第1セッション 「人道的介入と内政不干渉―その1 コソヴォを中心として」
第一セッションでは、ヴィクトール・イヴ・ゲバリ ジュネーブ高等国際問題研究所教授、スタンフォード大学のポール・ステアーズ博士の報告がなされた。
ゲバリ教授は、パワーポリティックスの観点から、NATOの役割の増大と、ロシアの役割の低下、EUの政治的役割の増大について言及した後、以下の2つの点を挙げた。
まず、コソヴォ紛争は、宗教・言語の観点から民族紛争として捉えられるべきであるとし、それ故に根が深く国際的に管理することが極めて困難な紛争であると指摘した。
また、バルカン半島の持続的な安定に向け、EUによる解決のための準備が始まっていること、すなわち、民主化・人権、経済繁栄支援、安全保障の3つのテーブルを準備してきていることを述べ、これを国際社会がどのように支援して行かれるかが課題であると述べた。そして、バルカン地域の安定化が成功するのための4つの条件として、経済的な基盤の確立、地域の政治的コンセンサス、NGOの組織的な組み込み、ユーゴスラビアの再編成を挙げ、報告を終えた。
続いて、ステアーズ博士は、今回の介入が空軍のみで行なわれ、介入側は人的被害をほとんど受けなかったことをまず第1にあげ、介入に対する敷居が低くなってきていると述べた。次いで、人権問題については、主権国家と言えども自由な裁量を持つものではなくなってきているとの認識を示した。しかし今回の空爆については、国際法の整備が整わないままの状態で行なわれたものであり、主権国家を攻撃したという意味で、国連憲章違反の行為であると述べた。更に、介入の時期についても問題をはらんでいると言及した。
博士は、今回のコソヴォ紛争のような歴史的、文化的、宗教的に複雑化した紛争に関し、国際社会における解決策の策定に当たって、考慮すべき要素として以下の3点が重要である旨指摘した。それは、第1に、ボトムアップによる国際的なコンセンサスの形成、第2に、恣意性の排除を担保するために多国間による解決を目指すべきこと、第3として、武器の使用に関する国際的な正当性の担保をあげ、報告を終えた。
この後行なわれた質疑応答では、ステアーズ博士に対し、介入の時期について多くの意見が出された。また問題は時期ではなく、どのような手続きで介入すべきかが重要ではないかとの指摘もなされた。