青木 この研究会の座長をつとめさせていただきます青木です。まず、私から、ごく簡単に、「世界都市東京フォーラム」第2部の「歴史と文化」についてお話しします。
東京とは何かは、いろいろなところで問題になっていますし、また、東京は世界の中心なのかどうかという議論は明治以来からずっとあり、有名な幸田露伴の『一国の首都』とは何かという本もあります。いろいろなことが論じられているわけですけれども、戦後も一貫して、こうした世界都市をどうしたら東京がもてるのかはどこかで考えられてきましたし、その面での批判も多かったかと思います。東京はほんとうに世界の中心になれるのかは、日本の近・現代を考える場合の大きな話題の一つと思います。
そこで、かねて私個人もそういうことを部分的には書いたりしていたのですが、東京財団の日下会長が、「東京をどうするか」について熱心でして、ことしの初めごろに「世界都市東京」というテーマで何かやらないかと。ハードな環境とか技術のこと、いわゆる都市工学的、あるいは社会工学的なインフラのレベルのことは第1部とし、その方面の専門家を集めて研究します。第2部に、ソフトな歴史や文化の視点から、世界のいろいろな都市の事例を比較対照しながら東京を考えていったらどうかと私も発案し、本日は、その第1回の研究会を開くに至りました。そこで、世界都市東京を考えるについて大変ふさわしい研究やご経験をお持ちの方々に集まっていただきました。
ごく簡単にご紹介しますと、まず初めに森まゆみさんです。森さんには、『鴎外の坂』をはじめ名著がございますけれども、今やイタリアのことも書いていられます。かねて近代東京、その文化、文学、街と人々について、また東京再生のための地域おこしとか、東京をどうするかということを著書とは別にお聞きしたいと思っていました。
陣内さんは、建築家という立場からヨーロッパや中東の都市研究をふまえた比較都市学的なアプローチも多く、都市文化と歴史のことも研究しています。最近も『地中海都市周遊』という、中公新書を拝見しました。東京についても名著『東京の空間人類学』があります。
川本三郎さんの数々の名著の中でも東京論としては、例えば『荷風の東京』で読売文学賞などを受賞していますが、映画評論家としてはいま日本でもっともよく映画を観て、論じられる存在でしょう。一貫して東京がテーマで、東京の文化、東京の変化を、文学者の目を通して、あるいは映画作品や街の変化を通して分析されています。今回、そういう面からも東京をぜひ論じていただきたいと思いました。ニューヨークもお詳しいので、比較のお話もございます。
文化人類学者の岡本さんはトルコの現代社会と文化の研究家です。イスタンブールに滞在し研究をしてきまして、特に近代のトルコの文化政策とか近代トルコ文化と政治の関係といったことを専門に研究されています。また、南アジアにも実地調査に赴かれ、『開発と文化』という著書があります。トルコ語がぺらぺらで、オックスフォード大学にも留学しましたのでイギリスのことも詳しい方です。
山室さんには『キメラ』という満州国のことを書いた有名な著書がありますが、東アジアの政治史がご専門です。私がとくにお聞きしたいのは、戦前植民地帝国の首都東京というのが一時期あったわけです。大東亜共栄圏をつくろうとしていたときのことですが、満州国の首都とか、東アジア現代史の動きの中で東京をとらえるという点で、ぜひ山室さんの知見が必要だと思い、お願いしました。
そして日下会長に来ていただいて、東京はどうなるのか、東京はどうしたらいいのか、あるいは東京にはどういう可能性があるのかなどを考えながら、一方で「世界都市」というものをいろいろな事例で比較対照し、将来の東京像を浮かび上がらせようというのが、研究会の趣旨です。外国からのゲストもお招きして、公開の国際シンポジウムを開きます。
今日は陣内さんと岡本さんに話題を提供していただきたいと思います。
アジアの大都市・東京の位置付け
日下 私はそもそもは株式会社にいました。それから、官庁に手伝いにいき、学校法人にも12〜13年はいましたが、財団法人は何のために何をやるのか、自分で決めなければいけない。