博士は、コソヴォが極めて特殊な事例であったと述べ、これにより米国が従来に増して介入に積極的になるといったことはなく、米国の安全保障政策に変更はないこと、人道的介入については、国家主権の観点から、非介入の原則を重視しつつも、全か無かではなく、軍事的でない手段を探った後での武力行使といった考え方をとるべきであることを述べ、最後に日本に期待することとして、ARF等の場で、経済制裁等の非軍事的な抑止力を発揮して欲しいこと、また、国際社会が武力介入を必要と認めた時、日本として何ができるのかを、よく議論して欲しいと述べた。
キム教授は、コソヴォ問題は、東アジアにおける緊張地域、すなわち、チベット問題、台湾問題等を考えて行く上で示唆に富むものである、との基本認識の下、特に北朝鮮との関係について述べた。北朝鮮が今後10年内に崩壊することはないと思うが、現在北朝鮮では農業の不振から、食料の緊急援助が必要なほど国民の生存権が脅かされた状況にあり、今後多くの難民が中国へ流出する可能性等、大きな混乱が発生する可能性は否定できない。従ってこの地域の安定化のためには今後も2国間あるいは多国間協議の中でいろいろと議論をしていく必要があるとされた。
最後に、植田教授がコソヴォ紛争を考える際の欧米と日本との間の相違点について、そしてコソヴォ紛争を契機としてヨーロッパにおいて生まれつつある地域紛争に対する新たな取り組みについて述べられた。
まず教授は、日本人の精神風土として、戦後の平和主義の下「人道」と「武力行使」が両立するものではないとの思いがあること、また、国連に非常に好意的であること、そして法解釈が極めて厳格であることを指摘した。その結果、違法な行為が正当であったり、道義的であったりすることを考えられない状況にあるのではないかと述べた。
次いで 教授は、ヨーロッパで生まれつつある新しい潮流、すなわち欧州連合が危機管理を自分で実践することの準備が進んできていることに触れた。
恒久的な安定を作り出すためには、西欧型の民主主義国家として、紛争地域を立ち直らせることが必要との観点から、民生的な協力(文民警察等)が重視されていることを紹介され、憲法上の制約のある日本も、この分野において国際貢献を果たしていくことができるのではないかと述べ発表を終えた。
以下、上記報告に基づき、パネリスト間で議論が行なわれ、最後に会場からの質問を受け、活発な議論が行なわた後、シンポジウムは閉幕した。