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ベトナムの映画「青いパパイヤの香り」は、すばらしい映画です。同じフィルムメーカーがフランス語でつくった映画でこの夏に出た「A la Vertical de I' Ete」も美しく、また鋭い映画です。イランの映画産業も、独裁的な圧政があり、閉鎖された社会であるにもかかわらず、立派な映画をつくっています。映画は、文化の大切な一部であり、映画を通して文化と文化が語り合うことができる。しかし、それが世界都市に焦点を当てているかどうかはどうでしょう。というのは、映画はどこかへ行かなければならないというものではないですし、映画館でも自分の家に座っても見ることができる。必ずしも東京といった世界都市に行く必要はない。映画がどういう影響を与えるのか、はかりかねています。

青木先生の文化が分断されているお話についてですが、すべての文化が今分断されているのではないでしょうか。ヨーロッパの文化もヨーロッパのやり方で分断されています。ヨーロッパではアジアに強い関心が寄せられています。アジアの文明について学びたいと目を向けています。私のハーバードの講座ではヒンズー教、仏教、イスラム教もカバーしていますし、極東に関する講座も持っていますが、学生たちは非常に強い関心を寄せています。

トルコと日本の個々の状況に関する限り、トルコと日本は特異な国だと思います。それは、トルコと日本は、アジアなどが植民地化されているときに、自分たちのアイデンティティーをほかから切り離して持ち続けてることができた、たった2つの国であったという点です。トルコも日本も、自分たちの文化に対する自信を感じ取ることができます。しかし、植民地化された多くの地域では、また中国でさえ、どこかけんか腰で何かを守らなければいけないというような姿勢があります。トルコや日本には、もう守ってきたのですから自分たちを守ろうとする必要はない。

これからの問題は、どう第3千年期に前進していくかということで、徳川家康が出したいろいろな戒告を用いるのがいいのではないかと考えます。つまり、強く、忍耐力を持ち、慎重に行動していき、我々自身になるということが必要です。我々自身になるとはどういうことなのか。それは、人間であるということに似ています。知性を働かせていろいろと読み、ほかの人のことを考えてどこまで受け入れるか、どこまでは受け入れられないか、どこまでは拒否するか、そういうことを考えた末に、我々の個性、我々のアイデンティティーを豊かにしていけると思う。その点で日本は、文化的な面で自分たちを豊かにしてきたと思います。アジアのすべての国々が、自分たちのモデルとして日本を見ている。日本は、インド、スリランカ、東南アジア、トルコにとっても欠かせぬ重要な国と見られているんです。青木先生がトルコから学んでいることがあるといいましたが、私たちは日本から学びたいことがあると思っています。第2次世界大戦の荒廃から不死鳥のように生き返った、奇跡のような再興を果たした日本から学べることがあると考えています。

文化をつくるということ、文化を持つためのスペースを提供するのは、いい提案だと思います。日本と東京が今のように活気あるところであり続ける限り、こういったことは皆起こってきます。というのは、世界は東京を見ています。そして人々は東京へやってきます。今東京で行われていることをもっともっと見たいと思っている。確かに東京はそのすばらしい美しさを見せる展示場になるべく、もう少し努力する余地はあると思います。例えば、新しくできた東京フォーラムも、すばらしい建築学的な記念碑だと思います。私は写真でしか見たことがありませんが、グゲンハイムがあのおかしな建物をビルバオにつくった。ビルバオはスペインの北海岸のひなびた場所にあります。もう神にも見捨てられたような、気候もよくない、だれも行かないようなところだったんですが、あの建物ができて突然、たくさんのツーリストが来るようになった。東京もすばらしい建物、公共の建物がたくさんできてきています。大変貴重なものとなっていくでしょう。

言葉の話が出ましたが、日本人は外国語を話すことにとても遠慮があると言われている。岡本先生は8月にトルコへ私を訪ねてきました。5カ月ほどたった12月に先生をパーティーにお連れしたんです。先生はトルコ語を知らずにトルコへ来ていたわけです。

 

 

 

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