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そのころ看護婦さんが心電計に触るなんてなかった。その頃なかった新兵器が今はそこここにゴロゴロしている。超音波診断装置、CT画像診断、MRI装置、アイソトープ画像装置。今の時代は1年一昔、情報関連分野は1カ月一昔とまで言われています。それなのに太古の定員法を遵守していたら何もできません。

 

平山 そうすると、認可しない看護学校を私立でつくってはいけないんですか。

 

佐貫 いけないんです。資格を与えるから。だから、ウルトラCで国際的な看護婦さんの資格を国連を通して了解を得て出すとか。

 

古川 でも、日本ではそれを採用する給与の出所がないんです。職場がないのは数が決まっているから雇いようがない。できる病院は、関東近辺では旭中央病院、浜松聖霊会、規模の大きい私立病院です。看護婦の定員が先進国並みです。まじめな医師を選抜しているから、臨床研究を希望をすると、理事長や理事会の評価によって研究費が出る、国際学会から招待されたら、出張旅費を支払う。これだけの裁量権を院長や理事会が持つことは、私立だからできる。国公立の病院は全然だめです。怠けても働いても給料は変わらない。ダメ医者もバカ研究者も馘首できない。これでは働くわけがない。たまりかねて配置転換したら、不当行為だと人事院に告訴され、暇な人事院が受けつけてひどいめに遭いました。こうなると怠け者と愚者の天国です。

 

菊竹 医者は専門分化してきて、患者全体についての治療とか対応とかいうのを考える余地がなくなってきていて、もっぱら検査のデータだけで判断するという形になってきている。これに対して、看護婦さんのほうは人間というメンタル面をちゃんとケアする。だから、看護婦さんのほうが人間全体に総合的に対応するという役割に変わってきているんじゃないかと思うんです。

 

古川 私も医師を集めて宣言しました。君たちが描いているカルテは医師のたわごとの記録である。そんなものが役に立つか。それより看護日誌を転写して主治医の責任で追認しましたと署名すればよい。看護婦用のディクショナリーを、充分吟味してしっかりしたものを作っておけば、看護婦さんが患者の状態にフイットした言葉を選択して、何歳の子供とかが昨夕何時に発熱してむずかっていたが、危険な兆候はなかったので何時に坐薬を処置したら朝まで安らかに寝た云々と、キーボードをポンポンと打ったら正確なフリーテキストになって記録されれば良いのです。入院看護は看護婦中心です。入院したら看護婦さんが一番頼りです。そう考えて間違いではありません。

 

エキスパート資格とは?

 

平山 国立大学も公立病院も私立病院も、慶応病院も東京医科歯科も東京女子医大も全部入院した経験がある。去年も入院しました。患者の立場として、看護婦さんが一番頼りになりました。看護婦さんは大体心が優しい。しかし、看護婦さんはもこれからは3つか4つぐらいの専門を持ったほうがいいような気がしました。

 

古川 私は在任中に、エキスパートナースという資格を設けました。ある時、怠け者の医師が当直で、循環器科の入院患者が急に不整脈を起した。何度電話をしても、なかなか起きてこなかった。とっさの処置で看護婦が除細動器で一命を助けた。次の日に看護部長が報告に来て、看護婦の権限を超えた処置をしたことに始末書を書かせたという。私は激怒して、感謝状を出すべき処なのに始末書を出せとは何事だ。辞表を出すのはお前の方だと怒鳴った。厚生省の局長室に駆け込んで、こんな不当な処置を防いで看護婦の士気を高めるために、スーパーナースかエキスパートナースと名付けて、救命救急処置を認めるくらいの技術があると免状を出すのはどうか。そう言ったら大物の局長で、「そういうアイデアを待っていたのです」と言った。一部の職員たちが大反対だと実情を言ったら、省内の総務専門官に連絡した。そして文句を付けられないためには、公印を使わないでくれと言う。私もすぐ「分かりました。じゃあ、公印の3倍も大きな印を作って押そう」「是非そうしてください」と二人で大笑いです。

エキスパートナースというのは、救命救急の難症に何例以上立ち会って処置を担当し、手術室でもなにがしの経験を充分積んだなどの条件があり、その上ペーパーテストに合格した看護婦に出しました。それから意外なことが起こりました。最初に始末書を書かすと反対した看護部長が、定年になって民間病院に再就職した。すると後輩の部長を訪ねて来ては、「今年スーパーナースに誰がパスしたか」と聞いて歩き、そのナースを高給で引っ張っていく。だから茶道や華道の免許と同じです。院長が個人名で出している。公的には何も価値はない。だけどそれがあれば励みになるし、その気で就職先を選べば高給が取れる。

 

 

 

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