青木 東京財団「世界都市東京フォーラム」のシンポジウムをこれから始めます。
東京とは何か、東京は果たして世界的な都市なのか、また東京をどうしたらいいかという問題について、東京財団ではさまざまな角度から研究を進めています。歴史・文化からの考察という比較文化的な見地から東京の現在と将来をとらえること、そして歴史・文化から逆に現在とか将来をとらえる研究会をここで組織させていただき、既に数回にわたって研究会を行ってきました。
そこで、本日は、その研究会の1つの帰結として、ゲストをお迎えして基調講演をいただき、それから我々の研究会のメンバーでのディスカッション、ご列席の皆様からのご質問ないしコメントをいただき、問題を発展させていきます。
最初に、きょうのゲストをご紹介させていただきます。ハーバード大学のヌール・ヤルマン教授です。ヤルマン先生は、これまで日本に何度もいらして、朝日新聞の21世紀委員会の委員も数年お務めになりました。もともとはイスタンブール出身のトルコ人です。ケンブリッジ大学で社会人類学を修め、博士号を取って、ケンブリッジ大学の講師、シカゴ大学の教授を務めた後、ハーバード大学教授にご就任になって、もう30年近くになると思います。ヤルマンさんを世界的に有名にした研究は、「アンダー・ザ・ボートリー」という、スリランカの高地の村での研究です。これはユーバーシティ・オブ・カルフォニア・プレスから出ました。当時、私は大学院で人類学の勉強をしていて、中根千枝東京大教授のセミナーに出席していたら、中根先生から、すばらしい本が出たと読まされた経験があります。1978年にフルブライトの研究員として私もハーバード大学に研究留学をしたときにお会いして、それ以来のつき合いです。ヤルマンさんは、ハーバード大学きっての有名教授で、アンダーグラジュエートの講義には1,000人ぐらいの学生が詰めかける人気です。
そのほか、トルコを代表して、バチカンでの会議、ギリシャとトルコの仲介などの会議に出席したりしています。人類学者にとどまらず、トルコきっての国際人、外交的な学者として大変なご活躍をされています。
藤井宏昭先生は、現在、国際交流基金の理事長をされており、日本の誇るベテラン外交官です。これまでアジア、ヨーロッパ、アメリカに赴任され、イギリス大使、タイ大使を務められました。パリ、ニューヨーク、ワシントンDCにもお勤めになりました。私たちも、文化政策研究の有益なご助言をいただいているわけです。これまでのさまざまな任地でのご体験、ご識見を踏まえて、世界都市東京についてのご提言をしていただきます。
それから、歴史・文化的視点からの「世界都市東京フォーラム」のメンバーをご紹介します。
政策研究大学院大学の岡本助教授は、若い気鋭の文化人類学者で、特にトルコとイギリスの専門家です。
法政大学の陣内教授は、都市と建築論の世界的な学者です。
川本三郎さんは、文芸評論家、映画評論家として大変な業績を上げています。東京については『荷風の東京』で読売文学賞を受賞されました。
森まゆみさんは、『森鴎外の坂』の研究など東京論で数々の賞を受け、我々の研究会では、日暮里の再開発について貴重な報告をされています。いろんな外国人が今や日本に住んで、東京を再現するさまざまな試みを行っている様子についての貴重な報告をしていただきました。
東京財団会長の日下公人さんは、偉大なスポンサーで、「世界都市東京フォーラム」のアイデアを出した人です。
世界都市への潜在力を持つ東京
最近、バンコクと香港に行きましたが、香港の空港と香港市内を結ぶエアポート・エクスプレスのすばらしさを再認識しました。成田へ帰ってくると憂欝になります。成田空港の利用のしにくさ、都心に一体どう入ろうか、それだけでもう憂欝な気分になります。それに対して、例えば、シンガポールヘ行くというと、あのチャンギ空港を思っただけで心が踊ってくる。不便な空港を持った東京は果たして世界都市なのか。香港は、空港へのアクセスはいいし、国際的なさまざまな人が住んでいて、英語が通じます。またインターナショナル・スタンダードをいろんな点でクリアした制度、組織大学もあります。