日本財団 図書館


菊竹 本日は中川先生にお話をいただきます。その前に3、4日前に香港のシンポジウムをやりまして、私はスピーチをさせられたんです。それを2、3分ご紹介いたします。

 

東京は植民都市

 

香港と東京を巨大都市問題としてみる、というテーマでしたが、最終的には、巨大都市はパブリック・インフラストラクチャーを考え直さないとどうにもならなくなってきているという話がオチなんですが、そこで「香港というのは植民都市だ」という話から始めました。

香港はアヘン戦争で英国領になったわけです。植民都市というのがどういう役割を持っているかというのはよく考えなきゃいけない。東京も戦後、米軍に占領されて、ラディカルな言い方をすると植民都市です。軍備がなくて、アメリカに守ってもらっている。それでいろいろなものをみんなアメリカにつくってもらった。教育制度、憲法もみんなそうです。だから植民都市なんです。

植民都市がいいことは、やはり民族が混じったり、宗主国を理想と考えるようなところがある。香港も英国が理想だし、日本は、東京だったらアメリカが理想みたいになっていて、これはどうも避けがたい事実です。そしてアジアとヨーロッパなり、アジアとアメリカなりのミックスが進んでいるという点で、思いがけない1つの可能性がそこに開けるんじゃないかという私の感じていることを話したんです。

羽仁五郎さん的な言い方をしますと、植民都市というのは自分の本国でやれない理想を、実現しようという傾向があるんです。これが私の言いたかった重要な点です。カルタゴは地中海でアレクサンドリアというヨーロッパの都市をつくろうとした。地中海一の大灯台をつくり、地中海一の図書館をつくり、地中海一の港をつくろうとして、かつてない都市の実現を図ったわけです。最近、水中考古学で、クレオパトラのスタチューが出てきたりして注目されているところです。

日本も日本で実現できない都市計画を満州に出かけていって、ハルピンとか大連とか大変立派な都市計画をやっています。これが北海道の札幌でほんのわずかその片鱗が出ておりますし、それからアジア号という満鉄の、新幹線の前身が実現したりしていて、やっぱり本国でやれないことを何とかしてやるということがあるので、植民都市というのは大変可能性を持っているという話をいたしました。

その植民都市が、香港は英国との関係からまだいろいろやりようがある問題を残していると思うんですが、とにかくみどりの自然がなくなり、水も汚い。飲み水たるやもうとても飲めたものじゃない。あそこでウーロン茶とか紅茶なんて入れても飲めないぐらい、ひどくなっているんです。それから大気汚染が相当深刻に進んでいて、早晩タイのバンコクと同じように、マスクをしないと住めないという状態になるんじゃないか。

街はきれいになったというんですけれども、大気とか水、みどりはそっちのけにしてる。だから、これを直すのは大変なことで、相当本格的に自然回復を図らなきゃならない、そういうテーマがある。

日本はどうかというと、東京はスプロールを野放しにしているわけです。スプロールは都市の発展と言っていますが、とんでもないことで、これがパブリックインフラのものすごい負担になってきている。どんどん都市の財政を圧迫していくことになり、やがて閉塞状態に進んでいくわけで、根本的に何か考えていくという必要が出てきているんじゃないか。

香港に学ぶべきものは、東京の反面教師みたいなことがあると思いますし、香港のほうはまた東京に学ぶべきものが相当あるということでしょう。ということでシンポジウムの口火をまず切ったんです。

中国も、ある意味では国際的にスタビリティがあります。ユダヤと同じように金持ちが世界中に散っていますから、そういうところからいろいろな形で情報が入ってくる。ちょうど日本の江戸時代の長崎みたいな感じで、そこにうまく情報が集まってくるような仕組みを中国は考え方の土台にしているようなんです。

ところが、少し様子が変わってきて、もっとどんどん発展すると思っていたら、何か少し陰りが出てきているんじゃないかなという印象を最近受けています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION