はじめに
21世紀が到来して、わが国を巡る国際環境は、新たな世紀のグランドデザインの確立に向けた動きを速めている。冷戦終結から10年近くが過ぎ、世界中で一極集中型のグローバリゼーションが加速する一方、EUを典型とするリージョナリズムの進行や、コソボにみられるような文明の衝突ともいえる新たな民族・宗教紛争の動き等も出現し、世界は集中と分散という二つの秩序形成の流れの中にある。
また、グローバリゼーションの進行は、情報革命や金融革命の同時進行と相侯って、世界を情報と金融の両面から強く緊縛すると同時に、カジノキャピタリズムのような異質な力をも生み出した。こうした力は、アセアン通貨危機のコンテージョンのような「21世紀型危機」と呼ばれる新たな危機形態を生み出し、システムの不安定化要因となっている。
一方、国内に目を転じれば、日本は長引く平成不況の中から抜け出せないまま、急速に進行する高齢社会を迎え、21世紀初頭には人口減少に転じることが予測されている。安価で優秀な労働力の豊富な供給など、幾つかの特殊な前提の上に構築されてきた日本の政治・社会・経済システムは、その前提条件が崩壊したため、変革の足取りはきわめて重い。こうして、俄に衰退という言葉が現実的なものとして、受け止められようとしている。
本プロジェクトは、以上のような基本認識を踏まえ、米国、EU、中国・台湾、南北朝鮮問題など21世紀におけるわが国を巡る重要な国際環境を展望するための講演会を4回行い、また、本プロジェクトの締めくくりとして、現在、世界で最も注目を集めているIT革命に焦点を当て、「IT革命と日本の対応」というテーマで公開シンポジウムを行ったものである。
本報告書では、各講演会の概要を記すするとともに、公開シンポジウムの模様を紹介している。公開シンポジウムのパネリストは、公文俊平 国際大学グローバルコミュニケーションセンター所長、福川信次 電通総研所長、坂村健 東京大学教授の3名であり、モデレーターは薬師寺泰蔵 世界平和研究所研究主幹が行った。
多忙をきわめる研究活動の中、シンポジウムにご参加頂いたパネリストの方々に感謝申し上げると共に、本プロジェクトを実施する機会を頂いた日本財団に改めて厚く感謝の意を表したい。