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富山県に行っても、静岡に行っても同じでしょう。みんな金属的な箱物ばかりつくる。そこへ行ったら、東京や横浜か、幕張に行っているのか、全然わかりません。あれは公共事業の一つのあり方なんですかね。

 

日下 公共事業は基準があるから。

 

青木 国が選んだ設計士に全部任せたら、同じようになってしまう。

 

日下 思い出話ですが、鈴木都知事時代に「東京ルネッサンス会議」をつくりまして、1兆5、6千億円金が余っているから、何かに使おうという。

その計画を見せてもらったら選挙区対策なんです。まず、東京都庁を新宿へ移したい。

都庁が新宿に移ると、隅田川周辺の人たちが文句を言うから、江戸東京博物館を与えようではないか。2,000億円単位でやるわけです。僕は、そんなことしないで、その分、減税すべきだと言った。減税して民間に使わせれば、すばらしい東京になる。これがみんなとまるで違う意見だった。

その次に、東京長期計画で、「国際都市東京」と「ふるさと東京」の2本立てです。鈴木さんが東京再生を目指してアピールしようという根本計画。「ふるさと東京」は話が具体的。学校を建てる、下水道処理場をつくる、道路をつくるとか。「国際都市東京」は何にも具体性がない。理念ばかりが書いてある。その理念たるや、私が読むと、外国人から税金をがっぽり取ろうと書いてある。さぞや収入が多いだろうと書いてある。そのために外国人に対して何をサービスするかは、どこにも書いてない。だから、国際都市東京は絶対に挫折します。外人は来ません。来ている外人も帰ってしまいます。従って、ふるさと東京づくりもできません。1兆5,000億円の財源は消えてなくなります。後には大赤字が残りますと言って首になった。

正しい意見を言えば、必ず首になる。首になったとき証明される。ベネチアでもイスタンブールでも、外国人に対して税金をまけたのではないか。だから人が入ってくる。

 

青木 ある種の特権を与える。

 

日下 あるいはもうけのチャンスを与え、かつ迫害、弾圧、税金をかけなかったのが世界都市への第一歩かな。営利、採算で計算したら、それが一番いいのですが、その計算より前に、やっぱりスピリットがある。外人嫌いとか、何かしらある。東京にはあのときにはなかった。外人からはがっぽり取ってやれという、それしかなかった。

 

陣内 ベネチアでは観光客が多過ぎるという問題が出てきています。水上バスは二重価格になっていて、観光客からは10倍ぐらい取る。

 

森 減らすという政策はないのですか。自分のところに今たくさん人が来ている立場から言うと、住んでいる人は大変だな、と思いました。行くほうにすると、いいホテルはとれない、レストランは高い。需要と供給がすごいアンバランスで、地元の人しか行かないすてきなレストランには観光客は絶対行けない。行くには、留学生の友達がいるとかの人だけです。そうなると、ほんとうに交流都市なのかどうか。

 

青木 大観光都市は、フィレンツェなども、どこでもそうです。京都でも、ある種の二重価格制だから、地元と東京や外国から来る人間は値段が違う。香港もそうです。今のフィレンツェやベネチアなどは、外国から観光客がいっぱい来るから、もう要らないなんてことを言ってもいいが、実際は、来てくれないと成り立たない。

ところで、世界都市という概念はいつごろからできたのですか。世界都市とか国際都市とか、最近はグローバル・シティという言い方をすることもありますが、意味が少しずつずれるんです。ウイーンは一種の世界都市です。19世紀のロンドン、パリもそうです。観光に依存して人が集まって来る国際観光都市とか、ワシントンD.C.とニューヨークのすみ分けの仕方。アンカラとイスタンブール、北京と上海とか。いまや北京にも外国人がいっぱい住みついている。

 

日下 エンパイア精神が世界都市をつくる。

 

青木 オスマン帝国も、外国人という概念がほとんどなくて、エンパイアに入った人は全部同国人です。近代のアタチュルクが、トルコ共和国をつくったときに一番困ったのは、トルコ人意識がなかったことです。農民がそういう意識がなくて、みんなイスラムの大義では同じだが、オスマンだということです。その辺はちょっと違います。いろいろなレベルのことが東京でも考えられると思います。

 

 

 

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