だけではなくて、アジアの情報が入ってきます。日本は、アメリカの情報も非常に限られているし、ヨーロッパの情報だってそうです。アジアの国や社会には、言論の自由がないところがあるわけですから、そういうところの人を呼んできて、自由に書かせる。そういうことをやって、国際的な文化発信の場にしてゆく。東京でアジアの作家が書いた作品でノーベル賞を取ったりする。現に中国人の作家がパリに亡命して書いてノーベル文学賞をとりました。そういうことはほとんど日本ではない。これはどうしたことかと思います。

戦前のタイの大政治家のピブンさんという元首相が、戦時中に信濃町か、千駄ヶ谷に住んでいた。半ば亡命ですが、敬意を払われていた。そういうことをやっていると、タイ人の政敵のほうでも日本を評価することになる。今、ほとんど、そんなことを引受ける人は東京にだれもいないでしょう。

 

岡本 文化は、単に芸術だけでもないと思うのですが、そこにあるものが文化だと認知していく、公布していくシステムがあったほうがいいと思うのです。例えば、パリの場合、グランプロジェクトというので、ファッションを文化として認知させるためのシステムがルーブル美術館の中にあります。

日本は、ジャポニスム展をやった人が、国立博物館・美術館でモードの展示会をやろうとしたら、全部却下された。モードは芸術じゃない、文化じゃないという理由です。それをブレークスルーして、初めて芸術として認められる。例えば、ソニーで、ビクトリア・アルバートを初めて入れました。日本は、ああいうテクノだとかを芸術として認めてないところがあって、そこがおかしい。

 

青木 テクノ文化センターをつくり、秋葉原がある。両方が作用しあって国際発信をする。

東京って、僕は好きな街です。いろいろな場所もあるし、歩いて楽しいところもある。それに、いろいろなことが一挙にできる。神社が好きですが、神社にお参りした後で、ホテルで食事をしたり、映画を見たりすることが、1つの流れでできる。楽しめる空間が、ちゃんとある。日比谷の一角にしても、都市的なきれいな場所がある。日本のほかのところにはない。それは首都だからできたと思う。

パリみたいに、中核部分は規制をつくり、必死に文化として維持して、逆に我慢した分だけ観光でもうけることもできる。都市を1つの文化的なクリエーションとして見てる。日本の文化尊重意識は薄い。

 

 

 

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